アサリ愛が止まらない尾道市民、「回転ずしとは全く違う」…激減した漁獲復活へ一丸
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広島県尾道市民の“アサリ愛”が止まらない。漁獲量回復に取り組む漁業者らの熱意を知った若者や新住民を巻き込んで保全活動への参加を呼びかける新聞が登場し、市民らは古くて新しい名産地として名をとどろかせる日を夢見て、干潟整備や藻場再生などにいそしむ。(西堂路綾子)
熱量伝える

「直球勝負のタイトルですが」と自ら編集した「アサリ新聞」を広げるのは、市農林水産課の地域おこし協力隊員、坂本みゆきさん(51)。尾道の水産業PRを使命に10月、東京からJターンした。尾道東部漁協山波支所の組合員らによるアサリが育つ干潟の耕運、食害防止ネットの張り替えなどを取材した。
「ものすごい重労働。ぬかるみにはまりながら藻や貝がびっしりついた重い網を外し、新しい網に替えていた。食べる時は一瞬なのに」。組合員の熱量を伝えようと、新聞には拳を突き上げて復活を誓う姿や、耕運機を動かす写真を載せた。
参加者の掘り起こしを狙って11、12月の活動日程や連絡先を添え、組合員らに120部配った。市内の飲食店向けに、スポーツ新聞風に作った別バージョンの配布も進めている。
アマモ種まき

市と浦島漁協は今年度、人工干潟でアマモの藻場再生に力を入れる。アマモが育てば砂が動きにくくなり、アサリや餌のプランクトンも生息しやすい。他の魚介類の産卵場所にもなり、生態系が豊かになるという。
5月下旬、同市浦崎町の干潟で、約20人がアマモの種が詰まった花枝を採取。種は海で熟成させ、11月下旬に干潟内の4か所で、栄養分の窒素やリンの固形物とともにまいた。
活動に加わった福山大2年の女性(20)は5月、JA尾道市の直売所であったアサリ祭りで尾道産を初めて食べた。「回転ずしのアサリとは全く違う。あの味を知ってしまったら、がぜん復活に協力したくなった」と話す。
高校生も研究
尾道高科学部は、アサリの稚貝をチヌやアカエイなどの捕食から守ろうと、近くの向島町漁協と協力し、島の干潟に食害防止ネットを置き、アサリの生育状況を研究している。
同部は2022年3月から干潟2か所で、藻がつきにくい3メートル四方の建設現場用ネットを置き、2ミリの稚貝をまいて、成貝がどの程度とれるか調べている。3年の男子生徒(18)らは「ネットを外すと成貝は一定数いる。ネットの置き方や場所を今後の課題としたい」とデータを集積中だ。
「この10年正念場」
市のアサリ漁獲量は1988年、県内の7~8割を占める1746トンだった。それが2016年に10トンを切り、21年は3トンにまで激減。食害や水質、環境の変化など複合的な要因が考えられるという。危機感を募らせた市は15年度、干潟のある漁協に補助金を出し、人工的に稚貝を育てる事業を始めた。
市内3、4漁協へ稚貝を配り、網袋に入れて干潟で養殖。地道な取り組みが奏功し、23年の漁獲量は上向く兆しを見せた。同課の担当者は「目標は300トン。ただ、漁協関係者の平均年齢が約70歳と高齢化が進んでおり、いかに新たな人材を巻き込めるか。この5年、10年が正念場だ」と表情を引き締めた。