週末の過ごし方

世界的建築家と国民的建築家が競演する現代。
─「イスタンブル建築」が語る世界帝都の魅力─

2024.12.18

世界的建築家と国民的建築家が競演する現代。<br>─「イスタンブル建築」が語る世界帝都の魅力─
イスタンブル・モダン

海峡の西はヨーロッパ、東はアジアという世界に類を見ない都市・イスタンブル。太古より世界中の人々を魅了してきた帝都の面影を求め、建築を巡る旅に出る……。

再開発地区に生まれた現代美術館

最後に現代に目を向けたい。新市街・カラキョイ地区にある『イスタンブル・モダン』は、現代美術館である。

「ボスポラス海峡沿いの船着き場や倉庫街だったエリアの再開発に伴って誕生しました。世界的イタリア人建築家レンゾ・ピアノによる作品ですが、海峡とそこを渡る客船、そしてガラスを多用した美術館を同時に望む眺めは、今のイスタンブルを存分に感じられると思います。屋上の一部が水盤となっていて、最上階からはこの水盤の向こうに街の景色が広がります。港町であるイスタンブルという土地を意識し、組み込まれたプランなのではと推察します」

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パリのポンピドゥー・センターや東京の銀座メゾン・エルメスでも知られる建築家レンゾ・ピアノによる新館は、2023年にオープン。内部には美術館だけでなく、カフェやショップも併設している。
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オラファー・エリアソンなど現代を代表するアーティストの展覧会や自国の作品も積極的に企画。運営するイスタンブル文化財団は国の最重要都市に必要であるとイスタンブル・ビエンナーレ開催を実現させた。今や現代美術は世界的吸引力を持ち、経済とも切っても切れない関係だ。この街でその中心となるのがイスタンブル・モダンなのだろう。

文化的複合施設は新市街のランドマーク

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アタテュルク文化センター

建国の父と呼ばれるのが、アタテュルク大統領だ。その名を冠したランドマークがある。

「共和国のシンボルであるタクシム広場の前にあるアタテュルク文化センターは、オペラハウスやギャラリー、ライブラリーなどを内在する文化的複合施設です。手がけたムラト・タバンルオウルはトルコの国民的建築家で、旧アタテュルク文化センターは彼の父によるものです。トルコのミッドセンチュリーデザインを意識したインテリアも美しく、劇場の入り口が赤い球状の陶器となっている未来的なデザインなど、過去を受け継いで未来へとつなげようとするメッセージが伝わってきます」

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オペラハウス、ライブラリー、レストランなどを擁する新市街のランドマーク。約2000人収容のオペラハウスはエントランスホールの赤いドームが印象的。最上階のレストランからは海峡を一望できる。
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悠久の時を巡るイスタンブル建築の旅が教えてくれたこと

千数百年の時を建築で巡る旅で、宗教の個性や温故知新の動き、そして世界の中でのこの都市のありようが知れた。また日本では触れ合う機会が多くないイスラム教的思考や意匠もうかがえた。

最後に、ジラルデッリ青木さんは「イスラム文化圏の建築に授与されるアガ・カーン建築賞を知っていますか?」と問うた。

「建築のノーベル賞と言われるプリツカー賞より歴史があり、サステイナブルなことやエコな利用法をかなり前から評価しています。つまりこれからの建築は自然との共生がカギとなることを、見通していたのです。アガ・カーン建築賞の先見性はイスラム文化の個性を体現していると思います」

イスラム教の合理性や緻密な意匠から感じる清潔さなど、この旅で受け取ったことと、この賞の先見性は確かにつながっているように感じる。建築は土地の歴史や風土、信仰を語ると中村さんは言ったがイスタンブル建築を巡る旅は雄弁にそれを語っていた。さらには、イスラム文化と日本文化の親和性も存在していると思えてならない。日本とトルコ。今年は外交関係樹立100周年である。

※トルコ語の発音に即して、この記事内ではイスタンブルと表記しています。

<<帝都から共和国への過渡期。─「イスタンブル建築」が語る世界帝都の魅力─ 記事はこちらから

中村拓志(なかむら・ひろし)
建築家、中村拓志&NAP建築設計事務所代表。現在、明治大学理工学部特別招聘教授。日本建築学会賞(作品賞)ほか多数受賞。

ジラルデッリ青木美由紀(じらるでっり・あおき・みゆき)
美術史家、イスタンブル工科大学建築学部建築学科准教授補。著書に『明治の建築家 伊東忠太 オスマン帝国をゆく』。

「アエラスタイルマガジンVOL.57 AUTUMN/WINTER 2024」より転載

取材協力:Go Türkie/トルコ共和国大使館 文化観光局

Edit & Text: Toshie Tanaka(KIMITERASU)
Photograph: Kosuke Mae

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