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◆原大陸編シリーズを通しての感想
物語にエンドマークが打たれても世界は問題を抱えたままその後も続いていく。
20年前にエンドマークが打たれた物語と同じように。
キエサルヒマ編をリアルタイム学生時代に追っていたファンとして、あれからほぼ20年後、大人になってからこのシリーズを読めて良かったなあと思った。
キエサルヒマ編の終盤は当時の自分には理解できない部分も多く、あのエンディングで良かったのだろうか……オーフェンらしい選択ではあるのだが、という、納得しつつもすっきりはしない読後感が残っていたのだけど、原大陸編を読み終わった今でもそのすっきりしなさは解消していない。でもあの頃よりもずっと理解はできている。
子どもの頃は主人公が成長し、力をつけ、困難に立ち向かい、解決し決着する、そんなわかりやすい物語を望んでいたけれど、現実に照らし合わせれば全ての問題を解消する魔法のような解決策やわかりやすい困難など滅多に存在しない。
その解決は果たして別の視点から見ても本解決と成り得る選択だったのか、一時しのぎの決着に過ぎなかったのではないか、正解もわからないまま今のところ最良のような気がする選択をするしかなくて、その選択がどのような影響を及ぼし果たして正解であったのかどうかは後になってから振り返ることでしか判断できず、その社会を維持し責任を取るのは選択した当人だけでなくその世界で今を生きる全ての人々である、そんな問題が当たり前に山ほどあることを大人になった今の自分は知っている。というかそれが社会だ。
魔術士オーフェンシリーズは一貫してわかりやすい決着を用意せず、これからもバランスを取るのが難しい世界がそこにある前提で、決着をつけずに決着をつけ続けようとする有り様を深掘りし続けている。キエサルヒマ編では結果としてそうなったという描き方だったけれど、原大陸編では最初から決着をつけないという着地点を見すえていたのが違いと言えば違いか。
神や魔王が現実に存在し魔法(人間に扱えるのは魔術のみだが)のある世界観にもかかわらず世界のあり方が非常に現実的。言い換えれば、ややこしい。
このややこしさはキエサルヒマ編を読んでいた当初の自分にはまだ理解できなかった気がする。
また、原大陸編では世代が変わり、かつてはぐれ旅をしていたオーフェンは地位を手に入れ立場を変えている。なのではぐれ旅をする主人公ポジションは次世代のマヨールたちに移った状態で話が進んでいくのだけれど、かと言ってオーフェンは活躍の場を次世代に譲った隠居の前作主人公ポジションというわけでもなく、立場を変えたなりの戦い方をしていて、今では重圧も背負っていて、相変わらず主人公である。この描かれ方もとても良かった。読者の自分が成長した分彼の成長がリアルに感じ取れる気がして。
原大陸編が終わりに近づくにつれて、立場を手に入れ大人になってもオーフェンの思想は相変わらずはぐれ者なんだなあ、とか、肝心なところで決断しきれず流れに身を任せてしまう弱さがまだあったりするのだなあ、とか感じる部分が出てきて、そこもなんだか納得してしまった。彼���相変わらず強くて弱い一人の人間だ。
それでも20年重圧を背負い続けてきたの、あんた立派だよ。
◆この巻の感想
原大陸の本編最終巻にあたる今作では、これまであまりスポットの当たらなかったクリーオウとカーロッタが描かれていて良かった。
カーロッタとクリーオウ、カーロッタとベイジットそれぞれの本心を見せることはないけれど互いを認めている間柄だから成立する会話の雰囲気がとても好き。腹を探り合っていても殺伐とせず奇妙な信頼が存在している。
ベイジットがこのポジションに落ち着くのはメタ的に出自を考えれば納得ではあるのだけど、シリーズ初期では脇役に見えていたので、ここまで成長するのは意外。魔術士としては半人前のままで頼りになるわけでも戦闘で強いわけでもないけれど、確かに彼女は主人公だった。
カーロッタも物語の中心人物であり続けたけれど終始腹の底が見えないおっかねえ女だったので、読者としてはもう少し腹の底を覗いてみたかったな。
マキが最終的にエドのことを「父さん役の人」ではなく「父さん」と呼んでいたことにはっとした。ビィプとの交流を経て心境の変化があったのだろうか。
エドは20年後の世界でも驚くほどエドのままだったけれど、そろそろ前を向けるようになると良い……。