「佐藤ママ」こと、佐藤亮子さんは、3男1女全員を最難関の東京大学理科三類に進学させたことで知られています。とはいえ、実はすべてが順調にいったわけではありません。長男は現役では理三に不合格になって、再受験をしたそうです。長男の失敗から感じた体験や、それを経て学んだ受験直前の子どもへの声がけとは、どんなものだったのでしょうか。(聞き手=平岡妙子「Thinkキャンパス」編集長)
>>【前編】佐藤ママは、子どもが反抗期の時にはどうしていたの?「返事はなくても、親が一方的に話せばいい」
長男が現役では理三に不合格
――お子さん4人とも東京大学理科三類に合格していますが、みなさん、合格は順調に勝ち取ったのでしょうか。
実は長男は、現役のとき、理三に不合格。もう、青天の霹靂でね。模試ではずっとA判定だったので、周りの人たちみんなから「まさか!」と驚かれました。当時の東大入試は前期日程と後期日程があり(後期日程は2016年度から廃止)、前期日程で理三に落ちてしまいました。後期日程は理三以外であれば選択できたので、理一に出願して合格し、入学金と1年間の授業料を払いました。
長男は「来年どうせ再受験するから入学しなくていい」と言いましたが、「来年、骨を折ったりして受験できないことがあるかもしれないでしょ」と説得しました。健康診断の1日だけ大学に行きましたが、長男は入学式にも行きませんでした。
――「理一に入っている」という安心感はあったのでしょうか。
親だけですね。本人は全くなかったと思います。長男はかなり成績もよく常に上位にいました。まさか落ちるなんて想像もしていなかったです。当時の担任の先生からは「名前を書き忘れたんじゃないか」と、いまだに言われるくらいです。
――ショックは大きかったでしょうね。
ポーカーフェイスでしたけどね。受験が終わって、長男から長文のメールがきました。「不合格になって申し訳ありませんでした。この結果は自分の油断によるものだと思うし、一度失敗したことは二度しないので、ぜひもう1年応援してほしい。模試ではずっとA判定をとるつもりだけど、もしB判定があっても責めないでほしい。1年間頑張るのでよろしくお願いします」と書いてありました。とてもきちんとした文章でした。
――どういう返事をしたのですか。
「また1年間サポートするから頑張ろうね」って。振り返ってみますと、センター試験(当時)から東大の入試本番まで約40日ありますが、センター試験で9割以上得点できて、気が緩んだのでしょうね。朝10時くらいに起きて朝ごはん食べて、ごろーんとしていました。長男の様子を見て、主人が私に「今の理三ってそんなに簡単になったの?」と聞いてきたくらいです。私は「そんな様子じゃ落ちるよ」と声をかけていましたが、聞かずにただ入試の日を待っているという感じでした。結局、本番では得意の数学で失敗し、3点ほど足りませんでした。
長男は落ちる運命だった
――やはり入試は一発勝負なので、実力があっても怖いですね。
実力は必要ですが、「この実力なら当然通るだろう」と思ったらだめなんでしょうね。だから長男は1回落ちる運命だったのかな、と思います。模試もA判定続きで、出来過ぎていたので、「俺が落ちるわけがない」って思っていたのでしょう。現役で受かっていたら、ろくでもない大人になっていたかもしれません。鼻をポキッと折られる必要があったんじゃないですかね。センター試験から入試まで、40日間の大事さが身に染みてわかりました。
だから受験に「絶対に大丈夫」なんていうことはないんですよ。
――合格したときは、嬉しかったでしょうね。
ホッとはしましたね。長男と次男は年子だったので、一緒に合格しました。今度は家族で入学式に行きたかったのですが、東日本大震災があった年だったので、武道館での開催はありませんでした。
――入試本番までに親ができるサポートとして大事なことは何ですか。
もう高3だから勝手に頑張るかといったら、そうでもないんですよね。最後まで親がしっかり見たほうがいいと思います。長男と次男は年子なので、受験が一緒になりました。長男は駿台予備学校に通っていたので、センター試験のあとも朝から夜まで帰ってこないのですが、次男は塾の自習室に行ってもやらないタイプなので、家で勉強させていました。
試験の直前の時期に、一度、次男の京大志望の仲良しの友達からメールが来て、「あいつが京大に行って俺が東大に行けば、もう会えなくなるから、食事してきてもいいかな」って言うんです。会えなくなるわけないじゃないですか(笑)。「大学入ったって、夏休みに帰省したときに会えるでしょ、今は必要ない」と言いました。そうしたら「じゃあ、近所の古本屋に行くから2時間ちょうだい」って言って、きっちり2時間で帰ってきました。少し息抜きをしたかったのでしょう。でも、友達との食事は1日潰れるので、それを許すわけにはいかないですよね。目の前の受験勉強から逃げることはさせませんでした。
今日やれることを一生懸命やる
――本番が迫っているのに子どもが勉強をしていないと、親が心配になって、「いつまでダラダラしてるの!」と不安をぶつけてしまうこともあるのですが。
実は、子どもはもっと不安なんですよね。そうは見えなくても、自分自身のことですから。「落ちたらどうするの? このままじゃ、ダメかもよ」なんて親が言っても、何の役にも立たない。
だから私なら不安を表には出さずに、「今のように自分の時間を自分のためだけに使えるのは、人生の中でもうない。目の前にある一分一秒が光り輝くような大切な黄金の時間。だから勉強以外に使うのはもったいない。それ以外のことは、受験の後になんでもできるでしょ」と話します。
ただ「ダラダラしてたらダメでしょ」って言うよりも、人生訓みたいな言葉が、意外とこの年齢の子どもの心を打つんです。自らの不安を解消するには、勉強するしかないのですから。
――不安を訴える子には、どう声をかけたらいいですか。
私は「朝起きてから寝るまで、今日やれることを一生懸命、頑張ろう」と言い続けていました。明日のことを考えたら不安になるだけだし、終わった昨日のことを考えても意味がない。前を向くしかない。ここまできたら「まな板の鯉」なのだから、ジタバタしながら、その日一日のことだけを考えて生きていこうって。私は「積極的その日暮らし」と呼んでいました。
――親は励ますつもりで「頑張ってきたんだから大丈夫よ」などと言いがちです。
そうですよね。親って「お父さんの子だから大丈夫」とか言うことありますよね。だから何なんだって話です(笑)。主人には、子どもたちに声はかけないように言っていましたね(笑)。「私は考えてから声をかけるけど、お父さんは考えないで気楽に声をかけるから困る」って。
子どもは日々頑張っているのですから、「頑張って」も言いませんでした。最後の最後に、受験に向かうときだけ、「頑張って」と声をかけました。どんなに模試の成績がよくても、本番は別ですから「大丈夫」という言葉は無責任だと思います。
――経験されているからこそ、重みのある言葉ですね。
合格するまでは大丈夫かどうかは、わからない。だから子どもは「大丈夫」と言われてもイラッとするんですよね。大学受験は子どもたちにとって、人生18年でくる最大の試練です。それを心から応援するなら、親の不安を解消するためではなく、子どものための声がけをしてほしいと思います。
<プロフィル>
佐藤亮子(さとう・りょうこ)/大分県生まれ。津田塾大学卒業後、大分県内の私立高校で英語教師を務める。結婚後は夫の勤務先である奈良県に移り、専業主婦として長男、次男、三男、長女の4人の子どもを育てる。長男、次男、三男は灘中学・高等学校を経て東京大学理科三類に進学。長女は洛南高等学校附属中学・洛南高等学校を経て、理科三類に進学した。現在は4人とも医師として活躍している(長女は研修医)。その育児法、教育法に注目が集まり、進学塾「浜学園」のアドバイザーを務めながら、子育てや勉強、受験をテーマに全国で講演を行っている。著書に『三男一女東大理Ⅲ合格!佐藤ママの子育てバイブル 学びの黄金ルール42』(朝日新聞出版)など。
(文=中寺暁子、写真=倉田貴志)
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【写真】佐藤ママが長男の受験で「まさか」の経験 「絶対に大丈夫ということはない」
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