都会か地方か、総合大学と単科大学では… 大学選びで考えたいこと

2024/12/13

学長対談 「リーダーが語る10年後の大学」

「都市部の大学か、地方の大学か」「国公立大学か、私立大学か」「総合大学か、単科大学か」……大学を選ぶ際はさまざまな観点から考え、選択していくことになります。長野県茅野市にある公立諏訪東京理科大学と山梨県都留市にある都留文科大学は、ともに地方の公立大学です。両学長が、高校生とその保護者に向けて、大学選びについてアドバイスします。(聞き手は「朝日新聞Thinkキャンパス」の平岡妙子編集長)

>>【前編】公立大学って、国立大学や私立大学と何が違う…? 「地域とのつながり」が強み

総合大学とはどこが違う?

——公立諏訪東京理科大学は工学部のみ、都留文科大学は教養学部と文学部という人文系2学部で、どちらも専門的な分野に特化した大学です。いろいろな学部がある総合大学と比べて、どんな特色があるのでしょうか。

公立諏訪東京理科大学・濱田州博学長 私は以前、総合大学に勤務していた経験から、公立諏訪東京理科大学には、工学部だけの小さな大学だからこそのメリットがあると思っています。まず、総合大学のような大人数の授業はありません。物理のように工学の基礎となる科目では、かなり少人数で行っている授業もあります。教員も学生も同じ興味を持つ人が集まっているので、専門分野に特化した深い話ができるのもいいところです。

組織としても、大学と学部とが一体となっているので教育方針を共有しやすく、学長と教員が直接やりとりできて現場の状況がよくわかります。そこは総合大学とは違うところだと思います。

都留文科大学・加藤敦子学長 都留文科大学は、教育と、文化・人文系に特化しているので、水準の高い教育研究が可能です。3年からのゼミは専門性が高く、卒業論文は全員必修です。学生は興味のあることを学びながら、ゼミでの議論や卒論で思考を鍛え、根拠に基づいて自分の主張を発表します。そういうきめ細かい教育ができるのは、人文系に特化した大学の強みです。

ただ、学生をきちんと成長させて社会に送り出すためには、データサイエンスや情報リテラシーなどの知識も必要です。そこで2024年度から副専攻プログラムを導入し、理系の学びも選択できるようにしました。学生が何を得て、自分の主専攻にどう生かすのか、成果を期待しているところです。

ところで、濱田先生にぜひお伺いしたいことがあるのです。STEM(Science、Technology、Engineering、Mathematics)教育に、Artsを加えてSTEAM教育を目指しているようですが、Artsとは、具体的にはどんな科目があるのですか。

濱田学長 Artsは芸術というだけでなくて、リベラルアーツ(教養教育)として取り入れています。公立大学になる前は経営情報学部があったこともあり、リベラルアーツとして経営学やアントレプレナーシップ(起業家精神)などを教えています。マネジメントを専門とする3人の教員の授業は必修にしています。

大学のある諏訪地域には企業経営を創業者から受け継ぐ人も多く、それで経営学が必要とされています。教員は地元企業の社長たちと毎月、勉強会を開いています。将来的には他の科目に広げることも考えていますが、基本的には分野が絞られているのが単科大学の良さだと思っています。

地元で活躍できる人材に

——どちらの大学も、県外から来ている学生が大半を占めるという共通した特徴があります。

加藤学長 都留文科大学は学生の86%が県外から来ていますが、卒業後のUターン率も高くて5割近いんです。とくに教員は72%、公務員は61%が地元に帰って就職しています。ですから、私たちは学生を4年間しっかりお預かりして、地元で活躍できる人材に成長させることに力を入れています。

実は地方の高校生には、東京の大学に行きたくないという人も少なくありません。都留市は富士山の麓にあり、湧水が大学のすぐそばを流れています。キャンパスの森にムササビが生息しているような、恵まれた自然環境の中で学ぶことができます。「大都市は人が多くて疲れるし、不安。都留市くらいの規模の町なら安心して生活できそう」と言って入学してくる学生もいます。

——地域の中での大学の役割は、どんなところにあるのでしょうか。

濱田学長 地元が地方大学に求めるのは、人材の輩出です。私は学生と地元の企業が多くの接点を持つことが大事だと思っています。というのは、最近は就職のときに親御さんの意見が大きく影響します。親御さんの世代は大手志向が強いので、新卒では大手企業を選ぶ傾向がありますが、入社後にマッチしなくて転職する人も多いんです。その際、転職先として選ぶのが、学生のときに接点のあった企業ということがよくあるようです。転職して大学のある地元に戻ってくるわけですね。

もう一つ、地元が大学に求めているのは「知の拠点」としての役割です。大学は人と人が交わる場でもあります。大学の近くに別荘を持つ著名な学者が「何か貢献できないか」と言ってこられたこともありました。人が交わる場としての役割をさらに磨いていきたいと思っています。

加藤学長 一般的に地方の公立大学に求められているのは、地元に貢献できる人材の育成ですが、私たちの大学は全国から学生が集まってきて、また全国に散っていきます。行き先は海外でもいいわけです。人文系で人、言葉、文化などを学ぶには国際的な視野も重要なので、海外と積極的に交流しています。

フィンランドの教育を学びながら日本の教育を考えるなど、ヨーロッパを中心に世界の16の大学と提携して交換留学の制度を設けています。向こうからも留学生が来るので、多様なバックグラウンドを持つ海外の学生、地域の方々、そして本学の学生が、都留市にいながら交流できるのです。濱田先生がおっしゃった「知の拠点」であり、多文化、多様性を体験できる場としての大学です。

高校生のうちに考える癖をつける

——大学受験を目指す高校生へ、アドバイスをお願いします。

濱田学長 これからは、ますます学び続けないといけない時代になります。高校生のうちに自分で考える癖をつけて、大学で多角的な思考ができるようになってほしいですね。AI(人工知能)が発展すれば、知識はいろいろな形で得られるので、やはり考えることが重要になります。AIが作った文章が正しいかどうかを判断するのは人間です。今以上に読解力や論理的思考が必要になってくると思います。大学選びでは、「この大学に行ったら、どれだけ成長できるか」という観点が重要です。どういうふうに成長したいかも考えて選んでいただければと思います。

加藤学長 濱田先生のお話と重なりますが、まずは自分の頭で考える癖、習慣をしっかりと身につけてほしいと思います。これからの社会はどんな課題が出てくるかわかりません。課題を見つけ、解決策を模索するときに、AIをはじめ情報テクノロジーの力を借りることも必要ですが、やはり自分の頭でとことん突き詰めて考えることが最も重要です。スキルとか知識はどんどん古いものになっていくので、その時々に必要なものを学び続けるしかありません。どういうスキルや知識が必要かは、自分で考えないといけないのです。

——受験生の保護者に向けて、何かアドバイスはありますか。

濱田学長 大学の状況は親御さんの時代とはかなり変わっています。ですから、自分が受験した頃を基準にして判断してはいけないと思います。私は別の大学の繊維学部にいたことがありますが、学生が親から「なぜ繊維学部に行くのか」と聞かれたそうです。今は炭素繊維など新しい技術が開発されていますが、親の世代にとって繊維は斜陽産業だったからです。そういうギャップがあるので、今がどうなっているのか、よく見て、考えていただきたいですね。

加藤学長 私たちの大学の場合は、高校生が自分で調べてこの大学を見つけて、あるいは高校の先生から勧められて行きたいと言い出すパターンが多いです。知らない大学だからといって決めつけず、しっかりと情報を得て、親子で話し合いながら、子どもの選択を大事にしてほしいと思います。

プロフィル
濱田州博(はまだ・くにひろ)/公立諏訪東京理科大学学長。東京工業大学工学部高分子工学科卒、同大学院理工学研究科高分子工学専攻博士課程修了。工学博士。信州大学繊維学部教授、繊維学部長、副学長などを経て、2015 年に信州大学学長。23年4月から現職。専門は繊維染色化学、繊維機能加工学、高分子化学。

加藤敦子(かとう・あつこ)/都留文科大学学長。東京大学文学部卒、同大学院人文科学研究科(国語国文学専攻)博士課程単位取得退学。文学修士。ソウル女子大学校講師、東京経済大学講師、都留文科大学文学部国文学科教授、附属図書館長、副学長などを経て、2023年4月から現職。専門は日本近世文学。

(文=仲宇佐ゆり、写真=加藤夏子)

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【写真】都会か地方か、総合大学と単科大学では… 大学選びで考えたいこと

公立諏訪東京理科大学 濱田州博学長(写真=倉田貴志)
公立諏訪東京理科大学 濱田州博学長(写真=倉田貴志)

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