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「家族」と「死」を描くスゴイ小説
2009/04/02 12:29
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:本を読むひと - この投稿者のレビュー一覧を見る
この小説がすぐれたモダン・ホラーだというゆえんは、死者のよみがえりという神秘(恐怖といっても同じだが)は別として、ほかのすべてが現代的なリアリティをもって丹念に描出されているところに求められよう。
最初に登場する新居はゴシック・ホラー的な森の一軒家などではない。眼の前の道路を巨大なトレーラーが走っていることで不吉感がいやでも醸しだされるが、そこは転居を渋っていた妻レーチェルをも満足させる家である。よくある「呪い」などがあるわけでもない。
また妻の、「死」という考えを排除しようとする性向は現代的な病いである。《死は秘密であり、恐怖であり、子供たちには隠しておくべきものだという姿勢。なによりも子供たちにだけは隠しておかねばならない。ちょうどヴィクトリア時代の紳士淑女が、性に関する忌まわしい、見苦しい真実を、子供たちには隠しておくべきだと信じていたように。》
彼女の神経質的な意識とペットの墓のせいで、娘エリーは飼い猫のチャーチが自分たちよりも早く死んでしまうことを気にする。そんな娘の猫への愛が、この小説の悲劇の序奏をかたちづくる。
この小説では、主人公ルイスと妻の両親、特に父親との険悪な関係が念入りに描かれている点など、一昔前のホラーとの違いが著しい。妻の父親は、かつて娘がつきあっていた貧しい医学生であるルイスに対し、医学部を出るまでの学費を負担するから娘と別れてくれと言う。
《申し出だけならまだしも、実際にゴールドマンは、ノエル・カワードの笑劇に出てくる道楽者然と、スモーキング・ジャケットのポケットから小切手帳をとりだすことまでしてみせたのだ。》
それがきっかけで二人は壮絶なののしりあいをするが(キング小説に特徴的なスゴイ言葉の応酬は、よく邦訳されている)、結局、レーチェルの愛が彼女の親たちとの絆より強く、二人は結婚し、彼女のアルバイトに支えられてルイスは医学部を卒業する。レーチェルはかつて父親が「賄賂」で二人の関係を破壊しようとしたことを知らない。
そのような背景をもった二人は十分すぎるほど愛し合っていると言えるだろう。小説ではセクシュアリティがふくよかにキング流に描かれている。娘と幼い息子を加え、理想的とも言える「家族」が、ここにはある。
キングの小説をざっと見渡したとき、主人公の家族が理想的な愛にはぐくまれているというのは少ない。『キャリー』はひどい母娘の家庭だし、『シャイニング』の父親もその狂気を家族に向ける。そこまで破壊されつくしてはいないが、たとえば『クージョ』のヒロインである妻は(家族が田舎にやってくることで『ペット・セマタリー』と似ている)空虚な気持ちから逃れるために不倫に走る。『デッド・ゾーン』の恋人たちは間違いなく幸せな家族をつくることができたろうが、運命は二人をひきはなした。
こう見てくると、『ペット・セマタリー』における「家族」のそれなりに幸せな状態は、その後に彼らを襲う形容しがたい不幸とかかわりがあるらしい、という思いがわく。娘への強い愛がなければ、主人公は娘の可愛がる猫がトレーラーに轢かれて死んだことなど、さほど気にしなかったろうし、老いた隣人ジャドの提案でペット墓地のずっと先にある奇妙な場所にわざわざ死骸を埋めに行くこともなかったろう。累進される続く悪夢のような悲劇も、つまりは愛のなせるわざ、なのだ。
『ペット・セマタリー』では、「死」の手前にあるもっと現実的な苦痛としての病いや老いが、レーチェルの姉や隣人の老いた妻を通して描かれているが、ここは重要なところだろう。人は不意に死んでしまうことで残されたものを悲しませもするが、日々苦痛に苛まれながらも、たやすくは死ねない存在なのだ。この小説を書いたときキングは30代だったが、病いや老いの苦痛を描くことで「死」が抽象的になることから救われている。
かつてこの小説を読んで以来、長く記憶していた心に残るシーンが中ほどにある。『ペット・セマタリー』には主人公ルイスがときおり「今」を回想するかのような文章が、最初のほうからあって、たとえば着いたばかりの新居を見て幼い息子が「おうち」という一語をもらした後には、こう語られる。《ルイス・クリードの記憶のなかでは、ゲージがはじめて言葉をしゃべったその一瞬は、その後も長く、魔法に似た光芒を放ちつづけた。》
小説のほぼ半ばでも、ほとんど同じように、その日《こそは、彼の生涯で真に幸福だった最後の一日だと言えるだろう》と綴られる。それは家族が新居に移ってから、ほぼ半年が過ぎたころのことで、父と幼い息子は近所の原っぱで凧をあげている。
《「ゲージ、タコ、揚げてる?」父にたずねるというよりも、自ら確認するようにゲージは言った。それから、ためしに糸をひっぱり、凧は風の強い空中でうなずきかえした。ゲージがもっと強く糸をひっぱると、コンドルは急降下した。ゲージと父は声を合わせて笑った。ゲージは手さぐりするように、あいているほうの手をのばし、ルイスはその手を握った。そうしてふたりは、並んでヴィントン夫人の原っぱのまんなかに立ち、コンドルの飛翔をながめた。
息子とともにいたこの瞬間――ルイスがけっして忘れなかったのは、この瞬間だった。》
もはや帰らぬ幸せなときを描くのは、その後に主人公たちを見舞う途方もない恐怖と対比させ、その悪夢の惨劇を突出させるためなのか。
キング自身が脚本を書いた映画では、この幸せな凧揚げと二ヵ月後の息子の死とは圧縮されて同じ日のなかで起きていたが、仕方のない処理だとはいえ、小説のほうがはるかに見事だと言うしかない。
愛するモノの死
2002/03/25 15:42
2人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:郁江 - この投稿者のレビュー一覧を見る
ぞっとするほど怖くて、泣きたくなるほど切ない物語。
タイトルの「ペットセマタリー」とはペットセメタリーという動物墓地の訳から来ている造語です。その動物墓地の奥にある秘密の場所に埋めれば、死んだものが生きかえる…とすると貴方ならどうしますか? 大好きなモノを失った時、人はどのように心の空白を埋めればいいのか?
それはとてつもなく大きな問題ですよね。生あるものはいずれ死ぬ。思いでは心に残るけど、それだけでは残った者は生きていけないんです。全ての始まりは、娘の飼っていた猫の死…娘を悲しませないために猫の死骸を秘密の場所に埋めにいきます。はたして猫は生きかえるのか?
80年代初頭の作品
2020/01/25 14:22
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:肋骨痛男 - この投稿者のレビュー一覧を見る
長い間品切れ状態が続いていたが、再映画化されたこともあり増刷されたようだ。買って損はないでしょう。多少の繋がりもあるクージョも再販してもらいたい。