原題:The Penguin 監督&製作総指揮:クレイグ・ゾベル 脚本&企画&製作総指揮:ローレン・ルフラン 製作総指揮:マット・リーヴス、コリン・ファレル 原作:DC Comics 配信局:HBO(日本はU-NEXT) 製作国:アメリカ 配信開始日:2024.09/19~11/10 シリーズ:『ザ・バットマン』のスピンオフ・ドラマ。バットマン・エピック・クライム・サーガのドラマ第1作目
『THE BATMAN-ザ・バットマン-』(2022)のサブキャラのギャング、ペンギンを主人公としたスピンオフ後日譚ドラマ。
『THE BATMAN-ザ・バットマン-』(2022)自体が「画面カッコいいし悪くないが凄く良いわけでもないし上映時間があまりに長過ぎる」という感じで割とボンヤリした印象だったので、ペンギンのドラマと言われても「はぁ、まぁいつかそのうち機会があれば観るかも」という消極的な感じだったのだが「ペンギンがあまりにも無力で凄い面白い!」という評判を聞くとめちゃくちゃ観たくなった。
ジェームズ・ガンのDCU一作目『クリーチャー・コマンドーズ』(2024-2025)も始まったので2年ぶりくらいにU-NEXTに加入した。
さっそく観た第1話はやはりめちゃくちゃ面白かった。開始11分で既に『THE BATMAN-ザ・バットマン-』(2022)の全編合わせたよりも面白かった。
「おかしいな、何でこんな急に面白くなった?」と調べたら僕が大好きな映画『THE BATMAN-ザ・バットマン-』(2022)のクレイグ・ゾベル監督だとわかった。本作のことも『THE BATMAN-ザ・バットマン-』(2022)の「悪くはないが凄く良い映画も特にない」と、個人的に思ってたマット・リーヴス監督が撮ってるもんだと思い込んでました。
🐧ペンギン
アメコミ『バットマン』の最古参ヴィランの一人ペンギンは、精神異常者が多いゴッサム・ヴィランの中では正常な精神を保ってて、ハゲに中年太りでスーパーパワーや特殊武器も持っておらずパッと見、普通のギャングと大差ないので、若い頃はあまり興味なかった。
多分ペンギン史上一番目立ったのは『バットマン・リターンズ』(1992)でダニー・デビートが演じた哀れな怪物めいたバージョンだろうが、これは割と他のキャラ同様ティム・バートンのオリキャラみたいな印象が強かった。
1960年代の陽気なドラマ『怪鳥人間バットマン』(1966)……は、さすがに自分が生まれる前で古すぎて観てないがその映画版『バットマン オリジナル・ムービー』(1966)は観たよ。これらでは『ロッキー』シリーズのロッキーのトレーナー、ミッキー役の人が海外アニメから抜け出たような大袈裟な演技で良い感じだった。
Rocksteady Studiosが開発して「キャラゲーなのに面白い!」と大人気だったアーカムシリーズでは、『バットマン アーカム・シティ』(2011)ではアイスバーグ・ラウンジで、『バットマン アーカム・ビギンズ』(2013)では大型客船でペンギンとたっぷり戦うことができ、ペンギンと楽しい時間を過ごすことができた。
ブルース・ティムの海外アニメを始めとしたカートゥーンにもよく出てくるが、どれも割と普通の太ったギャングに毛が生えたようなキャラなので印象が薄い。とはいえ正に動物のペンギンみたいなルックスが味わい深くて漠然と好印象を持っている。
ドラマ『GOTHAM/ゴッサム』(2014-2019)では若くて痩せたイケメンのペンギンが出てファンの間では女性を中心に人気だったらしいが、若くて痩せてイケメンのペンギンには興味なかった。
で、本作のペンギンは先に『THE BATMAN-ザ・バットマン-』(2022)で登場。イケメンのコリン・ファレルが太ったハゲの特殊メイクをして演じた。……「最初から太った俳優を雇ってチャンスを与えたら?」と思わなくもなかったがコリン・ファレルのペンギンは普通に良かったのでまぁ良し。まだスーパーヴィラン〈ペンギン〉になる前のオッサン、オズ・コブでしかなく。ギャングの大物カーマインの部下という役割でしかなくカーマインより出番少なかったかも。本作ではそんなオズがたっぷりと活躍?してスーパーヴィラン〈ペンギン〉になるところが観れるという。
ペンギン (バットマン) - Wikipedia
ネタバレあり。
第1話の話の後の「Spoiler Alert!!」画像の後ネタバレが増えていきます。
🐧☂🎩 🐧☂🎩 🐧☂🎩 🐧☂🎩 🐧☂🎩
前作『THE BATMAN-ザ・バットマン-』(2022)
2022年、仮面の犯罪者エドワード・ナッシュトン/リドラーによってゴッサム・シティを牛耳るギャングのボス、カーマイン・ファルコーネが殺害され、防波堤が破壊されて洪水がゴッサム市民を襲うがバットマン達の活躍で沈静化された
カーマインの右腕のギャングで、ナイトクラブ〈アイスバーグ・ラウンジ〉経営者、オズワルド・“オズ”・コブ/ペンギンはゴッサムの裏社会の勢力図の混乱に乗じてゴッサム裏社会のトップを目指す意志を新たにした
2022年。『THE BATMAN-ザ・バットマン-』(2022) から1週間後。
大都市ゴッサム・シティの洪水は収まったが混乱に乗じて犯罪が大幅に増加。
裏社会のトップだったカーマイン・ファルコーネが殺害され、彼の右腕でナイトクラブ「アイスバーグ・ラウンジ」元経営者だったギャング、オズワルド・“オズ”・コブ / ペンギン(演:コリン・ファレル)は再起に燃えていた。
しかしカーマインの息子アルベルト・ファルコーネ(演:マイケル・ゼゲン)に侮辱され、はずみで銃殺してしまう。
その直後、オズは自分の車を盗もうとしていたホームレス少年ビクター・アギラー(演:レンジー・フェリーズ)にアルベルトの死体遺棄を手伝わせ自分のサイドキック(弟子)にする。ヴィックは庶民の町クラウン・ポイントに住んでいたがリドラーの起こした洪水で家族と家を喪った。
アルベルトの姉ソフィア・ファルコーネ(演:クリスティン・ミリオティ)は七人の女性を殺害したサイコパス連続殺人鬼〈ハングマン〉として入れられていた精神病院〈アーカム・アサイラム〉から退院したばかり。弟の仇を討つため犯人を探す。
果たしてオズはソフィアに殺されずゴッサムの犯罪王になることができるのか?
そんな話。
特に特殊能力や装備も持たない小悪党”ペンギン”ことオズ・コブが成り上がり、バットマンの最古参メジャーなスーパーヴィランの一人”ペンギン”になるまでの話。
『THE BATMAN-ザ・バットマン-』(2022)は「まぁまぁ面白い」程度の感想だったので「あれに出てきた只のヤクザでしかないペンギンの単独作とか大丈夫か?」という懸念はあったが実際に観たら全DC映画やドラマを合わせてもトップ5くらいに入る面白い作品だったので、わかんないものですね。「『THE BATMAN-ザ・バットマン-』(2022)とスピンオフ・ドラマである本作」の関係は、まぁまぁ面白かった『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』(2021)よりスピンオフ・ドラマの『ピースメイカー』〈シーズン1〉(2022)の方が遥かに面白い傑作だったのと似ている。ただし前者はどちらもジェームズ・ガンと監督が同じだが、本作はザバとは監督が違うという違いはある。DC作品は、くそったれワーナーが目立つ映画作品に最も介入してきてドラマやアニメは放ったらかし……だからドラマやアニメに良作が多いのかもしれない。
第1話冒頭。閉鎖された〈アイスバーグ・ラウンジ〉。主人公オズワルド・“オズ”・コブ / ペンギン(演:コリン・ファレル)が責任者を務めていた施設の一つ。誰もいないアイスバーグ・ラウンジのオフィスで青年と話すオズ。
オズはボスだったカーマインが殺されてしまったため、カーマインのアルベルト・ファルコーネ(演:マイケル・ゼゲン)に取り入る。アルベルトは切れ者カーマインと違ってバカ息子だが長男なので次期ボスになる可能性はある。
オズはアルベルトに「幼い頃、地元で皆に慕われてたので死んだら町民がパレードして哀しんだギャング・レックス」の話をしたらアルベルトに「俺にそんな負け犬になれってのか?お前そんなのに憧れてるのか」と嘲笑され、幼い頃の憧れの地元ヒーローと自分の夢を侮辱された事にカッとなったオズは瞬間的にアルベルトを射殺してしまった。「やっちまった……」ここでタイトル。『THE BATMAN-ザ・バットマン-』(2022)のアバンと比べても一気に惹き込まれる冒頭。
ちなみに彼の異名「ペンギン」だが現時点では、片足が不自由でヒョコヒョコ歩き肥満体な彼をバカにして呼ぶ渾名であるためオズはそう名乗らないしペンギンと言われることを好ましく思っていない。
オズは誰にも見られぬうちにアルベルトの死体を遺棄しようとするが、パープルの愛車のホイールを盗もうとする貧困少年を銃で脅し、遺棄を手伝わせる。
このホイール泥棒はホームレス少年ビクター・アギラー(演:レンジー・フェリーズ)。彼、ビクターは本作でオズのサイドキック(助手)となる。ここでバットマン好きな人はピンと来るが「盗品を売って路上生活をしており、バットモービルのタイヤを盗んでバットマンと知り合ってバットマンのサイドキック、二代目ロビンとなる少年ジェイソン・トッド」という「バットマンと二代目ロビン」のエピソードを匂わせている。だもんで「ビクターはペンギンの悪のサイドキックになるのか?それとも戦死して『愛など要らぬ!』と慟哭したオズがスーパーヴィラン”ペンギン”と化してしまうのか?それともビクターはオズと袂をわかってヒーローになるのか?」どうなるか分からない。ビクターの変化と、彼とオズの関係は本作の見どころの大きな柱の一つ。
オズはビクターにアルベルトの死体遺棄を手伝わせて、普通なら秘密を知った撮るに足らぬガキを殺すところだが、気まぐれなのか殺すのはやめて朝日の中並んで一緒にハンバーガーを食べる。非常に良いシーン。2人は良いスタートを切った。
『THE BATMAN-ザ・バットマン-』(2022)にてゴッサムの裏社会を支配していた犯罪王カーマイン・ファルコーネは、リドラーに射殺された。そしてリドラーが起こした洪水によってファルコーネ一家が捌いていたドラッグ”ドロップ”の多くがダメになってしまう。ペンギンはドロップ製造工場の責任者だったのだが、カーマインの甥でファルコーネ家の参謀を務めているジョニー・ヴィティ(演:マイケル・ケリー)から工場の閉鎖を告げられる。ペンギンはこれで『THE BATMAN-ザ・バットマン-』(2022)で閉鎖された〈アイスバーグラウンジ〉経営者、ドロップ製造工場の責任者どちらでもなくなってしまいピンチ。
そこにソフィア・ファルコーネ(演:クリスティン・ミリオティ)が精神病院〈アーカム・アサイラム〉から退院してファルコーネ家に戻って来る。
ソフィアは、故カーマインの娘、オズが殺したばかりのアルベルトの姉。女性7人を殺してアーカムに入れられ〈ハングマン(首吊人)の異名で恐れられている。
ソフィアは弟アルベルトを愛しており、行方不明になった彼を探して明らかにオズを疑っておりオズを追求する。オズは恋人の売春婦イブ・カーロ(演:カルメン・イジョゴ)にアリバイを作ってもらったり色々がんばってたのだが、オズを犯人だと確信したソフィアに拉致&拷問される。
しかし予め計画してた偽装工作をビクターが実行し一旦疑いは晴れる。アルベルトの死体を目前にしたソフィアは怒りの炎をより一層燃え上がらせる。
……という第1話は、面白いだけでなく引き延ばせば第1話だけでそのまま面白いギャング映画になるくらい単独で起承転結がハッキリしている。そして魅力的な新キャラ・ソフィアやビクターも出てくるし主人公ペンギンことオズの今後や先の展開への期待も高まる、近年稀に見る完璧な第1話だった。
以降、結末を含むネタバレが増えていくのでここまで読んで観たくなった人は読まずにU-NEXT入って観てください。入会後一ヶ月無料なんで。
以降、
愛する母フランシス・コブ(演:ディードル・オコンネル)に認められたり、ゴッサムで成り上がりたいオズ。
オズの下で「これでいいのか」と揺れながら変化していく好青年ビクター。
弟の仇、過去の親族への恨みなど私怨を晴らしたいソフィア。
この三人を中心に、周囲の人間を巻き込みつつ物語は最終話に収束していく。
当然のことながら割と早い段階で「アルベルト殺しの犯人はペンギン」だとバレるので「ペンギン vs.ソフィア」これが本作の大きな対決となる。
……というか全部おもろいので第1話の感じで書いていくと全話くまなく書くことになってしまうので、この三人を中心に特に良かったポイントだけ書いておく。
まずビクター。彼の実家はゴッサムの貧困地域〈クラウン・ポイント〉。
クラウン・ポイントは『THE BATMAN-ザ・バットマン-』(2022)で〈リドラーが行こした津波〉によって大勢の人が死んだ。ビクターは友達と屋上で遊んでいて助かった。彼の家族はアパートの3階くらいに住んでいたのだが余裕で津波に飲み込まれてしまいエグい。貧困地区はただ貧乏人が多く住んでいるというだけの場所ではない。地理自体良くない。洪水が起これば水が流れこみ地震が起きれば真っ先に崩れる。そういうものだ。ちなみに僕自身は20代の頃、大阪のよくない地域に住んでたら虫ばっかで嫌だったが今は、僕自身は貧乏だが割と裕福な人が住む地域のアパートに住んでいるが、あらゆる面で安全なので「やっぱ(自分以外の)金持ちは住む場所からして有利な地域に住んでるものなんだな」と知らなかったことを知った。
それにしても『THE BATMAN-ザ・バットマン-』(2022)でリドラーが洪水を起こしたのは「弱き者のために悪をなして平然と暮らしている上級国民を罰する」みたいな感じだったと思うが、リドラーが最も弱き者を苦しめていた事がわかるのがエグい。まぁリドラーは自分が正義だと思い込んでるだけの只のキチガイですからね……。
ちなみにオズと母フランシスが貧乏な頃に住んでいたのもクラウン・ポイント。
ビクターの父は夢や出世などに全く興味ない整備士だった、ビクターはそんな父を愛していたが自分もそんな感じでいいのだろうか?野望を持った方がいいのではないかと考えている。これは「ペンギンが幼い頃に憧れていた市民に慕われていたギャングのレックス」との関係を思い起こさせる。
第3話でビクターは、洪水以来会ってなかったっぽいガールフレンドと再会し「一緒にゴッサムから逃げて新しい生活を始めよう」と言われる。愛する彼女と逃げれば危険もなく幸せだ。しかし今は死への危険こそあるがペンギンのもとで小金も手にしたし成り上がる野望も持てた。だが今、街を出れば再び学歴も金も家もない青年に戻ってしまう。迷っているがオズは意外な事に「お前は向いてない。別に狙ったりしないから行けよ」と送り出される。バス停まで行くものの引き返して来て、ファルコーネ家に次ぐナンバー2のギャング、マローニ家に捕まって大ピンチだったオズを救出。オズは「戻ってくると思ってたぜ!しかも車で突っ込んでくるなんて……お前は度胸があるぅ!」と絶叫。心底嬉しそうで観てても嬉しくなった。ビクターはこの後も何度もオズを救い2人はどんどんと堅い絆で結ばれていく……。
またビクターは、優しくて小心者で小動物のような雰囲気なのだが、このように土壇場になると咄嗟に覚悟を決めてブッ殺したりとかよくするし、台詞にはしないのでわかりにくいが常に損得を考えて自分の野望に舵を切ってるようにようにしか見えず、その優しい物腰とは裏腹に、そこまで良い子ではない感じがするしギャングに向いている。
元連続殺人鬼〈ハングマン〉として恐れられていたソフィア・ファルコーネ(演:クリスティン・ミリオティ)だったが実はなんと一人も殺していなかった事が第4話の回想でわかる。
遊んでばかりだった弟アルベルトと違い、賢かった若ソフィアはファルコーネの表家業で働いていた(慈善事業とかそういうの)。カーマイン・ファルコーネ(演:マーク・ストロング)はアホのアルベルトではなくソフィアを後継者にすると言っていた。
ある日、ジャーナリストに「カーマインの周囲で女性が次々と死んでいて、共通した特徴がある」と教えられる。最初は無視していたソフィアだったが首を吊って自殺した母にもその特徴があり「父が母を殺した」ことを確信し、父カーマインを問いただす。最初は「そんなバカな」と言っていたカーマインだったがソフィアが母殺しの証拠を見たことを告げると、カーマインの顔からサ……と温度がなくなる。父娘とか愛情とかそういうもののスイッチをOFFにした顔だ。見たことある。ソフィアは父の一番のお気に入りが自分であること、そして何より恵まれた生まれであるためか見通しが甘かった。
その夜、ソフィアは警官に止められ、7人の女性を殺した架空の殺人鬼”ハングマン”として精神病院アーカム・アサイラムに入れられてしまう。
一旦入れられてしまうと、警官やアーカムは全て父の手が回っているため、裁判を受けるなどの権利や人間としての尊厳はなく精神異常者や看守に酷い扱いを受けながら、ただただ「自分がハングマン」と自白するまで通電される10年間を過ごした。
……という圧巻の第4話。
ドラマって大抵、第4話に衝撃的な話を入れてくるよね。第1話、第4話、あと最後の2話、この辺に力を入れてくる。
他の登場人物同様にソフィアが殺人鬼ハングマンだと思って観てたら無実だった。
カーマインはアーカムで締め上げてソフィアを骨抜きに、あるいは永遠に閉じ込めておくつもりだったのだが結果的にソフィアはサバイブして娑婆に出てきた。
ソフィアをアーカムに送り込んだ親族たちは相変わらず冷たい目で見てくるし、アーカムを生き抜いたソフィアを今度はイタリアで隠居させて厄介払いしようとしている。
ここまでは「あれだけ酷い目に遭ったのに娑婆に出ても親族に対して割と冷静だな」とか思ってたら、一夜のうちにファルコーネ家全員皆殺しにしてしまった。こう来なくちゃ。
そして割と正義感もある常識的な女性だったソフィアだったが……まぁゴッサムを支配してる裏社会の帝王の娘なので厳密に言うと父に守られた手のひらの上での正義感だったわけだが、そんな自覚もなかったソフィアだったが、真の悪である父カーマイン、そして蠱毒のようなアーカムによって本物の怪物に変えられてしまった。父が作った「架空の殺人鬼ハングマン」に本当になってしまった。
しかしソフィアは親戚に一人居た少女だけは殺すことができず助ける。少女はソフィアがやったと気づいている。ソフィアは少女を見て「母を殺した父を見る自分と同じ」だと気づき絶望する。
優しい母を殺した父、無実の自分をアーカムに追いやった父の周りの奴らが許せない。殺す!しかし殺せば殺すほどどんどん一番憎んでいる父に似ていくというジレンマにやがて苦しんでいく。
それはそうと父にチクって自分をアーカムにぶち込んで成り上がった自分の運転手だったペンギンの奴だけは許さん!と、気を取り直して標的をオズに絞るソフィア。
こうしてゴッサムを長年支配したファルコーネ家は獅子身中の虫ソフィアに壊滅させられ「ソフィアと金で雇われたならず者たち」といった感じの集団となり、物語は「ペンギン vs.ソフィア」へと向かう。
オズは、ビクター同様に貧困地区クラウン・ポイントの生まれだった。
現在では認知症の兆候が出てきていてビクターに介護されている母フランシス・コブ(演:ディードル・オコンネル)に育てられた三兄弟の末弟。
幼い頃から片足が不自由だったオズは母を溺愛していて、なんと母を独占するため兄2人を豪雨の日の用水路に閉じ込めて見殺しにしてしまう。
今までも、嘘つきで殺人や薬物流通やら過去にはソフィアをアーカム送りにするなど数々の悪事を行ってきてはいたが、感情表現が激しく弟子のビクターと母だけには優しくていつもピンチで焦ってるので「悪いことばかりしてるが愛らしいキャラだな」と、ペンギンを温かい目で見てたのだが、実際にナチュラル・ボーン・狂人だとわかり背筋に冷たいものが走った回想だった。
そしてソフィアはオズの恋人と対峙して(ここも『トゥルー・ロマンス』めいた力強い女性同士の良い対決シーンだった)、母フランシスの存在を知ってフランシスを拉致。認知症の兆候が見られる彼女に、アーカムで知り合った精神科医に催眠を施してもらいフランシスに「若い時のフランシス」に戻ってもらう。
そして同じく拉致したオズに「兄たちを殺したのは自分だ」と愛する母フランシスに白状させる……というオズにとって一番(というか唯一?)辛いであろう拷問を行うソフィア。
オズはしらを切るので「白状しないとフランシスの指を切り落とす」と脅しをかけて、いよいよ老女の指が斬られる……というところでフランシスの方が先に、オズが兄弟を殺した全て知っていたことを叫び、そしてお前も殺したかったとオズの腹にガラスを刺し、しかし体力と精神を酷使しすぎたためか心臓発作で倒れてしまう。ここでオズは捕縛を解いて何とか脱出に成功する。
幼い頃の行いが全て知られていたという事は「何かの原因があって事故で殺してしまった」などの言い訳もできず生まれたままの自分が邪悪だったことを最愛の母に知られていたという事になり、ここへ来てその最愛の母が自分をずっと恨んでいた、そして自分を殺そうとしてきた、そして母がブッ倒れた……というオズにとってこれ以上ない苦しみの時間……だったはずだし実際苦しそうにはしていたのだが実のところ、ソフィアが期待していたほど苦しんでいたようには見えない。
ソフィアは父やアーカムによってハングマンに変えられてしまったとはいえ、まだ常識の範疇の狂人だがオズは思いのほか……視聴者の我々の想像の上をいく狂人であったため、彼が自分で言ってるほど母を愛してはいなかったように見える。だってそれほど愛してたなら、さあきの修羅場の事があったらもう気力をうしなって自殺するのが普通だからね。それにシラを切り通し続けてたから母フランシスがブチギレて自分から言わなければ母の指はあのまま斬り落とされてただろうからね。
要は、オズが母を愛していたのは確かなのだが、正確に言うなら自分の中の母フランシス像であって、実在する母フランシスは、たまたま「自分の理想の母」が3次元世界で偶然重なりあってる肉にすぎなかったのだろう。この事は後述するラストでもっとハッキリする。
逃げたオズはさっきの最愛の母との修羅場などなかったかのように、元気にすぐさまソフィアへの反撃を開始する。
忠臣ビクターのサポートも受けつつ、決め手は「癒着している政治家に嘘を吹き込む」という最高にペンギン的なものであり、ここは数少ないペンギンが素直にカッコよく見える場面だった(これを見ると、とりあえず凄いパワーなどといった夢みたいな漠然とした力で持ってヒーローを追い詰めるヴィランとか全員途方もなく幼稚な存在にしか思えないね)。
ラスト、ペンギンによって再びアーカムに送られションボリしたソフィアだったが異母妹セリーナ・カイルからの手紙を読んで笑顔が戻る。……何書いてあったの!?気になる。父カーマインを憎みつつも自らの手では討てなかったという似たような境遇であることは書いてあったのだろうが、その続きはチームアップの誘いだろうか?ソフィアは人殺しではあるが罪のない少女を逃がす程度の良心は残ってるからキャットウーマンの仲間になっても別に文句はない。というか『THE BATMAN-ザ・バットマン- PART.2』や他のドラマで再登場しないのであれば手紙の内容をちゃんと教えてほしい、教えてくれないんだから再登場させて欲しい。
オズとビクターは出会った日のように並んで座る。互いに礼を言い互いへの愛を語る。狂っているオズだがビクターへの父性のような愛情は本物だったと思う。そしてオズのために何度も駆けつけて命懸けで護ったビクターもまたオズへ「本物の家族ができた」と愛を語る。オズもまたそれを受け取り自分も同じ気持ちだと言う、これも本当だと思う。そしてオズはビクターを絞め殺す。ビクターは「え?やめて……やめてくださいオズ……」と戸惑いながら死んでいった。可愛いビクターは、ソフィアに捕まった母フランシス同様に犯罪王ペンギンには必要のない「弱点=愛しあう者」となってしまった。だから殺した。
ここが本作の焦点となる大オチだった。
ここに来るまでマジでわからなかった、てっきりソフィアに殺されてオズが血涙を流しながら「愛など要らぬ!」と覚醒する……と思ったらそうならず並んで愛を語り合うので「ビクターはペンギンの腹心キャラ、悪のロビンみたいになっていくのかな」と思ってたら愛するビクターを絞め殺し始めたので完全に意表を突かれた。というか五体満足で健康体、まだ若く(18歳くらい?)忠誠心と愛が最高潮で永遠に共闘してくれそうなビクターを殺すもんだから「えぇ、やめて~……?」という凄くなんというか味わったことのない種類の、観終わって何日も続く寂しい気持ちになった。同時に「殺されてペンギンが悪に覚醒」とか「普通に悪のロビンになる」などといったステレオタイプな通り一辺倒の展開にならなかった事で本作が普通じゃない作品としてより一層心に残る一本となった。
とはいえ「衝撃的にするため捻り出した展開」という感じもしなくもない。だってギャングとしてはどう考えても信用できる唯一の忠臣ビクターは絶対居た方が良いからね。でもまぁ「ペンギンは狂ってるから……生まれつき」という事を思えばまぁこれでいいかとも思えてくる。
好敵手ソフィアを倒し愛するビクターを殺したオズ……いやペンギンは遂にゴッサムの犯罪王となった。
最愛の母フランシスにずっとプレゼントすると言っていた高層タワーの最上階の展望台に母を寝かせている。しかし母はオズが犯罪王となる直前に脳死してしまっていた。哀れなりフランシス。まだ意識があった前半の時に『グロリア』(1980)を観ていた。これは銃を持った中年女性グロリアが孤児の少年を護る傑作なので、その時はまだ「老いても彼女の中ではオズは少年なんだなぁ」と思って観てたが今思えばオズに殺された長男次男の仇を取りたい気持ちで観てたんだな……。
オズは自分が幼かった頃の、若い姿の母フランシスの幻影とダンスする。そして若フランシスはオズが母に言われたかった甘い褒め言葉を連発してくれる。
若フランシスの幻影「もうこのゴッサムには誰もあなたを脅かす人はいないわ」
次の瞬間、月にコウモリの影が投影される。見事な終わり。
本当に、ペンギンってかなり普通っぽい只のギャングみたいなイメージしかなかったけど、ドラマの途中まではここまでミスター・フリーズ的な、めちゃくちゃゴッサムヴィラン的な精神異常ヴィランになるとは思わなかったよね。途中まで凄く人情家っぽかったから。終盤すごく寂しい気持ちになったけど、そう思わせてくれるのも貴重な機会だし意外で良かったです。
犯罪王となったペンギンはどのようにバットマンと戦うのか?
本作は「Part.2に繋がる作品」と言ってたので『THE BATMANーザ・バットマンー PART.2』でペンギンがバットマンと戦うのだろう。楽しみだ。
ハングマン(ソフィア)はもう本作で出尽くした感あるからヴィランとしては終わりで、出るとしてもキャットウーマンのサポートかな。
で、ジョーカーが完結作Part.3のヴィランか。リドラーも元気そうだったからリドラーも出るのかな。
制作予定だったアーカム・アサイラムのドラマやゴッサム警察のドラマは頓挫したっぽいが別のスピンオフも作りたがってるらしい。普通にキャットウーマンが観たいな。『THE BATMAN-ザ・バットマン-』(2022)の彼女はキャラ薄かったし……。
そういうわけで期待通り、かなり……全DC実写作品の中でも余裕でトップ5に入るくらい良かったです。ちょっと盛りだくさん過ぎた気もするが……最終話の一話だけでペンギン2、3回捕まっては脱出を繰り返してたからね。ちょっとしつこかった……けどでも「面白い展開がしつこい」という贅沢な文句でした。
というかハッキリ言って本編の『THE BATMAN-ザ・バットマン-』(2022)もつい先週までは「まぁええんちゃう?」くらいの割と平凡な作品みたいな認識だったけど「あの『THE PENGUIN-ザ・ペンギン-』の前フリとなる映画かぁ」という目で見返して前より面白く感じるようになったからね。本作のおかげで。
ついでに本作のおかげで、なんかガンのDCUより楽しみなユニバースになってきたかもしれない。前まで興味なかったのに。
何がどうなるかわかんないもんですね。
🐧☂🎩 🐧☂🎩 🐧☂🎩 🐧☂🎩 🐧☂🎩
そんな感じでした
〈その他、ペンギンが出てくる作品〉
『Batman: Arkham City - GOTY Edition』(2012)/瘴気溢れる街全体と闘う統合失調症になった感覚になる傑作キャラゲー🦇 - gock221B
『Batman: Arkham Origins』(2013)/面白すぎて爆弾抱えた肩が完全に死亡‥だけど目はまだ死んでないです🦇 - gock221B
『レゴ®バットマン ザ・ムービー』(2017)/確かにバットマン映画の中で一、二を争う傑作だった🦇 - gock221B
『ニンジャバットマン』(2018)/ストーリーや論理的な積み上げ無しでキルラキル的過剰演出によって少年漫画的な根性パワーアップを延々と続ける‥というノリをバットマンに持ち込まないで欲しい🗾 - gock221B
『バットマン:マントの戦士』〈シーズン1〉(2024) 全10話/バットマンや異能力を持った特殊な存在よりも、ゴッサムという街の社会の方が遥かに強いシビアな世界🦇 - gock221B
〈グレイグ・ゾベル監督作〉
『ザ・ハント』(2020)/上級市民による陰謀論好き一般人狩りの時間ですよぉおおおおおおおおおお!!🐷 - gock221B
「THE PENGUIN-ザ・ペンギン-」をU-NEXTで視聴
The Penguin | Rotten Tomatoes
The Penguin (TV Mini Series 2024) - IMDb
THE PENGUINーザ・ペンギンー - ドラマ情報・レビュー・評価・あらすじ・動画配信 | Filmarksドラマ