この歳になってようやくコロッケそばの良さが分かるようになった。以前は食べてみようと思わなかったし、そもそも「温かいそば」すら食べる発想がなかった。うどんなら、うどんなら冷たくても温かくても両方イケるけど、そばだけは、そばだけはどうしても「冷たいざるそばこそ至高」であり、それを温かいつゆの中にぶちこむなどとんでもない、という思想の持主だった。温かいそばを食べるのは年一回、年越しそばだけ。それは縁起物だから温かくして食べてるんだ、普通は冷たくして食べるんだ、という感覚であった。
これは己の育った環境にもよるのかもしれない。
関西の友人に会いに京都に行ったとき、夕食に蕎麦屋に連れて行ってもらった。その時に「関東の人にこっちの蕎麦屋を紹介するの、けっこう緊張するわ…」と言われ、なるほどそういうものなのか、と軽いカルチャーショックをうけ、なんだか面白かった。
言われてみれば、俺だって北海道の人に東京の寿司屋を紹介するのはものすごく緊張するし、もし香川の友人がいたら、東京のうどん屋なんか畏れ多すぎて連れて行けないと思う。
蕎麦に格別の思い入れがあるわけじゃないんだけど、でも関東のそば文化と関西のそば文化は明らかに違うものだ。例えば「にしんそば」なんて食べる関東の人なんて滅多にいないので三十代ぐらいまで食べたことなかった。なかったけど、いざ京都で食べたにしんそばはとても美味しかった。今までなんでこの味を知らなかったんだろう。と新しい世界に出会えた気になった。
俺とコロッケそばの出会いは、その延長線上にある。数年前、意を決し駅のスタンドで生れて初めてコロッケそばを頼んでみた。今まで俺はなんと偏見に満ちていたのだ…となるくらいとても美味しかった。
以前は己の中に山岡士郎がいたのかもしれない。「そんなものは、蕎麦じゃないですよ」みたいなことを脳内で囁いていた。歳を重ねた今なら分かる。そうやって断言できるのは、蕎麦について無知であるからに他ならない。今は違う。それも蕎麦である、というのが最近ようやくわかってきた。いわば己の中で蕎麦の概念が拡張されたのである。
分かる。揚げ物につゆをしみこませて食べると美味い。たぬきそば、天ぷらそば、かきあげそばが美味いのだから、コロッケそばが美味いのも道理ではないか…。
コロッケそばにまつわる言説は、たいてい駅のスタンドの話である。しかし俺は最近気が付いたのだ。コンビニでもコロッケそばが食えるな、ということに。
セブンイレブンのかき揚げそばに、同じくセブンイレブンのコロッケを載せたものである。そう、コンビニで売ってる揚げ物は全てがそばにトッピング可能なのである。ならばコロッケ以上にそばと相性のいい組み合わせもあるのではないだろうか、という境地にいたり、調査することにした。
フライドポテトそばである。
理論上だとコロッケそばと同じ美味しさになるはずだったけれど、コロッケそばほど洗練された味ではなかった。衣があるかどうかどうかがつゆとのハーモニーを語るうえで重要なのかもしれない。
山菜からあげそばである。これは普通に美味しい。なんならその辺の駅のスタンドで普通にメニューにありそうではないか。
春巻きたぬきそばである。日によってベースとなるコンビニそばの種類が違うが、その日によってコンビニにおいてあるラインナップが違うのでお許しいただきたい。
これは美味かった。春巻きのあんがそばと奏でるマリアージュ、まるであんかけラーメンのようではないか。春巻きとそば、コロッケそばに勝るとも劣らない組み合わせなのではないだろうか。
アメリカンドッグたぬきそば。犬とたぬきの個性のぶつかり合いである。
理論値だとこれも美味くなる予定だったのだけど、あまり美味しいと思わなかった。そもそも俺がアメリカンドッグをあまり好きではないせいなのかもしれないが…。アメリカンドッグが美味しい店があったら教えてください。
カニクリームコロッケたぬきそば。コロッケそばと変わらぬビジュアルに期待が高まる。
カニクリームとめんつゆが合うのか?という向きもあるだろうが、はっきり言って美味い。めんつゆを吸ったコロッケの美味さは異常。カニクリームコロッケとて例外ではない。
豚まんかけそば。もはやお好み焼きをおかずにご飯を食べる関西人をばかにできない…。東京人はそばの上に豚まんを載せて食べます(意見には個人差があります)
まんじゅうがめんつゆを吸う能力は桁外れであった。つゆを吸い過ぎて干上がってる様子がお分かりいただけるだろうか。めんつゆをパンパンに吸い上げた豚まん、ちょう美味い。優勝。
セブンの味付けたまごかけそば。そう、揚げ物コーナーだけではなく、総菜コーナーの食品もトッピングできるのだ!でもこれやりだすと無限にできるのでこの辺にしときます。もちろん味付けたまごかけそばは美味かった。
とりあえず現段階の調査報告では春巻きか肉まんが個人的にはおすすめだ、という結論にいたった。そしてこれらは駅のスタンドでは絶対に食べれない。コンビニそばだからできる代物である。駅のスタンドだけでコロッケそばを語るのは片手落ちだ。ぜひ皆さんも一度コンビニそばの奥深い世界を堪能してほしい。