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1996年の樋口有介作品で、この2007年創元推理文庫版は中公文庫版に加筆した再文庫版。
樋口氏のデビュー作『ぼくと、ぼくらの夏』と同路線の、男子高校生が夏休みの間に女子高校生の死の謎を解く、というストーリー。
ですが、『ぼくと、ぼくらの夏』と比べて、だいぶハードボイルド風味が増しています。男子高校生・広田悦至が「ぼく」という一人称で語るスタイルがまずハードボイルドですが、新宿に近いやや寂れた街『梅園銀座商店街』という架空の街を舞台に、クールな主人公とその主人公を取り巻く個性的な人々を配置、ということからわかるとおり、私立探偵が男子高校生に置き換えられたハードボイルド小説、という雰囲気です。
ただ、男子高校生・広田悦至を取り巻く人々の騒がしい雰囲気に引っ張られること無く、クールな変人キャラである広田悦至君が持つ雰囲気が終始作品を支配していて、暑い夏休みであるのにどこか陰鬱な作品になっています。
文庫本の内容紹介にあるような、「青春ミステリ」という言葉からイメージする甘酸っぱさより、だいぶ苦めの味わいでしたが、自分にはこの苦さが快い読み心地となっていました。