「カーネーション」 
第147回～第26週 「あなたの愛は生きています」

 

 

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「日々のダダ漏れ」

 

 

平成17年（2005）5月

 

＜小原家＞

 

２階のサロンが完成しました。

 

（部屋を見回し、電気をつけたり

 消したりする糸子）

（カウンターに立ってみる糸子）

糸子）　何飲む？ ビールけ？

（窓を開け、外を眺める糸子）

糸子）　はあ～。

孝枝の声）　先生、

　そろそろ支度して下さいよ！

 

＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊

 

＜店＞

糸子）　なあ孝ちゃん、ええ事思いつい

　たわ。着物のリフォーム教室やろよ。

孝枝）　は？

糸子）　２階で。あないええのんでけて

　しもたら、もったいななってきた。

　どんどん人呼んで使およ。

（糸子にスケジュール表を見せる孝枝）

孝枝）　よう見てから言うて下さい。

　いつやるんですか？

 

＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊

 

やるちゅうたらやるんや。

 

（「撫子の会 こちらへどうぞ」の貼り紙）

フミ子）　２階です。どうぞ。

女性）　お邪魔します。

 

＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊

 

＜サロン＞

女性）　まあ～すてき！

糸子）　いらっしゃい。どうぞ。何飲む？

女性）　ありがとうございます。

栄之助）　先生、こんにちは。

糸子）　はれ社長、いらっしゃい。

栄之助）　こちらうちのお客さんの…。

森元）　森元です！

崎田）　崎田いいます。

　先生、握手して下さい！

森元）　うちも！

崎田）　あれ～うれしい！

　ずっとファンやったんです！

糸子）　ほんまかいな、おおきに。

 

＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊

 

糸子）　え～皆さん、撫子の会へ、

　ようこそいらっしゃいました。

　講師の、小原糸子です。

　どうぞ、よろしゅうお願いします。

（拍手）

 

＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊

 

糸子）　ある日、

　押し入れをひっくり返してたら、

　古い着物が山ほど出てきました。

　洋服は捨てられても、何や知らん、

　着物ちゅうんは、捨てられへんもん

　です、これが。せやけど、着るかち

　ゅうたら、なかなか機会もない。そ

　ないして、タンスの肥やしになって

　る着物が、どこのお宅にもようさん

　あるんとちゃうかと思います。

　そこで、あちらを、見て下さい。

（着物を加工した洋服を見せる糸子）

（歓声）

糸子）　ほんでこれが…。

（歓声）

糸子）　うちの一張羅やった着物を

　ばらして、こさえたドレスです。

　ご存知のとおり、着物の反物と、

　洋服の生地は幅が違います。

　しかも、模様が入ってるよって、

　洋服にすんのは、大変難しい。

　私も、随分頭を使て、やっと見つ

　けたやり方があります。言うたら、

　企業秘密みたいなもんやけど、

　ほんなセコいこと言うてたら、日本

　中のタンスに、肥やしが増えてい

　くばっかしです。一日もはよ、一枚

　でも多く、着物が生き返ってくれる

　方が、ずっと、うれしい。実は、うち

　の父親は、呉服屋やったんです。

 

＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊

 

女性）　あかん。

　やっぱりあきませんわ先生。

糸子）　うん？

女性）　着物にハサミ入れるなんて、

　なかなかできへんもんなんですね。

糸子）　分かるけどなあ。ハハハハ…。

栄之助）　そこが、着物の不思議

　いうやつですな、先生。

糸子）　ああ？

栄之助）　いや、どんだけお金持ちの

　お客さんでも、着物いうたら、皆さん

　絶対によう粗末にしはりませんもん。

糸子）　せやなあ。

女性）　分かります。うちも、

　お米と着物だけは、どないしても。

糸子）　ああ、なるほど、お米と着物なあ。

　ハハハハ…！

　ほれ、思い切っていけ！ ほれ！

女性）　よし！

糸子）　せ～の！ いくで！

女性）　わあ～！ やった～！

糸子）　あんたもいけ、ほら！ いくで！

 

＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊

 

＜夕方＞

栄之助）　せやけど、ほんまに、

　ええサロン出来ましたね。

糸子）　ふん、せやろ。

栄之助）　これ、だんじりの時とか

　ええのんちゃいますか？

糸子）　ところで、どないや？ 譲。

　ちょっとは元気なったか？

栄之助）　ああ…。おふくろさんが

　亡くならはった時よりも、今回の

　方がだいぶ参ってますわ。

糸子）　ほな、連れてき。

　あんた、今度。なっ。

栄之助）　はい。

 

先月、譲のお父ちゃんが

亡くなりました。

 

＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊

 

＜数日後の夜＞

 

糸子）　はれ、来たか。フフフフ…。

（糸子を見つめ、涙目になる譲）

譲）　先生…。

糸子）　ええ～。

譲）　すんません。なんや、先生の

　顔見たら、気ぃ緩んでしもた。

糸子）　はれはれ。

　大の男がかなんなもう。

譲）　（泣）

（ハンカチを探す糸子）

譲）　すんません。

糸子）　あ、これ台拭きやな。

　きれいなタオル、どこや？

栄之助）　いやもう、台拭きで

　ええんちゃいますか、先生。

糸子）　そうか。

譲）　すいません。

 

＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊

 

＜リビング＞

（酒を飲む糸子と栄之助と譲）

譲）　いや～参りました。おふくろん時かて、

　こたえてたはずやけど。今回ほどと違い

　ましたわ。年のせいですやろか。

糸子）　は？ あんた、今なんぼや？

譲）　45です。

糸子）　あと、倍ほど生きてから、

　ほんな言葉は使い。

譲）　はい。

糸子）　そら、あんたのお母ちゃん時とちゃ

　うんはな、あんたは、いよいよほんまに

　自分の力だけで、会社と家族を、背負

　わなあかんようなってしもたんや。その、

　不安と怖さに、こたえててんや。

譲）　そのとおり…そのとおりです。

糸子）　けどそら、

　誰もが通らんならん道なんやで。

譲）　はい。（泣）

糸子）　何やあんた？

栄之助）　へ？

糸子）　あんたまで、泣く事ないがな。

栄之助）　僕もですやろか？

糸子）　あ？

栄之助）　いつか僕も、

　通らなあかんのですやろか？

糸子）　そら、あんたの、お父ちゃんら

　かて、不死身やないやろしな。

栄之助）　何や切ないですね。

糸子）　まだまだや。

栄之助）　え？

糸子）　あんた、

　自分のお父ちゃんの事思い出してみ。

　あのこ、会長確か、65～66や。ほの年

　で、大事な奥さんに先立たれて、どん

　なけ寂しかったか、考えてみんかいな。

　ほんでもアホ息子と社員らのために、

　どないか立ち上がって、最後の最後ま

　で、支えてくれはったんや。あの立派

　なお父ちゃん見習うて、やっていき！

譲）　無理です。

糸子）　はあ？

譲）　僕そんな強ないですもん。（泣）

糸子）　アホか、ハハハハハ…。

　ほんなん、誰かて強ないわ。

　弱ても、どないか、つないでつないで、

　やっていくしかないんや。

　みんなそうや。うちのボーイフレンド、

　見てみ。91人もおるがな。群れたり、

　ごまかしたり、慰め合うたりしてるう

　ちに、人間はやっていけるんや。

　あんたらがやっていけん訳ないがな。

　心配しな。

栄之助）　先生。

糸子）　あ？

栄之助）　いつか、うちの奥さんが、先

　死んでしもたら、僕も、先生のボーイ

　フレンドに、入れて下さい。

糸子）　あんた、そん時、

　うちなんぼやねん？

栄之助）　130歳くらい？

糸子）　ハハハハハハ…。まあ飲み。

　しっかりしいや、アホぼんらが。

 

＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊

 

＜数日後＞

（譲が持ってきたカステラを

 食べる糸子たち）

孝枝）　これ、昔金箔張っちゃあった

　やつちゃいます？

譲）　そうです。

糸子）　金箔カステラけ？

　もう張らへんようなったんやな。

篠山）　あらやっぱり時代の流行

　やったんちゃいますか？

孝枝）　バブルやったよってなあ。

篠山）　そうゆう事です。

糸子）　余計なもん張らんかて、

　十分価値あんでなあ。おいしいわ。

孝枝）　うん。

糸子）　納骨はあんじょう済んだか？

譲）　はい、おかげさんで。

 

なあ、譲。

キラキラを剥がされて、

むき出しになってしもた40男の本性は、

あんたが思てるより、

もっと、ずっと、きれえなんやで。

 

＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
 

ほんなん、誰かて強ないわ。
弱ても、どないか、つないでつないで、
やっていくしかないんや。
みんなそうや。うちのボーイフレンド、
見てみ。91人もおるがな。群れたり、
ごまかしたり、慰め合うたりしてるう
ちに、人間はやっていけるんや。
あんたらがやっていけん訳ないがな。
心配しな。

 

群れたり、ごまかしたり、慰め合ったり。

そうか、何とかやっていけるのか。安心。

 

 

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