評判通りの面白さをもった小説
2009/09/19 17:50
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:yukkiebeer - この投稿者のレビュー一覧を見る
無罪になったとはいえ、5年前に殺人の嫌疑をかけられたアダムは事件の後に故郷を逃げるように離れた。親友のダニーからの突然の電話に懇請されて帰郷した彼を待ち受けていたのは、自分を勘当した父や昔の恋人である女性警官、そして新たな殺人事件であった。
私は普段3冊前後の本を並行して読むのが常ですが、本書は他の書を脇に置いて黙々と読み続けてしまうほど魅力的な書でした。
巻頭で著者が遠慮がちに注意を促すかのように記していますが、これは正攻法のミステリー小説というより、まさに「家族をめぐる物語」以外のなにものでもありません。だからこそ、この物語はひょっとしたらあなたの、そして私の物語であるかもしれない、という思いを心の底に生む展開を見せるのです。
登場人物たちは物語の至るところで厭世的なセリフを吐露します。
「人間とはそういうものだ。さっさと決めつけ、いつまでもねちねちと覚えている。」
「歳を取れば取るほど背負うものが増える。押しつぶされるほどの重荷がな。」
「人生は苛酷だ。…いろいろ大変だぞ。いいことも悪いことも、そのあとのことも。」
5年前の事件以後もかさぶたのまま残ってしまった傷跡をさらにほじくり返すかのように、家族や友人たちは新しい事件を追う途上で鋭く切り結んでいきます。既に生きることに疲れてしまった人々をさらに完膚無きまでに打ちのめす新たな事件。
それでもアダムの元恋人ロビンはこう語ります。
「人生は短いのよ、アダム。心から大切だと思える人にはそうたくさん出会えない。だから、出会えた人を手放さないためには、どんなことでもするべきよ。」
「なんの話だ?」と訝るアダムに対してロビンはこう言葉を継ぎます。
「人間は誰でも過ちを犯すと言っているの。」
だからこその赦しの物語と取るのか、それとも戒めの物語と取るのか、この570頁の小説に対する判断は読者に委ねられるでしょう。
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土地の有力者の一家に生まれたアダム・フェイスは、継母の証言のために殺人事件の容疑者にされ、裁判にかけられ、無罪判決を得ますが家族のもとに戻ることもできず、故郷を追われてNYへ出て行きます。過去を断ち切って暮らしていたのにかつての親友からの「戻ってきてくれ」という1本の電話が引き金になり、父親との確執、別れてしまった警察官の恋人との関係、殺人者と告発された継母とその連れ子である双子の弟妹とのわだかまり、などを清算するため、5年振りに帰ってきたとたん、父の親友の孫のグレイスが襲われ、新たに殺人事件が起こって、、、、。かなりあり得ない話なのに構成も人物設定もすごく良く出来ていて、不自然なところもなく、とても面白く読了。これが訳出2作目らしいので1作目の「キングの死」も読んでみたくなりました。
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帰郷と心の闇──このふたつが大きな要素。ミステリとしての謎解きは二次的なものだが、的を得た絡みが非常に効果的で、ストーリーの幅広さに拍車をかけている。トマス・クックが得意としそうな設定だが、この作家の色がきちんと出ていて好印象。展開に秀でているわけでもないのに物語に飽きはこず、キャラには誰一人として共感できないが、人物造形は素晴らしい。筆致や構成はあくまで平均レベルなのだが、ぎゅっと身が引き締まったストーリーは旨み抜群で永く脳裏に残る。細部まで見逃さず、エピソードやそれぞれの複雑な関係を、ゆっくり丁寧に書き上げた作者の粘り勝ちなのだろう。ゴダードよりもスローテンポで、ジェファーソン・パーカーほど濃厚でもない。腹八分目でちょうどいいさじ加減。今年のランキングが楽しみに思える帰郷ミステリの傑作。
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殺人の疑いをかけられ無実になったものの、追われるように故郷を捨てたアダムが5年ぶりに戻った。故郷は原発誘致で二つに分かれ、父のジェイコブは農場を売却しないことから嫌がらせを受けていた。自身嫌がらせを受ける中、兄弟のように育った、農場監督の娘グレイスが暴行を受けた。やがて、その犯人と目される、アダムの親友で帰郷の原因となったダニーが死体で発見される。
アダムに故郷を捨てさせた事件を含め2件の殺人共に細かい描写がされるわけでなく、話はタイトルの川のごとく淡々と進んでいく。しかし、その淡々とした空気の中に人間の憤怒が渦巻いており、そこかしこに垣間見える。犯人の予想はおおよそ見当が付いていたが、その動機は予想外だった。
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帯のキャッチコピー(期待は絶対に裏切られない)は嘘ではありません!
いやーこれは久しぶりにおもしろいミステリを読むことができて、幸せ。
最後までずっと緊張感を持ったまま、すべての謎が解けていくのは、快感でした。
この作家は要注目です。
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今まで読んだミステリ本の中で一番になる本に出会いました!
昨日読みおわり、まだその余韻にひたっています。
描写がとてもきれいです。
友情と家族愛をテーマに描いております。
愛するひとのために、自分はどこまで出来て、どこまで許せるのか考えさせられました。
ストーリーが展開してくると、息を止めて読むくらいドキドキしました。
『あらすじ
ある事件で故郷を追われた主人公アダムが、親友からの電話を機に故郷へ戻る。
故郷に戻ったことで、アダムは事件に巻き込まれて行き、過去の事件やはなれた家族と向き合うことになる。』
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きれいにまとまって、読後感よし。なんか映画見てるみたいなストーリーの運び方、家族、恋人、保安官...ect...の役割。もーまわりが見えないくらい入り込んじゃいました。
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良い小説である。
冒頭、著者の謝辞にあるように、
ミステリーの範疇に入るのだろうが、
同時に家族をめぐる物語でもある。
少し、ハードボイルドの匂いもするような、しないような…。
読了後は、少し切ない気持ちに。
2008年 アメリカ探偵作家クラブ賞(MWA賞)
最優秀長篇賞受賞作品。
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このミスで紹介してもらわなかったら出会うことのなかった本ですね。ストーリー・事件・構成はわりと平凡。でも、読後感は何かが妙に残ったみたい。
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・・・全部、この親父の所為なんとちゃうか。
ミステリ要素はさておき、冒頭の印象的な川の情景とタイトル、どちらかというと堰き止められていた淀みの様な家族との対比的なものなんでしょうが、もうちょっと心象風景として絡めて欲しかった気がします。
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第一回翻訳ミステリー大賞では、『ミレニアム』と同点三位を獲得。
各誌書評でも絶賛されている作品。
なのだけれど。
父と子の確執、二度と取り戻せない子ども時代の煌くような思い出、年の離れた友人との友情、男同士の心の結びつき・・・・
どれもこれも好みの方向を指しているのだけれど。
いま一つ胸に迫ってこないのは何故なんだろう。
人生というのは、確かに選択の連続で、こちらかあちらかという二者択一を迫られる場面も多いのだけれど、、そうそう簡単に二つの選択肢だけに分けられるものでもあるまいに。
親の弱さを受け止めちゃえる(かもしれない)息子の度量とか、お金に執着しない鷹揚さとか、とことん慕ってくれる妹のような年下の美女とか、どこまでも自分を信じてくれる友とか、何だかんだ言いながらも、やっぱり“待つわ”状態の恋人とか、いかにも男性の歓心を買いそうな仕掛けにしらけちゃったのかも。
Down River by John Hart
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「世の中には善なるものがまだ存在しているという意味よ。ただそれだけのこと。僕はそう思いこもうと努力したが、納得いかない気持ちが残った。そこで彼女はもう一度、僕の愛するあの声でささやいた——善なるものはまだ存在しているのよ。」
ジョン・ハートに間違いなし。
まだ読んだのはたった2作目だけれど、その思いを確実なものにしてくれたこの1作。
凄かった。
とにかく、あっという間にぎゅっと胸を掴まれる感覚。
絶対に掴んで話さないぞと言わんばかりに翻弄される。
それはなぜかというと、やはり“家族”が関わっているから。
どこかで、家族の再生を信じさせ、そして光を見出させ、
朧げながらもそのようなものを見せてくれる。
絶対に見せてくれると言う確信があるからこそ、最後まで行きつこうと思わせてくれるのだ。
ミステリーもなるほどと思わせてくれるものだった。
あぁ、早くデビュー作を読みたいような、、楽しみが減ってしまうから読みたくないような、、、、
【6/25読了・初読・市立図書館】
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アダム・チェイスは、殺人罪で裁判にかけられて離れた故郷を5年ぶりに訪れた。
親友だったダニーから電話で助けを求められ、断ったものの、気になって3週間後に戻ってきたのだ。
ところがダニーは行方不明。
故郷はノース・カロライナのソールズベリの町。
原子力発電所を誘致するかどうかで、町は緊迫していた。
土地の価格が跳ね上がるのを期待する人も多い中、広大な土地を所有するアダムの父が売却を拒んでいるために、交渉は暗礁に乗り上げていた。
かって父の所有するレッド・ウォーター農場の一角で起きた事件。
確たる証拠もなんの動機もないと無罪になったが、義母には不利な証言をされ、厳格な父には勘当されたのだ。
恋人ロビンは何の連絡もしなかった彼を恨んでいたが、まだ愛は…?
妹ミリアムは婚約中だが何か問題を抱えていて、ダニーとつるんでいた弟ジェイミーは借金があるとわかる。
一方、農場内に住む監督ドルフの孫で幼い妹のような存在だったグレイスは美しく成長していたが、頼りにしていたアダムを失って孤独になっていた。
しかも、なぜか、何者かに襲われ…?
事件が起こるたびに疑われるアダム。
ロビンは、ソールズベリ警察の刑事なので、板挟みにもなる。
絶望的な状況から次第にはい上がる主人公がいいですね。
親しい人たちが皆何か嘘をついている…
登場人物が個性的で、ぐいぐい引き込まれます。
どこが静かなんだという土地だけど…川だけは静か?
著者は1965年、ノース・カロライナ生まれ。
フランス文学、会計学、法学を学び、刑事弁護などでも活躍。
作家を志して職を辞し、2作目の本書でアメリカ探偵作家クラブ最優秀長篇賞受賞。
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家族の複雑な事情を巡るややダークな物語。
そこまでトリッキーな結末ではないし、「誰がなぜやったのか」を先回りして読もうとすると、その部分については満足を得られないかもしれない。
が、全体の雰囲気、リーダビリティ、各人物たちの微妙な関係を楽しむ分には申し分のない一冊。
■このミス2010海外7位
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早川書房出版ということでガチガチのミステリと身構えてたけど違った。この作品に含まれているミステリ要素は普通のエンタメ小説にも含まれている程度の謎である。この作品が書きたかったのは家族の心の移り変わりではなかったのだろうか