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一九九三年に誕生し、単一通貨ユーロの導入などヨーロッパ統合への壮大な試行錯誤を続けてきたEU(欧州連合)。だが、たび重なるユーロ危機、大量の難民流入、続発するテロ事件、イギリスの離脱決定と、厳しい試練が続いている。なぜこのような危機に陥ったのか、EUは本当に崩壊するのか、その引き金は何か、日本や世界への影響は……。欧州が直面する複合的な危機の本質を解き明かし、世界の今後を占う。
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欧州で起きている問題についてまとめた本。具体的には、難民問題、イギリスのEU離脱、反EU政権の誕生の傾向など。
個人的に、欧州で起きている様々な変化は、現状に不満を持つ人々が増えたことにあると感じていたが、本書でも同様の見解がなされていた。しかし、それぞれについて事例の背景が紹介されており、今後の展望まで触れていることは本書の価値を上げている。また、最新の政治学の理論や知見に触れつつ、現状を分析しているのも良いところだと思う。
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初めてドイツに行ったのは東西統合されてユーロに切り替わった直後だった。EUは色々と煩いことをいうやつだなと思っていたくらいだった。EUについてほとんど何も知らなかったことが良くわかった。とてもためになる本だった。
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単にスピード感だけで時事のことを扱う、内容の薄い新書も多い中、本書は本当に質の高い新書だと思います。EUが今抱えてるいろいろな問題について、それぞれ丁寧にここにいたる経緯や状況の変化を説明してくれます。
内容が本当に盛りだくさんでまだまだ咀嚼できてない(いい意味でもう一度読みたい)のですが個人的には、シェンゲンであったりユーロであったり目に見えるメリットを与えてくれていたEUが、まさにそのメリットである部分から大いに問題(ユーロ危機、難民問題、テロリストの問題)が生じてしまっているということが一番大きいのかなとこの本を読んで感じました。一方で、欧州か議会というものに対して直接選挙ではあるが遠い存在であり、メリットではなくさまざまな規制や財政規律を守ることへの強い圧力、テロリストの流入の危険などデメリット部分ばかり強く感じられるようになってしまったという状況があるということが感じられました。この辺が、ブレクジットや各国でのEU懐疑派の躍進につながっていると。
通読して自分も少し現実的になれたのかな、という気がします。今までEUというものはどちらかというと素晴らしいものだな、と思っていたので、これまでもいろいろなせめぎ合いがあって結構理想と現実の狭間をうまく通ってきているんだな、と思われて。
総じて、EUの現状や今後を知る上でとてもいい入門書のように思いました。おすすめです。
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通貨、難民、安全保障、BrexitをEUにとっての複合的な危機と捉え、その全体像と歴史的文脈への位置付け、そして今後の展開を議論する。300ページ弱の中に相当な情報が詰め込まれていて、読むのにはそれなりの時間と気力が必要だった。しかし、ヨーロッパ、あるいはEUが置かれている状況をつかみ、分析的な視座を得ることができる。時事的なだけでない、広い視点をもたらしてくれる。
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英国のEU離脱による欧州に与える影響について書かれた本。少々難しいところもあるが、欧州の歴史とともに、現在のEUが抱える課題を整理してくれる。大きな権力となったEUが、何を解決すべきか分かるのだが、特効薬的な解決策がないのが、現在のEUが持っている課題の一つだ。異なる文化、言語、民族が統合するのは簡単ではなく、長い時間が必要だ。人間の一代くらいでは足りないのだと思う。もっと長いスパンで欧州統合を考えなければならない。長期的な目で物事を見ないと、できることもできないし、不安定さから戦争などの危機にもなるだろう。欧州のゴタゴタを見ると、いかに地球上が不安定な状態で人間が生活しているのかが分かる。本書が執筆されたころはまだトランプが大統領に就任していない。筆者は2017年1月の状況を見て何を思うのだろうか。欧州状況は良い方に向かうのだろうか。
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EUの歴史から、ブレグジット後の世界まで、整理されて書かれていると思う。
EUすごい!という雰囲気の中、地理を学んだ時の高校生の記憶からは、かなり印象が変わってきているのだなと感じた。
問題解決のための手段だったEUから、問題としてのEUへ。
EUについて、ざっくり知るためには十分な一冊だと思う。
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後半の「今後のゆくえ」についての考察部分は自分にはよく分からなかった(評価のしようがなかった)が、各危機の各論解説的な前段…ユーロ、難民問題、安全保障、イギリスのEU離脱…については、日頃ニュースに触れて「何となく」分かっているようでよく分かっていなかった内容について整理して理解することが出来、大変に有用だった。特に、ちょうど先に同じ中公新書の『ポピュリズムとは何か』を読んでいたのが…背景となるコンテクストが踏まえられ…よかったように思う。
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20170315〜20170410 ユーロ危機、難民流入、テロ事件、イギリスの離脱…危機の本質を読み解く(本の帯)EUは解体するのか?著者は「解体」ではなく「改編」なのではないかと分析している。岐路に立っているのは間違いないだろう。
そもそもイギリスのEC加盟だって、イギリスを引き込むことで(当時の)西ドイツとの政治経済的均衡を図ろうというフランスの思惑によるところが大きいようだし。イギリスのEU離脱交渉も一本道で進んでいくとは限らないだろうな。
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欧州で起きている様々な問題がよくわかる1冊。やや盛りだくさん過ぎるかもしれませんが、本当のところ何が起こっているのかが理解できる。力作です。
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ユーロという統一通貨に対して統合的な財政政策がうまく機能しないことに端を発したギリシャなどの財政危機、シェンゲン協定に対して保安上の情報が国家間で共有できないことに伴って生じた、テロリストや難民・移民の問題といった欠陥を詳説し、今後の行く末を占った一冊。EUそのものに対して民主制で選ばれた主体という正統性が未だ確立されていないことが問題の本質にあるよう。最終的にはやはり言語や民族の壁を乗り越えることがまだまだ困難なようである。
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ヨーロッパのことについて、断片的にしかわかっていなかったことに気づかされる。著者は、縦糸と横糸がどう絡んでいるのかまで、よくわかっているのか、わかりやすい。
この人の著作をもっと読んでみたい。
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学者先生の本というのは、どうにもお堅いものが多い印象で、この本もお堅いなあと感じました。
ただ、文章こそお堅いものの、難解な表現はそれほどなく、EUのことなど全然よくわかっていなかった自分にも、EU事情をだいぶ整理することができました。
この本で特に注意すべきは、大要次のとおりだと思います。
いま世間の人々をエリートと大衆という形で大雑把に二分した場合、大衆のエリート不信が高まっている、ということです。
我が国でも左派とかリベラルとか言われる人たちが選挙の得票はからっきしで、アメリカであればポピュリズムと言われながらもトランプ大統領が誕生したわけですが、これは断じて軽視すべからざることです。
どうも我が国のマスメディアも、アメリカ国民の選択を訝しんでいるわけですが、民主主義の先輩をそう侮らないほうがいいでしょう。
彼らに選挙で勝てる人々がいないという事実、国民から選ばれるリベラルではない、という事実は、民主主義の世の中にあって、致命的な問題です。
民主主義における正統性の所在について、もっと真摯に向き合わない限り、EUと同様の危機に瀕するのではないか。
理念が崩壊するというのは、理念の体系が崩壊することではなくて、理念の聴き手・担い手がいなくなることだと、私は感じるわけです。
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20世紀に戦火にまみれた欧州を国境を越えて統合する壮大なイニシアチブは、ユーロ・ギリシア危機をはじめとして、シリアからの難民や、テロ、そしてはたまたBREXITと、2010年代に入って次々と困難に渦に飲み込まれることとなります。
PWCの予測ではEU加盟国が世界のGCPに占める割合が10%未満へ低下する、としています。そうした中、欧州はアメリカそして今後より成長していく新興国(中国、インド、ロシア、ブラジルなど)に伍していくために、より一層バーゲニングパワーを結集させていく必要があることでしょう。著者は、そうした競争的側面から、EUは存在意義があることを本書の後段で述べています。
一方欧州共同体が、パリ協定など環境基準や人権問題などで、世界的なスタンダードの構築にリーダーシップを発揮している分野も多岐にわたることも事実です。欧州が、今の危機を乗り越えて統治のモデルを提示し続けることができるかどうかが、欧州各国の首脳(政治だけでなく、経済や文化各界での)たちの双肩にかかっていると思いました。
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ユーロ危機、欧州難民危機、ウクライナ危機やパリ同時テロ事件といった安全保障上の危機、イギリスの国民投票によるEU離脱決定という、2010年代のEUを襲った複数性、連動制、多層性を持った危機を「欧州複合危機」と捉え、EUが大きな分岐点にあることを指摘した上で、それぞれの個別の危機を振り返るとともに、欧州複合危機の背景や構造を歴史的、政治学的に分析し、今後の展望を示している。
本書では、歴史的には、EUは、ドイツ問題と東西冷戦の解決の手段として形成されてきたが、現在のEUは「問題解決としてのEU」から「問題としてのEU」になってしまっていることが指摘される。そして、それを読み解くキーワードとして「アイデンティティと連帯」、「デモクラシーと機能的統合」、「自由と寛容」、「国民国家の断片化/再強化」が挙げられている。特に、複合危機に対処するためには、機能的にEUを強化する必要があるが、それを支えるEUの民主的正統性が稀薄であるために、機能強化が進まないという悪循環に陥っていることが強調されている。一方、危機に見舞われても生き残るEUのしぶとさについても、EUの権力性の点などから言及されている。そして、EUのインナーを中心とする同心円的な再編を展望するとともに、欧州複合危機が現代の先進民主国に通底するものであることを、〈グローバル化=国家主権=民主主義〉のトリレンマという観点から明らかにしている。
本書は、必ずしも読みやすいものではないが、複合的な危機に見舞われている現在のEUを理解するために有益な、骨太の内容だと感じた。