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ちょうど社会に出るころ、日本では小泉、アメリカではブッシュが政権を取っていたということもあり、深く考えもせずに自由貿易に対する肯定的な思いを持ってきていた。
しかし、現実にはニュースで日々報道されるような状況となっていて、そのねじれについてイマイチ理解できずにいた。
トッドは一貫して自由貿易には反対の立場をとってきているが、それはあくまで自国での民主主義を守ることを一義に考えていたからだと理解した。
民主主義にしても自由貿易にしても、すべてが同じ条件で、プレイヤーは合理的な判断を行うという、非現実的な前提のうえになりたっている以上、現実に落とし込むにはどこかでカスタマイズが必要ということなのだろう。
自由・平等が絶対善であるところに固執しすぎると、かえって思考停止に陥ってしまい、絶対に到達できなくなるということがよくわかった。
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まさにアメリカ大統領選で分断が起きつつある中、このタイトルにビビっときたのでで購入。しかし、なんだか失敗だったかな、、、という印象。
何が問題かというと、個人的に全体のビジョンというか、全体を通じて貫かれている骨子というものが感じられません。各章の論調も何かつながっていそうでつながっていないという印象です。どことなくちぐはぐな感じを受けました。
本書は独占インタビューの内容を書籍化したもののようですが、おそらくそれが問題なのでしょう。章立てはインタビュワー(=訳者?)が組み立てたものではないでしょうか。繋がりや論拠が薄い部分は、深く聞けていない箇所だと思われます。
全体的な論調としては「教育に格差が現れることで、一部の ”目的なきエリートが” 愚政をしき、これが非エリートとの分断を深刻化させている」 といった内容。
しかし「その教育格差が何ゆえに現れたのか」「なぜこれが(日本を除く)世界的な傾向となっているのか」「エリートたちがグローバリズムを追求する理由は何なのか」「教育エリートによる国家の分断と、グローバリズムにおけるドイツ、中国への言及との関係性は?」などなど、いろいろとつながらない点が多いです。
これらはトッド氏の様々な書籍にあたることでそれぞれのつながりを見いだせるかもしれません。
本書で日本に言及している「第4章 日本の課題と教育格差」はなかなかユニークです。おそらく日本の読者に向けたリップサービス的な要素を含んでいるのでしょうが、キラリの光る分析も見られます(「確かにそうかも」と感じさせるものがありました)。
深い思想を知りたいというよりは、トッド氏の基本スタンスをサクッと把握したい方向けの書だと思います。
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民主主義とはマジョリティである下層部のひとが力を合わせて上層部の特権階級から社会の改善を手にしようとすること。
現在の教育は自らの成熟のためでなく、他を押しつぶすために学んでいる。
退屈は成長のために必要。
ポピュリズム不在の日本。
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間違いなく現代の知性の最高峰だと思う。
発生している事象分析の切口がユニークだが直感的にも根拠を伴った総合的にも確かなものと感じる。
自分も含めて世間は民主主義というものを正しく理解出来ていないのだなと思った。皆がわかりやすくまた反応しやすいワードが充てられることで本来の意味と異なるものまで包括して認識されてしまうのだろう。
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フランスの知識人による一味違う社会のものの味方を教えてくれる一冊。この本はエッセイ集のような感じなんだけど,主な論考は,表紙にも書かれている教育による格差,そこから引き出されるエリートの問題についての話と,著者の専門の人口についての話がメイン。背景が読みきれないところはちょっと読みにくい部分もある。正しいかどうかはさておきとしても、日本だと安倍か反安倍か,トランプか反トランプかで凝り固まった論調しかないけれど、0か1かの話ではなく,そこから距離を取った論考なので面白い。著者の立ち位置を確認しながら読むとそのユニークさがわかる。まぁ,ドイツへの論考とかは,フランス人ならではの視点のような気がしてならない(著者はフランスの中では少数派のようだけれど)。
そりゃ教育も一様ではないから差があるのは仕方ないと思っていたけれど,日本で格差が広がっている感じが欧米ほどではない理由が,格差に反対している人たちげ毛嫌いしていそうな家父長制に求めたりするのはとっても意外。逆に言うと,フラットな関係が当たり前になればなるほど格差に対して抗議が起こるようになるとも言えるわけで,興味深い。著者は生産よりも出産と著者は言っていたけれど,自由恋愛や婚外子などの積極的な策をとったときにどうなるのか。自由には格差はつきもので,経済以外の部分でも格差が広がるどうなるのか,それを埋める方法があるのかを考えたい。結局は「国家の経済圏で人々が豊かになれ、皆が利益を得られる方法が何かを考えることでしょう」(p164)に尽きるのだろうけれど。「皆」の中に自分が入っているか。そこが大切。エリートの話はとっても面白いし,格差感は無いかもしれないけれど,エリートの問題は残念ながら日本にも当てはまっていると思う。最後に紹介されている「絶対値による会話分析法」は「法」というのが適当なのかは議論がありそうだけど,とっても分かる。小学生高学年とかの会話からでも体感できる。この本が正しいかどうかと言うよりはに,そこから自分でどう考えるのかを知るヒントになる本だと思う。
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初トッド。多分他にも持ってるけどまだ読んでない。インタビューをまとめたものなので内容はやや散漫だが、著者の基本的な思考枠組みは見て取れる。人口と家族構成をメインにするアナール学派やね。あと、地政学の匂いも。興味は持てたのでメインの著作にも挑戦してみようと思う。
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高等教育の格差が社会的な格差を生んでいる。一方で高等教育を受け上級階層を作っている人びとの知的レベルは劣化している。自国フランスだけではなく、日本に対しても他国と比較しながら論評している。
生き残るのは中国か、ドイツか・・ はたまたアメリカやロシアの反撃も? 日本は結局のところアメリカの傘下で生き延びるしかないのでしょうか。
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教育と知性が分離してしまった、という指摘には唸らされる。
過激でびっくりするような考え方も多かったけど、歴史家という視点だとそう見えるんだなあと新鮮でもある。
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民主主義と一言で何となく普遍化されているイメージを持つが、しかし民主主義も国によって様々であるといったことは、指摘されて改めて気づかされる。しかし、内容が難しい……。
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氏の著作は初めて。なので、直ぐには理解できない所も多かったです。家族の在り方が国家に反映されるという氏の基本的考え方は面白いが、ホントにそんな割り切れる話なのか?でも、仏のgilet jaune、英のbrexit、仏のtrampも新鮮な視点から興味深かったです。日本に関して、人口減少を食い止めること、そのための完璧さを捨てることの提唱は納得。「人が口にすることと全く反対の内容が、しばしば真実である」というポイントも納得。ドイツに対する見方とか、沢山の新しい見方を教えて頂きました。
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欧州の知的エリートの問題意識がよくわかる一冊。教育の普及が所得格差を生み、社会の分断につながるという指摘は日本にも当てはまるであろう。欧州内でのフランスの衰退の憂慮からくる悲観的な視点は割り引く必要があるが、資本主義、自由主義の課題を認識できる一冊。アメリカ人には、書けない内容であろう。
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保護主義が必ずしも悪いものではないことが分かった。ただ、教育格差による分断が諸悪の根源として、ではそれに対する処方箋が提示されていない。
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<目次>
はじめに
第1章教育が格差をもたらした
第2章能力主義という矛盾
第3章教育の階層化と民族主義の崩壊
第4章日本の課題と教育格差
第5章グローバリゼーションの未来
第6章ポスト民主主義に突入したヨーロッパ
第7章アメリカ社会の変質と冷戦後の世界
訳者あとがき解説
p40集団の道徳的な枠組み
p43上層部の人々が庶民に語り掛けることで社会に
存在していた
p102江戸時代~完璧主義に悩まされることなく~豊かな
創造性があった~少しばかり無秩序な社会
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アメリカの覇権の没落、EUモデルの没落、フランスの疲弊、日本の諦め、アメリカとロシアの接近、アメリカとドイツの対立など、いくつか興味深い視点もありました。教育が及ぼした影響というのはなんとなくわかるが、説明力が弱い印象を持ちました。また、問題だらけで解決策が言及されず、今後に不安を残すような感じで終わってしまっておりモヤモヤしています。
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久しぶりの社会観や文明論といった大きな枠組みを論じた本。Globalization は不可逆な流れであり自由貿易は促進するべきである、保護主義は内向きな排斥主義であり移民の流入制限は排斥運動だ、という世の中の流れに対し、
過剰な自由化によりGlobalization fatigue(グローバリゼーション疲れ)が起きている、globalizationを抑制しても世界化(mondalisation)は消えないし、適切な保護主義は有用、移民の一定程度の抑制は国家という単位に帰属意識を持つ上で必要、等カウンターの意見を次々と提示する。
「フリードリヒ・リストの保護主義の定義によると、それは自由主義の一端でありながら、国家(ネーション)の存在を認めるもの」(p117)という保護主義の捉え方は、自由貿易を礼賛しトランプの関税戦争を馬鹿げていると一顧だにしない今日では偏見を打破する上で重要。
能力主義については階級化を招いているという主張はサンデルの本を最近読んだこともあり新鮮味はなかったが、国家という運営単位を維持する上で現在最有力になっている指針である、と考えると、国家の帰属意識の揺らぎを説明するピースになっている思う。
宗教論争に隠れて社会の本当の問題である階級格差の拡大に目が向かないのが問題、という点は、BLMなどの人種対立やPCによるキャンセルカルチャーに連日のニュースが支配されて社会の格差にいつまでも目を向けられないアメリカにも深く刺さる指摘。
トランプ後のアメリカ然りブレグジット然りどの国も新しい国家像や指針を見出せていない中、こうした既存の価値観に対する疑義はとても納得感がある。
保護主義や移民に対するネガティブな意見を民主主義の要素として肯定するなど、国家を基準とした見解が多く、殊更にグローバル化や既存の枠に囚われない企業個人を賞賛する今日では珍しい。民主主義を実現する社会単位として国家はまだまだ基盤となると改めて思わされる。
読んでいると歴史は繰り返す、という見方を改めて思い知る。国家という伝統的な単位を視点に置き、社会階層が流動化すると混乱が起き、また新しい階層が生まれ、、という波の繰り返しに現代も当てはまるように感じた。
新書で社会分析をするとどうしても論拠が書ききれず、アメリカや日本ついての見解には首を傾げる部分もあるが、広い視点を得る上で読んで良かった本。