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『ザ・クレーター』と並ぶ、悲劇的短編作品(SFものも多い)をまとめたものです。「野郎と断崖」、「夜の声」、「わが谷は未知なりき」、「聖女懐妊」など、内容が深い作品が目白押し。まあ、それが手塚治虫の短編作品の魅力ですが…。それぞれの作品が、その日そのまま夢に出てきそうな奇妙なちょっと恐ろしい読後感を伴います。
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『空気の底』
『処刑は3時に終わった』
『おそすぎるアイツ』
『聖女懐妊』
『帰還者』
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僕は手塚治虫さんの作品や藤子・F・不二雄さんの作品が好きです。
純粋に読みふける事も出来れば読みながら違う事も考えられる
そんな読書の仕方が出来るので。
特にこの短編集はある意味、星新一と同じく
続きがある終わり方をする作品がまとまっている。
つまり想像力の増長が促進される感じなのだ。
全て問いかけに対して正解が有る訳ではなく
むしろ、この世は未知のものが多い。
シンプルに優れた作品とはこういうものをいうのではないか?
また治虫が僕の頭で暴れ始めた^^
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悪夢のようなお伽話。
民話風から現代劇からSFまで、装いは違えど地球人が抱える愛と業を描いた短編作品群18篇。
まず巻末解説に曰く『空気の底』というシリーズタイトルは地球上が舞台、という事を示唆したもの。
むちゃくちゃカッコいいまえがきがぶち刺さる。
「金魚鉢の底はいつも水がよどんで
たべ残しや糞や泥やらでどろりとにごっている
われわれの世界が
犯罪やさまざまな悲劇でうずまいているのも
それと同様に
深く沈んだ大気の底だからかもしれない
人間の一生のあいだにほんのわずかでも
清い空気の中のやすらぎを求めないものが
いるだろうか?」(p6)
いいですねー。
人の世は綺麗事だけでは済まない、悪意だったり反目だったり汚濁だったりに満ち満ち溢れているからこそ、稀少な人の善意や友愛や清廉な振る舞いに飢えており、そういったストーリーに飛び付いてむしゃぶりたかり消費し尽くして飽きたらスッカリ忘れ去ってしまう、その豺狼のような姿こそまさに「たべ残しや糞や泥」に喩えられる人間の営みであり、一方で人間を人間たらしめている要素なんだなと思う。
どの話も短いながら強烈に印象深いが、特に好きなのは
〈カメレオン〉…変わり身の早い節操無し・自分で自分は最高に賢くイケてると思っている男の話であるが、二転三転する展開と先が読めないミステリアス、男が枠線を齧り出すコミカルまで描きつつのラスト。何ともおぞましい結末。
〈ロバンナよ〉…冗談めかしたタイトルとあらすじだが怖い。さあ、本当にロバと小栗夫人の精神は入れ替わっていたのか?小栗が真の変態で奇人の妄想家だった可能性は?人のかたちをしているからといって人であるとは限らないという問答のような掌編。
〈帰還者〉…作品集の大トリを飾るSFホラー。ここで触れられる「宇宙平和コンベンション」とは何の示唆だろうか。この作品が発表された70年代初頭といえばベトナム戦争とか安保闘争真っ盛りであるので、近い年代で開かれたそれらしいセレモニーとしては「1970年大阪万博」が当てはまるのではないか。いかな巨費を投じて世界調和の式典を開こうとも、それだけで人類がみな進歩出来るのであれば世話ないというものである。「宇宙からの性病!?」(p382)というパワーワードに笑っちゃうけど当時は梅毒が日本でも大流行していたそうなのであながち笑ってもいられないネタなのかも。
読み応えたっぷりの一冊。
じつに良かった。
6刷
2024.1.4