週末の過ごし方
周囲の自然に溶け込み、美を体現する美術館
世界で最も美しいと言われる美術館を訪ねて。
2024.12.20
映画、テレビで出演作が相次ぐ板垣李光人。10歳でデビューし、着実にキャリアを積んできた。旅に出るとき、必ず現地にある美術館を確かめるほどアート好きの彼が訪れたのは広島。気鋭の建築家が手がけたミュージアムとオーベルジュの融合が、これまでにないアート体験をもたらした。
所蔵する作品だけではない。ステイ自体がアートな施設
出演作が相次ぐ多忙な日々の合間を縫って、板垣李光人が訪れたのは広島の「SIMOSE」。世界的に著名な坂 茂が設計したアート複合施設だ。東京ドームとほぼ同じ広さの敷地は瀬戸内海に臨み、ヴィラやレストラン、そして核となる下瀬美術館を擁している。建築界のノーベル賞とも言われるブリツカー賞を受賞した坂 茂の美意識が惜しみなく注ぎ込まれ、ユネスコから「世界で最も美しい美術館」のひとつに選ばれた。
ただここの美しさは、美術館という建物が持つ壮麗なイメージとは無縁。エントランス棟を覆う鏡面ガラスが周囲の樹々を映し込み、圧迫感を消しつつ自然の風景を増殖させる。そこから向かうギャラリースペースは、水盤の上に浮かぶカラーガラスのキューブ8棟。オーナーが所有するコレクションがテーマごとに展示され、各棟を回遊しながら、さまざまなアートを楽しめる趣向に。特に充実しているのがエミール・ガレ。ジャポニズムの影響を受けたガラス工芸品は、躯体の意匠とも相乗する。宿泊スペースはふたつのゾーンで分けられ、北側の「水辺のヴィラ」は海に面した5棟。南側の「森のヴィラ」は4棟が坂 茂自身の名作住宅の再現、1棟が新作で構成されている。建築好きなら、全室を制覇したくなるはず。地産食材を使ったレストランには大きく開口部が設けられており、海を借景として食事が楽しめるように計算されている。まさに施設全体がシームレスにつながるアートであり、その軽やかで刺激的な印象は、どこか板垣のたたずまいとも通じる。
「絵や彫刻は所有しない限り、触ることができません。でも建築は実際に触れられるし、生活もできる。今までの自分の範疇(はんちゅう)になかったもので、すごくいいですね」
板垣李光人は受けた感動を静かな情熱を込めてそう語った。
画家も建築家も年を重ねるごとに美を円熟させる。瀬戸内海の陽光あふれるなか、アートの中でアートを見る体験が若き才能にどんな刺激を与えたのか。新たな輝きとして投影される日が待ち遠しい。
板垣李光人(いたがき・りひと)
2002年生まれ。10歳で俳優としてデビューする。大河ドラマへの3度の出演を含む多数のテレビ、映画作品で活躍。『日経エンタテインメント!』2024年7月号 タレントパワーランキングU23で1位に。映画『八犬伝』が公開中のほか、『はたらく細胞』が12月公開予定。また、アーティストとして2024年9月~11月に初の個展『愛と渇きを。』を開催し、好評を博している。
取材協力/SIMOSE
掲載した商品はすべて税込み価格です。
Photograph: Yuji Kawata(Riverta Inc.)
Styling: Kohei Kubo(QUILT)
Hair & Make-up: KATO(Tron)
Text: Mitsuhide Sako(KATANA)