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刺し身やすし、そばなどに欠かせない香辛料として、古くから日本の食卓で親しまれてきた「わさび」。近年は、ローストビーフやステーキといった洋風の肉料理と合わせる食べ方も定着しました。しかし、わさびには、まだまだ知られていない食べ合わせや意外な効能があるといいます。専門家に話を聞きました。
リラックス効果のある香気成分を発見
わさびと言えば、鼻にツンとくる香りと辛さが大きな特徴。この香りと辛さには、さまざまな効用があることが、香辛料・調味料メーカーの「万城食品」(本社・静岡県)と「万城シーズニングパートナーズ」(同・東京都)がこのほど東京都内で開いた「わさび懇話会」で発表されました。
一般的に、一つの食べ物には数十種類の香気成分が存在しているといいます。「わさびにもたくさん含まれていて、まずは多くの人が認識する刺激臭や辛味・スパイシー系の香気成分。ほかにも、硫黄系やグリーン・フレッシュ系、加えてリラックス効果のある
良い「ペアリング」の条件は、香気成分が似ているもの同士であること。このため、多様なタイプの香気成分が含まれるわさびは、合わせる食材や料理の選択肢がぐんと広がります。「トウガラシやコショウなどのスパイス、たんぱく質が多く含まれる卵やステーキ、刺し身やすしなどの海鮮もの、野菜だとキュウリなど。意外なところでは、柑橘類やカクテルといったお酒と合わせてもおいしいです」と高橋さんは提案します。
また、わさびは香りが強いため、調理によって飛んでしまった食材の香りを補うこともできます。例えば、タマネギ。加熱すれば、ツンとした刺激のあるにおいが苦手な人も食べられるメリットがある一方で、本来の香りが消えてしまうデメリットも。そこで、わさびを合わせてフレッシュ感をプラスすると、さらにおいしく食べられるようになる、というわけです。
高橋さんによると、人間は小さい時から経験してきたにおいを無意識に学習しているそう。ニンニクが好きな母親の胎内で育った赤ちゃんに出生後、ニンニクを食べさせると、その風味を既に知っているかのようによく食べるとのこと。これは、胎内で赤ちゃんが独特のにおいを学習しているからだといいます。
「においの好き嫌いは小さい頃からの経験によって形成されます。わさびやトウガラシなどを『まだ早い』と小さい子どもに与えない親も多いと思いますが、積極的に食卓に出して挑戦させてみることが大切です。チューブタイプのわさびには、わさび以外の原材料が入っているものが多いですから、根わさびをすりおろして食べさせ、『これがわさびの風味だ』と覚えさせるといいでしょう」とアドバイスしてくれました。
医療・美容分野でも注目
「意外な効能」を教えてくれたのは、わさび懇話会の出席者の一人で、岐阜大学応用生物科学部准教授の山根京子さんです。
わさびの食文化について、「少なくとも鎌倉時代には、現代に通じるようなすりおろしたものを食べていたと考えられます。仏教の戒律が厳しく、人々は肉を避け米と魚メインの淡泊な食事をしていたので、そこにわさびの刺激や色をアクセントとして加えることで、食事を少しでも豊かなものにしようとしたと考えられます」と山根さん。
注目したいのは「心身を元気にする効果がある」という点。「香辛料を取ると、セロトニンと呼ばれる『幸せホルモン』が出ると言われていますが、わさびも同じです。わさびの刺激で幸せホルモンが分泌され、良い気分になり、繰り返し食べたくなる。そうした食習慣が、体や心が『整う』ことに通じているのでは」
このほか、〈1〉抗酸化・抗炎症〈2〉解毒〈3〉血流改善〈4〉がん細胞転移抑制――などの作用もあるとされています。
山根さんも、すりおろした根わさびを食べることを勧めます。「一気にすりおろして、チャックが付いた食品保存袋に入れてストックして、薬味として使ったり、マヨネーズやオリーブオイルなどと混ぜてストックし、サラダと合わせて食べるといいです」
わさびは今後、「美容業界で積極的に活用される」とも指摘。「わさびを扱う生産農家などの人は、手が荒れないことで有名です。今後、わさびが入ったハンドクリームなどのスキンケア製品が人気になるかもしれない。わさびの香りを空間に拡散させるアロマディフューザーなども、リラックス効果が高いことから注目を集め、製品が増えてくるかもしれません」と予測していました。
(読売新聞メディア局 長縄由実)