「カーネーション」 
第79回～第14週 「明るい未来」

 

 

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「日々のダダ漏れ」

 

 

昭和20年（1945）10月

 

昌子）　せやから、中野ちゅうたら、

　東京から、この電車に乗って、

　こう行くちゅう事ですわ。

糸子）　ほんで、生地問屋はどの辺や？

昌子）　生地問屋は、神田の須田町

　やから、この辺ですね。

糸子）　せっかく東京まで行くんや

　さかい、絶対生地は探したいな。

八重子）　うん。糸ちゃん、探そよ。

糸子）　う～ん。

昌子）　１日目パーマ機買うて、２日目

　に生地問屋、まあ、道に迷うかもしれ

　ん事考えたら、余裕見て、４泊ぐらい

　見てた方が…。

千代）　道に迷う？

昌子）　そら東京もまだ街ガタガタやろし、

　どんな事があるか分からんよって。

千代）　まあ、心配やなあ。昌ちゃん…。

昌子）　うん？

千代）　あんたもついてったってえな。

昌子）　いやいや。

糸子）　行こよ、昌ちゃん。

八重子）　うん。ついてきてよ。

昌子）　嫌です。

　うちほんま東京やら怖いんですわ。

 

＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊

 

（汽笛）

 

ちゅうて、嫌がる昌ちゃんを、

無理やり引っ張って来たんは、

ほんまに正解でした。

 

＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊

 

＜東京・中野界わい＞

八重子）　昌ちゃん元気やなあ。

糸子）　昌ちゃん、ちょっと休もうや。

昌子）　あきません！ もうすぐです。

　パーマ機売ってんのこの辺の

　はずです！

糸子）　頼むわ。休ましてや。もう…。

八重子）　うちも…。

（しゃがみ込む糸子と八重子）

糸子）　そやけど、こないして歩いてみ

　たら、東京もほんまえらい空襲受け　

　てんなちゅうんがよう分かるなあ。

八重子）　うん。

　新聞では読んでたけど、ここまで

　ボロボロやとは思えへんかったわ。

糸子）　うん。

八重子）　焼け野原に、子どもらが

　ウロウロしてたの、見た？

糸子）　うん。

八重子）　あの子ら、多分、家も、

　親も、なくしてしもたんやろなあ。

昌子）　先生！ 八重子さん！

　分かりました！

糸子・八重子）　えっ！？

昌子）　ここです。

糸子・八重子）　えっ！？

 

＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊

 

＜店＞

（隅に置かれたパーマ機を見る八重子）

八重子）　はあ…。

（嬉しそうな八重子を見て微笑む糸子）

昌子）　先生。

糸子）　うん？

昌子）　こっからは先生の番ですよ。

　しっかり値切って下さい。しっかり。

糸子）　分かってるわ。

 

＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊

 

糸子）　せやかて、ここかて、

　こない、えらい錆も来てますわ。

店主）　けどさ、お宅、これもう

　東京で１台っきりだよ。

八重子）　糸ちゃん、うち、

　もうこの値でええわ。

糸子）　ほれ！ ここかて、

　こないなってますやん。ほら！

八重子）　糸ちゃんもうええて！

　うちはこの値でええでって。

糸子）　八重子さん黙っといて！

八重子）　何でやの！？

　うちがこの値ぇでええ言うてん

　やからええやんか！

糸子）　ええ事ない！ 商売ちゅうんは

　でけるとこまでやらんとあかんねん！

　そんな甘っちょろい事言うてたら

　あかんねや！

八重子）　甘っちょろい気持ちなんかで

　言うてへん。うちはこの値ぇで本気で

　納得してるんや！

糸子）　納得うちはでけへんのや！

八重子）　こんなちょっとぐらいやったら

　使いよったらええねん！

糸子）　使われへんわ、こんなん。

八重子）　使えるよ。

糸子）　壊れてんねんで、これ！

八重子）　これ直したら使え…。

昌子）　ええからはよせんと、明るい

　うちに宿へ行けませんよ！

 

残念ながら、

そんなにはまからんかったけど、

どないか無事に、パーマ機は買えて、

八重子さんは、夢見心地なようでした。

 

＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊

 

＜宿屋＞

（大部屋の一角で布団に座る糸子たち）

昌子）　これ、この人らと雑魚寝

　ちゅう事ですよね。

男性）　うわ～暑いな、おい！

（リュックを前に抱える糸子）

糸子）　こないして寝よ。こないして。

昌子）　お金は、

　肌身離さん方がよろしいで。

糸子）　大丈夫、大丈夫。うちな、

　ここに、帯に縫い付けてあるんやし。

昌子）　へっ？

八重子）　どれ？

糸子）　ほれ。

昌子）　はあ！

糸子）　明日はこんでたんまり、

　生地買わんならんさかいな。

　何があっても、守っちゃんで。

 

＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊

 

（布団に寝ている糸子たち）

 

まだ２時か。

はあ～はよ朝なれへんかなあ。

 

（目を閉じる糸子）

 

＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊

 

男性）　あっ！

男性）　ああ、何や？

（目を開ける糸子）

糸子）　何これ？ 何で真っ暗なん？

八重子）　何！？

昌子）　キャ～！ 何！？ やめて！

八重子）　泥棒、泥棒！

糸子）　泥棒！？

八重子・昌子）　泥棒！？

（部屋に灯りがつく）

男性）　あ…ない！ この女か！？

男性）　お前らか！？

　リュック…リュックがない。

男性）　てめえらだろ！？

糸子）　お前らが取ったんやろ！？

　そんな顔してるわ、お前ら！

男性）　そのカバン見せてみろ！

男性の声）　泥棒だ～！

　１階から逃げたぞ～！

男性）　捜せ！

男性）　くそ～！

（追いかける一同）

（足を止め、そっと部屋に戻る糸子）

（戻って来る昌子と八重子）

昌子）　先生？

八重子）　糸ちゃん？

（押し入れを開ける糸子）

（盗んだ荷物を抱えた子供たち）

昌子・八重子）　キャ～！

昌子）　こっちです。泥棒こっちです！

糸子）　ちょっと、あんた待ち！

　あんた、ああ！

（荷物を投げ捨て、逃げる少年たち）

 

＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊

 

男性）　全く、ふざけやがって！

男性）　危ねえなあ。

男性）　一応警察にも電話したんですけ

　どね。最近よくあるらしくて。「被害が

　なかったんならよしとして下さい」って。

男性）　何だそりゃ！？

男性）　早くとっつかまえろよ！

 

怒ってる人らもいちゃあったけど、

とりあえず、うちらは明日に備えて、

寝よちゅうことになりました。

 

昌子）　八重子さん、

　しっかり、こうですよ！

八重子）　せやけど、

　もうよう寝えへんわ。

　とりあえず、横になるだけな。

昌子）　おやすみなさい。

八重子）　おやすみ。

糸子）　おやすみ。

（電気を消す糸子）

昌子）　おやすみなさい。

八重子）　おやすみ。

（布団をめくると、中に女の子）

（布団をかぶせ、隠す糸子）

男性の声）　さっき下で「泥棒だ！」

　って言った奴、あいつはグルだな。

男性）　大人の声だったろ。

　そいつが元締めじゃねえか？

男性）　畜生めが！

　一人でもとっつかまえてりゃ、

　縛り上げて吐かせられたのによ。

男性）　まだその辺うろついてんじゃ

　ねえか？ 見つけたらタダじゃおか

　ねえからな、畜生。

（布団の中で女の子の手を握る糸子）

（その手を握り返す女の子）

（目に涙をため、女の子を抱きしめる糸子）

 

＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊

 

（朝、目を覚ます糸子）

糸子）　はれ？ どこ行った？

　どこ行った？ はっ！

昌子）　何ですか？

八重子）　今度は、どないした？

糸子）　女の子…。

昌子・八重子）　女の子？

糸子）　はっ…。

（帯の中を見る糸子）

昌子）　ああ！？

（現金が消えている）

 

＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊

 

ほんな訳で、

結局生地は買えませんでした。

 

直子）　あっ、お母ちゃん！

　お母ちゃん、お帰り！

（糸子の足下に抱きつく直子）

糸子）　ただいま～。

（直子を抱き上げる糸子）

糸子）　重たっ…。

　直ちゃん、重たなったなあ。

優子）　お帰り、お母ちゃん！

千代）　お帰り。もう帰ってこれたん？

　早かったなあ。

昌子）　はあ…まあ、いろいろあって。

千代）　え～？

　まあ、よかったなあ。

　お母ちゃんお帰り～。

糸子）　ハハハハ…

　あんたらええ子にしてたか、うん？

優子・直子）　うん。

千代）　してたなあ。

 

＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊

 

＜居間＞

一同）　うわ～！

光子）　チョコレートや！

清子）　見て～！

優子）　う～ん、うま～い。

直子）　おいしいな！

（土産の菓子を食べる一同）

糸子）　昌ちゃん。

昌子）　はあ？

糸子）　あの子、お菓子の

　一つでも買えたやろか？

昌子）　またその話…

　はよ忘れた方がええですて！

糸子）　せやけど、

　ほんまにガリガリやったんやて。

　あんなちっちゃい子が…。

昌子）　まあ、ほんでもとったお金は、

　元締めの大人に渡すようになっちゃ

　あんのとちゃいますか。まあ、ほん

　でも、渡す前にチョロッとくすねて、

　お菓子ぐらいは買うたかもしれんし。

糸子）　うん。

 

生き延びや。

おばちゃんら、頑張って、もっともっと

ええ世の中にしちゃるさかい。

生き延びるんやで。

 

＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
 

昌ちゃんがいなかったら一体どうなって…。

今も昔も東京は怖いところだった～（嘘ｗ）

でも、あんな雑魚寝で寝るって、怖すぎる。

 

仏心を出してかくまった女の子にお金をし

っかり盗られてしまう糸子。親を亡くした子

どももまた、必死で生きていかないとね～。

うん。お菓子でもなんでも、ちょっとぐらい、

いい思いをして、生き延びられますように。

 

 

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