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秋山気清「あの鐘を鳴らしたのはわたし」  「のど自慢」元・鐘奏者はポップス、宝塚も手がけたトッププロ

 日曜昼の風景になっている「のど自慢」。番組の冒頭は「あの鐘」の音からはじまる。アマチュアたちの歌が披露され、残念でも合格でも、あの鐘が鳴る。そう、「のど自慢」にとってあの鐘「チューブラーベル」の音は象徴でもある。そしてあの鐘を、2002年から23年まで叩(たた)いていたのは、東京芸術大学音楽学部器楽科打楽器専攻を卒業し、数々のオーケストラで活躍した秋山気清(きせい)さん。え、あの鐘、そんなトッププロが叩いていたの?というか、ひとりの人がそんなに長い間やっていたの?と驚いたが、本書で語られた半生と、「のど自慢」での演奏の難しさを知ると納得だ。

 〈鐘を叩く様子はアップで映し出され、番組タイトルのロゴがテロップで流れます。鐘を鳴らすテンポは、早歩きをする♩≒126となっていて、それより速くても遅くてもいけません。なぜなら、鐘の後に流れるオープニングの音楽が、♩≒126のテンポだからです〉

 放送がはじまって1秒後に鐘を叩き演奏がはじまる。実質指揮者が行うテンポ決めの役割まで担っていたという。

 不合格は鐘ひとつかふたつ。合格は鐘11音。たとえ鐘ふたつであっても、秋山さんが合格でいいのではと思った場合は、〈「ド」と「レ」の音の間を結構開けて、歌った人の悔しさを一緒に享受するようにしていました〉。どこか叩き方に毎回違いがあるなと思っていたらそういうことだったの!?

 オープニングとエンディングでは柔らかい音が広がっていく革製のヘッドのハンマー、金属的な音がする樹脂製のヘッドのハンマーは合否判定にと、用途に合わせたハンマーも日本全国に携行した。

 高校のときに手伝うことになった吹奏楽部で小太鼓を任されてから、打楽器に触れた秋山さん。「どうせやるならちゃんとやりたい」と顧問の先生に直談判、そこで東京芸大の小宅勇輔先生を紹介され手ほどきを受けることに。オケからポップス、宝塚歌劇団の演奏まで手掛けた現在81歳のその半世紀は、戦後日本の音楽界の歴史でもあった。=朝日新聞2024年11月2日掲載

    ◇

 音楽之友社・1980円。秋山気清氏は43年生まれ。帝国劇場オーケストラ、東京交響楽団などで打楽器奏者として活動した後、日曜昼の番組「のど自慢」で鐘奏者を21年間務めた。構成は本條強氏。

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