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格差社会論のインフレ現象
2006/01/12 16:04
14人中、14人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:相如 - この投稿者のレビュー一覧を見る
このごろ格差社会論がインフレーションを起こしているが、この本はまさしくそうしたインフレーション現象の一つである。ほとんど学術専門書に近い佐藤俊樹『不平等社会日本』(中公新書)が出た5,6年ほど前は、こうした格差社会論は一部の知的な読書人だけに共有されていたに過ぎなかった。その頃はむしろ、「悪平等社会日本」の非効率性を不況の原因として非難する声のほうが依然として大きかった(そして現在ついに政府の公式見解にまでなった)。この短期間でここまで変わってしまうとは、一体どういうことなのだろうか。
この本は全く面白くもないというわけではない(ので星二つである)が、内容的にはほとんど「大学生の卒論」と言うべきものである。散々批判されているので改めて批判はしないが、問題はこんな薄っぺらな内容でも売れてしまうような、格差社会論のインフレーション現象である。テレビや新聞で「格差」の文字を見ない日はないくらい、格差社会論はメディア市場で「超売れっ子」である。明らかに著者はそうした時流を見込んでこの本を書いたとしか思えない。さらさらっと軽い文体でアンケート結果や俗耳に入りやすい解釈が並んでいるだけで、そこには格差社会の現実に対する憤りや苦悩、葛藤の跡がほとんど感じられないのである。
一つだけあげるとすれば、「自分らしさにこだわる人は下流」と言っているが、これはむしろ定職のない「下流」の人は今の自分の状態を「自分が好きだから」としか社会的に説明しようがないだけなのではないだろうか。定職があって結婚している人は「仕事だから」「家族のため」と答えるだろう。もちろんこの解釈が絶対的に正しいとは言わないが、こうした当たり前の想像力のようなものがこの本には決定的に欠けているのである。欠けているのは、格差社会に対する生の問題意識なしに、単なる流行現象として格差社会論を書いている証拠である。もちろん著者は問題意識を持って書いたつもりなのかもしれない。しかし、本当に問題意識があったら、Tシャツハンバーガーの男を見て「もしかしてこれが噂のニートか」といった、素人なら許せる感想文を専門家が真面目に書けるわけがないと思う。
格差社会論の先駆者である佐藤俊樹は、かつての日本は文字通り格差がなかったわけでは必ずしもなく、あくまで「中流社会」への憧れや上昇志向を社会全体で共有し、「昔よりも豊かになっていく」高度成長がそうした「中流社会」を演出可能にしてきた、という趣旨のことを確か論じていたように思う。そうだとすると「格差社会」も単なる現実と言うだけではなく、それ以上に人々の社会に対する一つのイメージであり、そのイメージが「格差」の現実を作り出していくという可能性を、少なくともベストセラーを書くような専門家たる者が忘れてはならないだろう。「やばいぞ、こんなにも格差が!」という類の本はこの辺りで打ち止めにし、格差社会における社会的な安心や秩序とがいかに可能かという方向に、議論をそろそろ持っていく必要があると考える。そうしないと、著者の意図いかんに関わらず、人々の間に「下流は嫌だ!」みたいな誤ったモチベーションを結果的に高めてしまうだけである。
この本がベストセラーになったということだけは、記憶にとどめておかなければいけない
2007/08/12 12:00
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みなとかずあき - この投稿者のレビュー一覧を見る
発行が2005年9月とありますから、もう2年たとうとしているわけです。あれだけ実書店で沢山平積みにされていたり、ネット書店でもベストセラーをキープしていたのが嘘のようです。
だいたいベストセラーなんて胡散臭そうで、いつも手にしないことにしているのですが、自分の興味・関心分野と近いものもあるので、この『下流社会』はいつか自分の目でその胡散臭さを確かめておかなければいけないとは思っていました。
すでに、多くの書評などで内容についてはある程度理解もし、実書店で斜め読みもしていたのですが、今回改めて読んでみてやはり「こんなもんか」という印象を持ちました。
今更私が繰り返すこともないのでしょうが、気づいたことをいくつか。
この本の論旨のもととなっている3つの調査はどれも対象が1都3県在住者であること。要は首都圏で生活している人たちだけの話を、日本全国の話にすげ替えているわけです。情報化社会で情報が均一化しているとも言われている時代なので、首都圏生活者を日本人の代表としても構わないと思っているのでしょうが、それこそ恣意的な論旨で根拠も何もないということは一目瞭然でしょう。
さらにこの3つの調査が主に消費動向に注目しているものであるということ。人間の活動の中で消費行動は確かに大切なものでしょうが、だからと言ってそれですべてを語ることができるほど人間は単純ではありません。
そして、ここで取り上げられている消費動向も、実は被調査者の自己評価あるいは評価とも言いにくい自分に対する気分しか見ていないというものであること。「上流」「中流」「下流」という位置づけも、本人が自覚している評価であって、あまり客観的な指標ではないようです。そもそも消費行動しか見ていない上に、その行動自体も主観的な評価に基づいていてるのでは、単に「私はあれが欲しい」「これなら買える」「こんなのがもっといいんだけれど」といった欲求を尋ねているだけということになります。
まあこの本の著者はもともとマーケティングリサーチを仕事としている人ですから、そういう目で見た今の世の中という程度のものだと思っておけばいいのでしょうが。
それよりも考えなければいけないことは、このような本がベストセラーになってしまう、もっと言えば『下流社会』というタイトルの本が売れてしまうというこの世の中って一体何だろうということではないでしょうか。実際にどうなのかは別としても、「下流社会」と言われて「ああそうだよね。そんな感じだよね」とか「やっぱり下流になっていくのか」と思わせるような今の世の中であり、そう感じさせる社会背景があるのでしょう。そこをうまく説明してくれるものこそ、私たちにとって必要なものであるように思えます。