シリコンバレーのアントレプレナーの間で流行っているもの、それは脱法ドラッグ。特に幻覚系のLSDやマジックマッシュルームはクリエイティビティが増すと信じられている。さらに鬱が治るとされるケタミンも人気。
最近のWall Street Journalの記事によれば、イーロンマスクはケタミン、セルゲイブリンはマジックマッシュルームを利用しており、ベンチャーキャピタルのFounders Fundは幻覚剤のあるパーティーを開催していた、とのこと。「マイクロドース」といって、微量を使い続けるという摂取の仕方もあり、どれくらいが良いレベルかを教えてくれる人もいる。超リッチの中には化学者を雇っている人もいるとのこと。
最近サンフランシスコで知人に刺殺されたCashAppファウンダーのボブ・リーも、解剖でアルコール、コカイン、ケタミンが検出され、殺した人の弁護士に「脱法ドラッグのWalgreens(ドラッグストアチェーン)」と呼ばれていた。この事件はThe Lifestyleという名称のアングラパーティーでのトラブルが原因だったらしい。
幻覚剤が広まったのは2018年に発行されたHow to Change Your Mindという本の功績でもある。マイケル・ポランは食に関する本を複数出している著名なノンフィクションライターだが、その人が筆者。LSDやマジックマッシュルームによる幻覚を経験することで鬱が治ったり、死期の近い患者が死の恐怖を克服できたケースなどが書いてある。
ここまでのケースは、日常生活に支障をきたさずにドラッグを活用している人たちの例だが、ドラッグ漬けで悲惨な死に方をした人もいる。それはZapposファウンダーのトニー・シェイ。2020年に納屋に閉じこもって鍵をかけ中で焼死したと最近出たバイオグラフィーの本に詳細に書いてある。Zapposは、2009年にAmazonに$1.2B(当時のレートで1200億円)で買収された靴のオンライン販売サイト。これは全部Amazonの株で払われた買収で、当時からAmazonの株は40-50倍になっているのでお金は「使っても使っても減らない」という状態だったかも。もともとトニー・シェイはシャイな性格で、お酒を飲むと社交的になれるということでまずはアルコール漬けになって白目が黄色くなる黄疸の症状が出始めミーティングで手が震えるという状態になったところで、アルコールの代替でケタミンを始め、発言がだんだん常軌を逸し始める。「自分は天才だから、カンフーをダウンロードすればすぐできるようになる」とか(マトリックス風)。そして最後は笑気ガス(亜酸化窒素)中毒になった。当時の写真が公開されているが「食事も睡眠もなしで生きていける」と信じこむようになったという記述の通り骨と皮である。トニー・シェイは辛口の忠告をしてくれる人たちを遠ざけ、最後は彼がお金を払っている相手しか周囲に残っていなかったというかなり悲惨な話。
以上、ストレスが多く、高い成果を期待されるアントレプレナーの間で自分に「エッジ」を出すためにドラッグを活用しているケースが多いが、一歩間違えると悲惨な中毒患者になる、というお話でした。