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3.11後、震災そのものよりも原発事故によって、この日本はどうなってしまうのかという不安に苛まれた。本書で描かれる日本は、その時の不安の延長線上にあるように思える。閉ざされた中で曖昧な情報だけが飛び交うが、明確な敵も支配者も見当たらない。しかし、現実はどんどんと悪くなっていく。そんな現実が所与のものである子どもは、年長者と同じようには生きられないからだで短命に終わる宿命であるが、それでも、無名が献灯使として外国に行くことで現実を突き破ることが希望として描かれているのだと思う。ただ、その結末の描かれ方は、私にはなんだか不気味に思えた。
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3.11の後にもう一回大厄災が起き、放射能の影響でまともに人も住めず人々の体にも多大な影響が出て、鎖国状態となった日本の話。
帯には「ディストピア小説の傑作」とあり、なるほどディストピア感はある。ディストピアに触れていつも思うのは、まぁこれはこれでひとつの主義に立った世界観なんだし、別にそこまで悪いとは感じないな……というもの。斜に構えているつもりはない。きっと、自分が現実を楽しめていないだけなのだろう。
厄災の影響で、死ぬことができなくなった100歳越の曽祖父「義郎」に育てられる曾孫の「無名」は、体が非常に弱くてジュースを飲むだけで15分もかかる。多分寿命も短い。老人ばかり丈夫で、生まれてくる子どもは厄災の影響でみんなこなのだそうだ。
最初読んでいるうちは、無名のことが可哀想だと思うこともなく、生まれた時からこうなのだから、別にいいじゃないかと思っていた。しかし、本当に辛い思いをしながら曾孫を育てる義郎の辛さ悲しさは想像してあまりあるもの。
日本全体に、後の世代に対する申し訳なさがあるらしく、こどもの日は子供に謝る日になっている。「子ども」が「子供」に変わってる芸が細かい。子どもの権利とか主体性とか、そういうものを尊び「供」をひらがな表記にするのはわかるけど、きっとその行き過ぎた個人主義的発想は、後の世代を育てるという当たり前の責任から目を背ける行為と表裏一体だったのではないか……というのは、考えすぎだろうか。
無名は、悲しんだり絶望したりする発想がない。胸を痛める悲しみがあっても、世界の事情を無意識に察知し、その痛みを解放してしまう。それは当の本人からすればそれが当たり前なのだから悪いこととは言えないかもしれない。不足を感じること、進歩を求めること自体が近代的な発想なのだから、別にそれに与する道理はない。どうせ、地上は汚染され信用も発生せず、資本主義が崩壊した世界なのだから。
でも、義郎は自分の曾孫の陥った状況を、自分のこと(原発事故が自分たちの世代の責任だと捉えている人がどのくらいいるだろうか)のように責め、同時にそうした世界に怒りを覚えている。曾孫のためになにかしていないと、涙が止まらなくなってしまう。曾孫が不幸でないのならば、彼はどうして涙を流すのか。曾孫はやっぱり不幸なのだろうか。
ひとは自分たちの幸せのために一所懸命になれるけれど、それに伴う責任……自己の人生に対する責任だけでなく、次の世代に対する責任から、あまりにも目を逸らしてきたのかもしれないなと思った。
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死なない老人とひ弱な子供たちで構成される世界。どうやら、何か災害などでそのような状況に陥ったらしい。最初の方は、頭の中を?マークでいっぱいにしながら読み進めた。なぜ作中の世界になってしまったのかは、読み進めるにつれて明らかになっていく。
この作品では、科学技術など文明批判をしているように私は捉えた。作品のジャンルとしては、SFになるのだろうか。ディストピアな世界は想像上のものであるが、将来的に起こる可能性もゼロではない。
翻訳文学部門で全米図書賞を受賞した作品であり、楽しくはないが自分たちの向かう方向が正しいのかどうか考えるきっかけとなった。この作品の世界に陥る恐れがあるのであれば、あの技術は世界から封印した方がよい。
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大災厄後、鎖国した日本が舞台。老人は健康だが死ぬことができず、若者の世話をする。子どもたちは体が蝕まれ、長く生きることができない。
ディストピア小説と括るにはあまりにも「あり得る近未来」に感じられて、ページを繰る指先が冷たくなる。何が起こったのか明確には書かれていなくても、東北大震災を経験した我々には察しがついてしまう。いつどんな理由で粛正されるかもしれない言論統制や、鎖国の中でさらに地方ごとに交易を制限する雰囲気、けれども仕方なく従ってしまう無気力な従順さが、現日本の余裕のなさ故の狭量の延長にあることも肌で感じる。
「子どもに謝る日」などという祝日が制定されないためには、そんなことを考えさせられる小説だった。
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いくつかの大きな災害の後、鎖国状態となった日本を描いた表題作と、その前後に起きたと思われる事象を描いた短編4話を加えた作品集。
震災後、復旧したかに見えた日本にさらなる悲劇が襲う。放射性物質の影響で子どもたちは病に倒れ介護生活となり、逆に老人たちは死ぬ能力を奪われ若者たちを支えながら必死に生きている。
鎖国政策のため物資は滞り、自給自足のできる北や南の地方は比較的豊かだが、東京は過疎地となり食糧も手に入らない。そんななか、選ばれた子どもたちを献灯使として海外に派遣しようという計画が秘密裏に行われる。
なんとも殺伐とした世界なのだが、ディストビアとはいえ、村田沙耶香のような無機的な冷たさとは対極のイメージで、深みを感じる。祖父とひ孫の会話は温かく、言葉遊びを駆使した文章も巧みで、哀しみのなかにも小さな灯火がつねに点っているような優しさがある。
全米図書賞を受賞したそうだが、次々と登場する言葉遊びをどうやって翻訳したのかも気になるところ。
短編には、表題作では説明のなかった背景が描かれているため、全部を読み終えてからもう一度表題作を読み返してみた。
さらりとストーリーを追うのではなく、ひとつのことば、ひとつの文を丁寧に反芻しながらじっくり味わいたいと思える良質な一冊だった。
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日本を舞台にしたディストピア小説を読んだのは初めてで、少しファンタジーすぎるかなと思ったものの、海外の作品に真実味を感じてしまうのは、それは私自身の異文化への偏見があるからかもしれないと気付かされた。
天災も原発も私たち自身に確かにあるもので、同じ過ちは繰り返さないと思っても世界情勢や昨今機運が高いヘイトなどを見ると、物語に出てくる日本の未来の「鎖国」を心から楽しめることができない。
老人はなぜ死ねないのか、子供たちはなぜ短命なのか、その理由をはっきり明かさないのはなぜなのか。
すべての創作家には彼らが創作する作品に通じる幹があって、その枝葉が作品になると思うのだけれど、この作品だけではこの作家の幹がどういうものかわからないので他の作品も読んでみたい。
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翻訳されて米国では賞も獲ったとのことで読んでみた。
好みの問題が大きいのかもしれないが、最後まで読むことができなかった。妙にブツブツと切れるような文体、漢字に対する独特の感性など、形式的なことでどうも読みにくい。
内容的にも原発事故のせいで嫌われる、不幸せになる日本人、をテーマにした短編集で、寓話的でひたすら暗い。いや〜な気持ちになるだけで得るものがない。
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徹底してすべてを相対化する気持ちよさよ。政治風刺でありながらドライではない、しなやかでお茶目なユーモア。この味わいをどう英訳したのかも読んでみたい。
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大災厄に見舞われ、原発事故後のいつかの「日本」を描いたデストピア文学の傑作!未曾有の“超現実”近未来小説集。(e-honより)
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全米図書賞らしい。
日本よりもアメリカで評価されるだろうと納得の作品。
作中で言葉が文化と等価に扱われている点は、民族というものが、地理的(物理的)な部分でなく、血液(遺伝情報)で繋がっているのだという生き物の本質的な部分を象徴的にあらわしているように思う。その遺伝情報が破壊されたときに、人は何を拠り所とすればよいのだろう。血脈や、故郷のような、なにもかもを失っても無くならないはずの自分のルーツと自分を繋ぐものがバラバラと破壊されていく時、人は人でいられるのだろうか。
個々の繋がりを無くした時に、人類は一個の人間になってしまう。人類の滅亡は人間の絶滅よりも、きっと先に訪れる。
人類の終焉は、大きな戦争や自然災害によって突然に訪れるのではなく、ヘイトやあまりにも身勝手な個人主義によって、今も静かに進行しているのかもしれない。
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単語レベルで無駄な表現が1つだってない。なんというかさすがの言葉の密度。パワーがすごい。そして日本語特有の湿度が作品全体に充満している。
いわゆるディストピア文学ってやつで、そう遠くない未来のこうなるかもしれない日本と日本人が描かれているんだけど、私のチンケな想像力では到底思いつかないような設定と奇妙な当て字で書かれた名詞たちで展開されていくので一筋縄ではいかず、全く先が読めない。でも読み進めるうちにそれらが案外トンデモ論でもないように思えてくる。
終始退廃的なムードが作品を支配しているはずなのに、作家の批判性みたいなものを私はそこまで強く感じなかった。逆に淡々とした表現で読み手一人一人の価値観や思想を「それって本当にそうなのでしょうか。」と問われているような気がした。例えば「祖父」や「子供」、「女性」という言葉で括られる人たちの性質であったり役割であったりを根本から問われるような。
読み終えると自分の中の凝り固まった固定観念が壊されて、今の日本の社会が抱えるセンシティブで複雑な問題たちにフラットな目を向けられるような気がする。
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長編の「献灯使」+短編4作。
献灯使 評価3
不気味な近未来を描くディストピア小説。
読み進めるのがなかなかしんどかった。どうしてこのような世界が生まれたかについては輪郭がぼんやりとしたまま淡々とした描写が続くが、かなりエグい。
放射能に汚染された国土。安定しない気候。鎖国され、外来語は禁止され、政府は民営化されている。車もインターネットもない。高齢者は死ねなくなり、若輩者はやたら身体が弱い。人間以外の動物は犬と猫以外ほとんどいない。
極端な世界だが、なぜか笑えない。実際に起こり得るのでは、と不安を感じさせるような不穏さがこの小説にはある。
なんとかたどり着いた結末に、僕は結構ショックを受けた。
韋駄天どこまでも 評価5
漢字が飛び跳ねて暴れまくっている印象の、不思議な読中感。一子と十子の絡みがとてもエロチック。
不死の島 評価3
「献灯使」の前章。
彼岸 評価3
動物たちのバベル 評価3
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米最高権威文学賞「全米図書賞」受賞
アメリカで最も権威ある文学賞「全米図書賞」翻訳文学部門受賞!
日本語の本が受賞するのは36年ぶり!
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表題作に関しては、地理や政経が好きな人はより楽しめる作品かなと思う。自分はそこら辺の分野が苦手なので、真面目に舞台背景を読み取ろうとすればするほど難しく感じてしまってなかなか読み進められず、短編なのに長編に感じた。比喩表現が長くわかりづらかったというのもあるかと思う。
「動物たちのバベル」 は人間という生き物をトコトン客観視した風刺作品という感じでおもしろかった。
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説明が長いようで、あいまいにしているところも多く、結局、誰が何しているのか、何がしたいのかよくわからない。
伝わらない、私が読む本ではなかった。