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短編だけれども白石一文がぎゅっと詰め込まれた再生の物語だなと思った。
解説で、パートナーを亡くした編集者の方(中瀬ゆかりさん)へ贈ったものだと知って納得。
とても優しくて包み込むような文章だったから。彼の作品はどれも優しい物語なのだけれど、文章からそれを感じることはあまりなかったから。
物語の終盤、芹澤と珠美は明らかに救われ、再生されるのだけれど、では何から救われたのか、については明確ではない。(出来事としてはあのことがかっかけでそれは明確に描写されているけれど、そのことが2人の心に明確なダメージを与えたとは思えなかった)
人は日々、傷付き、恐れ、挫け、そして日々、癒されてゆく。
芹澤と珠美がゆるやかに再生していく心地よい物語を背景に、白石一文が中瀬ゆかりさんへのメッセージを伝える構造になっているのかなと思う。
香代子の思い出の曲の話や、生と死の話、子どもがいる世界・いない世界の話。
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「ちっぽけなミスからっていうけど、本当は大きな失敗を招いている時は、それはちっぽけなミスなんかじゃない。重大なミスを犯していることに気づいていないだけ」
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白石さんの書く主人公は、さっぱりとしていながらも優しさがある人物で何かに執着していないから惹かれるのかなと思う。
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これから読む方、
必ず解説まで読んでください。
喪失を知るすべての人へ捧げるレクイエム
と書かれていたが、
私自身がこれまで感じた喪失とは少し違ったものではあった。
ただ、大事なことを気づかせてくれるようなテーマが盛り込まれていたことは間違いない。
自分の向いていた方向を考え直すような作品だと感じた。
本文は終始サクサクと読みやすかったのに
解説まで読んで、こんなに考えられた内容だったのか、と頭がぐるぐるした。
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人生観を考える哲学的なものを感じた。解説を読んでこの小説がの意図が少し分かったような気もするけれど、やはり難しい。白石作品の醍醐味でもあるようで、忘れた頃にまたこんな作風も読みたくなりそう。芹澤さんは日比谷高校出身、大学も一流、仲間は皆エリートでそんな彼らにも中年過ぎて亡くなる人もいて立ち止まって人生を考えてしまう。幸せとは何か?
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「人は親にならない限りずっと子供。子供を持たない人は、最後までずっと子供でいようとしている人」
刺される。否定できない。少なくとも「子供を持つ努力をしない人」と「子供を持ちたくないと強く思っている人」に限定して当てはまるものだとは思うけど。
そしてさらに「親友のお葬式に出られないことを悔やむ感情もない」。
これは主人公と自分が重なって、冷たい種類の人間であることを痛感した。
でも存実はそれを客観的に気付いているし、珠美の存在によりこれから変わっていくのであろう良い未来が想像できる終わり方でした。※それにしても突然の終わり方で驚く。ページを探して二度見。
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芹澤と珠美が“色仕掛“をきっかけに出会い、退職や離婚といった社会的には一見マイナスな出来事を皮切りに、ふたりが徐々に回復していくストーリー。
その過程には、著書白石さんからのメッセージが散りばめられている。
共感できるメッセージもあったが、衝撃を受けるような、何か新しいことを気づかせてくれるメッセージがなかった上に、よく理解できなかったメッセージがあったため、星は3。
以下、メモ
■共感できたメッセージ
・ほんの小さなミスはほんの小さな結果を招き、重大なミスが重大な結果を招く。重大な結果を招いた以上、そのミスはほんの小さなミスであるはずがない。些細な手違いや判断ミスに見えたとしても、実は、そこには深刻な要素がぎっしりと詰め込まれていて、ただ、僕たちはいつも散々な結果に打ちひしがれるあまり出来事の本質を見極めようとしない。だから重大なミスがしばしば小さなミスのようにみなされてしまうだけなんじゃないかってね。
・心が参ってしまったときは自分自身に治してもらうのが一番なのよ。というか、自分の心は自分にしか治せないの。
・幾らお金があったって、生きる目的みたいなものがなくちゃ生きていけないものよ
・一生、誰かの経済力に寄生して生きていくなんて、それほどつまらない人生はありませんからね
・私は生まれてからこのかたずっと、奥野と私が存在する世界で暮らしていた。それが5時間前に奥野が死に私だけが存在する世界に変化した
・奥野が死んだことなど別に知りたくなかったし、知らなければ、私はこれからも奥野と私が存在する世界にずっと居続けることができたのだ
・結局、人間は、自分が死ぬのかどうか判断がつかないまま本当に死んじまうんだよ
・ビジネスにおいて最も必要な資質は大胆さと冷静さだったり妻や子供を持った男たちには、会社を辞めるおいう選択肢がなく、自分たちを脆弱にしているが、当人たちはよくわかっていない。
■よく分からなかったメッセージ
・芹澤さんって、どうして結婚しなかったの?
他人の世話をするのが面倒だからかな
・我が子ほど愛おしい存在はいませんし、女だからこそ深く味わえる愛情というものがありますから。ただ、珠美のように、子供という重い荷物を一生持たずに暮らしていくのも悪くないという気はしますね
・女性が仲間割れするのは、男に比べると若い時期に時間がなさすぎるのと、容姿といううまれながらの絶対的格差のせいだろうけど、ただ、きみたち女性が団結していかないと、この男社会を変えるなんて到底不可能だと僕はいつも思うね
その団結って発想が、どうしても私たち女には馴染まない気がするんだよねえ
・子供のいない世界と、子供のいる世界
つまり、子供の感情が分からなくなった人間たちがいる世界と、子供と子供の感情が分からない人間とが共存症する世界のこと。
・人と共に生きても、人間は決して強くはなれない
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まさかの白川道の死を受けて、事実婚だった女性に向けて書いた小説。やはり、白石一文は、いい。2019を締めくくる最高の一冊でした。
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読み終わったあと、「ここは私たちのいない場所」というタイトルの意味について深く考えた。白石一文作品って、タイトルが素敵だけど、これもタイトルがずっと心に残って、ずっと考えさせられる感じ。
主人公の存実は幼いころに妹を亡くし、自身は妻も子供も持たないと決めている、大手企業の重役。ひょんなことから会社を辞めざるをえなくなるところから物語が始まる。そもそも簡単に会社を辞めてしまえるのも、妻子がいないから。彼はあくまでも家庭なんて持たない方が良い、という姿勢を貫いている。会社を辞めて日々何もすることがなくなっても、独り身がさみしいという感じはない。
しかし、大学時代の友人ががんで急逝したり、会社を辞める原因を作った元部下と、浮気相手の女性との関係を目の当たりにしたり、出張先の海外で大きな事故に遭った友人の話を聞いたりするうちに、彼の価値観が変わっていく・・・というのが普通の小説なんだろうけど、この主人公の場合、まったく変わらない。不思議なのが、主人公の価値観は小説中では変わっていないはずなのに、読者の方の価値観が揺さぶられ、彼の価値観は変わっていないみたいだけど、果たして本当にそうなの?みたいな気分になってくることだ。
彼はまったく変わっていないように見えて、いくつかの体験を通してやっぱり変わっているのではないか、この経験をする前と後では、違う人間になっているのではないか…。ここは私たちのいない場所?
それから、「子供のいる世界」と「子供のいない世界」という区切りも出てきて、とても興味深く考えた。私は今「子供のいる世界」にどっぷりと漬かって生きている。子供を生まなければ、「子供のいない世界」で朝から晩まで働いて、平日の昼間に公園の滑り台の上から青空を見上げたり、飛行機雲を見つけて喜ぶこともなかった。確かに自分にも子供だった時代があるのに、それをすっかり忘れて。
私たちは皆、同じ世界に生きているのに、そこかしこに「私のいない場所」「私とはまったく無縁の場所」がいくつも存在している。いないからそのことに気づきもしないのだけれど。
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優しくて嫌悪すべきところはなくて、何だか2人の主要登場人物は、誰かの理想を込めて作られたような人たちだなと思った。気持ちよく読み進められた。随所に記された死生観も考えさせられる。
でも、なんとなく、メルヘンみたいで現実感ないなーと思ったり…
最後に解説を読んで、すごく腑に落ちた。誰かを励ます思いで創られたものか。優しい手紙みたい。解説を読んでから再読すると、また沁みてくる。
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結婚せずに一人で生きていくこと。会社に囚われないこと。子供のいない世界が描かれている。とても読みやすく、内容もあっさりしていて、澱みなく読み進められる。要所に主人公の哲学が語られるが、少し弱い気がした。物語が少し弱い。物語と主人公の持論とのつながりが弱く、故に語られる内容に深みが足りなく感じてしまった。
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順風満帆な会社員人生を送ってきた大手食品メーカー役員の芹澤は、三歳で命を落とした妹を哀しみ、結婚もしていない。ある日、芹澤は元部下の鴫原珠美と再会し、関係を持ってしまう。しかし、その情事は彼女が仕掛けた罠だった。自らの運命を変えた珠美と会い続けようとする芹澤。彼女との時間は、諦観していた彼の人生に色をもたらし始める─。喪失を知るすべての人に捧げるレクイエム。
著者の小説を読むのは2作目。特殊な?導入さえ納得できれば、すんなり読み進めることができた。
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俗にいうと人生成功している主人公があっさりと自分の地位を捨てていき、周りの人間模様をとおして自分の心の動きを淡々と綴っています。主人この独りよがりとも見える人生観や死生観が妹の死のみが原因なのかは、そこまで影響するのかな、と疑問に思いました。
喪失感で1人で生きる道を選び、世間的には成功して地位は得たけど、不意なことからそれを失ってもそこは喪失感がなくたんたんしているのがむしろ不思議でした。
結末に向けて希望のような明るい未来が見えそうな予感がしますが、あくまでも主人公は淡々と事実を受け止めているのが悪く言えば素直じゃないねえという感じですが、だいぶクールだなと思いました。
友人のしに関する心の動きはだいぶ共感してしまいました、、、、