2017年4月16日日曜日

【第38回】日本文化講座 『日本の料理』

今日は、エカテリンブルク市の日本語センター『夢』が主催する日本文化講座で妻が講師を務めるということで私も様子を見に行ってきました。講演会場はエカテリンブルクの市街中心からバスで南へ15分ほど下ったところにある公共の図書館でした。この図書館は図書館業務だけではなく、会議室や講義室の貸出業務も行っており、カルチャーセンター的な役割も果たしています。
図書館のエントランス

会場に到着してまず驚いたのは、今日は雨だったのにもかかわらず、会場に入り切らないくらいの大勢の聴講者が来られていたことでした。日本文化に興味を持っているロシア人が多いことに改めて驚きました。会場には40席ほどの椅子が用意されていましたが立ち見も出ていたので、おそらく50人程度の聴衆がいたのではないかと思います。

本日の講演のテーマは『日本の料理』でした。日本の食についてざっくばらんにいろいろ楽しくお話しましょう、というのが企画の趣旨です。講演は、第1部が「典型的な日本料理(外食編)」、第2部が「典型的な日本料理(家庭料理編)」、第3部が「エカテリンブルクで作る、日本の家庭料理」という3部構成で行われました。

講演の構成

講演は日本語で行われ、ロシア人通訳者による逐次通訳が入りました。今回の通訳の方は、大変テンポよく通訳してくれる人で、良い印象を持ちました。私も何度か逐次通訳付きで講演したことがあるのですが、話した時間とほぼ同じ時間でテンポよく通訳してもらうと話す方としては話しやすいものです。ロシア語の聞きやすさの方は私には判定できませんが、講演者視点ではとても良い通訳だったと思います。

講演冒頭の様子。左が妻(中島和香子)、右が通訳のアリーナさん

聴衆の皆さんは、最初から最後までメモを取りながら非常に熱心に聴講されておられました。また講演後の質疑応答も、全部で20問以上の質問が飛び出し、大変盛り上がったように思います。質疑応答の後も、記念撮影のリクエストに答えるのに妻はおおわらわだったようです。私は商売柄、学会での学術講演はよく聴講するのですが、ここまで盛り上がる講演は学問の世界ではそうそうあるものではありません。以下、講演のポイントを幾つかかいつまんで紹介してみます。

日本の食を外国人に説明する場合に外せないのは「寿司」だと思いますが、外国人が知っている寿司の知識は日本人の視点からするとかなり偏っているような印象があります。江戸前寿司を知っている人はまだ良い方で、アボカドやチーズが入った寿司を本物の寿司だと思っている人も少なくありません。妻の講演では、日本で実際に食べられている寿司が写真とともに紹介され、外国で出回っている寿司との違いが説明されました。江戸前寿司以外の寿司、例えば押し寿司やちらし寿司、手巻き寿司などについても説明がありました。ロシア人の皆さんは「寿司にこんなに多くの種類があったとは知らなかった」と感心されていました。

押し寿司の説明

寿司と並んで「すき焼き」も知名度の高い日本料理ですが、すき焼きの解説の中でロシアの方たちが大きく反応しておられたのは「すき焼きは生玉子につけて食べる」というくだりでした。日本以外の国で「生玉子」を食べる習慣がある国はあまりありません。ロシア人から見ると、生玉子を食べるというのはかなり気持ちの悪い行為のようで、渋い顔で話を聞いておられる方もおられました。

すき焼きの説明

「人気の郷土料理」についての説明の中で、昨年末にプーチン大統領が訪日した折に山口県でふぐ刺しを食べたというエピソードが紹介されました。「随行員が事前に河豚の試食を行った」という話が紹介されたときには、皆さん興味深げでした。

郷土料理の説明

日本食の本来の基本が「一汁三菜」であること、またそれが家庭料理や懐石料理等の基本となっていることなどが紹介されました。しかし、「一汁」をロシア語でアディン・スープ(英語でone soupの意)などと通訳されると、本来の意味が伝わっているか若干不安にはなりました。

一汁三菜についての説明

日本の家庭で作られる典型的な料理の紹介の中で「カレーライス」が紹介されました。日本のカレーとインドのカレーが別物であり、日本のカレーは欧州を経由して伝わったカレーで「欧風カレー」と言われることもある、という話が出ると皆さん大きく頷かれていました。「歴史的な経緯を考えると自然に理解できる」というような感想も聞かれ、ロシアの皆さんの教養の深さに感心しました。

家庭料理いろいろ紹介

外国人の方が苦手な日本食の典型例として、漬物、納豆、梅干しが紹介されると、納豆についてはご存じの方も多いようで、臭い匂いの話には大きな反応が出ました。皆さんの感想を聞くと、実際に納豆を食べたことが有る方の中には「納豆は大好きです」という方もおられたので一概にロシアの方がが納豆を嫌いというわけではなさそうです。確かに、ウォッシュタイプのチーズなどは納豆の比ではないくらい臭いですし、発酵食品好きの方なら納豆の臭いも受け入れられるのかもしれません。

漬物、納豆、梅干し

講演の最後に、エカテリンブルクで入手できる材料だけを使って作る日本食の紹介ということで、妻が考案したエカテリンブルク版の「肉じゃが」が紹介されました。エカテリンブルクでは薄切り肉が入手できないのでそのかわりにひき肉を使用します。また出汁は、スーパーで売っている魚の燻製からとります。それ以外は日本の普通の肉じゃがのレシピと同じです。肉じゃがの紹介が始めるとみなさん熱心にメモを取られていました。

肉じゃがの作り方

この後、質疑応答の時間となりましたが、非常に多くの質問が出て大変盛り上がりました。例えば「日本というと桜が有名ですが、桜料理はありますか?」、「日本料理の中かで、薄力粉と強力粉はどのように使い分けられますか?」、「日本では牛肉が食べられるようになったのは比較的最近になってからだと聞きましたがそれはなぜですか?」、「美味しくコメを炊くにはどうすればよいでしょうか?」、「ロシア人は山で山菜やキノコを採って食べますが、日本人は山で何か採って食べますか?」、「すきやばし次郎について教えてください」みたいなおもしろい質問が沢山でていました。概して、皆さん日本の食について大変詳しく、ロシアの皆さんの日本食や日本に対する興味の強さをひしひしと感じる一日でした。

2017年4月9日日曜日

【第37回】ロシアに適した研究分野

<<<筆者注:この記事はウクライナ侵攻前に執筆したもので、現在のロシアの状況を反映したものではないことにご注意ください>>>

2017年4月2日日曜日

【第36回】ロシアの研究職の公募が全く出ないわけではないが

<<<筆者注:この記事はウクライナ侵攻前に執筆したもので、現在のロシアの状況を反映したものではないことにご注意ください>>>

2017年4月1日土曜日

【第35回】ロシアで理工系の研究職を得る方法

<<<筆者注:この記事はウクライナ侵攻前に執筆したもので、現在のロシアの状況を反映したものではないことにご注意ください>>>

2017年3月26日日曜日

【第34回】日本文化好きなロシアの人たち

エカテリンブルクに住んでいて感じることの一つが、ロシア人の中には、日本に(もしくは日本の文化に)好感を持っている人が多くいるということです。ロシアに住んだことのある他の日本人に聞いても、私と同様に「ロシアは親日的」とか、「ロシア人は日本文化が好き」と感じる人は多いようです。

エカテリンブルク市内には現在4つの日本語教室が存在し、ウラル連邦大学の日本語学科の関係者から聞いた話では、市内に200人から300人程度の日本語学習者がいるとのことです。日本人居住者が10-20人程度しかいないこの街で、200人以上の日本語学習者がいるというはかなりの驚きです。

エカテリンブルク市日本語弁論大会で審査員を務める筆者(右端)
年に一度、エカテリンブルクの日本語学習者が学習の成果を競う。

私の職場のウラル連邦大学自然科学研究所にも日本語を学んでいる学生さんが何人かおられます。どのようなモチベーションで日本語を学んでいるのか聞いたところ、その学生さんの場合は、日本の「漫画」を日本語で読みたいというのが主なモチベーションとのことでした。この学生さん以外にも、これまでエカテリンブルクの日本語学習者の方々に日本語学習のモチベーションを尋ねたことが何度かありますが、一番多い理由は、やはり日本の漫画、アニメ、ドラマ等を日本語で楽しみたいということのようでした。一方で、日本の企業に就職したい、日本語を活用してキャリアアップを図りたいという実利的な理由で日本語を学習している人にも出会ったことはありますが、そのような方はどちらかというと少数派のようです。(ロシア人の若者にとって、キャリアアップのための外国語学習となると、英語以外では現在は中国語に人気が集まっているようです。)

若い外国人が、日本の漫画やアニメ等を楽しむことをモチベーションとして日本語を学習するという現象は、ロシア以外の外国でも、最近はよく見られる現象だと思います。しかし、私がロシアで特に興味深いと思うのは、若い人たちだけではなく、ソビエト時代に教育を受けたシニアな人たちの中にも日本の文化に興味を持っていたり、比較的親日的な人が多いということです。なぜそうなるのか、私の知識不足で明確には答えられないのですが、職場の60代の同僚から面白い話を聞いたことがあります。彼は「今の若い人たちの日本好きは軟派な感じがします。我々の世代は日本文学から入ったものです。学校の図書室には露文に翻訳された日本文学全集が揃っていました」という話をしていました。

60代の同僚たちが学校教育を受けたのはもちろんソビエト時代ですから、学校の図書室に並べる本にも国の監査が入っていたことは想像に難くありません。そのような状況の中でも、露文に翻訳された日本文学全集が学校の図書室に並べられていたということは、国レベルで日本に対する知識を深めるべきだという明確な意図があったのではないでしょうか。

同僚に「それで、どんな作家の本を読みましたか?」と尋ねると、「いろいろ読みましたよ。例えば、ソウセキ、ダザイ、バショウ、、、、」など、スラスラと軽く1ダース以上の日本の作家の名前が出てくるのには驚いたものです。同僚は大学教員なので平均的なロシア人よりも教養レベルが高いという面は多分あるでしょう。しかし、それにしても例えば日本の大学の理学部の教員が、ロシア文学の作家をスラスラと1ダース以上挙げられるかというと、そういう人はあまりいないのではないか思います。やはりロシア人(ソ連人)の日本への興味はそうとう強いのではないでしょうか。
  翻译: