★★★☆☆
あらすじ
戦地・アフガニスタンから遠く離れたアメリカの基地で、無人飛行機を使って現地にミサイル攻撃する日々を送る空軍兵士。
原題は「Good Kill」。102分。
感想
実戦経験のある空軍兵士の主人公が、アメリカの安全な場所から中東のテロリストにミサイル攻撃する日々に苦悩する物語だ。無人飛行機を使って彼らの生活を監視し、対象人物が現れたら攻撃を加える様子は、まるでゲームと変わらない。失敗したところで自身に危害が及ぶわけでないところも同じだ。だがそのゲームのような簡単な作業で人を殺してしまっていることは事実で、人並みの想像力を持っている人間なら心を病んでしまうのも当然だ。
しかも、攻撃の内容がなかなかエグい。予期せぬ偶然で民間人が巻き添えになってしまうのは仕方がないにしても、数少ないチャンスを無駄にしないため、一般人も一緒に死んでしまうことが分かった上で攻撃するのはキツい。さらには一度攻撃を加えて救助のために人が集まったところで再度の攻撃や、一度攻撃を加えて犠牲者の葬儀に人が集まったところで再度の攻撃、といった非人道的なことまでしている。映画の中でも非難されていたが、これではテロリストとやっていることは何も変わらない。
それに、日中にそんな気の滅入るような攻撃をしておいて、夕方になったら家に帰って家族と和やかに暮らすのも、なかなか難しいことだろう。戦地で何か月も過ごし、生きて帰って来れるかどうか心配するよりは何倍もマシなはずだが、戦争モードとリラックスモードを短いスパンで何度も切り替えるのはかなり疲弊しそうだ。冷静に考えて、昼間に何人も殺し、夜は家族と楽しく過ごす人間なんて普通じゃない。
この映画では攻撃する側の視点から描かれているが、攻撃される側はどんな心境なのだろうか。ある日突然ミサイルが降ってきて身近な誰かが死んでしまう。敵の姿が見えるのならまだ警戒しようもあるが、見えないのだから対処のしようがない。それこそいきなり天変地異が起きるようなものだ。一般市民からすればいつ巻き込まれてもおかしくないわけで、心は落ち着かず、それこそ神にすがりたくなる気持ちだろう。
これも映画の中で言及されていたが、巻き込まれた一般市民がアメリカに憎悪を募らせるだろうことは容易に想像がつく。この攻撃自体が未来のテロリストを生む土壌になってしまっている。なんとも皮肉な話だ。
ただ、こんな攻撃をしていることをアメリカが現地で敢えて広く宣伝するのはアリかもしれない。テロリストと関わると巻き添えになる可能性があるので気を付けてください、と言っておけば、手助けする人はいなくなり、彼らを孤立させ弱体化させることができそうだ。とはいえ、自国の領土を他国に好き勝手にさせ、その宣伝までさせる国はどうなのだという話ではある。そんなのはまともな主権国家とは言えない。
主人公の様々な苦悩や葛藤が静かに描かれていく。そして無人機による攻撃に関する様々な問題が浮かび上がってくる。主人公が実戦に出たがっているのは、殺されるかもしれない恐怖が自身の攻撃を正当化できるような気がしているからなのだろう。だがもしそれで生活に一生の支障が出るような負傷をすれば、後悔して考えが変わるかもしれない。
色々と考えさせられる映画だ。要するに、相手の手の届かないところから攻撃するのは人として何か間違っているということなのかもしれない。重苦しくなりがちな雰囲気を、いい音楽と新入り役のゾーイ・クラヴィッツの清廉さが中和してくれている。
スタッフ/キャスト
監督/脚本/製作 アンドリュー・ニコル
出演 イーサン・ホーク/ジャニュアリー・ジョーンズ/ゾーイ・クラヴィッツ/ジェイク・アベル/ブルース・グリーンウッド/ピーター・コヨーテ(声)
音楽 クリストフ・ベック