錆兎さんが嘘をついた俺の両肩に手を置いて ──義勇、正直に話して欲しい… と真剣な顔で言った時、俺は錆兎さんを試すような嘘をついたことを心の底から後悔した。
ノマカプのオリジナルとAPH(ヘタリア)のギルアサ、アンアサの二次創作BL小説のサイトです。
5年間ほどPixivで書き続けていた小説を移行しつつ、毎日1P分くらいの更新を続けています。 ゆえに…記事の数だけは多いです(*゜―゜)b 今現在1000記事以上っ!
錆兎さんが嘘をついた俺の両肩に手を置いて ──義勇、正直に話して欲しい… と真剣な顔で言った時、俺は錆兎さんを試すような嘘をついたことを心の底から後悔した。
その日…俺は出会ってから始めて錆兎さんに嘘をついた。
俺が小学校5年生になった頃、真菰さんが30歳になった。 もちろん独身で、俺はその理由を知っている。 錆兎さんも知っていて、さらに村田さんも知っているらしい。
「すげえっ!錆兎さんがハゲ山黙らせたぜぇ!!」 4年生の運動会が終わって1週間ほど経ったある日のことだった。 錆兎さんはやると言ってやらないなんてことはない。 ちゃんとPTAで集まって先生達と全員リレーについて話し合いの席を設けたらしい。
俺が小学校5年生になった年だった。 俺と不死川君は同じクラスで、PTA会長の宇髄さんはもうお子さんが卒業していたので、錆兎さんがPTA会長になっていた。
あの日から俺と真菰さんは内緒の話もできる友達になった。 真菰さんの大好きな人と言うのは、なんと彼女と錆兎さんを引き取ってくれた大叔父さんで、俺と錆兎さんの関係にもなんだか似ている気がして、余計に仲良しに慣れた気がする。
話したっ! 錆兎さんに、俺の錆兎さんなのに不死川君が錆兎さんのことを自分の方が仲良しみたいに話すから、すごくもやもやしてて、でも不死川君がせっかく良い子になったのに、そんなことを思っちゃう自分が意地悪な子みたいで、俺がそんな子だってわかったら錆兎さんも俺のことが嫌になっちゃうんじ...
俺は一所懸命話したけど、小学1年生で、自分でもよくわかっていない気持ちについてだったから、かなりわかりにくかったと思う。
話し合いの日の次の日から、なんだか不死川君が変わった。 うん…なんというか…親切になった。
こうして翌日、学校が終わったあとに錆兎さんと不死川君がお話をすることになった。 その日は特に先生たちが必ず教室にいるようにして注意していたため、俺にも他の子にも不死川君が色々言ってくることはなく、全てが平和に和やかに進んで行って、放課後になる。
その日、家に帰ると錆兎さんはお客様と話をしていて、真菰さんが鍵を開けてくれた。 でも真菰さんもお仕事ですぐ事務所にもどってしまったので、俺は一人の部屋で考えた。
俺は自分で言うのもなんだが平和主義者だ。 喧嘩をするくらいなら少しくらいなら我慢してしまえば良いという性格である。 だから喧嘩なんて本当にしたことがなかったんだけど、そんな俺でも我慢できないことが起こったんだ。
錆兎さんがよく小学校に顔をだしてくれたおかげもあって、俺の小学生生活のスタートは順調だったと思う。 先生も優しい女の先生で、俺が錆兎さんの子どもだからか、たまに顔を合わせるとPTAの宇髄さんが頭を撫でてくれたりもした。
小学校と言うのは意外に保護者のボランティア募集が多いものらしい。 PTAはもちろんのこと、子どもに絵本を読んで聞かせる読み聞かせボランティア。 体力測定の手伝いをするボランティア。 子どもが登校する時間に車が通れないように柵で道を遮る柵だし。 子どもが校外学習に行くときに付き添い...
入学式が終わった後、俺達はいったん教室へ。 次いで今度は保護者も中に入ってくる。 さて、錆兎さんは…というと、真菰さんと並んで教室の後ろに立っているのだが、それでなくとも顔が良くてピシッとスーツを着こなしていてカッコいいのに、さらに背が高いため随分と目立っている気がした。
そうして迎えた入学式当日。 俺は錆兎さんと真菰さんに手を繋がれて小学校の門をくぐった。
「やっぱりスーツは〇okiとか〇oyamaで新調するべきか?」 で始まった錆兎さんの入学式の参列準備。
ビルに着くと俺達を下ろして村田さんが車で走り去る。 家に帰るのかな?と思ってじ~っと見送っていると、錆兎さんが
錆兎さんは 『経済の神様に愛された男』 なのだと真菰さんが言っていた。 それは真菰さんだけじゃなく、その業界でもかなり有名なことらしい。
「…もう錆兎、ほんっとに突然なんだから。 巻き込まれてあげるのはあげるけど、そもそもあんた本当に子どもなんて育てられるの?」
俺と錆兎さんの出会いは15年前。 決してめでたい場ではないどころか、なんと俺の両親の葬式の場だった。
育った子どもの姿は育てた人の子育ての通信簿…らしい。 つまり…22歳を迎えて学生時代を終了し、来月からは新社会人になる俺の今の姿は、俺を6歳から育ててくれた錆兎さんの子育て通信簿というわけだ。 なのでこれから少し錆兎さんの子育てについて振り返ってみたいと思う。
1_プロローグ_16年の通信簿
「着替えはどうされますか? 手伝いが必要なら俺がお手伝いさせて頂きますし、ご自身での方が良いということなら俺は退室しておきます」 と言われて、義勇は自分で…と答える。
そうして着いた部屋。 海に面した側は広い窓があって光いっぱいで、綺麗な青い絨毯が敷き詰められた廊下に並んだドアの中の一つの前で少年は止まった。 これもやはり友好国の王から頼まれた客人という位置づけのせいなのだろうか。 ドアを開けて入ったのは、義勇が見たこともないくらい綺麗で素敵な...
水の国はその名に違わず大海に面して建っていて、庭に面した渡り廊下を歩けば風に乗ってわずかに潮の香りが漂ってくる。
どうしてもこのままこの国に…もっと言うなら、水の国の王のもとに居たい…。 それは姉が亡くなって以来、全てを諦めて居た義勇が初めて人生に見出した希望だった。 しかしそれを願い出ようにも城に着くなり王はどこかへ行ってしまった。
「ここが…水の国のお城……」 結局あれから一日弱。 義勇を乗せた馬が辿りついたのは、自国、森の国の城とは大きさも堅固さも全く違う、見た事もないほど荘厳な城だった。
こうして回収して数時間。 途中馬を乗り換えてもまだ少年は気を失ったまま。 (色々疲れたんだろうなぁ……) と、錆兎はため息をついた。
細い、小さい、なんだか柔らかくてフワフワしている。 それが錆兎が腕の中の少年に対して今現在感じている感想だ。
悪漢に攫われかけてた少年をギリギリのところで助けた。 さすが俺…… と、思ったのも束の間、自分の正体がばれたら気を失われた。
ことり…と頭を預けている先は快適とは言えない。 ふんわりとした物に包まれている感覚はあるものの、包んだ先にあるものはゴツゴツと固い。 なのに…それを差し置いてもどこか心地良い。 抱きこまれた身体をしっかりと支える腕。 身体の下にあるものは酷く揺れて不安定な感覚を否めない状況なのに...
──じゃあ、行くぞ。 一応、立場としては賊からの保護というものではあるのだが、では嵐の国の人間が来たなら引き渡すかというと、それも悩むところである。
こうして錆兎は少年を拾った……というか、救出した。 15人ほどの一般兵など水獅子王の敵ではない。 あっという間に全員地面の上に転がして、残酷なシーンを見せるのも…と、そっと少年の視界を塞ぐためにかけていた自分のマントをその小さな頭から取り去ると、ガラス玉のようにまん丸く澄んだブル...
遠くから聞こえる足音。 息をひそめて気配を消して錆兎はそれが十分な距離まで近づいてくるのをジッと待つ。 普通にしていれば立っているだけでも圧倒的な存在感を持つ男と言われるが、何も気配を消せないわけじゃない。 爪を隠せない獣なんてただの愚か者だ。 能ある鷹ほど上手に爪は隠すものである。
通常なら王自ら動くなどとんでもないことだが、水や炎の国では王自身が国一番の猛者で、先陣を切って兵を鼓舞するなども珍しい事ではない。
縁もゆかりもない小国の子どもだったとしても、危険な目に遭うのがわかっていて放置は確かに寝覚めが悪い。
──錆兎、君に相談したいことがある… それはとある日の午後のことだった。 水の国の王である錆兎を訪ねて来た炎の国の王の杏寿郎は開口一番そう言った。
――俺の領地で無体を働くとは、覚悟あってのことだろうな? 全てを運命に任せる事にして身を固くしたまま不快感に耐え続け、一体どのくらいの時が過ぎたのだろうか… どんよりと全てが薄暗い中、それは強い光のような眩しさを持って目に耳に飛び込んできた。
こうして13歳の春…なんとか回避できないかと思いつつもどうすることも出来ないまま、約束通り嵐の国へと送られる事が決まり、それまで見た事も触れた事もないような上等の絹の長衣を着せられて、まるでおとぎ話に出てくるような繊細で美しいレースのヴェールをかぶせられ、初めて馬車に乗って王宮の...
それはちょうど4つの国の境界線のあたりだった。 国から付き添ってきた従者達はとっくに逃げ出してしまった馬車の中、義勇はなるべく身を低くして、息を殺してあたりの気配を探っていた。
1_プロローグ
──もちろん断ったよね?! と詰め寄ってきたのは義勇ではなく百舞子の方だ。 もちろん、百舞子がそういう意味で錆兎に気があるわけではない。 ただ推しを任せるのに選んだ相手に勝手にその役を降りられても困るだけである。 ということで、そこに当事者の恥じらいや戸惑いが無い分、非常に前のめ...
──義勇君、キャンディどう? 一方で待たされ組の3人が陣取る教室の片隅。 しょぼんと肩を落とす義勇に当然のごとく気づいた百舞子が差し出す、普段なら義勇が大好きなお菓子にも、義勇は悲し気に首を横に振ってため息を零す。
本当は突然クラスLineのため交換したLineに個人的に学校外で会いたいと連絡が来たのだが、学校外は無理と断った。 異性と二人きりと言うのは色々怖いし、何かあった時の場合に…と、指定した図書室の片隅。
こうして錆兎と義勇の…というか、それにしがみつく百舞子と引きずられる村田の4人の進路はほぼ決定した。
錆兎と義勇が通っている産屋敷学園は産屋敷大学の付属校である。 とはいっても全員が希望の学部に上がれるわけではない。 学部によって取ってくれる人数は決まっている。
──善行も悪行も天はみているのだと思うぞ 結局その日はさすがに焼肉は中止になったと言うか…不死川を逮捕した警察から事情を聞きたいと同行を求められたので、警察で事情を話したあとにそのまま解散となった。 そして後日…改めて錆兎と義勇の住むマンションで焼肉会を開いている。 鉄板の半分の...
杏寿郎はすでに義勇をガードする体制に入っているし、村田は心得たように脳筋コンビの荷物を預かっている。 しかし彼らの予測とは違って、標的はなんと宇髄だったらしい。
宇髄自身、これで実弥に関してはきっちり心の整理が出来た気がした。 それもこれも、自身がおそらく多大なストレスを感じるであろうと予想していて、それでも宇髄に対する誠意を示そうと、先に膨大な糖分を摂ることでメンタルを保ってまでも話をしてくれた錆兎のおかげである。
「でもよ、どうせなら一点だけ聞きてえ。 どうせ遠ざけるつもりなら、なんで口止めしたんだよ。 あの時、暴露してりゃあもっとさっさといなくなっただろ?」 そう尋ねたことに対する錆兎の答えは驚くべきものだった。
それから錆兎が話したことは、横領した同僚の逮捕の裏にそんなことがあったのかという多少の驚きがあったものの、おおかたは予想していた範囲のことだった。
──話があると言うのは不死川の事だろう? と始める錆兎。
──お前さ、この店のチョイスなに? 宇髄的には非常に沈んだ気分だったので店のチョイスは錆兎に任せたのだが、連れて行かれたのはどう見ても大の男二人で入るには少々不似合いな、可愛らしい雰囲気のレストランだった。
社員旅行から3か月が経ち、厳しかった残暑がようやくなくなったかと思えば、一気に冬の寒さが襲ってきた11月のとある日のことである。
「とりあえずそういうことで、先に受け入れやすい形で説明をして脳内に残したところで、いったん全てを終わらせて、義勇と宇髄はここで無関係な善意の第三者の立場にしておく。 加害者の排除のために感情的になって、被害者の保護を怠るのは下策中の下策だ。 加害者の排除は必要だが、それよりも優先...
──人と言うのは恐怖より不安の方に耐えられないらしいぞ。 今日の相方は上機嫌だ。 いや今日は…というより、今語っていることが彼にとって楽しい事なのだろう。
──あの時の君の対応は甘いと思っていたのだが、今の状況を見ると正しかったんだな… あの社員旅行から数か月後、高校の同窓会の帰りに錆兎と杏寿郎、村田は少し飲み直している。
「イジメとかってさ…恨みの地雷を埋めまくってるようなものなんだよね…。 踏まない可能性もあるけどさ…いつどこで爆発するかわからない…。 普通に一歩踏み出しただけのつもりが大爆発で大怪我したり…最悪命を落としたりね…。 そう…その危険は自分が死ぬまで…どころか、下手をすると死んでも...
──不死川、お疲れさん。隣いい? ずっと抱えて来たものがすっかりなくなって、半ば脱力して新宿行きの列車の座席に座っていた不死川は、聞き覚えのある声に顔をあげた。 その目の前にはさらさらの髪以外は何も特徴と言える特徴のない、しかし人の好さそうな男。 「あ~、村田かぁ。お前、鱗滝や煉...
「とりあえず…あの時とは状況が違うし、俺達がまず優先すべきは義勇の平穏な日常だ。 俺は付き合うと決めたからには何を置いても義勇を優先して守るし、必要なら ”非常識な力” を使うことも厭わないが、今はその時ではない。 むしろそんなものを振りかざせる人間がバックについていると広まった...
「おかえり!錆兎っ!」 と、3人それぞれが戻ってきた錆兎を迎える。 義勇は嬉しそうに…杏寿郎はどこか難しい顔で…そして村田は心底ほっとした表情で。 「ただいま、義勇。 不安になるような事をさせて申し訳なかったな。 だがもう大丈夫だ。 不死川もきっちり色々理解して反省して、今後迷惑...
そこからは二人して幼少期から学生、そして社会人になってからの錆兎の話を聞かせてくれる。 初恋泥棒と言われた幼少期。
そんな話をしていると、意外に早く村田がやってきた。 そして部屋へ入るなり苦笑。
「君は暴力を振るってきた相手が何事もなかったように処罰もされなくても気にならないのか?」
──うるさく暴れるようなら村田を呼んでくれ …と言うのは、社交辞令でも何かの比喩でもなかったようだ。 廊下に出るなり杏寿郎はドデカイ声で ──皆、加害者に甘すぎるっ!! と叫ぶ。
「まあ落ち着いて話をしよう。 というわけで…良い茶菓子を持ってきた」 と、勝手にお茶を煎れながら錆兎は懐紙の上にコロコロと丸いキャンディのような包みを転がして、
いきなり飛んでくる拳。 準備もなく避ける余裕もない。
冷静に冷静に…そう頭の中でお題目のように唱えながら、実弥は深呼吸を繰り返す。 しかしながら、それは義勇の目には奇異に映ったようで、余計に警戒の色が強くなった。 「別に殴らねえから、そんなに警戒すんな。 今回は…ちっと伝えたかっただけだァ」
そうして待つ事十数分。 長いようでもあり短いようでもあるその時間を部屋で過ごして、実弥は部屋を出て再度宴会場の外まで足を運んだ。
今日、絶対に決めるっ!! 実弥はそう決意して、夕食を摂る宴会場へと足を踏み入れた。
──宇髄…頼みがある。一生の頼みだっ! 錆兎達の部屋を出て宇髄が不死川達の部屋まで不死川を迎えに行くと、思いつめた顔で出て来た不死川はいきなりその場で土下座してきた。
一人きりになった旅館の部屋で、実弥はグルグルとまとまらない思考に没頭している。 ほんの半日くらいまではこんなことになるとは思ってはいなかった。 義勇に避けられている自覚はあったものの、二人きりになって自分に悪意はなく、義勇の事が好きで今後殴らないと言えば、普通に付き合えるのだと疑...
とりあえず義勇にどう話すかは一度考えてみると言う不死川を部屋に残して、宇髄は錆兎と共に不死川の部屋を出た。
もう何がなんだか宇髄にもわからない。 義勇と恋人同士になったはずの錆兎が、不死川が義勇とつきあえるわずかな可能性というやつを教えてやると相変わらず淡々とした口調で言うのである。
──…ふっ…ふざんけんなァ!!何横からかっさらってんだよっ!卑怯もんがァ!!
「義勇と実際にやりとりをする前にいくつか確認事項がある。 何度も悪いな」 と、部屋に入るなり錆兎が言う。
錆兎が居れば不死川が居ても許容できる… 義勇の答えは簡単に言えばそういうことだ。 それは錆兎にしてみたら悪い答えではないはずなのだが、錆兎は困った顔を宇髄に向けた。
とりあえずまずは不死川に悪意がなかったことの説明から。 先に宇髄が話す。 不死川が義勇を追い回すのは悪意からではなく、実は仲良くなりたいと思っているからなのだ。 義勇に自分が義勇を嫌っていると誤解されていること、その誤解がなかなか解けないことにイライラしてああいう態度になってしま...
こうして3人きりになったところで、 「お茶をいれなおすな」 と、錆兎が新たにお茶と菓子の準備を始めた。
「そういうわけでな、俺も義勇の代わりは居ないと自覚したところで、それを伝えようと思ったわけなんだが、そこでおそらく他にも好意を持っているであろう人間が居ることを知っていて伝えないのはフェアじゃないと思ったんだ」 と、照れも戸惑いもなく淡々と言う錆兎。
はあぁあ??待てっ!やめてくれえっ!! あまりの展開に宇髄は今度こそ絶叫した。 確かに何もなくとも不死川の想いを叶えるのは難しいとは思うが、こんな社内でも一位二位を争う人気者がライバルになんてなったら、もう100%無理だろう。
──待っている間に伝えておくことがある。 不死川が出て行って義勇、煉獄と順に電話をして事情を話して指示を伝えて通話を終えたあと、錆兎は半分ほど減った宇髄の茶を注ぎ足しながら、そう切り出した。
こいつぁ、まずい展開になってきた…と、宇髄は冷や汗をかく。 最終的に義勇の側に判断をゆだねると言うのは仕方ないにしても、その過程で不死川にどれだけ弁明の余地を与えられるのか…それとも全く与えられないのか。
思いもかけず手厳しかった煉獄とのやりとりのあと、こちらは思いもかけず穏やかに始まった錆兎との話し合い。
…あ~、これは無理だな と、宇髄は早々に煉獄との交渉を見切った。
──わざわざ時間取ってもらって悪いな。 話し合いは当事者が占有できる部屋で…ということで、不死川と煉獄の部屋ですることになっている。 しかし二人きりにした時に下手をうたれるともう自分でもどうしようもないと、宇髄はそれまでの時間、自室に不死川を待機させ、二人で16時に不死川と煉獄の...
社員旅行…それを題材にしたドラマとかはたまに見かけるが、自分がその主人公になるなんて思ってもみなかった。 でも今回の社員旅行は義勇にとってはすごいドラマ以外の何ものでもない。
あまり色々なものに執着をする性質ではないが、その分欲しいと思ったものは絶対に手に入れたい。 その最たるものが目の前にあるのだから、手を伸ばすのは錆兎としては当たり前のことだ。 ただし…その後、色々揉めないために、先手は打っておくことにする。
──俺に他意があることは少なくとも宇髄にはバレたな と、杏寿郎からのメッセ。
「わかったっ!ここだろ、ここっ!諏訪湖畔にある蕎麦屋!」 宇髄がとりあえず街の方へ向かうべくハンドルを握っている中、ひたすらにスマホで検索していた不死川は『諏訪湖付近の美味しい蕎麦屋20選』を検索して、それらしき蕎麦屋を見つけると、宇髄にスマホの画面を突きつけた。
初日から邪魔が入りまくったが、やっと…やっとチャンスが巡ってきた! 今度こそ暴言を吐かない、暴力を振るわない、義勇と仲良くやっていきたいのだという意思表示をする!
──こらえろっ、実弥っ!! その日の朝食の時間のストレスはすごかった。 なにしろそれまではボッチだからと安心していた想い人が、思いがけず社内でも有数の人気者の男と同室になって、その友人達に囲まれて楽し気にしているのである。
錆兎と一緒に朝食の並んだ広間に入った時、義勇達を見て駆け寄ってきたのは不死川ではなく、杏寿郎ともう一人の同期だった。
──おはよう、義勇。いい朝だぞっ 社員旅行2日目の朝。 そう声をかけてくるのは朝の日の光を背にしたイケメンで、目を覚まして最初に見るものがこんなに素晴らしい光景であるということは確かに良い朝だ、と、義勇は思った。
「不死川っ、すまんっ!実は明日は錆兎の車で出かける約束をしているっ! 君を一人にしてしまうことになるっ」
義勇が錆兎に連れて行かれたのは下諏訪駅前の小さな割烹だった。 下諏訪の駅前駐車場に車を停めて徒歩1分だが、確かに地元民でなければわざわざここ!と入ろうと思わないであろう小さな店。
なんとか煉獄を巻いて錆兎と義勇の部屋に辿り着けばもぬけの殻。 電話をしてみれば錆兎の忘れ物を取りに街に戻っているということで、おそらく行き帰りで3時間ほどは戻ってこれないだろう。
行きはタクシーで登って来た道を、今は義勇は会社一の人気者のイケメンの車で下っていた。 運転する横顔は本当にカッコよくて、義勇が沈黙に気まずくなるような暇もないくらい色々な話をしてくれて、時折り義勇にも答えやすいような話題をふってくれる。
──宇髄、かくまえっ!! 部屋割りが決まってそれぞれ荷物を持って部屋に落ち着いたところで、宇髄は同室になった同僚が大浴場に行ってくるというのを見送って、今後について考えを巡らせていた。
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錆兎さんが嘘をついた俺の両肩に手を置いて ──義勇、正直に話して欲しい… と真剣な顔で言った時、俺は錆兎さんを試すような嘘をついたことを心の底から後悔した。
その日…俺は出会ってから始めて錆兎さんに嘘をついた。
俺が小学校5年生になった頃、真菰さんが30歳になった。 もちろん独身で、俺はその理由を知っている。 錆兎さんも知っていて、さらに村田さんも知っているらしい。
「すげえっ!錆兎さんがハゲ山黙らせたぜぇ!!」 4年生の運動会が終わって1週間ほど経ったある日のことだった。 錆兎さんはやると言ってやらないなんてことはない。 ちゃんとPTAで集まって先生達と全員リレーについて話し合いの席を設けたらしい。
俺が小学校5年生になった年だった。 俺と不死川君は同じクラスで、PTA会長の宇髄さんはもうお子さんが卒業していたので、錆兎さんがPTA会長になっていた。
あの日から俺と真菰さんは内緒の話もできる友達になった。 真菰さんの大好きな人と言うのは、なんと彼女と錆兎さんを引き取ってくれた大叔父さんで、俺と錆兎さんの関係にもなんだか似ている気がして、余計に仲良しに慣れた気がする。
話したっ! 錆兎さんに、俺の錆兎さんなのに不死川君が錆兎さんのことを自分の方が仲良しみたいに話すから、すごくもやもやしてて、でも不死川君がせっかく良い子になったのに、そんなことを思っちゃう自分が意地悪な子みたいで、俺がそんな子だってわかったら錆兎さんも俺のことが嫌になっちゃうんじ...
俺は一所懸命話したけど、小学1年生で、自分でもよくわかっていない気持ちについてだったから、かなりわかりにくかったと思う。
話し合いの日の次の日から、なんだか不死川君が変わった。 うん…なんというか…親切になった。
こうして翌日、学校が終わったあとに錆兎さんと不死川君がお話をすることになった。 その日は特に先生たちが必ず教室にいるようにして注意していたため、俺にも他の子にも不死川君が色々言ってくることはなく、全てが平和に和やかに進んで行って、放課後になる。
その日、家に帰ると錆兎さんはお客様と話をしていて、真菰さんが鍵を開けてくれた。 でも真菰さんもお仕事ですぐ事務所にもどってしまったので、俺は一人の部屋で考えた。
俺は自分で言うのもなんだが平和主義者だ。 喧嘩をするくらいなら少しくらいなら我慢してしまえば良いという性格である。 だから喧嘩なんて本当にしたことがなかったんだけど、そんな俺でも我慢できないことが起こったんだ。
錆兎さんがよく小学校に顔をだしてくれたおかげもあって、俺の小学生生活のスタートは順調だったと思う。 先生も優しい女の先生で、俺が錆兎さんの子どもだからか、たまに顔を合わせるとPTAの宇髄さんが頭を撫でてくれたりもした。
小学校と言うのは意外に保護者のボランティア募集が多いものらしい。 PTAはもちろんのこと、子どもに絵本を読んで聞かせる読み聞かせボランティア。 体力測定の手伝いをするボランティア。 子どもが登校する時間に車が通れないように柵で道を遮る柵だし。 子どもが校外学習に行くときに付き添い...
入学式が終わった後、俺達はいったん教室へ。 次いで今度は保護者も中に入ってくる。 さて、錆兎さんは…というと、真菰さんと並んで教室の後ろに立っているのだが、それでなくとも顔が良くてピシッとスーツを着こなしていてカッコいいのに、さらに背が高いため随分と目立っている気がした。
そうして迎えた入学式当日。 俺は錆兎さんと真菰さんに手を繋がれて小学校の門をくぐった。
「やっぱりスーツは〇okiとか〇oyamaで新調するべきか?」 で始まった錆兎さんの入学式の参列準備。
ビルに着くと俺達を下ろして村田さんが車で走り去る。 家に帰るのかな?と思ってじ~っと見送っていると、錆兎さんが
錆兎さんは 『経済の神様に愛された男』 なのだと真菰さんが言っていた。 それは真菰さんだけじゃなく、その業界でもかなり有名なことらしい。
「…もう錆兎、ほんっとに突然なんだから。 巻き込まれてあげるのはあげるけど、そもそもあんた本当に子どもなんて育てられるの?」
──蔦子さん、義勇君、行っちゃいますね…。寂しいですね、お互い。 蔦子に写真を申し込んで蔦子から義勇君の専属カメラマンとして抜擢されて以来、モブ子は自分で言うのもなんだが蔦子の一番気の置けない相手になっていたと思う。
こうして紹介された蔦子の年の離れた弟の義勇はもうそれはそれは愛らしい少年だった。 実はヒーラー系ジャスティスだというが、もうそんなことは関係ない。 可愛いっ!モブ子の中では可愛い事こそが正義である。
凡人(なみびと)百舞子(もぶこ)は極東ブレインの中堅部員だ。 この中堅という文字は自分にとてもよく似合っているとモブ子は思う。 良くも悪くも特出したところのない本当に中くらいの人間。 鬼殺隊に入ったのだって実家が代々鬼殺隊のブレインに所属していたからだ。
「まあ俺も実はいつのまにか…というか、気づいたら第三段階までいってたクチなんで、どうすればとかはわからん。 とりあえず…当座はいつもよりも少し厳しい状況で鍛えて鍛えて鍛えるしかないんじゃないか?」 と、最後に錆兎が自分の時のことを語ると、善逸が小さく(…でたよ、脳筋理論が…)と零...
──真菰さん、クリームなしのあんこマシマシですよね? ──うんっ!ありがと~っ!さすがしのぶちゃんっ!! しのぶは本当に卒がない。 周りの好みを細かいところまで記憶している。
そうして3人が離れていくのを確認しつつ、錆兎が ──…で、この4人以外にはオフレコの話ってことだな? と確認をとると、真菰は頷いた。
「もういいじゃない、いざとなったら錆兎が義勇ちゃんの恋人って事にしておけばっ。 それでまだ本部に慣れてない極東組はそれぞれフォロー役がつくでしょ? 錆兎が居れば極東ブレイン支部長みたいな輩も出てこないし、天元君はそういう輩は自分で追い払えるだろうから、むしろ人間関係でのごたごたは...
朝…身を起こそうとして、善逸は身動きできない事に気づく。 宇髄が自分を抱き枕のように抱えて寝ているからだ。
──俺はぜんっぜん嫌じゃねえけど錆兎は嫌かもしれねえから他には言うなよ? 宇髄の口から出たのはまずそういう言葉だった。 そしてそれまでは淡々と…あるいは楽し気にすら見えたその表情が、その言葉を口にした時に少し悲しそうに見えたのは善逸の気のせいではないだろう。
ジャスティスの…というか鬼殺隊の面々のほとんどは現在の極東支部のある小さな島国、過去に日本と呼ばれていた国の血が入っているらしい。 もちろん善逸もそうなのだが正直遠い先祖がそちらの出身だったのでは?くらいな感じで、生活習慣その他はもう本部のある大きな大陸の中心のもので、そちらの文...
「綺麗な顔だなぁ…」 朝、善逸は自分を抱き枕のように抱え込んでいる宇髄の寝顔を見上げて呟く。
道場の端っこで小声で深刻な話をしていた二人は、そこで入り口のあたりにいつのまにか人ごみができているのに気づいて顔を見合わせ苦笑した。 「こんな時間でも沸いて出るんだな」 感心したように言う錆兎に善逸は笑いながらうなづく。
──え?なんで宇髄さんまで棒術の訓練なんてしてんの? 夕食後も炭治郎に引っ張られて仕方なしに少しだけ運動器具で筋トレをすませたあとこっそりと訓練室を抜け出した善逸は、ふと通りかかった道場で一人で棒を振る宇髄の姿を目にして靴を脱いで板の間にあがった。
「おかえりなさい、3人とも。無事で何より」 カナエはいつもの笑顔で錆兎から報告書を受け取って言う。 「姉さん、宇髄さんの攻撃、本当にすごかったわ」 真っ先にしのぶが姉妹の気楽さで勢い込んで言うが、カナエはしのぶを軽く制して報告書に目を通し、 「まあ、大方は報告書でわかったけど…ち...
車が発進すると、 「でも宇髄さんの攻撃すごかったです。 善逸さんも火力では敵いませんよね、たぶん。 あんなにたくさんの敵がホントに一瞬でしたから」 と、しのぶが待ちかねたように口火を切る。
「…そろそろだな。この辺で車降りるぞ」 錆兎が車を止めてドアを開ける。 「天元…感知できるか?」 全員出ると、錆兎は宇髄に聞いた。
「久々の少人数での錆兎兄さんと一緒の戦闘…楽しみですっ」 車の中で浮かれるしのぶにため息まじりの錆兎。
3人がブレイン本部に着いた時には、全員がすでに待機中だった。 それを 「お疲れ様。これで全員集合ね」 とカナエが二人をいつもの笑顔で迎える。
そうして炭治郎に引っ張られて廊下に出た先では ──じゃ、俺は仕事戻るわ と不死川が錆兎に手を振ってフリーダム本部にもどって行くところだった。 ──ああ、じゃあまたなっ! とそれに手を振る錆兎。
──………このままじゃダメだっ!俺も鍛えないとっ!! ふわふわの衣装を着た二人の笑顔でほんわりとした空気が漂う食堂の片隅で、炭治郎は拳を握り締めて言った。 その唐突な発言に隣で食後のお茶をすすっていた善逸は ──え?なに?今の状況にそんなこと感じる何かがある?? と首をかしげる。...