「カーネーション」(再放送)第121回~第21週「鮮やかな態度」 | 日々のダダ漏れ

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「カーネーション」 
第121回~第21週 「鮮やかな態度」

 

 

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「日々のダダ漏れ」

 

 

昭和40年(1965)3月

 

<小原家>

美代) こんにちは。

聡子) はれ、こんにちは。

美代) ちょっと、お母ちゃんいてるけ?

聡子) いてるよ。

 お母ちゃ~ん。お母ちゃん!

糸子) は~い。

聡子) おばちゃん。

糸子) ああ、こんにちは。

美代) あ~糸ちゃん。忙しいとこ悪いな。

 あんな、あんた、アイビーって分かるけ?

糸子) 「アイビー」?

美代) ふん。何や、最近若い男の子らがな、

 何や、「アイビーの、何ちゃらちゅう靴、置い

 てるか?」言うてよう聞きに来んやし。

糸子) あ~ローファーちゅうやつちゃうけ?

 

**********

 

(雑誌を見せる糸子)

糸子) この靴が、ローファーで、アイビー

 ちゅうんは、この格好の名前や。

美代) この、服の名前か?

糸子) いや、服やのうて、格好全体。

 それが、アイビーなんや。

美代) 格好に名前があるんかいな?

糸子) うん、そうなんや。このごろは。

 

昭和40年、

木岡のおばちゃんまで聞きに来るくらい、

アイビーはこのごろ大流行です。

 

**********

 

<心斎橋・優子の店>

 

さぞかし北村は、

景気ええやろ思たら…

 

北村) ほうやど。

 わいかてあのまま本気でアイビー

 やっちゃあったらよう、今頃もっと

 儲かっちゃあったのによ。

糸子) え? あんたアイビー

 やっとったんちゃうんけ?

北村) やっちゃあるよ。

 せやけど半分だけや。あとの半分は

 ほれ、あの例のデザイナー育成計画

 につぎ込んでよ。損こいたさかいよ。

 チャラなってもうたんや。

糸子) アホやなあ。

 しょうもない欲かくからやろ。

北村) いやいや、ほやけどこれからやど。

 つぎ込んだ分はよう元取れんかったけ

 どよう、期待の星。ほれ、そこおるがな。

(優子を見る北村)

北村) まずはオートクチュールできっちり

 実績積んでやな。小原優子ちゅう名前

 が一流デザイナーとして売れるようにな

 ったらそこが勝負や。

 やったんど~プレタポルテ!

 「ユウコ・オハラ・コレクション!」ゆうてよ。

 

毎度北村の話はおもろいけど。

 

**********

 

<小原家・居間>

糸子) 現実味がないよってな、

 アホらしいて聞いてられへんわ。

昌子) ほうですねえ。

恵) いや、せやかて、そないに現実味の

 ない話でも、ないんとちゃいますやろか。

糸子) え?

恵) いや、せやかて、

 先生、考えてみて下さい。

 優ちゃんかて直ちゃんかてそら、そこで

 見てたら何や、頼りないかもしれません

 けど。最年少で装麗賞取ったり、東京の

 百貨店で、人気店はったり。あれかて、

 ほんまの事なんですよ。

昌子) はあ…まあなあ。

恵) もっと、信用してあげはっても、

 ええんとちゃいますやろか?

糸子) いや~

 けどよう信じんわ、あんなん。

恵) え?

糸子) あんないけずといこじ。

 そんな大したもんちゃうで。

昌子・恵) いけずと、いこじ。

糸子) ほんでな、一番下が、アホ。

 ハハハハハ。

昌子・恵) いけずと、いこじと、アホ!

 ハハハハハ…。

恵) これはよろしいわ。

聡子) お母ちゃ~ん。村山さんの

 デザイン描けてんけど。ふん。

糸子) どれ。また!?

聡子) ん?

糸子) あんた何でまたこない

 スカート短いすんやな。

聡子) はあ…あかんやろか?

糸子) あんたこないだお客さんに、

 あんだけ「ハレンチや」言われて、

 まだこない短したいんか?

聡子) うん。

糸子) まあ、デザインちゅうんは、

 どれが正解てないよってなあ。

 あんたがこない短したいちゅうん

 やったら、まあ短てもええんかも

 しらんけど…。

 

**********

 

<店>

 

ほんな事は

なんぼ考えても分からんよって。

 

聡子) 一応描いてみたんですけど。

 

お客さんに聞いてみる事にしました。

 

村山) うわ~。いや~ほんでも、

 このスカート丈はちょっと…。

聡子) あきませんか?

村山) うん…やっぱし、

 ちょっと短すぎるわ。

糸子) いやほんでも!

村山) え?

糸子) 堪忍な、横から。

 その、短すぎるちゅうんは、

 恥ずかしいちゅう事?

村山) あ…うん。そうです。

糸子) 恥ずかしいのは嫌やけど、

 ほんまは、こんなんはいてみたい

 と思てる?

村山) はあ…ほんまは、思てます。

糸子) ほんま!?

 ほんまは、こんなんはいて、脚やら膝

 出して歩きたい思てるちゅう事!?

村山) シ~ッ!

昌子) 先生! 声おっきいです。お客さん

 恥ずかしがってはるやないですか。

糸子) 堪忍、堪忍な。

 あ…続けて。ハハハ!

聡子) 思ってはるんですか?

村山) はい。

 

は~せやったんや!

 

**********

 

サエ) そら女ちゅうんは、自分のきれえ

 なとこはできるだけ人に見せたいもん

 やさかい。当たり前やんか。

糸子) はあ…。

サエ) うちかて糸ちゃんに初めてこさえ

 てもろたイブニングドレス、あれ背中が

 シャ~ッてあいてたやんか。

糸子) ふん。

サエ) あれ着れた時

 うれしかったよってなあ。

 「ひゃ~こない背中て見せて

 ええもんなんや」て思た。

 出したいとこ出さしてもろたわちゅうて、

 ごっついうれしかったで。

糸子) ふ~ん。うれしい…。

 

短いスカート…短いスカート。

ほんなけ若い子ぉらが内心

はきたがってるとしたら…

 

(電話の呼び出し音)

恵) あ、うち出ますさかい。

電・恵) はいもしもし。

 オハラ洋装店でございます。

 もしもし? もしもし? もし~?

 ああ、直ちゃんか? うん?

糸子) 直子?

電・恵) パリ? 今、パリから!?

 へ? 聡…聡ちゃんか?

 な、な、何? え、みみみみ…みに、

 みに。じゅっ、じゅっぺ? じゅぷ?

 

ミニ・ジュップ。

 

**********

 

<優子の店>

(開店祝いの会が行われている)

女性) おめでとうございます。

優子) ゆっくりしてって下さいね。

女性) ありがとうございます。

男性) 開店おめでとう!

優子) どうもありがとうございます。

男性) 1枚撮らせて頂きます。

優子) ちょっと待って下さい。

男性) はい。

(糸子と聡子と並び、

 写真を撮ってもらう優子)

男性) 撮ります。はい、チーズ。

 もう一枚、いきます!

 

**********

 

(離れた所で1人シャンパンを

 飲んでいる直子)

女性) あの~優子さんの妹さんの

 直子さんですか?

直子) はい。

女性) 先月の「装麗」見ました!

 握手して下さい。

直子) ええ。

女性) ありがとうございます。

女性) 私もいいですか?

直子) ええ、もちろん。

 

**********

 

北村) よう!

優子) おっちゃんありがとう。

北村) おめでとよう! ようやったなあ。

糸子) 北村! こっちこっち。

北村) ごっつい盛況やのう。

聡子) おっちゃん。

北村) おおきにおおきに。

糸子) あんたな。

 なあ、短いスカートこさえ。

北村) はあ?

糸子) 明日からもうすぐ始め!

 こさえられるだけこさえ!

北村) へ?

糸子) だまされた思てな。

 中途半端に短いのはあかんで。

 ごっついごっつい短いやつや!

 絶対売れる。

 死ぬほど売れるよって。

 

**********

 

<客の帰った店内>

聡子) ジャ~ン! フフフッ。

(ミニスカートを履いている聡子)

北村) な…何じゃこりゃ、おい!

聡子) どない?

糸子) この丈や。

北村) いや、この…この…。

 あ~もう着替え、着替え。

 着替えやはよ! もうええ。

直子) あのな、

 パリではミニ・ジュップちゅうんや。

 短いスカートの事。春のパリコレで、

 クレージュが発表したんや。

 源太が言うちゃあっと。

 「冬までは、シャネル着てた女の子らが、

 春になったら、一斉に変わったて。見事

 にみんなこの丈はいちゃあった」て。

北村) はよ着替え言うてるやろ!

 いつまで膝出してんねん、おい!

 嫁行けんようなんど!

聡子) かめへ~ん。

北村) かめへん事ない。

 動くなおい! あかん。

糸子) いや、せやけどな、北村。

北村) ああ?

糸子) 恐ろしい事やけどな、

 時代が変わった。

北村) 何じゃ?

糸子) これからな、日本の女の子らも、

 脚出すで。出しまくるで。嫁に行けん

 かて…。いや、そもそもな、別に嫁に

 なんか行かんでええんや。

北村) ああ? 何じゃお前、

 何か怖い言い方すんなよ。

糸子) いや、正直うちもちょっと怖い。

 見た事もない時代が来るんやさかいな。

 けどな、これだけは確かや。

 短いスカートは流行る。こさえ。

聡子) こさえ。

優子) こさえ。

直子) こさえ。

糸子) こさえ。

聡子) こさえ。

優子) こさえ。

直子) こさえ。

 

**********

 

昭和41年(1966)4月

 

元はロンドン若い子ぉらの流行やった

ミニスカートが、パリの一流コレクション

に登場したんは、ファッションの下克上

ちゅうて言われるほどの、一大事件や

ったんやけど。ほんな事知らんでも、

とにかく女の子らは、長年出されへん

かった脚が出せて、うれしそうでした。

 

**********

 

<通り>

(サングラスをかけ、ミニスカートの

 女性たちを避けて歩く北村)

栄作) おう、北村ちゃん。

北村) おう、毎度やで。

栄作) 目ぇが黒い。

北村) サングラスや。

 

**********

 

<カフェ・太鼓>

糸子) おおきに。

 どないや? 儲かったけ?

北村) 儲かったわいや、

 おかげさんで。ボロ儲けや。

糸子) 何や、うれしないんけ?

北村) いや、うれしいけどよ。

 歩きにくうてしゃあないど。

 どこ見たらええか分からへんしよ。

糸子) ヒヒヒヒヒヒヒ…。

 困っとる困っとるおっさんが。

北村) 何か次長いスカートとか

 流行らへんけ?

糸子) いや~当分は短いやろな。

北村) ほんまけ?

糸子) 日本の長い歴史の中で、一回も

 出せんかったもんが出せるようになっ

 たんや。そないすぐには収まらんやろ。

北村) はあ~。

糸子) 慣れるしかないて。

北村) うっとうしいのう~。

糸子) はあ?

 ほんなええ格好せんと、

 見ちゃったらええやないか。

 向こうは見せたて見せてんやで。

北村) いや、ほやけどよ、わいらの時代

 はよ、もっとこう、恥じらいちゅうかよう…。

糸子) 恥じらい? あんたほんなもん、

 もう犬も食わへんで。

北村) いや、ほやけど…。

糸子) おっさん!

 気の毒やけどな、ほんな自分の時代が

 どうやらな、ほなもんもうこだわっちゃっ

 たらあかんねん。時代はどんどん変わ

 ってんやで。女の子は脚出してええ。

 おやじに怒られたかてかめへん。嫁に

 なんか行けんかてかめへん。そうゆう

 時代やねん。さっさと頭切り替えな、

 取り残されてまうで。

客) じゃ、おおきに。

節子) おおきにな。

(北村のサングラスを踏み潰す

 ミニスカートの女性)

北村)あ~! あ~あ~!

 

昭和41年、若い女の子らの脚が、

北村の、時代を踏み潰していきました。

 

北村) お~い!

 

**********
 

そうそう、ミニスカートも、若い子たちならOK。

どんなにデザインがよくても、似合う似合わな

いはあるし、着る人を考えて売らないとね~。

 

北村にミニスカートを作れと小原家の女たち

に「こさえこさえ」と迫られる場面に笑った~。

 

昭和41年、若い女の子らの脚が、
北村の、時代を踏み潰していきました。

 

ぷぷ…ホントそれ! いい時代になってきた。

 

 

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