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草木が芽吹く弥生です。センバツ甲子園も近付きましたが、本書は野球の話ではありません。目指すは甲子園! それも「俳句」の! その内容と展開が面白く、ぐーっと引き込まれる物語でした。言葉の豊かさ、俳句の奥深さ、言葉でつながる素晴らしさなどが、見事に描かれています。
主役はチームを組む女子高生です。俳句は青春の情熱を燃やすに値するのか? と疑問視するそこのあなた! 地味でシンプル、年寄りくさい等の「俳句」のイメージが、きっと変わることと思います。
何よりも、創作俳句十七音の言葉の選び方と表現の工夫は、単純な様で実に多彩・多様であり、ほんの一字で情景がガラリと変わります。
俳句甲子園(全国高校俳句選手権大会)は、実際毎年8月に愛媛県松山市で開催され、もう25回を数えるのですね。投句とチーム同士の質問(批評)と説明(反論)内容で勝敗決定する競技システムなど、初めて知ることも多く、とても新鮮でした。
登場人物や物語の構成も魅力的でした。本書は全10章で構成されており、9人の主要な登場人物視点で各章が展開されるので、物語にメリハリがある気がします。
私たちが毎日何気なく使っている言葉が、素晴らしく愛おしいものに思えてきます。もっと日本語を大切にし、恥ずかしくない言葉の使い手にならなければな、と思わせてくれる一冊でした。
中高生や俳句に興味のない方にも、是非手に取って欲しい本です。
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少し前のNO Book & Coffee NO LIFEさんのレビューに惹かれて読んでみた。
巻頭に【俳句甲子園について】が書いてあって、俳句甲子園なんて本当にあるのかと思ったが、本当にあるんだ。
今年の地方大会の兼題は「日永」「草餅」「ヒヤシンス」とある。先週5/9が提出締切だったのね。
ということが分かって、さらなる興味を持って本編に入る。いやいや、これは面白い。
茜の思いやトーコとの会話に、早くも俳句の持つ面白さが溢れ出る。
そこから、子規の句だったとしても作者のつもりと違う読み方があっても良いだとか、声に出してみると「藻の花も」より「藻の花や」のほうが明るく響くとか、知っている人には当たり前かも知れないが、門外漢の私には目から鱗の話が満載。
『季語を信頼する』という森先生の指導内容にはとても感じ入った。
こういう話はメンバー集めも見どころなのだけど、全員が俳句好きや文学少女というわけでもなく、それぞれが「俳句以外で心惹かれるもの」を持っているのが良い。
メンバーも揃って、短い期間で実作から実戦に挑んでいく後半。
練習試合の相手が結構ケンカ腰な感じで、もう少しスマートにディベートするものと思っていたのでちょっと引いてしまったが、話が進めばこれが望ましい鑑賞の姿でないことも分かってくる。
大会が深まるに連れ、試合経過や作句の呻吟の丁寧な描写から、そこに詰まった思いを知って披講される句を鑑賞することが出来る。
マネージャーに徹するトーコも含めて皆で言葉をとことん吟味して作った敗者復活戦の句(胸中は聞かず草笛一心に)やここに辿り着くまでに費やした時間や思いが詰まった準決勝での茜の句(夏めくや図書室に聴く雨の音)にはじんと来た。
とても爽やかな読み心地。
今年の地方大会は、6/10,11と17,18、全国大会は8/18~21とのこと。ちょっと気にしておこう。
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俳句に興味のある私。この本は一年くらい前から読みたかったけど、なかなか読めなかった。
良かった。青春を感じられる作品だった。
俳句初心者だったメンバーが、個性を武器にして成長している姿が眩しい。
富士先生が言っていた俳句の「ずるさ」に、「なるほどな」と思った。十七音の世界。やっぱりいい。
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高校生が俳句同好会の立ち上げから俳句甲子園に挑戦する物語。作品は高校生の青春ものかと思いきや、俳句について言葉について追及する奥深さがありました。
作品中にも多くの句が出てきますが、手紙を書かない高校生ならではで「手紙」を「メール」と表現するところは高校生らしくて新鮮です。また、読んだ時の音を大切にしたり、ひらがなか漢字かと文字にこだわったり、17文字の可能性が壮大でした。
自分の思いをいかに正しく相手に伝えるために言葉を選ぶ作業は日本語と真剣に向き合う素敵な時間でした。
同好会立ち上げメンバーにも関わらず、選手として舞台に上がらず仲間を支える東子も目が離せない人物でした。
本作品は読者それぞれの句の感じ方があるはずで、世代を問わず楽しめるものだと思いました。
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俳句甲子園と聞いて、俳句を作って審査され出来がいい句が優勝する大会かと思ったら違った。
5人で1チームの団体戦。俳句は兼題にそって3句作り、事前に提出しておく。大会当日は自分たちの句を読み上げ、相手チームがそれを被講し質疑を重ねる。これを両者繰り返し、句の出来による作品点と、相手の句への理解や表現などを指摘する力を問う鑑賞点が審査員によってつけられ、合計点により勝ち進むトーナメント方式により行われる。
作句で散々検討するのはもちろん、提出から大会まで間があり、そのあいだ3句それぞれの17音の世界を突き詰める。
相手校からどのような質問がこようとも、この言葉、この表現しかないと言える思いを短い音にこめる。
短い言葉に対してここまで真剣に向き合い考え抜いたことはない。
読んでいて高校生たちの熱量に気圧される。
青春群像劇としてはあんまり馴染まなかったが、俳句甲子園の描写は臨場感があって面白かった。
俳句は嗜まないのでよくわからない句もありつつ、好きな句や面白い句もたくさんあった。
蝉の殻重力離脱成功す
夕焼空遁走曲楽譜散乱
俳句のイメージにあるしみじみしたものとは一線を画すようなコミカルさや爽快感を感じる。こんな句あるんだ、というような興味が湧いた。句の内容と音のリズムが一致していて楽しい。
夕焼雲でもほんたうに好きだつた
ストレートでこれ以上は何も言うことはないと誰しも思うだろう作品。まさにこの17音がすべて。一方で言葉より色で埋め尽くされるような気持ちにもなる。
手擦れせる句帳の余白海月舞ふ
なぜか印象に残った。理由はわからない。でもこの句帳はコピー用紙のような蛍光の強い白の紙ではなく、もっと使いこんだくすみとざらりとした質感のある紙でできた句帳というイメージ。
桃すする雨よ昨日の一言よ
情感あふれる一句。勝手に絵とストーリーが浮かんでくる。すごい。絵的な印象が強いが、短い映画的な印象もあって、奥行きを感じる。
他にも色々あったが割愛する。
中学生のころは年に一回、俳句を作る授業があった。別に俳句の勉強はほぼなく、友達とだべりながら授業時間の終わりまでに一句作って提出すればOKという、国語の中では一年で一番緩い授業だった。
多分、市民大会中学生の部みたいなものに提出されていたのだと思うが、一度だけまぐれで入選したことがあった。短冊に綺麗に清書された句が返ってきて驚いた記憶がある。季語を入れて川柳にはなっていないくらいの、捻りのない拙い句だったのに。
そんな他愛ない学生時代が読み進めるうちよみがえってきた。おそらく自分の中で俳句に関する唯一の思い出である。
あれ以来俳句に縁遠いが、せっかく俳句の小説を読んだので、久々に詠んでみる気になった。
当時詠んだのは雨の句だったので、今回も雨で一句捻ってみる。
傘さして晴れ間気づかぬ五月雨
暗い。青春小説を読んだ後とは思えない句だ。あんまりなので上向きに修正してみる。
俯きて映る夏空雨上がる
…結局暗い?作中で新野先生が言ってたコツも無視している。中学のは完全にビギナーズラックということが確認できただけだった。
でも、なかなか楽しかったので良しとしよう。