ただ、危機管理監や警視総監経験者の沖田氏にとって、上皇侍従長という職位は、 “降格”人事となる。それゆえ、沖田氏の出身母体である警察庁サイドからは異論が予想される。しかも後任の危機管理監最有力の齋藤実警視総監が7月からの東京オリンピック・パラリンピック大警備を控えているといった不確定要素もあるという。
事態を憂慮する杉田和博内閣官房副長官は、オリンピックの開催か、中止かの最終判断が下される3月をめどに宮内庁人事を断行する意向だと周辺は見ている。
ともあれ、この動きによって、以前に比べて、いっそう官邸が皇室・宮内庁に影響力を行使しやすい状況になり、皇室有事に対応できる体制に変化している可能性は高い。
官邸と皇室の関係
振り返れば、2015年に「生前退位」が取りざたされて以来、官邸と宮内庁・皇室の関係は複雑に変化してきた。発端は2015年だ。当時の安倍晋三内閣は天皇の退位のご意向を伝え聞き、翌2016年に入って首相官邸では杉田官房副長官をトップに対応策を検討していた。ところが、7月13日に退位の意向をNHKにスクープ報道され、顔に泥を塗られた格好となった。
安倍官邸は、天皇の「ご意向」支持派による情報リークを問題視し、直ちに“犯人捜し”に着手した。安倍官邸との意思疎通が著しく欠けていた風間典之宮内庁長官が9月に突然更迭され、新長官には山本信一郎次長が昇格した。
さらに後任に次長には、菅官房長官、杉田副長官の両氏の信頼が厚い西村泰彦内閣危機管理監を、「次期宮内庁長官」含みで送り込み、事態の鎮静化を図った。
この更迭劇から少し経った2016年10月、今度は宮家を統括する西ヶ廣渉宮務主管が、就任2年半という異例の短さで退任を余儀なくされた。