なぜ、HD-2D版『ドラクエ3』では「ラリホー」が“最強呪文”なのか?
ゾーマも屈する極大催眠呪文「ラリホー」
突然だが、HD-2D版『ドラゴンクエストIII そして伝説へ… 』で、読者の皆さんはどの呪文が一番強いと思うだろうか。
ギガデイン、メラゾーマ、イオナズンなどいろいろ答えは考えられるものの、筆者の答えは「ラリホー」である。そう、敵を眠らせる補助呪文のラリホーがあまりにも強く、私の勇者はこれで世界を救ったのだ。
本作はリメイクではあるが、いろいろな要素が追加された結果として変化を遂げている。原作を尊重していたとしても、追加要素がゲームのコンセプトや思想を大きく変える一例として見ていこう。
キラキラやボスの追加が、アドベンチャーを収集・育成に変える
そもそも本作において何が変化したのか。ひとつは、ゲームの方向性が「アドベンチャー(危険をおかして未知の旅に出る冒険)」から「収集・育成」になっている部分である。
ファミリーコンピュータで1988年に原作が発売されたとき、誰もがその内容を知らずにアリアハンからはじまる冒険を楽しんだ。多くのプレイヤーが何もわからないまま世界各地を飛び回ったわけだが、リメイクでは状況が大きく変化している。
HD-2D版ではゲームそのものが親切になった。どこへ行くべきかガイドを表示させることもできるし、詳細な地図やオートセーブもあり、何より既に遊んだプレイヤーは何をどうすればいいのか覚えている可能性が高い。
実際、スーパーファミコン版をやり込んだ筆者もだいたいどこへ行けばいいかはわかっているため、詰まることはほとんどなかった。そう、アドベンチャーにならないのである。
本作は事前知識があるとサクサク進むタイプのゲームなので、そのままではあっさりエンディングにたどり着けてしまう。ゆえに、HD-2D版では3種類のテコ入れをした。キラキラ、はぐれモンスター、そしてボスがそれに該当する。
HD-2D版ではフィールド上にキラキラとしたものが落ちており、調べると装備や道具が手に入る。なかには「やまびこの帽子」などゲームバランスを一変させうるものまであるのだから、調べないわけにはいかないだろう。
町中やダンジョンでははぐれモンスターに出会え、条件を満たせば保護できる。保護したモンスターは、新要素である「バトルロード」で使えるほか、新職業である「まもの使い」を強化する要素となっている。
キラキラとはぐれモンスターは、いわば収集・育成の要素である。昨今の、特に日本においては「RPG要素」という言葉は育成と収集を指し示すことが多い。追加要素で現代風の遊びを足したといえよう。
ボスも大きな変化だ。たとえばピラミッドでまほうのカギを手に入れるとき、あるいは中盤で探すオーブには、それらを守るボスが追加されている。なお、ボスは強めに設定されており、特に序盤はしっかりレベル上げをしなければ勝てないだろう。
時代も変化し、ゲームも親切になり、プレイヤーも事前知識を蓄えた。その状態では、アリアハンの地でアドベンチャーを楽しむことは難しい。ゆえに、現代風の収集・育成にフォーカスし、ボスという壁を作ったわけだ。
特技の追加と仕様の変更が「ラリホー」を最強にする
そして、バトルシステムも大きく変化している。これまでと同じくコマンド選択式のターン制バトルなのは変わらないが、「特技」の追加が戦闘をガラッと変えている。
筆者がよく遊んだスーパーファミコン版では「たたかう」がかなり強かった。というか、呪文と物理攻撃しかないわけで、バイキルトをかけて殴るのが真っ当な戦略にならざるを得なかった。
本作ではザコ敵も1ターンに複数回行動するのが当たり前になり、補助呪文はターン経過で消えるようになった。その結果として、見出しにあるようにラリホーが最強になったのだからおもしろいものだ。
ラリホーは敵を眠らせる呪文で、使い所はあるにはあるが地味な部類の呪文といえよう。しかし、これらの仕様変更と要素追加がバトルそのものを根底から大きく変えている。
まず、補助呪文がターン経過で消えるうえに種類が増えたので、すべてを使うのはかなり大変になった。マジックバリア、フバーハ、スクルト、ルカニ、バイキルトなど、かけるものが多すぎるうえにそれらを維持しなければならない。
その問題を一気に解決できるのがラリホーである。ラリホーで敵を眠らせると、起きるかどうかの判定だけでそのターンを強制的にスキップさせる。仮に複数回行動する敵が起きたとしても、目覚めたターンはそれだけで何も行動しない。
つまり、ラリホーで眠らせ続ければ相手は何もできず、補助呪文で味方を守る必要すらなくなる。
もちろん、ラリホーでボスが眠る確率はそこまで高くない。しかし、これも特技のおかげで変わっていった。まもの使いは2回行動できる「ビーストモード」という特技を覚えるため、連続でねむりの杖(ラリホーの効果の装備)が使用可能となる。
前述のキラキラでやまびこの帽子を拾えるようになっており、呪文を使う職業も容易に2回連続ラリホーできる。そして固定メンバーの勇者もラリホーを使えるわけで、ここまで条件を揃えると敵を眠らせる確率はかなり高まるわけだ。
筆者は中盤からラリホーでボスを一方的に倒せるようになった。「これでだけ世界を救えるんじゃね?」と思うほど強いというか、ボスはとにかく寝ているだけでほとんど何もできないのである。
具体的な手順としては、以下のようである。
- 全員で眠らせにかかる
- 眠ったら最も遅い仲間がラリホーを選択、ほかは攻撃
- 「2」のラリホーが効かなかったら最速メンバーもラリホーを使ってフォロー
- 完全にラリホーが失敗したら1に戻る
というもので、これを徹底すればボスはほとんど眠ったまま何もできない。運が悪いと攻撃されるターンも出てくるが、逆にいえばそうでない状況では一方的に攻撃できる(だいたい2・3をループする流れになる)。
とはいえ、さすがに終盤のボスは睡眠戦法が効かないのでは……と思いきや、ラリホーの会心の一撃は続く。ボストロールやバラモスはもちろん、キングヒドラやバラモスブロスにもラリホーが効く。とにかく一方的に眠った相手をボコボコにするばかりで、笑うしかない。
おまけにHD-2D版ではステータスがインフレ気味で、ラリホーの消費MPも極めて少ないのでバンバン使える。キラキラのおかげか、ねむりのつえもいつの間にか複数本持っていた。
最終盤のバラモスゾンビはラリホーに完全耐性を持っており、さすがに快進撃もここで終わりか……と思いきや、ラスボスであるゾーマもまたラリホーで寝てしまうのだから魔王も情けないものである。渋い声で「さあ、わが腕の中で息絶えるがよい!」と言ったあとは寝てばかりであり、まさしく寝言は寝て言え、だ。
おまけに運がよかったのか、筆者のケースではゾーマはひたすらすやすや眠っており完封だった。バラモスブロスではせかいじゅのはを3枚使ったが、ゾーマは0枚で突破できたほど。というか、ゾーマの代名詞であるマヒャドすら見なかった。まさしくラリホーが世界を救ったといえるほどの強さである。
個人的にこれはバトルシステムをハックするようでおもしろかったし、戦略が多様になったともいえる。ただ、古典的なJRPGを期待しているとあまり褒められたものではないかもしれない。
結果として、たくさんある補助呪文がラリホーの影響で機能不全に陥っている。まもの使いは強い特技のダメージがモンスターを集めた数に依存するので、武器の価値すら目減りする。そもそもラリホーで眠らせていれば攻撃される回数が圧倒的に減るので、防具の重要度までもが下がってしまう。
特技を追加していくつか仕様を変えた結果、地味だったラリホーがほとんどすべてを眠らせる恐ろしい呪文になってしまったわけだ。
原作とリメイクは似ていても同じ作品ではない
これ以外にもいくつか追加要素によって変化している部分があるものの、ほかの影響は軽微といえる。ストーリーにおいては主人公の父親であるオルテガの話が補完されているほか、『ドラゴンクエストI&II』に繋がる設定もあるが、そこまで大きな変化にはなっていない。
しかし、アドベンチャー(冒険)が収集・育成になり、バトルも質が大きく変化している。HD-2D版『ドラゴンクエストIII そして伝説へ… 』は原作を尊重していると言ってもよいが、その根底にある思想はかなり変わったと言えるだろう。
以前に書いた『ロマンシング サガ2 リベンジオブザセブン』の記事でも指摘したが、遊びやすくして要素を追加した程度のリメイクであったとしても、根底にある作品の思想は変化しうる。なぜなら、原作とリメイクは近い作品であったとしても、時代や作り手による狙いがまったく異なるからだ。