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読む前に、心構えが必要。
SF小説?って読んでしまうと見誤る。
分人三部作、ってだけで読むと、近未来という背景の設定が煩わしい。
未来社会における自己の在り方、人との関わり方を問う作品であるとともに、未来におけるテロ、戦争の意味、政治などテーマは壮大である。読み手としては、まずここを自覚的に捉えないといけない。
その上で読み進めていくと、この小説は、結局のところ、1対1のディヴィデュアルの在り方を問う小説に帰結すると思う。政治も結局は1対1のディブなのだ。複雑な人間の関係性を親子、夫婦、兄弟、民族、支援者、いろいろな階層の関係性に落とし込んで考えることを要求している。未来を舞台にしているので、その関係性に「可塑整形=顔の規定しない人間」や、「散影=記録としての情報」や、「有人火星宇宙船内という著しく閉じた空間」などの要素が入り込み、重層的な構造を生み出している。それだけにこの小説は、前提として、その面倒くさい糸を解く作業を厭わない人にだけ開かれている。
この小説の複雑なテーマの一端は、「空白を満たしなさい」でさらにシンプルな形で呈示されるが、逆行性に空白〜からドーンへという順序で読んでみれば、これほど刺激的な読書体験はなかなか無いのではないか、と思う。
さらに言えば、「何度も読み返したい」と思う小説に出会うことはそう多くないが、読み終えてそう思わせてくれる小説であったことを付け加えたい。
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「真実」から疎外されることへの不安が高まる社会で、それでも可能なコミュニケーションのあり方とは何か。他者の部分〔=分人〕とコミュニケーションし続けること。そのとき「全体」〔=個人〕を措定する必要はない。「自分の知らない顔〔=真実〕」があると怯える者は「全体的コミュニケーションの不可能性という絶望」を感じる。だが、全体性への渇望に決別できる者には「部分的コミュニケーションの可能性という希望」が与えられる。それが分人主義 dividualism の真髄だろう。
分人 dividual
散影 divisual
無領土国家
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3.11の1年8ヶ月前に刊行された平野啓一郎の書き下ろし長編小説。
文庫になって初めて読んだら、これが傑作!
全ての素晴らしい小説がそうであるように、この作品もいろんな読み方が出来るでしょう。
例えば「Facebookの私って、ホントの自分と違う」なんて悩んだことが一度でもある人は…というのは、他でもない僕なんですけど、この小説で提示される「分人」(dividual)という概念に触れて、これでいいのだって納得しちゃうのです。
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日本人の宇宙飛行士、明日人を主人公に据えた冒険物語。
近未来の設定で、過去に東京大震災が起きたということになっている。NASAのチームとして火星探査に向かう日本人クルーである明日人含めた宇宙飛行士たち。一方、アメリカの次期大統領選の攻防、そして東アフリカでの戦争行為。3つの事象が絡まりあい、ひとつの形を作り出すストーリーは、かなりの大作感があると思った。政治的にも、心理的にも、お腹いっぱいになる物語です。
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人類初の火星探査に成功し、一躍英雄となった宇宙飛行士、佐野明日人。
しかし、闇に葬られたはずの火星での出来事がアメリカ大統領選挙を揺るがすスキャンダルに。
さまざまな矛盾をかかえて突き進む世界に「分人」という概念を提唱し、人間の真の希望を問う感動長編。
最高の純文学にして究極のエンターテインメント! 2033年、人類で初めて火星に降りたった宇宙飛行士・佐野明日人。
しかし、宇宙船「DAWN」の中ではある事件が起きていた。
世界的英雄・明日人を巻き込む人類を揺るがす秘密とは?
火星有人探査などのSF小説かと思っていましたが、メインは「分人主義」
いわゆる、一人の個人(individual)は複数の分人(dividual)をもつ。
という発想が主題の作品。
人は一個のアイデンティティのみで生きるのではなく、家族や職場、友達それぞれとの社会/人間関係で、異なった人格を使い分ける、というような考え方が「分人主義」で、この考え方をある程度社会的に受け入れた未来のアメリカが舞台になっています。
近未来的でも有り、現実的な部分も垣間見る事ができた作品でした。
作品の中に出てくる『ディヴィジュアル』という考え方。
たしかに人間はそのようにTPOにあわせて変化する場合がある...
複雑な問題を扱っている小説の反面、凄く単純な人と人の繋がりの大切さ、そして今の時代にあっても変わらぬものを、この小説を通して強く感じることができました。
読んでいて映像化してもおかしくはない位頭の中で想像が膨らみました。
まだ読んでみえない方は是非読んでみて下さい。
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私には理解できない小説でした。正直。
「火星でいったい何が」の文句に騙されました。
ってか私の読解力の無さに尽きますが。
しかし、まぁ芥川賞作家さんは、やはりエンタメ路線には寄れないんですかね。なんか壁を感じるなぁ、この作家は。
「別に火星じゃなくともよかったんでないの?」
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会話主体でストーリーが展開していく。時間が前後に行ったり来たりで分かりにくい。ジャンルは、SFなのか、ミステリーなのかわからないが、細部にこだわってるところは理解できるが、全体が掴みにくい。
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近未来SFという難しい舞台・道具と、もうすぐ露になる問題の予兆を丁寧に取り扱ったいい小説。
個人(in-dividual = 分けられない)と分人(状況に応じた人格の緩やかな統合)の考え方、リバタリアンとコミュニタリアンの軸足の違い、名誉と希望など、小説というフォーマットでこそ向かい合いたい問題だ(あえてテレビにするならNHKの特集か)。
近未来SFは、調べずに描くと絵空事になるし、調べて描くとリアリティは増すけど(娯楽としての)小説ではなく新書みたいになってしまうしバランスが難しいところ。火星有人飛行の実現性はともかく、監視カメラの検索エンジン・インターネット版や人格の分断使い分けは「ほぼ今日明日の問題」と思える。
ただし、欲張り過ぎ詰め込み過ぎで消化不良ぎみ(作品がand/or私が)。
AR(拡張現実)の認知面の話しとAI(人工知能)のまぜ具合とか、それだけでお茶碗三杯くらいおかわりできそうなトピックがぶちまけられている感じ。
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近未来SF作品だけど、ストーリーの中心は、人間が複数持っているディビジュアルという、いろいろな人に対しての違う顔に、アイデンティティがある話。中途半端なSFにストーリーで、全くついていけなかった。
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正直よくわからなかった。片道二年?かけて火星に行く話。政治とか思想がからまって複雑。でもビジュアルという思想は面白いと思った!
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作家・平野啓一郎氏が近未来の宇宙とアメリカの次期大統領候補選を舞台に描く『分人主義四部作』です。壮大なテーマの裏で描かれるあまりにも人間的、かつ普遍な問題をこれだけの力技でまとめる技量がすごいです。
芥川賞作家・平野啓一郎氏が近未来を舞台に『分人』という新しい概念を提唱し、ひととひととの「つながり」と希望の在りようを問う長編小説です。平野氏の作品をいつも読むたびに思うのですが、構成力・文章力・語彙力の高さに驚かされます。
物語は医師でもあり宇宙飛行士の佐野明日人が人類初の火星探査に成功し、一躍英雄となったところから始まります。しかしその『成功』の裏であるスキャンダル。同じクルーであったリリアン・レインと関係を持ち、妊娠させ、火星で堕胎手術を行い、彼女の命を危機にさらしたという『悪と恥』を持つがゆえ、その父である大統領候補であるアーサー・レインの深刻なスキャンダルに発展していく、というのが大まかなところです。
宇宙での出来事や、地球に帰ってきてからの明日人の妻である今日子との会話や、対立候補であるローレン・キッチンズとの間で繰り広げられる熾烈なまでの大統領選が、綿密な構成と、膨大な情報量で構成されているので、読むのにはものすごく骨が折れますが、一度『ゾーン』に入っていくと引き込まれるものがあるのです。その中でもダークヒーローである軍需産業会社デヴォン社の社長であるカーボン・タールという名前からして真っ黒な登場人物が帰国後に薬物中毒になりながら、悩み続ける彼にまさに『悪魔のささやき』といいたくなるほどに憎らしい言葉をかけているところは印象に残っていて、彼にも『正義』や『愛国心』があってのことだということが物語後半部の東アフリカ(おそらくソマリアかと思われる)への介入に「ニンジャ」という生物兵器を使ったことの正当性を論じる部分に、感じ入ってしまいました。だからこそ、彼を完全に憎むことはできないのです。
しかし、物語に大きな転換をもたらすのはリリアン・レインで、彼女がその兵器を開発することに携わっていたことや、明日人の「関係」をインタビューに応じるという形で赤裸々なまでに告白する場面には、本当にアメリカという国の持つさまざまな部分や、『中絶』という問題が『信仰を試される』ほどに微妙極まりない問題ということはかつて観たモーガン・スパーロック監督の『30デイズ』で知っていたつもりでしたが、それを改めて確認したような気がいたしました。
ラストは明日人と妻の今日子の夫婦としての『その後』が必ずしも順風満帆な船出ではないということを予感させるものですが、今日子の言うところの
『ひとりの人間の全体同士で愛し合うって、やっぱり無理なの?』
という問いに平野氏いわく『保守的なところに落ち着いた』とのことですが、あぁ、なるほどなぁと思わせるような結末で、その意味については我々が個人で出すものなんだと思いつつ、最後のページを閉じました。
平野氏の作品の中では『比較的』文体の面ではやさしくなっておりますが、内容とテーマはすごく難解で、正直、読む人を『選ぶ』かとは思いますが、人との『関係』に���いて思うところがある方は、手にとっていただけるとありがたいです。
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2036年の物語。(25年したら再読しようか)
読んでいて、divisualという発想がなかなか面白かった。
また、最近ちょっと話題になっている監視カメラについて、「特定の者だけがその内容を見ることができる危険性」(例えば警察であるとか)についてのコンセプトもなかなか面白かった。
監視カメラの内容はすべてネットに公開してしまい、誰でも顔検索ができるようになっている社会の物語なのですが、25年後、いったいどうでしょうか??
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普段あまりSFは読まないけど、面白かった。
宇宙での出来事よりも地球での出来事の方が圧倒的に詳しく書かれているし、書かれている宇宙での話は「火星への有人飛行に成功した」という事実から連想されるような華々しさからは程遠い。
政治や技術、社会と、話はどんどん広がっていくが、結局著者が描き出したかったのは、人と人のつながりだったのではないかと勝手に想像してみる。
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平野さんはクラシカルなスタイルの人だと改めて思う。
これは近未来小説なのだけれど、ディヴィジュアル(分人)というタームを定義して、社会の読み解きを行う(とりわけネットがわれわれに与える影響とか)というやり方自体がとても古典的だと思う。古典的ということは、ある程度予想できる面白さが保証されている、ということでもあるけれど。
明日人(アストー)の心の崩れ方がもう一つ納得いったのかいかないのか自分の中で消化不良気味であった。宇宙船内では常識では考えられない心理状態に陥る、というのは何となくは想像はできるのだけれども。話の面白さをそいではいけないので、詳しくは本の中を。
「宇宙兄弟」に日々人(ヒビト)って出てくるけど、どっちかが意識しているのか? それとも偶然?
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平野啓一郎は気になりつつ、ちゃんと読んだのはこれが初めて。
「ディヴィジュアル」「散影」「プラネット」など、未来の社会制度の描き方が非常にリアルで、「あり得べき未来」という感じを受ける。筆力あるなー。
次は、『葬送』あたりを読んでみたい。