通販でチョコレートを買ったら、中に緩衝材として「ポップコーン」が入っていた。
Twitterで話題になり「#プチプチはポップコーン」のハッシュタグまで出現した「ポップコーン緩衝材」。
普段はゴミとして捨てられる緩衝材を、美味しく食べられるなんて素晴らしいじゃないか。しかもこのパッケージデザイン。そりゃ写真を撮ってSNSにアップしたくなるって。
このアイデア商品を作ったのはどんな会社なんだ? 興味がわいたので直接行ってお話を伺ってきた。ある意味で、地方の零細企業が生き残るためのヒントを得る取材となった。
「まさかこれほど話題になるとは」
ポップコーン緩衝材を作っている「あぜち食品」は四国の高知市にある。
着いた、ここだ。
▲会社のシャッターにはPOPなイラストが
対応してくださったのは代表の和田しほこ社長である。
──本日はよろしくお願いします。ポップコーン緩衝材、ネットでも話題になりましたね!
和田社長:まさかこれほど話題になるとは正直、思ってなかったです(笑)。あれから注文が殺到して休むヒマもなく、ようやく少し落ち着いたところです。
──忙しい時期ってあるんですか?
和田社長:ホワイトデーが終わってから、5月いっぱいまでは少し余裕ができる時期なんですが、工事が入ったりとか、Webサイトを修正したりとか、普段は時間がなくてできない作業をやってます。
──なるほど。
和田社長:そして6月からは夕涼み会、7月からはバザー、夏祭りやお盆、9月から12月は文化祭、ハロウィンやクリスマス会。そのあたりがピークですね。そして、年が明けるとひな祭りやバレンタインデー。しかも、最近では季節のイベントだけでなく「結婚式でもポップコーンを配りたい」という需要があって、作業場が悲鳴をあげてます。
Twitterで2度、火が着いた
──それに加えて今回のツイートでさらに注文が増えたと。
和田社長:実はネットでバズったのは2回目なんですよ。1回目は2016年。お客様が注文されたチョコレートを発送する際に、ポップコーンを同梱して、お手紙を入れて送ったら「なんじゃこりゃ? わたし、こんなの頼んだっけ?」ってビックリされたみたいで。しかも、チョコレートと同じサイズでしょ? すごい衝撃だったみたいです。さらに食べてみると、甘いしょっぱい甘いしょっぱいで、止まらないみたいな(笑)。
5年ぶりくらいにツイッターを見るようになって、色々見て思ったけど、3.3万RTって改めて凄い!色んな所に記事にしてもらって、私自身もビックリした。これからも初心を忘れず、お客さまに喜んでもらえるサービスをしていきたい。@TenDieci さんありがとう。#プチプチはポップコーン pic.twitter.com/K7CVQ9VUtt
— マックポップコーン店長(石チョコ) (@shihocoro) 2016年12月24日
最終、38,000リツイートまで行ったみたいです。すごいね! https://t.co/BHWwSw6xGh
— マックポップコーン店長(石チョコ) (@shihocoro) 2016年12月24日
──それはたしかに止まらなくなりそうです(笑)。
和田社長:最初は、普通にポップコーンを同梱していたんですが、どうせなら専用に作ってしまおうと思って完成したのが今回の「食べられる緩衝材」(下写真)です。
──このデザインも秀逸ですよね。
和田社長:いつもシールや袋を作ってもらっている資材屋さんにお願いして、いくつかの案を出してもらいました。それをもとに緩衝材っぽく見せたいから色は黒一色、文字とポップコーンは可愛らしく…… と要望を聞いてもらって作りました。「食べられません」じゃなくて「食べられます」を見てクスっと笑ってもらえるかなって。それがまたTwitterで話題になったんです。
会社に送られてきた荷物の中に入っていた。
— 寿太郎 (@mhusgd4ksm) 2018年12月20日
ナイス! pic.twitter.com/oyUSaN84Iu
──本当に食べられるか試したくなります(笑)。
和田社長:この袋も緩衝材っぽい雰囲気を出すために、少し薄い材質のものを使用しておりますが、食品を入れても問題ない強度、素材にしています。
──そんなこだわりが!
地元で長年愛されたポップコーンの味を継承
和田社長:ウチの会社「あぜち食品」は創業43年になるんですけど、もともとは乾物やおつまみ等の仕入れ販売がメインでした。仕入れてきたものを加工して、詰めて出すわけですね。でも、昔からずっと自分たちで商品を作りたかったんです。
──メーカーになるのが、かねてからの夢だった。
和田社長:はい。そんな時、老舗のポップコーン製造会社が廃業するという話を聞きまして。その会社は「マックのシュガーコーン」や「花きび」を作っていました。花きびはポップコーンを甘く味つけしたもので、高知ではひな祭りの定番として、世代を超えて愛されているお菓子なんですね。その話を聞いた母が「なくすぐらいならウチがやる!」と、すぐ父に電話して、その日の夜にはウチが引き継ぐことになりました。2003年10月のことです。
──決断が早い!
和田社長:味が変わってしまうのは嫌だったので、製造の機械と一緒に元のメーカーに勤務していた製造スタッフにもウチで働いてもらうことにしました。それで会社の駐車場だったところに2週間で工場を作って、ポップコーン製造をスタートさせました。
──さらに雇用も守った。
和田社長:高知の人にとって「マックのシュガーコーン」は映画館で食べた青春の味。「花きび」は昔から親しまれているひな菓子で、それらがこの世からなくなってしまうのは耐えられなかったんです。
▲今でも「花きび」を買われたお客さんから感謝の手紙をいただくこともあるという
和田社長:さっそく母にもポップコーンを送ったところ、翌日電話があり、喜ぶ声が聞こえた時は私もうれしくなり、思わず涙が出ました。年老いた母はまるで無邪気な子供のように、「ありがとう」「うれしい」を何度も言ってくれました。少しだけ親孝行ができたような思いです。
──お母さん、本当にうれしかったんでしょうね。
和田社長:これは、あるお客様とやりとりしていた時の話なのですが、その方の娘さんが病気で入院していると聞いて花きびのサンプルをオマケとして入れたんです。「娘さんに早く春が来ますように。退院できますように」と、一言添えてね。すると、メッセージを読んだお客様から驚くような返事が来ました。「あまりにもビックリしすぎて、ただただ涙が流れました。娘にぴったりなお菓子です」と。娘さんの名前が「春花」ちゃんだったんです。今では娘さんも元気になり、毎年、花きびを買っていただいています。この手紙はもう私の宝物になりましたね。
──花きびが結んだステキなご縁ですね。
和田社長:メールやレビューが主流の今の時代に、こうやって手書きのお手紙をいただけるのは飛び上がるくらいうれしいです!
ネット販売当初はまったく売れなかった
──てっきりネットでバズった話がメインになるかと思いきや、こんなハートフルなエピソードがお聞きできるとは思いませんでした。
和田社長:対面販売と違って、ネットの場合は相手の顔が見えないから、こっちの気持ちが伝わるような商売をしていきたいなって。ずっとそういう気持ちでやってきたので、だから今回もTwitterでバズったんじゃないかなって思います。
──Twitterの他にも、Facebook、Instagramとありますが、運用はどなたが?
和田社長:全部、私がやってます。ただ、最近は忙しすぎてFacebookと、Instagramがメインです。お客様でいうとFacebookは中高年。40代から50代が多いです。Instagramは20代から30代ですね。だからおつまみの話はFacebookでウケるし、Instagramはウェディングなんかの可愛い写真が人気あったりと、それぞれ傾向がありますね。
──それに加えてブログもあるんですよね?
和田社長:もともと、文章を書くのは好きだったんですが、業務が増えすぎて、最近はぜんぜんブログ書けてないです。書きたいことはいっぱいあるんですが(笑)。
──本業の合間を見ながらブログをやるのは、なかなかしんどいのでは。
和田社長:忙しいとどうしてもしんどくなりがちですよね。それに今はInstagramのように写真で見てすぐ分かるほうが効果が出やすいですし。プチギフトの注文は全てInstagram経由なので驚いています。
──そもそも販売ツールとしてのネット活用はいつから?
和田社長:2006年に楽天さんに出店したのがきっかけです。ポップコーン会社を引き継いだときから、すでに市場には変化が現れていました。県外から大手資本の参入、コンビニの増加、地元スーパーの倒産、映画館の減少……。このままではダメになるという危機感がすごいあって「ネット販売に活路を見出すしかない!」って確信したんです。
──先見の明がありましたね。
和田社長:Windows95の時からパソコンは使っていたので、ネット販売には可能性を感じていました。そこでまずは、ネットを使ったビジネスを指導していたグループに参加して基本的なことを学んで。でも最初の4年間くらいは全然売れませんでしたねぇ。どうやったらお客様に喜んでいただけるかな? ということをずっと考えながら試行錯誤してここまで来た感じです。
──ネット販売を開始したからといって、すぐに売れるようになったわけじゃなかったと。
和田社長:食べられる緩衝材も、ネット注文を始めたからこその産物ですよ。だってネットで注文したお客様がチョコ1つを注文して送料が高いと損した気分になるじゃないですか? でも、チョコと同じサイズのポップコーンが入っていたらビックリして嬉しいと思うんです。しかも食べても美味しい。ウチのポップコーンは味には自信があります。いまちょうど作っているので見てみますか?
──おおー、見たいです!
ポップコーン製造工場へ潜入
そんなわけで、あぜち食品の心臓部である工場へ。中におじゃまさせてもらうと、専用のマシンがせわしなく稼働していた。
和田社長:今は注文が落ち着いている時期なので1台での稼働ですが、最盛期は朝から晩まで塩味用と甘味用のそれぞれ2台ずつあるポップコーンマシーンがフル稼働。作業場の温度も42度近くになります。しかも熱で弾けたポップコーンが顔に飛んできたり。
──軽く地獄ですね……。
和田社長:ポップコーンの種類によって製造機も違うんですよ。このポップコーンマシーンは50歳。今も現役で活躍しています。ガスを使って高温で一気に焼き上げます。これで作ると芯のない、ふわっとした食感のポップコーンが作れるんですよ。ちょっと食べてみます?
──(試食して)美味い! しかも口の中にボソボソと残らない。
和田社長:窯の素材によって仕上がりも変わってきますし、原材料のトウモロコシも時期やロットによって微妙に違いがあるので、それに合わせた焼き方をしています。
──美味しく作るためにそこまで手間をかけているんですね。
和田社長:こちらの部屋では(写真下)、出来上がったポップコーンを袋詰めします。
和田社長:袋も空気を通さないもの、圧力をかけると空気が抜けるもの、脱酸素のもの、厚さや材質もさまざまです。
▲完成して袋詰めにされたポップコーン
──ポップコーンが出来上がるのを眺めていると、なんだかウキウキしますね。童心に戻ったみたいで。
和田社長:地元の小学校が職場体験で来た時なんかすごかったですよ。スゲー! スゲー! って大騒ぎ。カゴに入ったポップコーンを「これどうぞ」って言って出したら、山盛り入ってたのが一瞬でなくなりました(笑)。
──小学生の職場体験にはすごくいいですね!
注文殺到時の人員確保をどうするか
──お話を伺っていて、地域とのつながりをとても大事にされている印象です。ネットでいくら脚光を浴びても、足元はやはり忘れてはいけない。そんな気がしました。
和田社長:表のシャッターにイラストがあったでしょう。あっちは地元の高校生たちに描いてもらったんですよ。私の妹が美術部でシャッターアートをやっていたので、先生に相談して美術部の子たちに絵を描いてもらうことになって。
──シャッターアートは地域活性としても話題ですね。
和田社長:以前は真っ白で殺風景だったけど、おかげでにぎやかになりましたね。このシャッターの前で写真を撮ってもらえたらいいなと思って、デザインをしてもらいました。
──ステキなアイデアが満載されています。
和田社長:基本、楽しくなるようなことをしたいんです。ウチの会社も先が見えない真っ暗な時代がありました。漏電で工場が全焼したり、水害にあったり、去年は父が亡くなりました。本当にいろんなことがありました。
──ネットで拝見する限りでは、そういったネガティブなことはまったくお察しできませんでした。長くやっていれば、つまづくことも多々ありますよね。
和田社長:でも、こうしてご縁があってポップコーン製造業を引き継ぎ、話題にもしてもらって注文がたくさん来るようになったのは、自分たちもお客様も「楽しくなること」を追求し、実践してきたからだと思います。どうしたら弊社の想いが伝わるか? どうしたらポップコーンが楽しくて美味しいお菓子だと知ってもらえるか? いつもそればっかり考えています。
──これからますます人気が出そうな気が……。
和田社長:ただ、最近は増え続ける注文にどう対応するかが課題です。ホームページにチャットボットを導入して、よくあるご質問に回答できるようにしたり、イベント出店やバザーではマニュアルを同梱して初めての人でも困らないように工夫しています。
▲右下のチャットボットウインドウに注目
▲イベント出店したい人のためのマニュアル。バザーなどでポップコーンは大活躍するアイテムだ
和田社長:それでも、今回みたいに注文が殺到したときは作業が追い付かないですね。求人を出して人を雇おうとしても、なかなか集まりません。
──まさに日本中で同じようなことが起きています。
和田社長:だからウチの雇用形態では、子供をもつお母さんでもなるべく働きやすいように、子供を保育園に送った後から、迎えに行ける時間(9時から16時)までを就業時間にしています。働くお母さんを応援したいですね。
──求人や雇用形態も今の時代に合わせていくのは本当に重要だと感じます。これからやってみたい商品などありますか?
和田社長:もっとプチギフトを充実させたいですね。人に贈って、喜んでもらえるポップコーン、「あぜち食品に頼んで良かった」とおっしゃっていただけるような商品をこれからも作っていきたいです!
現在、地方の中小企業が後継者不足やビジネスのグローバル化、市場変化への対応など様々な課題を抱えているのは周知のとおり。今回のインタビューではそんなサバイバル時代を生き抜くためのヒントがたくさん詰まっていた。
伝統の味を守り、地域に愛されながらも、ネットを活用して利益を上げる。その裏には「楽しい」を実現したい、「お客様に喜んでもらいたい」という、しほこさんの想いが込められている。
高知発、全国へ。「食べられる緩衝材」は今日も「楽しい」を運んでいく。
取材協力:あぜち食品
書いた人:星☆ヒロシ
夫婦で食べ歩きが趣味。夫は食べる専門で、妻は呑む専門。若いころは海外へも足を運んだが、最近は日本の良さを再認識し、旅をしながらその土地ならではのおいしいものを食べ歩く。