特別インタビュー

株式会社dr365 代表取締役社長
三上大進 インタビュー[後編]
[ニッポンの社長、イマを斬る。]

2025.01.14

スキンケア研究家、三上大進が自己資金で立ち上げた化粧品ブランド『dr365』が破竹の勢いだ。2024年上半期だけでもベストコスメ25冠を達成、グローバル展開を得意とする企業とのM&Aと来て何やら身辺が騒がしくなってきた。その発端と今後の戦略を尋ねてみた。

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社長インタビュー1後編_三上大進 1050_1

ものすごく原価の高い化粧品

2021年、ブランドスタートは炎上から始まった。『dr365』の公式サイトは1分間で9万アクセスという大反響となったが、あろうことかサーバーが落ちてしまったのだ。「当時考え得る最上級のサーバーで待機していたのですが、発売から2週間で2度も落ちてしまった。大クレームでした。サーバーが回復してもすぐに欠品になってしまい再販後すぐに完売という状況が続き、安定供給できるまで4カ月くらい掛かりました」

美容液からスタートした『dr365』はクレンジング、洗顔料、化粧水などアイテム数を増やし、ほどなく美容誌のベストコスメ大賞の常連となった。「コストのほとんどを原材料に投じているんです。店舗展開がないのでマージンもなし、広告費もほぼなく、パッケージもシンプル。その分の予算を原材料に回しているので『dr365』って原価がかなり嵩む代わりに処方には自信があります」

通販コスメにとって定期購入は商品戦略の要だ。『継続率50%を目指す』のがひとつの指針だが『dr365』はアイテムによっては90%以上あるという。大成功と言えるがその実、トラブルのない月なんてなかったとも言う。完成したシートマスクが張り付いて固まっていたり、最終段階の洗顔料が分離して固まっていたり。「水が0・1%増えるとドロドロになり、0・1%減るとカチンコチンになるんです。製品開発は失敗ばかりで泣き崩れた日もあるんですが、私がラッキーだったのはインスタを通じお客さまとすぐつながれること。『コンプレックスだった肌がきれいになりました』といった声があると、もう一度頑張ってみようと思える。自分のための頑張りには限界があるんです。だけど、製品を待ってくれる人がいる、そんな存在を意識したとき、盛り上がれる自分に気づいたんですね」

世間的には所詮インフルエンサーブランドと見られることもある。その点、モヤモヤしないわけではない。だが、モチベーションを高めるのはやはりフォロワーの存在だった。「あるときいただいたのが『大ちゃん自身はうるさくて苦手。でも、製品は手放せません』ってコメント。私のことは好きじゃないんだなって思ったけど(笑)プロダクトを認めてもらえたことがものすごくうれしかったんですよね」

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M&Aで自分たちだけでは行けない場所へ

2023年にタイに進出した。インターネット通販ではなく店舗での展開だ。「タイはアジア随一の美容大国なんです。年中紫外線が降り注ぎ高温多湿でシミ、そばかす、毛穴の悩みは尽きない。所得に対し美容にかける比率が高くタイでバズればアジアでバズるとも言われます。そのため厳しい審美眼に挑むべく、準備を重ねました」

スタート当初は苦戦したが、試供品を配布したところ美容マニアに響いた。「ビタミン処方」「皮膚科医監修」「メイド・イン・ジャパン」も後押しして売上は10倍以上に。タイでバズって海外本格展開か、そんな構図が見えたとき、舞い込んだのはCi FLAVORS株式会社の傘下に入るというニュースだった。Lキャタルトン・アジア(LVMHモエヘネシー・ルイ ヴィトンおよびグループ・アルノーと戦略的提携関係を持つ投資会社)をパートナーに持つ企業といえば、グローバルに強いイメージも湧くだろうか。聞けばM&Aの打診は今回が初めてではなかったらしい。「おかげさまで『dr365』はベストコスメ賞をいくつもいただきましたし、期間限定のポップアップストアをやれば歴代の売上を更新することもありました。でも、やっぱり私ひとりの力では限界もあって。大きな会社に所属するのであれば『自分たちだけではかなえられない地図を描ける場所』に行きたかったんです。今回、Lキャタルトンというバックグラウンドも加わり、海外戦略であったり、店舗展開の可能性であったり、より大胆なチャレンジができると心を決めました」

傘下に入ることで自身の役割が変わることはない。引き続き、代表であり、すべての製品開発やマーケティングは三上が続けていく。

清潔感はあなたの足を引っ張らない

取材中に見せてもらったスケジュールアプリは朝8時から夜まで真っ赤だった。おそらくはこの生活がしばらく続く。「テレビもずっと見てないし、丸一日休みというのは年に数日。でも、忙しさがストレスになることはないんですよ」。多忙でも肌はツルツル、髪はサラサラの三上に男性読者への美容アドバイスをお願いした。返ってきたのは「これをやらなきゃいけないということは特になくて」という意外な答えだった。「美容ってルールがないんです。『こうあるべき』みたいなものはなくて『こうなりたい』という気持ちに寄り添ってくれるもの。ただ、ひとつだけ言うなら、清潔感はあなたの足を引っ張らない。美容なんてわからない、それでもいい。ですが、清潔感だけは味方につけておくときっといいことがあると思います!」

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    プエルトリコ旅行にて。
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    タイ出張時のショット。「一人でレストランに入るのが好きなんですよ」と言う。

プロフィル
三上大進(みかみ・だいしん)
1990年、東京都出身。立教大学卒業。日本ロレアル、ロクシタンジャポンで化粧品のマーケティングに従事した後、NHKに入局し「東京2020パラリンピックレポーター」に。美容リポーター、インフルエンサーとしての活動も始める。2021年、オリジナルブランド「dr365」を立ち上げた。生まれつき左手の指が2本という左上肢機能障害がある。LGBTQの当事者でもある。著書に『ひだりポケットの三日月』(講談社)。フィンランド留学の経験があり英会話が堪能。

「アエラスタイルマガジンVOL.57 AUTUMN / WINTER 2024」より転載

Photograph: Kentaro Kase
Text: Mariko Terashima

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