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され竜初の公式アンソロジー。
今をときめく幼女戦記やリゼロの作者、古株のベテラン作家まで、古今東西からされ竜を愛する執筆陣が集結してます。
まず読んで驚いたのはされ竜シリーズへの理解。
特にカルロ・ゼンや長月達平、望公太など、暗黒ライトノベルと喧伝されたされ竜にインスパイアされた世代、若い頃からされ竜を貪り読んでたろう世代の若手作家の短編は素晴らしい。よくぞこんな細かい所まで拾ったな!と驚嘆します。
ガユスの予備校講師のレシドなんて相当読み込んでないと出てこない名前!
ジャベイラやイーギーにレメディウスなど有名どころばかりでなく、ガユスの予備校の生徒やサラザールにイアンゴにベイリックに至るまで、まさかアンソロジーでお目にかかれるとは思わなかった端役脇役が実にそのキャラらしいおいしい登場の仕方や挿話を披露してくれてニヤニヤがとまらない。
ホートンなんて主人公だし!
どの作家もガユスの回りくどい衒学的な語り口や原作の文体を意識しており、ガユスとギギナの痛烈な罵詈雑言合戦の切れ味が小気味いい。
特筆すべきは長月達平の「道化の六日間」。これだけでも★5の傑作です。
ガユスの学生時代の友人にしてモルディーンの一等書記官であるヘロデルを主人公に、現在と過去の回想を織り交ぜて、ガユスとの出会い、個性的な仲間たちとバカ騒ぎの青春、最愛の婚約者シファカとの蜜月を書くのですが、文体の感触が初期のされ竜に非常に近く完成度がとびぬけている。
あとがきで浅井ラボも絶賛してますが、単なる小手先のスピンオフにとどまらず、語られざる伏線をきちんと回収した上で、裏切りの復讐者にとどまらぬヘロデルの人間臭い苦悩と葛藤、その愛すべき人間性と憎めない個性を余すところなく抽出し、非凡な凡人だからこそもちえたモルディーンのカリスマ性をその言動から実証し、一巻のもう一つの結末を完全補完している。
こんなされ竜が読みたかった!
こんなモルディーンが見たかった!
語弊を恐れず言えば、され竜よりされ竜してます。
され竜シリーズを細部までめちゃくちゃ読み込んだ上で、登場人物の主義主張信条をとことん理解し、さらに独自の解釈を盛り込んで大胆に脚色しなければこんな話は書けません。
リゼロは未読ですが、この人の書く小説なら読んでみたくなりました。