ある日の暮方の事である。
いい始まりだな〜!
開幕早々、すっげー笑顔だ。幸先の良いスタートだな
これはいい本ですね! この時点でそれがよく分かる!
まだ時間帯しか分かんないのに?
俺は、本を読んでても人の話を聞いてても、「それ、いつの話なの?」が一番気になるんだよ。そうじゃないと頭の中でイメージが組み上がっていかないから
みくのしんって、物事を想像するときに、「時間帯」からイメージの書き出しを始めがちだよな
この本は、それが一行目からハッキリ書いてあるでしょ。もう、この時点でかなり好きです
読みやすい小説の書き出しって案外そういうところが大事なのかもね
一人の下人が、
げにん……って何? 今までの本で出てきたことある?
初出じゃないかな? 「下人」なんて羅生門でしか聞いたことないと思う
ここから中忍試験始まったりする?
その下忍じゃない
※下人……身分が低い者、下々の者のような意味。
羅生門の下で雨やみを待っていた。
お! さっそく羅生門出てきた! タイトル回収早いな〜!
別にもったいぶるものでもないからね
かっこいいオープニングでワクワクするね! でっかい門の下で、ザァーっと雨の音を聞いてるんだろうな
広い門の下には、
やっぱりでかいんだ!
こんな7文字読んだだけで、ここまで笑顔になれるもんかね?
イメージ通りでした! やっぱ「羅生門」ってかっけー名前でこじんまりした門なわけないもんね!
あとは、「いつターボババアが出てくるか」が問題だな……
何を期待してんだよ
この男のほかに誰もいない。
今はまだ、ね
ババアを待ちわびるんじゃない
ただ、所々丹塗の剥げた、大きな円柱に、
円柱は分かるとして……丹塗りって何? なんとなく「塗装」のことっぽい気がするけど……
合ってるよ。昔ながらの赤い塗装なんだけど……ほら、赤く塗ってあるお寺とか神社とか見たことない?
あ〜! あの色か! 知ってる知ってる! いい感じの菓子盆とかにも使われてる色だよね?
そうそう
ただ、所々丹塗の剥げた、大きな円柱に、蟋蟀が一匹とまっている。
はいはい! めっちゃ分かる! 木の皮がめくれあがってて、寄りかかったら服が汚れそうな柱ね! 指で触ったらペリッと剥がれて「やべっ!」って思うやつ!
みくのしんって一度映像が想像できたら、そこから一気にイメージ描写が加速するよな
そこにいるのがキリギリスってのも渋くていいねえ……! もうこれだけで、柱に落ちてる影まで目に浮かぶもんな!
なんかこの本、今までの読書の中で一番読みやすいかも。そりゃ教科書にも採用されるわ
みくのしんが読書に慣れてきたのもあるんじゃない?
嬉しいこと言ってくれるじゃん! たしかに、今日はスイスイ読めてる自覚あるもんな!
いいね。その調子で読んでいってくれ
羅生門が、朱雀大路にある以上は、この男のほかにも、雨やみをする市女笠や揉烏帽子が、もう二三人はありそうなものである。
ッギィイ!!
急にどうしたんだよ
ギィ……キゥ……!
錆びた?
市女笠や揉烏帽子
すみません……これ分かりません……。誰と誰ですか???
知らない単語が出てきたからこうなっちゃったのか。難儀な奴だな
せっかく本が読めると思った矢先にこれだよ……
やっぱこうなるんだよな……。人生ってちょっとでも調子に乗ると、すぐに足元をすくわれるようになってるんだ
知らない単語に出会っただけで人生を憂うなよ
こういうところで、自分にガッカリするんだよ。「またこれかぁ……」って思う。みんなはこれが何か普通に分かるんでしょ?
市女笠と揉烏帽子なんて、分かる人の方が少ないよ。俺も何のことか知らないし
みくのしんは「知らない」とか「分からない」に怯えすぎだと思う。分からないこと自体は悪でもなんでもないんだから、そんなに気にしなくていいよ
そうかもしれないけど……こういうとき、中3の三者面談を思い出すんだよな。先生に「みくのしん君は何が分からないのかが分かってないから、勉強を教えるのが大変です」って言われてさ
親の前で言うことか
でも、子ども心にそれがめっちゃ腑に落ちたんだよ。俺は、分からないことすら分からない人間なんだ……ってしっくりきたというか
分からないことを分かったふりするよりよっぽど健全だと思うけどなぁ
かまどは「分からなくても気にするな」ってよく言ってくれるけど、正直そんなわけないだろって思うんだよ。俺は人の2倍は物事が分かってないんだから
じゃあ、例えば……みくのしんって料理得意だよな?
得意ってほどではないけど、自炊はよくする方かな
俺は料理苦手なんだけど、そんなかまどが「塩ひとつまみってどのくらい?」「分かんない! 料理できない!」って言ってたらどう思う?
そんなのいちいち気にしなくていいと思う。ルールなんてあってないようなものだし、どうせ自分が食べるものだし、誰も怒ったりしないんだから
読書もそれと同じだよ。ルールなんてあってないようなものだし、自分が読むものだし、誰も怒ったりしないんだから
え〜? それとこれとは……違うような……
なんか、丸め込まれてる気がする
20年前の三者面談の言葉に丸め込まれてるよりはマシだろ
まあ、いつまでもビビってられないし、とりあえず読むか……。めっちゃ時間かかるけど、いいのね?
何をいまさら
羅生門が、朱雀大路にある以上は、
大路ってのは大通りのことだよね? 「走れメロス」で読んだ気がする
そうそう。朱雀大路は四聖獣の名前にちなんだ大通りのことだよ
ああ、通りの名前か。要は山手通りとか目黒通りとかと同じことね
この男のほかにも、雨やみをする市女笠や揉烏帽子が、
で、市女笠……揉烏帽子……。これは多分、何か人のことを言ってるような気はするんだけど……
正直、俺も正確なところは分かんないよ。なんとなくで読み飛ばしてもかまわない情報だと思う
でも、ここは分かっておきたいな〜。人に関する情報なら、ちゃんとイメージして進みたいんだよ
いいね。そういうことなら、せっかく電子書籍使ってるんだし、調べてみたら?
【市女笠】
頂に高い巾子のある菅の笠。本来、市女が用いた笠であったが、平安中期以降上流の女性の外出用となり、雨天には公卿も用いた。江戸時代には檜の折ぎ板などを組んで紙を貼り、黒漆を塗るようになった。
……。
【揉烏帽子】
薄く漆を塗って柔らかに揉んだ烏帽子。 兜などの下に折り畳んで着用したので、兜を脱ぐと引き立てて儀容を整えたため引立烏帽子ともいい、なえた形から萎烏帽子とも梨子打烏帽子ともいう。
……。
俺に分かるはずがない!!!
調べたら調べたで、こうなっちゃうのか
せっかくこれで助かると思ったのに! 「あ、冷蔵庫ににんじん残ってた」と思って包丁で切ったら中が腐ってたときとおんなじ絶望だ!
(じゃあ、大して絶望してないのでは?)
結局、画像検索してもらった
要するに「昔ながらの服装」ってこと? そんなの分かんないって……
今わかったんだからそれでいいじゃん。俺だって今の今まで知らなかったよ
羅生門が、朱雀大路にある以上は、この男のほかにも、雨やみをする市女笠や揉烏帽子が、もう二三人はありそうなものである。
つまり、「こんなに大きい通りなんだから、他にも雨宿りしてる人がいてもおかしくない」ってことか
そうそう。ほら、以前と違って、調べさえすれば俺のサポートがなくても読めるんだから。自信持ってくれよ
読めはしたけど……この「分からない」にぶつかってる間って、じりじりHPが削られる感覚なんだよ。かまどが横で「そうそう、それで合ってるよ」って言われて、そこでようやくHPが回復するんだよな
俺、ヒーラーなんだ
それが、この男のほかには誰もいない。
で、羅生門には下人以外に誰もいない、と……。なんか意味ありげに書いてるなぁ。これってそんなにおかしいことなの?
どうだろうね。大通り沿いだから、いつもは人がいる場所なんじゃない?
でも、雨も降ってるしさ。誰もいない時間くらいありそうなもんじゃない……? なんか意味あんのこれ?
何故かと云うと、
やさしいなぁ、こいつ!
落ち込んだり、怒鳴ったり、笑ったり、感情が騒がしい読書だな
なんで? って思ってたらすぐに「なぜかというと……」って説明してくれるんだ! こっちの顔色を見て、話し方を柔らかくしてくれる人のこと好きなんだよな〜!
俺って、本を読んでるとき「これで合ってるのかな?」とか「間違って読んでないかな?」とか、ずっとうっすら不安なんだけどさ……
読書に慣れたとはいえ、その不安はまだ消えきってはいないんだね
だから、本の中で「つまり」とか「なぜなら」とか使ってゆっくり説明してくれると、すごく読みやすく感じるんだよ
へえ〜。分かりやすい文章ってそういうものなのかもね
この二三年、京都には、地震とか辻風とか火事とか饑饉とか云う災がつづいて起った。
なんか大変そうな時代だね。飢饉ってめちゃくちゃヤバい状態のことだっけ?
餓死する人が出るくらいの食料不足のことだね。国全体が飢えてる状態だと考えると分かりやすいかも
うぇえ……そんな時代の話なんだ……
そこで洛中のさびれ方は一通りではない。
洛中は……京都の中心のことか。もう都心も荒れ果ててんだね
旧記によると、仏像や仏具を打砕いて、その丹がついたり、金銀の箔がついたりした木を、路ばたにつみ重ねて、薪の料に売っていたと云う事である。
え? お寺をぶっ壊して売ってたってこと?
いいの?
ダメだよ
めっちゃ怒られない? 大丈夫?
飢饉でそれどころじゃないんだよ
洛中がその始末であるから、羅生門の修理などは、元より誰も捨てて顧る者がなかった。
そりゃそうか……。食べることすらできないのに、建物の修理なんて言ってる場合じゃないもんな
それくらい荒廃した時代のお話ってことだね
「生きる」じゃなくて「生き延びる」をしないといけない時代なのか……。なんだか重苦しい話が始まりそうだ……
俺がタイムスリップして助けてあげたい……
すごいこと言うなぁ。こんな時代で、みくのしんに何ができるんだ
精一杯おどけるよ
おどけてどうにかなる問題じゃない
するとその荒れ果てたのをよい事にして、
これは……くるか……?
ん?
いよいよ、ターボババア登場か……?
この期に及んで、まだターボババアを待ち望んでんのかよ
狐狸が棲む。
なにこれ? キツネとタヌキって書いてあるけど
文字通り、キツネとタヌキのことだよ
あ! 動物が住みついてるってことか。だいぶ荒れ果ててるなぁ……
盗人が棲む。
そりゃ、そういう奴らもくるよな。悪いことやりたい放題だろうし……
とうとうしまいには、引取り手のない死人を、この門へ持って来て、
ゥえ?!
棄てて行くと云う習慣さえ出来た。
習慣にしちゃダメじゃない???
しょうがないだろ。そういう時代なんだから
人が死ぬのが当たり前で、それを捨ててくのも当たり前の時代なの?! そんな話を教科書に載せて大丈夫?!
そこで、日の目が見えなくなると、誰でも気味を悪るがって、この門の近所へは足ぶみをしない事になってしまったのである。
予想してたよりはるかに強烈なスタートだ……。読みやすいから完全に油断してた……
でも……
ターボババアの気配は感じるよね?
どんだけ出てきてほしいんだ
いかにも出てきそうなシチュエーションではあるよね?
一旦、ターボババアのことは忘れてくれ
その代りまた鴉がどこからか、たくさん集って来た。
うぇえ……死体をつついたりするんだろうな……
昼間見ると、その鴉が何羽となく輪を描いて、高い鴟尾のまわりを啼きながら、飛びまわっている。
鴟尾……? 分からない単語が出てくると、そのたびに止まっちゃうからもどかしいな……
みくのしんは、なんとなくで読み飛ばすことをしないからね。俺も「鴟尾」なんて知らないけど、ちゃんと立ち止まって調べたりはしないなぁ
俺はまだ、読み飛ばしていいものと、ちゃんと理解しなきゃダメなものが見分けられないんだよ。だから読むのが遅いのかも
それがみくのしんのペースなら、別に遅くはないよ
【鴟尾】
古代の宮殿や寺院の大棟の両端に据える、沓形の飾り瓦。魚の尾をかたどったものといわれ、防火のおまじないとした。鴟吻。沓形。とびのお。
辞書に書いてあることも、結局難しいな……
これも芥川龍之介に書いてほしい
無茶言うなよ
なんとなく「門の飾り」みたいなものかな〜と思ったけど……合ってる?
多分合ってると思う。お城で言うところのしゃちほこみたいなものじゃないかな?
ことに門の上の空が、夕焼けであかくなる時には、それが胡麻をまいたようにはっきり見えた。
あぁ、ここはいい景色だね。夕焼けのグラデーションまで見えてきて切なくなるよ。5時のチャイムとか流れてきそう
屍肉を狙うカラスの描写なのに、みくのしんにはいい景色に見えるんだ
2ちゃんねるの「最高に夏を感じる画像を貼ってけ」スレでこの写真見たことあるかも
2ちゃんに羅生門がアップされるわけねえだろ
鴉は、勿論、門の上にある死人の肉を、啄みに来るのである。
ん? 門の上に死体を捨ててんの? 置けるところある???
あ〜。みくのしんは「羅生門」が具体的にどんな建物かイメージできてないから、まだピンとこないかもね
もしかして、「羅生門」って常識? 知ってて当然の知識?
どうだろ。知らない人もいるんじゃないかな。羅生門自体は実在した門の名前だから、調べれば画像は出てくると思うけど
そうなんだ。じゃあ、知ってないと読めない? 調べないとダメかな?
う〜ん……そこはみくのしんに任せるよ。知りたいならここで実際の羅生門を調べてもいいし、このまま自分のイメージで読んでもいいと思う
え〜! もったいぶるなよ! 正解があるなら知っといた方がよくない?
もったいぶってるわけじゃないけど……正直、こういうときどこまで干渉していいのか俺も分かんないんだよ。せっかく初めて読む物語を邪魔しちゃ悪いし
知らないのをいいことに、なんでもかんでも教えるのも厚かましいじゃん。それをやってると、いつの間にかみくのしんの読書を矯正しちゃってそうで怖いんだよな
かまどって、そんなことまで考えて俺の読書に付き合ってんの? 頭おかしくならない?
だからって、みくのしんの初めての読書が修正テープだらけになるのはイヤだろ
ちなみに実際の羅生門はこんな感じだが……
一回教えると、もうその「羅生門」でしか読めなくなっちゃうのはもったいないと思う。「みくのしんがどんな羅生門を読むか」については口出ししないでおくよ
なんだよそれ……。俺が間違って読んでてもいいの?
間違って読む機会を奪うのもよくないから。これは国語の授業じゃないんだし、みくのしんの好きに読んでくれ
厳しいのか優しいのか分かんねえな……
一旦、俺が思ってる「羅生門」を描いてみようかな
みくのしんの読書って、いつもペンが登場するね
本に挿絵があったら簡単にイメージできるのにな
本に挿絵がないから自由に想像できるんだろ
まず、でっかい門があって……
(こういうとき、いつも迷うんだよなぁ……)
押しピンの親玉みたいな釘がズラッと打ち付けてあって……
(でも、せっかくだからみくのしんが思う羅生門を読んでほしいし……)
で、門の上には鬼の顔があって……
(あ、やばいかも)
これが羅生門です
(俺はとんでもない判断ミスを犯したのかもしれない)
で、この門の上に死体を捨ててるんでしょ? そんなことできる?
わかんないけど、鬼のところすげー置きやすいだろ
え〜? だってさ……
人間はこのサイズよ?
いくらなんでもデカすぎる
鬼ヶ島のメインエントランス?
(やっぱり、実際の羅生門を教えたほうがいいのかな……?)
いいじゃん! これが俺の羅生門ね! なんか絵に描いたらイメージしやすくなったな〜!
(まあ、本人が楽しそうだからいいか)
ここからどんな話が広がるんだろ!
──もっとも今日は、刻限が遅いせいか、一羽も見えない。
人もカラスもいないんだ。まあ、雨降ってるもんなぁ
ただ、所々、崩れかかった、そうしてその崩れ目に長い草のはえた石段の上に、鴉の糞が、点々と白くこびりついているのが見える。
いいシーンだなぁ〜! 空から視線を落とすと、これが目に入るんだ。めっちゃ絵になるじゃん!
みくのしんってただの風景描写でも楽しそうに読むからすごいよな。俺は、いつもパパッと読み飛ばしちゃうのに
そう? まあ、俺がそもそもこういう景色が好きだからってのもあると思うけど……それにしてもいい雰囲気じゃない?
そうなんだ。俺は「荒廃していることを表してるんだなぁ」くらいで済ましちゃうかも
ほらこの……崩れかかった石って、一目で長い時間をかけて古くなったものと分かるじゃん。でも、カラスの糞は最近ついたものっぽくて……。「ボロボロ」という意味では同じだけど、なんかこう……「積み重なった時間」が目に見える感じしない?
崩れた石段、雑草、カラスの糞……で一つの景色の中に何種類も劣化の跡が見えるってことかな?
そうそう! S〜Lサイズの経年劣化が一緒になってるというか……風化の上にまた新しく風化が重なっていく凄さが一発で分かるというか……
ただ、所々、崩れかかった、そうしてその崩れ目に長い草のはえた石段の上に、鴉の糞が、点々と白くこびりついているのが見える。
例えば、これを1〜2週間ずっと眺めてても、ボロボロになっていく様子は分からないでしょ? でも、逆に一瞬見ただけで、現在進行でボロボロになっていってることがなぜか分かったりもするじゃん
はぇ〜。この一文にも、そんな味わいを感じてるんだ
人間には絶対作れない「時間!!!!!」って感じがして好きなんだよな〜
みくのしんのガイドで名所観光してる気分だ
下人は七段ある石段の一番上の段に、洗いざらした紺の襖の尻を据えて、
※襖……平安時代の服のこと
おしり濡れちゃわない?
どこ気にしてんだよ
しり冷えちゃうって! 一旦、ビニール袋かなんかを敷いたほうがいいって!
こいつの読書はムラがありすぎる
右の頬に出来た、大きな面皰を気にしながら、ぼんやり、雨のふるのを眺めていた。
ただ、肝心の下人がどういう立場なのかまだ分からないんだよなぁ……。しんどい状況なのか、ただボーッとしてるだけなのか
今のところは情景描写しかされてないもんな
動物とか盗人しか来ないところで、なんで雨宿りしてんの? 人を待ってるとか?
作者はさっき、「下人が雨やみを待っていた」と書いた。
え!?
ん?
「作者はさっき」!? なにこれ、ご本人が登場したんだけど!?
ああ、「羅生門」って地の文で語り手が前面に出てくるのが印象的だよな
本なのにこういうことしていいの?
ダメなことはないだろ。マンガとかで、読者に語りかけてくるナレーションとか見たことない?
いや、もちろんこういうメタ的な手法があるのは分かるけど……! 小説でもアリなんだ! なんか……すごいな!
しかし、下人は雨がやんでも、格別どうしようと云う当てはない。
「俺、さっきはああ言ったけど、実際は……」みたいな話し方だよね。会話ならこうやってちょっとずつ言い直していくのも分かるけど、それを文字のまま残してるってすごくない? 文字は書き直せるのに……
みくのしんって本の中でトリッキーな手法が出てくると、毎回新鮮に驚くよな
多分、本に「頭がいい人が読むもの」のイメージが強くあるんだろうなぁ。やっちゃいけないこととか縛りとかがいっぱいあると思ってるのかも
だから、メタっぽい手法も「こんなことしていいの!?」とビックリするのか
そうそう。「怒られない!?」って思う
でも、文字で遊んでるみたいで「楽しそう!」って思うんだよな〜! 学校にこっそりゲーム持ってきてる同級生みたいで、めっちゃ憧れる!
メタ要素って人によっては物語との距離を感じて冷めることもあるのに、こういう反応を引き出すこともあるんだなぁ
ふだんなら、勿論、主人の家へ帰る可き筈である。
下人には主人がいるのか。召使い的なことなのかな?
そうそう。まあ、雇い主みたいなイメージでいいんじゃないかな
所がその主人からは、四五日前に暇を出された。
あ、休みもらったんだ。いいじゃん!
え? 休み……というか、まあ……
せっかくの有給が雨なの可哀想だよな〜!
(……しばらく読んでもらうか)
前にも書いたように、当時京都の町は一通りならず衰微していた。
「前にも書いたように」だって! ちょこちょこ芥川龍之介が顔出してくれると嬉しいね
もうすっかり、この技法にメロメロだな
副音声付きのDVDを観てるみたいで分かりやすいよ。それを意識してんのかな?
芥川の時代にDVD特典はない
今この下人が、永年、使われていた主人から、暇を出されたのも、実はこの衰微の小さな余波にほかならない。
あ……暇って「永遠に」ってこと?
そうだね。「暇を出す」は使用人をクビにすることを指す言葉だから
マジか……。せっかくの休日に雨降ってげんなりしてる人の話じゃなかったのか……
世の中は荒みきってて、自分は無職になって……。これはキツいよなぁ……
だんだん、下人が置かれた状況も分かってきたね
これは……ヘラヘラ笑って読む話じゃないな。ちょっと気を引き締めるわ
そう? まあ、好きに読んだらいいけども
だから「下人が雨やみを待っていた」と云うよりも「雨にふりこめられた下人が、行き所がなくて、途方にくれていた」と云う方が、適当である。
分かりやすっ!! この作者いい人だ!!
気を引き締めるんじゃねえのかよ
なんか嬉しいわ。今「あ、優しくされた!」と思った!
俺、芥川龍之介のこと、好きかも
どこでそうなったんだ。この一文がそんなに気に入ったの?
これ、「さっきはああ言ったけど、こっちの方が分かりやすいよね」って丁寧に言い換えてくれてるじゃん。本がそんなことしてくれるとは思わなくて!
メタっぽい手法なのは分かるけどさ〜! 芥川龍之介が「説明しよう!」って出てきてくれたみたいで嬉しいんだよな〜!
(椅子をクルクル回して喜んでる……)
また出てきてくれないかな〜! 会いたいな〜!
(恋する乙女か?)
その上、今日の空模様も少からず、
うんうん……
この平安朝の下人の Sentimentalisme に影響した。
???
なにこれ?? 突然、発音よく喋りだしたんだけど???
たしかに、急にこんな単語出てきたら混乱するよな
Sent……? セン……チメ……???
龍之介!!! 出てきて説明しろ!!!!!
厄介な株主?
突然作者が登場したり、急に英語ぶち込んできたり、やりたい放題じゃん! この本書いてるとき、楽しくてしょうがなかっただろ!
(芥川が嬉々として原稿書いてる様子、イメージになさすぎて面白いな)
その上、今日の空模様も少からず、この平安朝の下人の Sentimentalisme に影響した。
要は、悩みにひたってるってことだよね。雨降ってるし、それも下人の頭の中を増幅させてるってことか
そうそう
申の刻下りからふり出した雨は、いまだに上るけしきがない。
申の刻下がりっていつ……???
ごめん。俺、何でも知ってるわけじゃないんだよ
十二支が時計になったやつだよね? え〜っと……子、丑、寅、卯……
これは読み上げたからって分かるタイプのものじゃないと思う
※申の刻……午後3〜5時くらい
そこで、下人は、何をおいても差当り明日の暮しをどうにかしようとして──云わばどうにもならない事を、どうにかしようとして、とりとめもない考えをたどりながら、さっきから朱雀大路にふる雨の音を、聞くともなく聞いていたのである。
なんか……どんよりしてるけど、染みるシーンだなぁ。無職で何もできなかった頃の自分を思い出すよ
みくのしんって主人公と似た境遇の自分を思い起こしながら本を読むクセがあるよね
悪いことが起きる前フリみたいなドロっとした時間がずっと流れててさぁ……。まわりの空気が粘っこいから体を動かす気にもならないんだよな……
雨は、羅生門をつつんで、遠くから、ざあっと云う音をあつめて来る。
分かる……! 屋根が雨を受け止めるから、雨の音が必要以上にでっかく感じるんだよ! 自分の真上だけじゃなく、いろんな場所から雨の音が聞こえてきてさぁ……!
なんでもない一行なのに、ここまでツラそうに読めるの才能だろ
こういうとき、世間と自分との間に膜が張ったみたいで、ますます孤独だと思っちゃうよね。羅生門がでっかいから、下人はそれをもっと感じるんだと思う
ちなみに、みくのしんの羅生門でいうとどこで雨宿りしてんの?
歯の下でしょ
歯の下なんだ
夕闇は次第に空を低くして、見上げると、門の屋根が、斜につき出した甍の先に、重たくうす暗い雲を支えている。
※甍……瓦葺(かわらぶき)の屋根
文章がいちいちカッコいいなぁ……!「夕闇が空を低くする」とか「雲を支えている」とか……ちょっとカッコつけすぎじゃない?
芥川龍之介に対して、「カッコつけすぎ」とかあんまり思ったことないな
俺が同じことを書いてもキザに見えるだけなのに、芥川龍之介がサラッと書くと本当にカッコよく見えるの不思議だよな。同じ文字なのになんでこうも違うんだろ
どうにもならない事を、どうにかするためには、手段を選んでいる遑はない。
……下人もだいぶ追い詰められてるね。そりゃそうだよな……頭ん中めちゃくちゃだと思う
ましてや、国中が飢えてるような過酷な時代だもんね
これで街が普通だったら「みんなは幸せなのに俺は……」って気持ちの置き場ができるんだけどね……。それすらもできない極限状態ってちょっと想像できないかも
選んでいれば、築土の下か、道ばたの土の上で、饑死にをするばかりである。
※【築土】……土で作った塀のこと。
マジで生きるか死ぬかを考えなきゃいけない状態なんだ。これはしんどいぞ……
さすがのみくのしんでも、ここまでの境遇には共感できないか
俺のときは「バイトをする」という選択肢があったからね。それすらできないとしたら……と思うと途方もないな
そうして、この門の上へ持って来て、犬のように棄てられてしまうばかりである。
嫌だ!!!!!! 大丈夫か、この話!!?? このまま、バッドエンドで終わりそうじゃない?!?
こう言っちゃなんだけど、まだ序盤だよ
どうなっちゃうんだよ……! 頼む! 雨上がってくれ!! 空の向こうに真っ赤な太陽がのぼってきましたとさ……で終わってくれ!!
この羅生門でそんなハッピーエンドになると思うか?
鬼の口からコインとかメロンとか出てきてくれ!! その下で、下人が「やっぴぃ〜!」つって終わってくれ!
羅生門にそんなステージクリア演出はない
選ばないとすれば──下人の考えは、何度も同じ道を低徊した揚句に、やっとこの局所へ逢着した。
「手段を選ばないとすれば……」をずっと考え続けてるってことか。めっちゃギリギリじゃん……
しかしこの「すれば」は、いつまでたっても、結局「すれば」であった。
カッコいい書き方!! なんだこれ! 俺も一度でいいからこんな文章書いてみてえわ!
みくのしんってWEBライターだからか、文章表現の一つ一つにも感動するよな
これって、要は「手段を選ばないとすれば……の先に続く言葉がない」ってことでしょ? それをこんな……オシャレな言い方で……
この人、天才です
それはそう
下人は、手段を選ばないという事を肯定しながらも、この「すれば」のかたをつけるために、当然、その後に来る可き「盗人になるよりほかに仕方がない」と云う事を、積極的に肯定するだけの、勇気が出ずにいたのである。
ッッカーーー! なんじゃこの難しい文章!
たしかに一読しただけだと意味が掴みづらい文章かもね
度数の高い酒を飲み込んだみたいだ。腹の上っぺりが一気にアツくなってきた!
みくのしんの知恵熱の発生源、そこなんだ
下人は、手段を選ばないという事を肯定しながらも、この「すれば」のかたをつけるために、当然、その後に来る可き「盗人になるよりほかに仕方がない」と云う事を、積極的に肯定するだけの、勇気が出ずにいたのである。
何回読んでも、難しいな〜! でも、分かりたい!!!
いいじゃん。そう思えるなら、時間かけてでも読んでみようぜ
かといって、知らない単語があるわけでもないんだよな。『「すれば」のかたをつけるために』……? これ、どうやったら読めるようになんの?
う〜ん。一旦、下人の気持ちになって、ゆっくり読み返してみたら分かるのかなぁ?
下人の気持ち……。仕事もクビになって……明日のご飯もままならなくて……って状況だよね?
そうそう
俺も、似たような時期(※)があったから分かるかもな。何もかも上手くいかなくて、「どうすんだよ、これから……」って考え続けてたあの頃……
※注釈……当時付き合っていた人にクレジットカードをスキミングされて、貯金を全部スマホゲームにぶっ込まれたり、中学生から貯めていた500円玉貯金箱を紛失したり、目上の人に苛烈なパワハラを受けていたり、日銭を稼ぐためのバイト先で年下のギャルにイジメられて辞めさせられたり、厄介な同居人にまとわりつかれてアパートを追い出され続け、毎月のように引っ越しをしていた頃。
時間がきたら行動しなきゃいけないけど、その時間がいつまで経ってもやってこない感じか……
自分の体験をもとに共感しながら読むと、分かることもあるかもね
ちょっとしたきっかけで頭が爆発しそうな微振動をずっと感じてるけど、それがハッキリとした衝動にはなってないから、それに逆らうこともできない感じね……
うんうん……
何もやることがないことを「暇」って言いかえて安心しようとしたり、夜勤のバイト明けに冷凍のメンチカツを食べたりして……
(ちょっと個人的な思い出に寄りすぎでは?)
「どうにかしなきゃ……」⇆「じゃあ何を?」を繰り返して、発狂しそうになってたあの頃……
どう? 下人はどういう心境になってそう?
そうだなぁ……
「またこれを考えなきゃいけないの?」って思う
それは今のみくのしんの心境だろ
今は幸せだけど、あの頃はマジでめちゃくちゃだったからなぁ。「生きる」という懲役刑をくらってる気持ちで毎日過ごしてたし
長い付き合いだけど、その時期のみくのしんって音信不通だったよね。何をしてたのか、俺もあんまり知らないんだよな
本当に、カレンダーに印をつけながら「まだ1ヶ月か……」って言ってたからね。それがあと30年続くと本気で思ってた
無人島の遭難者みたいに生きてたんだ。じゃあ、下人は、そんな状況で「生きるために手段を選ばないとすれば──」を考えてると思ってみてよ
そういうことか……。俺はもう必死で考えないようにしてたけど、下人はそれを考えなきゃいけないことまできてるのか……
みくのしんにも、そんな考えがよぎることがあったと思うと恐ろしいな
うん……。でも、「手段を選ばない」って簡単に言うけどさ、それを選んだあとに出てくるコマンドって、どれもゾッとする選択肢ばっかりなんですよ。それを考えた時点で人間でいられなくなるようなヒリつきがあって怖いんだよな……
なるほどね。じゃあ、それを踏まえて、さっきの文章を読んでみたら?
下人は、手段を選ばないという事を肯定しながらも、この「すれば」のかたをつけるために、当然、その後に来る可き「盗人になるよりほかに仕方がない」と云う事を、積極的に肯定するだけの、勇気が出ずにいたのである。
めっちゃ分かります
だろうね。あんな過去持ってる人は、そりゃ分かるよなと思っちゃった
「泥棒になるかどうか」で揺れてるんだ……。それが下人にとっての「すれば」の先なんだ……
生きるために泥棒になる勇気が出せずにいたんだろうね
はぁ……
でも、その勇気を出さないことが、勇気だと思うんだよな……! そう思わないとやってられないよ
(まだ序盤なのに、こんなに体重かけて読んでて大丈夫かな?)
「いいこと」をしたら褒められるし、「悪いこと」をしたら怒られる。でも、「悪いことをしなかった」ことには誰も気づいてくれないんだよな……!
(読み終わる頃には2-3kg痩せてそう)
そっか……。下人はこんなに追い詰められてたのか……
ごめんな、こんな絵描いて
悪いとは思ってるんだ
せっかくなら大天使の門にしてあげればよかった
下人は、大きな嚔をして、それから、大儀そうに立上った。
※【嚔】……くしゃみのこと。
お、立ち上がった。何かやることが見つかったか?
夕冷えのする京都は、もう火桶が欲しいほどの寒さである。
火桶は……当時のストーブみたいなことかな?
そうそう
雨も降ってるもんな……。暖をとるだけでも一苦労なんだろうな
風は門の柱と柱との間を、夕闇と共に遠慮なく、吹きぬける。
わかる! 柱と柱の間って風強いよな〜!
なんかもう、みくのしんが笑顔で本読んでると安心するよ
昔、テレビで2本のペットボトルの間に息を吹きかける実験を見たことあるんだよ! それ思い出したな〜!
うんうん、そうだね
丹塗の柱にとまっていた蟋蟀も、もうどこかへ行ってしまった。
シャレてるなあ〜! 悩みがぐるっと一周して、ふと気づいたらたっぷり時間が経ってた……ってだけのことをこんなにオシャレに表現できるもんかね!?
まだ物語は全く動いてないのに、みくのしんは景色の描写だけでここまで楽しめるんだな
これから俺が悩むときは、そばにキリギリスいてほしいです
それは飼ったらいい
下人は、頸をちぢめながら、山吹の汗袗に重ねた、紺の襖の肩を高くして門のまわりを見まわした。
※汗袗……当時の肌着のこと。
首を縮めて肩を高くして……。「寒い」って一言も書いてないのに、肌寒さが分かるのすごいな
雨風の患のない、人目にかかる惧のない、一晩楽にねられそうな所があれば、そこでともかくも、夜を明かそうと思ったからである。
そっか……寝床を探すところからやらなきゃいけないんだ……。それすらままならない状態なのかよ……
飢饉で社会も機能してないような時代だからな
偉そうに「俺も同じ時期あった」とか言ってたけど、ここまでの経験はないもんな。勝手に分かった気になってごめん!
すると、幸い門の上の楼へ上る、幅の広い、これも丹を塗った梯子が眼についた。
なるほど。どうやって門の上に死体捨ててんだろうと思ってたけど、2階建てだったんだね
上なら、人がいたにしても、どうせ死人ばかりである。
うわ……そこで寝ようとしてんの?
凄絶だよな。でも場所を選んでられる状況じゃないんだよ
それは分かるけど……大丈夫? 絶対ヤバいこと起きるって
下人はそこで、腰にさげた聖柄の太刀が鞘走らないように気をつけながら、藁草履をはいた足を、その梯子の一番下の段へふみかけた。
刀を持ってるんだ。じゃあ、いざというときは安心だけど……
それから、何分かの後である。
羅生門の楼の上へ出る、幅の広い梯子の中段に、一人の男が、
あれ? ん? はしごに誰かいる?
(おっと……?)
猫のように身をちぢめて、息を殺しながら、上の容子を窺っていた。
他に誰もいないって話じゃなかった? 先にハシゴのぼってる人がいるじゃん
……。
なにか読み間違った? これ、誰?
誰だろうね。読んでみたら分かるんじゃない?
楼の上からさす火の光が、
灯りがついてる……やっぱ誰かいるんだ……
かすかに、その男の右の頬をぬらしている。
おいおいおいおい!!!
急にどうしたんだよ
なんじゃこりゃ!! 今、何て言った??? こいつ……すごいこと言わなかったか???
楼の上からさす火の光が、かすかに、その男の右の頬をぬらしている。
「火が頬を濡らす」だと!!??
そう書いてあるけど……どうした? 分かりにくかった?
いや、分かるよ?! 今、雨でほっぺが濡れてるもんね? だから、そこに火の光が反射してるんだろうけど……
それを「火が頬を濡らしている」って表現してんのか!??!?
ああ、文章表現に驚いてたのか。たしかに思い切った表現ではあるけども
カッコよすぎるだろ!! 日本語ってこんな使い方できんの?!
たまげたわ……。「これ、みんなに伝わるかな?」とか思わないの? こんなのペン先が一瞬でも曇ったら書けないだろ……
羅生門にこんな粋な表現あったんだね。全く記憶になかったな
なんだよ、このスキップするような言葉のつなげ方……! これ、パクツイしていいですか?
芥川龍之介をパクツイする奴があるか
短い鬚の中に、赤く膿を持った面皰のある頬である。
ニキビ……? ん? これ下人のこと言ってる???
そうだね。下人のニキビは、全体を通して印象的に描かれてるよな
でも……あれ? 別の誰かの話をしてたんじゃなかったっけ??? やばい、混乱してきたかも
まあまあ。落ち着いて、ちょっと前から読み返してみたら?
え〜っと……?
下人はそこで、腰にさげた聖柄の太刀が鞘走らないように気をつけながら、藁草履をはいた足を、その梯子の一番下の段へふみかけた。
それから、何分かの後である。
羅生門の楼の上へ出る、幅の広い梯子の中段に、一人の男が、猫のように身をちぢめて、息を殺しながら、上の容子を窺っていた。
あ!? これ、「下人=一人の男」なの? 同じ下人のことを書いてるのに、わざわざ一人の男って言い直してんの!?
そうそう。みくのしんは一行ごとに立ち止まってたから、気付きにくかったのかもね
ビックリした……なんでそんなことすんだよ?! さっきまで、下人をアップで映してたカメラが、急に引いたように見えるじゃん!!
まさにそういう意図で書かれたんじゃないかな
こいつ、やりたい放題かよ
芥川龍之介の技法に振り回されてるなぁ
なんで、文字だけでこんなに自由自在なカメラワークできるんだ……? どういう仕組だよ、これ
下人は、始めから、この上にいる者は、死人ばかりだと高を括っていた。
本当に死体と添い寝するつもりなんだ。覚悟決まってるなぁ……
それが、梯子を二三段上って見ると、上では誰か火をとぼして、
あ、これは俺も気になってた。「火は誰がつけたの?」って思ってた!
はしごをのぼってるのは下人だったけど、それとは別に門の上に誰かがいるってことじゃないかな?
ちょうど死体を捨てにきた人だったらどうする……? このままだと鉢合わせしちゃうぞ……
しかもその火を
その火を……?
そこここと動かしているらしい。
そここ……ここ……こ?
ここ……ここここ……こここここ……
落ち着け落ち着け
しかもその火をそこここと動かしているらしい。
びっくりした〜! 何だよ、この文字! 頭が処理落ちするかと思った!
人間の頭はそういう風にできてない
「そこここ」って何? タイピングをミスったのに、そのままにしてる?
芥川龍之介はキーボードで書いてないよ
※【そこここ】……そっちこっちの意味。「あちこち」みたいなもの。
これは、その濁った、黄いろい光が、隅々に蜘蛛の巣をかけた天井裏に、揺れながら映ったので、すぐにそれと知れたのである。
怖いな〜! ただの灯りなのに、「濁った」とか言われると、変に恐ろしい想像しちゃうだろ!
にしては、ニッコニコで読んでるじゃん
正直、ワクワクしてるんだよ! ようやく下人の運命を変える何かが起こりそうな予感がする!
ここまで情景描写ばかりで、ストーリーは進んでなかったもんね
この雨の夜に、この羅生門の上で、火をともしているからは、どうせただの者ではない。
来るぞ! 絶対ターボババアじゃん!
くそっ。こいつ覚えてやがった
大丈夫!? 下人もターボの呪いかけられちゃうかも!!
忘れろっつっただろ
下人は、守宮のように足音をぬすんで、
ここからは声出し厳禁だからね……
だからってみくのしんまで小声になる必要はない
声が聞こえたらバレちゃうからね……
やっと急な梯子を、一番上の段まで這うようにして上りつめた。
緊張のシーンだな……。音で居場所がバレても終わりだからな……
そうして体を出来るだけ、平にしながら、頸を出来るだけ、前へ出して、恐る恐る、楼の内を覗いて見た。
こうやって……
見ると、楼の内には、噂に聞いた通り、幾つかの死骸が、無造作に棄ててあるが、
……ッ!!
火の光の及ぶ範囲が、思ったより狭いので、数は幾つともわからない。
(ンムーーーー!!!)
楽しそうに本を読んでんなぁ
ただ、おぼろげながら、知れるのは、その中に裸の死骸と、着物を着た死骸とがあるという事である。
これ……追い剥ぎってやつだよね……?
多分、そうだと思う。死んでるのをいいことに、衣服を奪ってる奴がいるんだろうね
盗人が棲みついてるって言ってたもんな……。まあ、仏像壊して売ってるくらいだし、これくらいはするか……
勿論、中には女も男もまじっているらしい。
ここで「もちろん」って言うのもすごいね……。いろんな死体が転がってるのが「もちろん」になる世界なんだ……
そうして、その死骸は皆、それが、かつて、生きていた人間だと云う事実さえ疑われるほど、
死体の描写怖ぇ……。こんなところ映していいのかよ……
土を捏ねて造った人形のように、
そんな気味の悪い言い方すんなよ……
口を開いたり手を延ばしたりして、
うわぁ……
ごろごろ床の上にころがっていた。
こういうことだよね?
怖すぎるからやめてくれ
しかも、肩とか胸とかの高くなっている部分に、ぼんやりした火の光をうけて、低くなっている部分の影を一層暗くしながら、永久に唖の如く黙っていた。
テレビだったら絶対に流せない映像だよな……。これ本当に読んじゃって大丈夫? モザイク入れたほうがよくない?
文中にモザイク入る小説なんか見たことないよ
これ本当に教科書に載ってんの? 子どもが読んで大丈夫なやつ???
下人は、それらの死骸の腐爛した臭気に思わず、鼻を掩った。
こう「ウゥッ!」ってなったんだ。腹の底がギュッと絞られるタイプの匂いで……こう……「ヴゥエッ」ってなる感じの……
読書してるだけなのに、なんでここまで迫真の演技を伴うんだろう
「色ついてんじゃねえか!?」ってくらい存在感がある臭いなんだよ。鼻の穴に匂いが塗りつけられるような……
そんなに細かく臭気の描写しなくていいから
……あ、ちょっと待って
本当に気持ち悪くなってきた
言わんこっちゃない
ここまで細かく描かないでよ……。イメージしちゃうだろ……
それはみくのしんの感受性のせいだと思う
しかし、その手は、次の瞬間には、もう鼻を掩う事を忘れていた。
気になるナレーションだな〜! 金曜ロードショーだったら、ここでCM入るだろうね!
羅生門はテレビ放映されないよ
めっちゃ緊張してたところに、急にポップな音楽でCM始まるからビックリするだろうね!
ある強い感情が、ほとんどことごとくこの男の嗅覚を奪ってしまったからだ。
あんな匂いも忘れるくらいの何かが起きたんだ……
下人の眼は、その時、はじめてその死骸の中に蹲っている人間を見た。
……そうだ。誰かいるんだった。これはヤバいだろ……
檜皮色の着物を着た、
もう、次の単語を読むのも怖ぇよ……
背の低い、
ヤバそぅ……
痩せた、
見たくねぇ……
白髪頭の、
……え?
猿のような老婆である。
ターボババアだ!!!!
いい加減にしろ
ほんとに出た! 噂は本当だったんだ!
心霊スポットに来た若者みたいなリアクションすんな
その老婆は、右の手に火をともした松の木片を持って、
火の正体はこいつだったのか……
その死骸の一つの顔を覗きこむように眺めていた。
死体をゆっくり確認して……「おはよう……起きて……」って言いながら……
そんなことは書いてないだろ。自分から怖くしにいくなよ
ちょっと、この本怖すぎるかも。「羅生門」ってホラー小説だったの?
違うけど、みくのしんの「羅生門」はそうなりつつあるよ
髪の毛の長い所を見ると、多分女の死骸であろう。
老婆が女性の死体を物色してる……。これ、死体を捨てにきたわけじゃなさそうだよね……
下人は、六分の恐怖と四分の好奇心とに動かされて、暫時は呼吸をするのさえ忘れていた。
6:4で恐怖が勝ってるんだ……。ちょうど俺と同じ割合だ
そうなんだ
でも、俺は安全圏から見てるだけだからね。下人は実際にこの場にいて、まだ6:4なんだからすごいよ
旧記の記者の語を借りれば、「頭身の毛も太る」ように感じたのである。
※【頭身の毛も太る】……「身の毛もよだつ」と同じような意味。
俺だったらとっくに大声あげてると思う。「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!!」って叫んで、ハシゴから落ちてると思う
すると老婆は、松の木片を、床板の間に挿して、
やばい……老婆が動いたぞ……!
(集中しすぎて小声になってる……)
それから、今まで眺めていた死骸の首に両手をかけると、
え……? ちょっと……
丁度、猿の親が猿の子の虱をとるように、その長い髪の毛を一本ずつ抜きはじめた。
怖すぎる!!!!!!!
みくのしんの読書っていつ大声出すか分かんないから、鼓膜の準備が間に合わないんだよな
髪の毛を抜き集めて何すんの……? それを編んで服を作るとか?
なにその怖い発想
夜な夜な髪の毛を抜いては服を作って、裸になった死体に着せてるのかも……
なんでそんなことするんだよ
そうすれば死体が寒くないでしょ
新課程のサイコパステスト?
髪は手に従って抜けるらしい。
うーーーわ、気持ち悪ィ……!
みくのしんの感度で死体の描写を読むのキツイだろうな
この一文だけで、一気に鳥肌たった……。これ、さすがに記事ではモザイクかけたほうがいいかも
妙な気遣いをするな
すごい文章だ……! 指先の感触が勝手に脳に入り込んでくる。「分かってしまった」という気持ち悪さがある
そう言われると、たしかに気色の悪い描写だね
普通は「プツーッ」って抜けるけど、この「プ」の手応えがないんだよ……。毛根が抜けた感覚がないから、排水溝の髪の毛をつまみ上げるようにユルーっと指についてくるんだ……
あんまり想像しすぎんなよ。お前、人より敏感なんだから
「あれ?」と思って指を見たら……ハリがなくて……まとわりつくような……細い毛が……
もう……
ヴゥエッ
言わんこっちゃない
みくのしんがおぞましいシーンを読むと、想像力がこう働くんだな。これで本格的なホラー小説を読んだらどうなっちゃうんだろう
わからん……。俺、除霊されるかも……
なんで霊の立場で読むんだよ
その髪の毛が、一本ずつ抜けるのに従って、下人の心からは、恐怖が少しずつ消えて行った。
消えたの? 俺はこんな状態なんだけど??
そうして、それと同時に、この老婆に対するはげしい憎悪が、少しずつ動いて来た。
なるほど……! 正義の心が燃え始めたんだ!
物語と同時に、下人の感情も大きく動き始めたね
こいつは、ここで「怖い」とかじゃなく、「ご遺体に向かって、なにバチあたりなことしてんだよ!」って怒るタイプなんだね!
──いや、この老婆に対すると云っては、語弊があるかも知れない。
ん?
むしろ、あらゆる悪に対する反感が、一分毎に強さを増して来たのである。
全部にムカついてきたんだ! ババアも、この世界も、自分も……なんなんだよ!ってことか
それが老婆をきっかけに溢れ出したんだろうね
わかるなぁ……! 荒んでるときの鬱々した頭って爆発するまでは案外静かなんだよ。でも、きっかけがあると急にドォバッと噴き出てくるから自分でもビックリするんだよな
こういうときにマイナスな爆発の仕方だと、あとで落ち込むんだけどさ。いい方向に爆風が飛ぶと、「俺にもこんな気持ちが残ってたんだ!」ってすっごく嬉しくなるんだよ
鬱屈してるからって正義の心がなくなるわけじゃないもんね
このときの下人に燃えた心が「正義」でよかった! 一時はどうなることかと思ったけど……めっちゃいい話じゃん!
この時、誰かがこの下人に、さっき門の下でこの男が考えていた、饑死にをするか盗人になるかと云う問題を、改めて持出したら、恐らく下人は、何の未練もなく、饑死を選んだ事であろう。
もう「すれば」を考える必要もなくなったんだ。今は正義の下人だからね!
それほど、この男の悪を憎む心は、老婆の床に挿した松の木片のように、勢いよく燃え上り出していたのである。
カッコいい!!!
みくのしんの読書は情緒の運動量が多すぎるな
でも、このシーンはみんな好きでしょ! 何もかも上手くいかなくて、くすぶってた男の中から正義が燃え上がる! アツい展開だ!
よく考えたら、死体の髪の毛を抜くババアなんてキショすぎるだけだもんな
さっきはゲロ吐きそうになってたくせに
下人には、勿論、何故老婆が死人の髪の毛を抜くかわからなかった。
そりゃそうだ。相変わらず、意味は分からないままだよな
従って、合理的には、それを善悪のいずれに片づけてよいか知らなかった。
真面目だな〜! 一旦、「それが善か悪か」を頭で考えようとしてる! 俺、下人、好き! こいつ、いい奴!
下人が正義に燃えてから、みくのしんの読み方も明るくなったね
新しい主人公に出会えた嬉しさがあるんだよ。引っ越し先にいい感じの町中華を見つけたときのワクワクと一緒かも!
下人のことだいぶ気に入ってるな
なんか、かまどと似てるよね
え!? 俺と下人が???
そうじゃない? かまども出会った頃は、俺と同じで半分無職だったじゃん。それなのに、やけっぱちにならずにちゃんと善悪をわきまえてたからすごいな〜と思ってたんだよ
それを言われて俺はどんな顔をしたらいいんだ
しかし下人にとっては、この雨の夜に、この羅生門の上で、死人の髪の毛を抜くと云う事が、それだけで既に許すべからざる悪であった。
もうかまどじゃん!
俺じゃねえだろ
「合理的にはどうなんだろう」を考える柔らかさと、「でも、それは許せない」を押し通す真っ直ぐさがあるんだよ。かまどと同じじゃん!
俺、下人と似てたのか……そっかぁ……
ん?
いや、別に
勿論、下人は、さっきまで自分が、盗人になる気でいた事なぞは、とうに忘れていたのである。
この際、いいじゃないか! それは言いっこナシにしよう
みくのしんは、直前まで下人が善悪の間で揺れてたことも「別にいいじゃん」って思うんだね
俺の大好きな言葉なんだよ。「この際、いいじゃないか」って。好きな映画に出てくるセリフなんだけどさ
いろんなことがあったとしても、たどり着いたのがハッピーエンドならそれがゴールでしょ。「でも、あのときはこうだったじゃん」とか「じゃあ、あれはどうなったの?」とかも関係ない。「幸せを前にカタイこと言うな!」って思うんだよな
「この際、いいじゃないか」か。ハッピーエンド好きのみくのしんが好きそうな言葉だね
たしかに、下人も一歩間違えたら悪党になってたかもしれないし、何ならそれを考えちゃった自分もいたかもしれないよ? でも、揺れて揺れて、最後の最後に出てきたのが正義なら……この際、いいじゃないか! カタイこと言うなって!
そこで、下人は、両足に力を入れて、いきなり、梯子から上へ飛び上った。
危なッ!! 大丈夫?! 足が滑って危なくない!?
細かいところ気にしてるなぁ。それこそ、この際いいじゃないか
でも……雨の日のハシゴだよ!? ツルッと滑っちゃうよ! ほら……あの……
ジャンプ失敗する猫の動画みたいに!!
どこで何を思い出してんだよ
そうして聖柄の太刀に手をかけながら、大股に老婆の前へ歩みよった。
羅生門ってこんな話なんだ! もっと鬱々とした暗い話が続くのかと思ってた! 予想してなかったな〜!
(俺も、こんな楽しそうに読むとは予想してなかったな)
人が正義に目覚める勇気の物語! 悪いババアを打ち倒す冒険活劇! めっちゃエンタメじゃん!
老婆が驚いたのは云うまでもない。
先手とってるね! 1ターン目は先制攻撃できそう!
RPGゲームじゃないだぞ
ババアの背後に触れて戦闘画面に入ることで、不意をつくことができるのだ!
羅生門のババアはシンボルエンカウントじゃない
老婆は、一目下人を見ると、まるで弩にでも弾かれたように、飛び上った。
やばいっ! 人間に見られた!
「おのれ、どこへ行く。」
逃さねえぜ〜?
下人は、老婆が死骸につまずきながら、慌てふためいて逃げようとする行手を塞いで、こう罵った。
ひぃ……ッ! ひぃい〜!!!!
お前は本一冊でどこまで楽しめるんだよ
老婆は、それでも下人をつきのけて行こうとする。
下人はまた、それを行かすまいとして、押しもどす。
いいぞ! いけいけ! やっつけろ!
羅生門を読んでて、こんな状態になることある?
二人は死骸の中で、しばらく、無言のまま、つかみ合った。
すごいところで戦ってるよな……! 周りは死骸だらけ……明かりの火がボゥ……っと燃えてて、外は雨が降ってて……!
格ゲーに芥川龍之介が参戦したら、バトルステージはここだな!
そんなことまで考える必要はない
「お前を倒すなど、ニキビを潰すより容易いことだぜ……」
勝手に下人の勝利メッセージをつけるな
しかし勝敗は、はじめからわかっている。
下人はとうとう、老婆の腕をつかんで、無理にそこへねじ倒した。
まあ、そうだよね。ターボじゃないからね〜!
丁度、鶏の脚のような、骨と皮ばかりの腕である。
分かる! 俺もチキン食いてぇ〜!
は??? なんだって???
「鶏」の文字を見てたら腹減ってきた! 久しぶりにケンタッキー食べたくない!?
こいつの情緒、どうなってんだよ
※編集部注:老婆の描写で食欲が刺激されている様はまあまあ異常ですが、本人の強い希望があったのでそのまま掲載しました。
※みくのしん注:僕がこのときイメージしていたのは、ケンタッキーのドラムでした。うまそっ!!
※みくのしん注のみくのしん注:あくまで、このときイメージしていたのがドラムなだけで、僕が本当に食べたいのはサイです。食べられる場所が多いからです。よろしくお願いします。
※かまど注:勝手に注釈を入れないでください。
「何をしていた。云え。云わぬと、これだぞよ。」
下人も強気にいくねえ。なんせ、こっちは刀持ってるからね
下人は、老婆をつき放すと、いきなり、太刀の鞘を払って、白い鋼の色をその眼の前へつきつけた。
カッコよ……! ビュッとかキィンッとか書いてないのに、効果音が見えてきそうなスピード感があるな
けれども、老婆は黙っている。
往生際が悪いな〜! もう観念しろよ!
両手をわなわなふるわせて、肩で息を切りながら、眼を、眼球がまぶたの外へ出そうになるほど、見開いて、唖のように執拗く黙っている。
目ん玉が飛び出るほど……! 今、ババアはどういう気持なんだろ。まだ反撃のチャンスをうかがってるのかな?
これを見ると、下人は始めて明白にこの老婆の生死が、全然、自分の意志に支配されていると云う事を意識した。
あぁ……今になって、それが分かったんだ。 まあ、さっきまでは夢中でそれどころじゃなかったもんな
こうなってしまえば、あとは煮るなり焼くなりどうにでもできるしね
ここで、「あれ? こいつ、ターボじゃないな」って気付いたのか
それは最初から分かってるはずだ
そうしてこの意識は、今までけわしく燃えていた憎悪の心を、いつの間にか冷ましてしまった。
こういうとき、急に冷静になってちょっと恥ずかしくなるよな。俺は、なにを一人で盛り上がってたんだ……って自己嫌悪になるんだよ
みくのしんはそういうタイプなんだね
「俺、さっき、『おのれ、どこへ行く』とか言っちゃってたな……」とか思って、顔真っ赤になりそう。このあとは「ア……スマセン」「ア……ェス」みたいなやりとりで終わっちゃうと思う
そんな引っ込み思案な羅生門は読んでられないだろ
後に残ったのは、ただ、ある仕事をして、それが円満に成就した時の、安らかな得意と満足とがあるばかりである。
……あ、まだ達成感がある感じ? 下人はそっちになっちゃうんだ
そこで、下人は、老婆を見下しながら、少し声を柔らげてこう云った。
あんまり強気にいくなよ……。まだババアは何するか分かんないからな……
「己は検非違使の庁の役人などではない。今し方この門の下を通りかかった旅の者だ。
※【検非違使】……今で言う警察のようなもの。
警戒心をとこうとしてるんだ。たしかに、さっきの光景が許せなかっただけで、別に捕まえたり、こらしめたいわけじゃないもんね
だからお前に縄をかけて、どうしようと云うような事はない。
うんうん。誤解されると困るからな
ただ、今時分この門の上で、何をして居たのだか、それを己に話しさえすればいいのだ。」
優しく声をかけてるね〜! よかった! 落ち着いて会話するターンがあるんだ!
ここから、老婆の企みが分かっていくんだろうね
やっぱ話ができるってだけで、だいぶ気が楽になるね! 俺、人と会話するの好きだからさ!
すると、老婆は、見開いていた眼を、一層大きくして、じっとその下人の顔を見守った。
この老婆……動きの一つ一つがいちいち怖いなぁ
得体の知れないばあさんであることには変わりないからね
まだちょっとターボ入ってるか?
元から入ってねえよ
まぶたの赤くなった、肉食鳥のような、鋭い眼で見たのである。
こわ……ちょっとまだやる気じゃん
やる気かどうかは分かんないだろ
いや、肉食鳥ってカラスのことでしょ? かまどはカラスの目見たことある? あいつら、殺戮マシーンみたいな黒目してるからね
そんな目をしてるんだから……
こういう顔だよ? どう?
どう? と言われても困る
それから、皺で、ほとんど、鼻と一つになった唇を、何か物でも噛んでいるように動かした。
シワで鼻と唇が一つになってるんだって……
じゃあ、こう?
お前、俺を笑わせようとして本読んでない?
細い喉で、尖った喉仏の動いているのが見える。
なんか、かわいそうになってきたな……。こいつがもっと悪い奴だったら、話はわかりやすかったのに
その時、その喉から、鴉の啼くような声が、喘ぎ喘ぎ、下人の耳へ伝わって来た。
全然ターボじゃねえじゃん!
俺は最初からそう言っていたはずだ
「この髪を抜いてな、この髪を抜いてな、鬘にしようと思うたのじゃ。」
※【鬘】……かつらのこと。
あぁ〜、かつらの素材集めしてたのか。なぁ〜んだ
拍子抜けする答えだった?
うん、別に悪いことじゃないからね。気色は悪いけど、おばあさんにとっては大事なことかもしれないし
下人は、老婆の答が存外、平凡なのに失望した。
正直、分かる! 俺も、もっと気持ち悪い理由を待ってたところはあるかも!
さっきまでおぞましい雰囲気だったから、肩透かし感が強いよな
でもまあ、怖いよりはいいじゃん! もっと話の通じないババアかと思ってたからさ!
そうして失望すると同時に、また前の憎悪が、冷やかな侮蔑と一しょに、心の中へはいって来た。
侮蔑……? なんか様子が違うな。なんで見下す感じになってるの?
下人は、みくのしんと違う受け取り方をしてるみたいだね
争いに勝ったから相手のことを舐めてるの? えぇ……この状況でそうなるかなぁ?
自分だったら……と考えると分かりやすいんじゃない? みくのしんは、老婆を生かすも殺すも自分次第という状況で、あんなに恐ろしかった謎の行動が「単なるカツラ作りだった」と知ったらどう思う?
めっちゃ安心するし、友達になれそうって思うかも
下人と人間性が違いすぎる
でも、このあとここで一泊するんだし、仲良くなるにこしたことないじゃん。普通に「お仕事中すみません」とか「ここ長いんですか?」とか雑談から入ると思う
この状況で、そんなアプローチできるのみくのしんくらいだろ
すると、その気色が、先方へも通じたのであろう。
そうだよな。相手をバカにしてる気配ってすぐに伝わるもんなんだよなぁ……
老婆は、片手に、まだ死骸の頭から奪った長い抜け毛を持ったなり、蟇のつぶやくような声で、口ごもりながら、こんな事を云った。
……? ここはカラスじゃないんだ
みくのしんはそこが気になるんだね
うん。ずっと老婆のことをカラスで例えてたのに、急に「蟇」っていう知らん虫で例え始めたから。だいぶ見る目が変わったな〜と思って
(あんなにやりたい放題に読んどいて、そういうところはちゃんと捉えてるんだよな)
よっぽど弱々しく見えたんだろうな。じゃあ別に見下す理由もなさそうだけど……
……ちなみに、みくのしんは「蟇」がどういう生き物だと思ってるの?
「蟇」←この漢字って「蚕」と似てるよね? だから、なんか人の手を借りないと生きていけないような儚い虫なのかな〜って感じ
(実際はヒキガエルのことなんだけど……)
元々はカラスみたいに死体を漁って生きる動物に見えてたんでしょ? でも、今は弱くて自分だけでは生きていけない可愛そうな虫に見えてるんだ
(下人とみくのしんとで、老婆を見る目が全然違うなぁ)
分かってるなら、助けてあげればいいに。侮蔑とかしてる場合じゃないだろ
(……邪魔しないでおくか)
「成程な、死人の髪の毛を抜くと云う事は、何ぼう悪い事かも知れぬ。
おばあさんは自分が悪いと思ってんの? 殺して奪ってるわけじゃないんだから、別にいいと思うけどな〜
死体を蔑ろにしてるんだから、あんまり褒められたことではないんじゃない?
でも今は飢饉なんでしょ? みんな手段を選んでられない時代だし、しょうがないだろ
じゃが、ここにいる死人どもは、皆、そのくらいな事を、されてもいい人間ばかりだぞよ。
なるほど……。この死体になった人たちも、元は悪いことをしてたのか
だから、こんなことをしても許されると思ってるんだろうね
現在、わしが今、髪を抜いた女などはな、
一体、何をしたんだ……?
蛇を四寸ばかりずつに切って干したのを、
おぉ……ヘビを……?
干魚だと云うて、太刀帯の陣へ売りに往んだわ。
めっちゃ頭いいじゃん
ここで商才を褒めるやつがいるかよ
はぁ〜なるほど! その手があったか! 勉強になるわ! さすが教科書に載ってるだけあるな〜!
詐欺の模範例として採用されたわけじゃないよ
ヘビをまるまる一匹じゃ、さすがに無理があるもんね! でも、ちょっとずつ切って「あなごです」とか言っちゃえばバレないもんね! これ、今でも通用するんじゃない!?
思ってた反応と全然違う
干してれば味もわかんないし……揚げたらもっとバレないかも! なるほど! こうすればいいのか!
羅生門を悪事のハウツー本として読む奴、史上初だろ
疫病にかかって死ななんだら、今でも売りに往んでいた事であろ。
惜しい人を亡くしたね。おばあさんも同じことして稼げばいいのに
なんでチェーン展開しようとしてんだ
でも、別に悪いことじゃないだろ。死体を捨ててく奴がいる世の中だよ? そんな中、みんなのお腹を満たしてたんだから、いい奴ですらある
それもよ、この女の売る干魚は、味がよいと云うて、太刀帯どもが、欠かさず菜料に買っていたそうな。
やっぱ美味いんじゃん!!
羅生門読んでて、こんな爆笑することある?
ほら〜! 美味けりゃ文句ないでしょ! 別に毒があるわけじゃないんだし!
なんか、俺まで悪事じゃなく思えてきた。なんで、これ悪いことだとされてるんだっけ?
魚とは味が違うかもしれないけど、栄養もあると思うんだよね〜! 干して身もきゅっと締まってるし、無駄な水分も抜けて味わいも深くなるしさ!
本当に美味しそうに描写するのやめてくれ
これをちょっと炙って、脂がぷわっとにじみでてきたところに、砂糖を醤油で溶かしたやつを塗ってみてごらんなさい! こりゃ美味いぞぉ〜!
なんで羅生門を読んでて食欲を刺激されなきゃいけないんだ
わしは、この女のした事が悪いとは思うていぬ。
そりゃそうだよ。お寺をぶっ壊して売ってるような時代に、偽装表示くらいでガタガタ言う人いないだろ
今の感覚(あと、食いしん坊のみくのしんの感覚)で言うと、そうかもね。でも当時は「ヘビの肉を食わせる」ってことがとんでもなく非常識なことだったのかもよ?
そうかもしれないけどさ〜。こっちは内蔵を抜いて、血抜きまでして、骨もとってるんだよ?
そこまで食に対して真摯だったかは分からないけども
せねば、饑死をするのじゃて、仕方がなくした事であろ。
そういうことだよね。普通の時代ならもっと真っ当に生きていけるけどさ。今はそういう時代じゃないんだよ
されば、今また、わしのしていた事も悪い事とは思わぬぞよ。
あ……ひょっとして、このおばあさんはカツラを売ろうとしてんの?
これとてもやはりせねば、饑死をするじゃて、仕方がなくする事じゃわいの。
なるほど……。それで生計をたてようとしているのか。じゃあ、全然悪くないじゃん
どうも、みくのしんの中では悪事に対する明確なラインがあるみたいだね
これは全然アリでしょ! こんな時代なんだから、悪いことしようと思ったらもっといろんなことできちゃうんだよ?
じゃて、その仕方がない事を、よく知っていたこの女は、大方わしのする事も大目に見てくれるであろ。」
責める人もいるだろうけど……今は世の中がそういう生態系になってるんだもん。しょうがないよ
老婆は、大体こんな意味の事を云った。
話せてよかった……。早とちりで悪者扱いするところだった。これだから、会話って大事なんだよな
みくのしんにとっては、この女性も老婆も悪者ではないんだね
そうじゃない? この人たちは、下人でいうところの「すれば」の先に行ってない人たちだよ。人に迷惑かけてないし、最後のラインは踏み越えてないと思う
生活が追い詰められたときに、手段を選ばないとなったら、本当にいろんな選択肢がでてくるんだよ。そこで、ヘビ肉とかカツラを売るとかは、全然許されることだと思う。まじで「その手があったか!」って感じ
なるほど……。悪事のハウツー本として読んでたように見えたけど、みくのしんにとってはあながち冗談でもなかったのか
ルールを踏み外してるかもしれないけど、人間であることまでは投げ出してないじゃん。こんな時代に生きて、おばあさんは「すれば」の手前で踏みとどまれてる。たくましくてカッコいいと思うよ
老婆のこと、そんな目で見たことなかったけど……たしかに、言われてみたらそう……なのかな?
下人も、おばあさんと会えてよかったね! まさか、こんないい話になるとは思わなかったな〜!
俺も、こんな読み方ができるとは思ってなかったな
だって、さっきは飢え死に or 盗人の2択しかないと思ってたんだよ? こうやって「すれば」の手前に、もっとやれることがあるって気付けたのはデカいと思う!
下人は、太刀を鞘におさめて、その太刀の柄を左の手でおさえながら、冷然として、この話を聞いていた。
部外者だったら、「だからってそんなことしちゃダメだろ!」とか簡単に言えるけどさ
勿論、右の手では、赤く頬に膿を持った大きな面皰を気にしながら、聞いているのである。
今は下人もこの生態系の一部になっちゃってるわけだからね
しかし、これを聞いている中に、下人の心には、ある勇気が生まれて来た。
何の勇気だろ? おばあさんと一緒に髪の毛を抜くのかな?
なんだよ、その怖かわいい光景は
俺なら「これからヘビを捕まえにいきませんか?」って言うかもね
それは、さっき門の下で、この男には欠けていた勇気である。
うんうん。まさに、さっきの「すれば」の話だよね
そうして、またさっきこの門の上へ上って、この老婆を捕えた時の勇気とは、全然、反対な方向に動こうとする勇気である。
……?
……。
反対? 大丈夫? 違う方を向いてない?
下人は、饑死をするか盗人になるかに、迷わなかったばかりではない。
なんか……変なこと考えてない……?
その時のこの男の心もちから云えば、饑死などと云う事は、ほとんど、考える事さえ出来ないほど、意識の外に追い出されていた。
え?……ダメだよ? それは違うぞ……
「きっと、そうか。」
こわっ! なに今の声!
みくのしんが読み上げる声だよ
自分でも思ってない低い声が出た! ビビった……!
老婆の話が完ると、下人は嘲るような声で念を押した。
こいつ……さっきの話を聞き終わってもまだ見下してたんだ……!
下人は、みくのしんのような考えにならなかったんだね
なんで……? え? マジでなんで???
そうして、一足前へ出ると、不意に右の手を面皰から離して、老婆の襟上をつかみながら、噛みつくようにこう云った。
えっ? えっ? 何その手!? なにしてんの??!?
「では、己が引剥をしようと恨むまいな。
ちょ……
己もそうしなければ、饑死をする体なのだ。」
え?! そっちに行っちゃうの??? こいつ怖ッ!!!!!
「羅生門」でこんな新鮮なリアクションが見れるとはね
この人、誰ですか??? 怖いです!!! 本当に俺が知ってる下人か??!?
下人は、すばやく、老婆の着物を剥ぎとった。
ぅわ、やっちゃった……!
それから、足にしがみつこうとする老婆を、手荒く死骸の上へ蹴倒した。
やめてよ!!! なに??! どうしちゃったんだよ!!!??
梯子の口までは、僅に五歩を数えるばかりである。
逃げ道を確認してる……ダメだぞ……ダメダメ……
下人は、剥ぎとった檜皮色の着物をわきにかかえて、
ちょっと……え? おま、……!?
またたく間に急な梯子を夜の底へかけ下りた。
これ……え?? なにしてんの???
追い剥ぎだよ
なんで??? それをしなくても生きていけるって話だったじゃん!!!
下人にとっては、そういう話じゃなかったんだよ
なんでだよ!! それはダメだろ……!!! これは……これだけはやっちゃダメだ!!!!! おばあさんたちの何を見てたんだよ!!!!
下人は「そうしないと飢え死にをするから」という理屈で同じことだと思ったんじゃない?
全然違うだろ!!! 全然違うだろ!!!! 全然違うだろ!!!!!
お前は何のためにずっと悩んできたんだよ!!!! こうならないためだろ!!! これをせずに生きていくためじゃないのかよ!!!!!
しばらく、死んだように倒れていた老婆が、死骸の中から、その裸の体を起したのは、それから間もなくの事である。
おばあさんは無事だったか……。最悪の事態は避けられてよかったけど……
老婆はつぶやくような、うめくような声を立てながら、まだ燃えている火の光をたよりに、梯子の口まで、這って行った。
下人を追いかけてる……
そうして、そこから、短い白髪を倒にして、門の下を覗きこんだ。
うん……
外には、ただ、黒洞々たる夜があるばかりである。
下人は……? 下人は……!?
下人の行方は、誰も知らない。
終わった……
そうだね。羅生門は以上です
こッッッッッッ
ッッわすぎるだろ!!!
下人が豹変して、あっという間に真っ暗になって終わった!!!! なんじゃこりゃ!!!!
お疲れ様。相変わらず時間かかったけど、なんとか最後まで読み切れたね
教科書にこんなやべーもんが載ってんの!??! 俺、こんな話初めて見たんだけど!!!!
俺も初めて見た気がする
ということで、2時間半かけて「羅生門」を読み終えました。
平均の5倍の時間はかかったものの、無事最後まで読み切ることに成功! ここまで読んだあなたもお疲れさまでした!
続きないの??? もうちょっと読みたいんだけど……
気持ちはわかるけど、芥川龍之介が書いた「羅生門」はこれで終わりだね
エンドロールに、下人が「ごめんね」つって服を返しにいくシーンとかないの?
小説にエンドロールはない
なんだよそれ……。これは……どういう気持になるのが正解なんだよ……
正解も何もないよ。強いて言うなら、今のみくのしんが思うことが全部正解だろ
いや……なんか……どうしても、おばあさんが「これをするしかなかった」のはしょうがないと、俺は思っちゃうんだよ
でも、下人には……そう思えないんだよな……。下人が考えて考えて、ここにたどり着いてたら、また違う気持ちだったかもしれないけど……
下人は4-5日前からこうだっただけじゃん。下人も俺たちも「おばあさんがいつからこういう生活をしてるのか」を全く知らないだろ
カツラ売りだって、おばあさんが考えて考えて、ようやくたどり着いた答えだったかもしれないのに……
下人はその到達点だけを見て、バカにして「じゃあ、俺も」ってタダ乗りしてるのはズルいと思うんだよなぁ〜!
でも、それを言うのも酷だよなぁ〜! こんな酷い時代を生きてる人に正論なんか言いたくねえよ
みくのしんの気持ちもグラグラ揺れてるね
みんな腹減ってるから、こうなっちゃうんだよな……。下人も腹いっぱいだったら、こんなこと考えなくてよかっただろ……
実際、それは切実な問題としてあるだろうな
みんな、もっとヘビを食べればよかったんだ
結論、それなんだ
ということで、みくのしんの初めての羅生門はこんな感じでした。
「羅生門なんて高校生のときに読んだよ」という人も多いでしょう。
ですが、あれから人生を積み重ねた今になって読み返すと、「あれ? こんなことが書いてあったのか」という発見があったりするものです。
もしかすると、あのとき読んでいたものとは、全く違う物語がそこに拡がっているかもしれません。
みなさんもこれを機に、過去の名作を読み返してみてはいかがでしょうか?
さて、記事の撮影も終わり、撤収しようとしていたとき……
やっぱ下人かわいそうだな……
まだ考えが止まらないの?
うん……やっぱ下人を責めるのは違う気がする
これは、下人とおばあさんしかいない場所での出来事でしょ? 誰も見てないから、下人は最後のラインを超えちゃったんだよね?
たしかに、そうだね。あの場に誰か他の人がいたら結末は変わっていた気もするな
そうだよ。下人だって「俺たちに見られてる」って分かってたらこんなことやってないだろ
なんかすごいことを言い始めたな
俺はずっと見てたのに、結果が出たあとになって偉そうに「下人よ、それはよくないぞ」なんて……それは勝手すぎるよな
見てたんなら声をかけてあげればよかった……。申し訳ないことをした……
え〜っと……? 誰かが下人を止めるべきだったってこと?
そこまでの話じゃないかも。下人が「自分のことを誰かが見てる」って分かってたら、また違う道を選んでいただろうなって思うんだよ
多分だけど、みくのしんは「下人を監視する目が必要だった」って言いたいわけじゃなさそうだね
うん、そうじゃないね。「悪いことをしないように見張ろう」じゃなくて、「見ててくれる人がいる」って感じかな。それがあれば、下人もこんなことしなかったのかも……
俺が本を読めるのも、かまどとかみんなが見ててくれるからじゃん。誰も見てなかったら、とっくに諦めてケンタッキー食べに行ってるって
そうなんだ
「誰かが見ててくれる」って、ちっちゃいけどすごい力なんだよ。「止めてくれる」とか「認めてくれる」までいかなくてもいいんです。自分を見てくれる存在がいるだけで……全然違うんです
「自分を見てくれる存在」か。倫理とか道徳以前のほのかな規範だけど、「羅生門」はそれすらなかった時代だったのかもね
う〜ん……これって時代なのかな……。今でも、一人ぼっちで誰も見てくれなかったら、みんなこうなると思う
「羅生門」は、食べ物もだけど、「誰かが見ててくれる」がなくなった話だったのかもな。その結果、行方が分からなくなって本当に誰も下人のことを見ることができなくなったのは……ツラいエンディングだよ……
人間が好きなみくのしんらしい読み方だね。いい感想だと思う
下人がやったことはよくないことだし、今はもう行方も分かんないけど……俺は下人が「盗人になる勇気を出さずに耐えてたところも見てたよ」とだけは言ってあげたいな
撮影が終わったあとも、たっぷり時間をかけながら、まとまらない感情を飲み下していたみくのしん。
彼が「羅生門」を読み終わるのは、まだまだ先のことになりそうです。
改めて、とても長い記事でしたが、最後まで見ててくださり、ありがとうございました。
忙しい毎日の中で、読書をする時間なんてありゃしない。そんな中で「みんな、もっと本を読もう!」なんて呑気なことは言ってられないのが正直なところです。
ですが、もうしばらくすると仕事納めをして、お休みに入る方も多いと思います(引き続きお仕事の人は、本……ッ当にお疲れ様です)。
慌ただしいことが前提でできあがった街々が途端にのんびりし始める年末年始。何もせずに過ごすことが許される数日間ですが、そんな中で、ふとダブついた時間を見つけたら、本を読んでみるのもいいかもしれません。
きっといい読書になると思います。
以上、みくのしんのはじめての「羅生門」でした。
最後に、みくのしんから届いた感想文を掲載してこの記事の締めとさせていただきます。
「誰が悪いとかじゃなくて戦争が良くないのかもね」
昔に。夏のテレビ特番を見ながら母さんに質問したんですよね。この戦争は誰が悪かったの? 的なことを。それを聞いた時に、母さんがこうやって答えてくれたの覚えてます。
羅生門を初めて読んで、それを思い出しました。
もちろん戦争は体験もしてないし、下人のような体験もしてないので、それはもちろん偉そうなことは一つも言えないんだけど、僕が僕みくのしんとして今まで生きてきた中で、誰かにムカついたり、ムカつかれたりとかはもう、山ほどあった。これをお金に換金出来るなら中目黒に5LDKの家が建つほどだ。昨日もあった気がする。
そのたんび、そもそもの根本の問題「羅生門状態」を置いといて、自分の正しさだけをぶつけあっては泥みたいに疲れて結局ふわっと終わるか、イミフのごめんね合戦でねちりと終わる。いつも嫌だなって、キツい後悔をする。
老婆と下人のしたこと。これも同じだよ。ダメなことだってわかるけどさ、しょうがないじゃん。ね。しょうがないじゃダメかな?
もっと難しいことを言って、いろんな言葉を使って、まとめて投げる玉入れみたいに、誰かのどこかに刺さるみたいな言い方して納得するのもいいけど。
もう、しょうがないじゃダメかな?
すげーしょうがないよ。こんな状態でさ。仕事もなくて、一人でさ。「街は賑やかなのに僕は……」みたいな逃れ方も出来ない。もーーう! イヤッ!ってなるよ。
正義で、いい人で、道徳的に過ごすのが正解なんて、どんどんズンズンわからなくなるはず。当たり前だって。
僕は、そんな下人の人生をたまたま見てしまった。何も言わずに。だまーーーって。じーーーっと。ときに笑いながら。情けないとも言いました。こんなにしょうがないのに。
偉そうにキレイな服着て、普通にお昼ごはんも食べて、夜はあったかいお風呂に入って、朝起きて出社したら大好きな人達がいて、かなり毎日笑えてる。そんな状態で、偉そうに下人のことを見てしまった。ごめん、下人。
自分も下人のように心が揺らぐことがよくある。「どうにでもなれよ。なってくれよ。頼むよ。もう、さよならでいいよ」って思うことも多々々々ある。でも、誰かが見ているから踏ん張れるんだと思うし、それは当然の日常じゃないってことも改めて思い出せました。
下人、全然情けなくないよ。
読み終わってしばらく経って、今はしょうがないよって思う。どこかで自分が納得するように生きてさえいれば、僕はOK。大丈夫だよ。
でも、もし、僕が下人のように、欲や何かで体からぜい肉が「ぶにゅ」とはみ出そうになったなら、自分の今いる今へのありがとうを忘れず、みんなの顔を思い出して、考えてみようと思います。わからなくても、考えてみます。
(おしまい)
PRの時間です
ここまで読んでいただき、ありがとうございました! お疲れかと思いますが、もうしばらくお付き合いください!
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