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米国の低学歴白人男性を取り巻く状況から、米国資本主義の問題と道のりが見えてくる。
世界的に中年の死亡率が減少する中で、米国の非ヒスパニック白人の死亡率は減少どころか増加傾向あるという。その死亡はとりわけ自殺、薬物、アルコールに代表される。どれも直接的間接的な自殺であり、これを象徴して「絶望死」と言っている。金儲けに奔る医療制度、レントシーキングによる「下から上への」再分配といった構造的な問題を指摘し、貧困や大不況が直接的に影響しているという(通説にありがちな)見方はきっぱりと拒んでいる。言い方を変えれば、貧困という経済的な現象のみならず、質的な側面も含んだ社会的排除の行き着く先として絶望死を捉えている。
米国でトランプが支持された背景なども見えるのだが、これは米国特有の問題ではなく資本主義の在り方を問うものでもある。著者に言わせれば、医療とレッセフェールは相容れないというアローの言葉を体現しているのが今の米国だと言うことだろう。金持ちへの課税という分かりやすい方法ではなく、上への再分配という構造的な問題を解決しなければ、問題は前進しないだろう。
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自分の浅はかな理解では、米国では、労働者階級の白人中高年の死亡率が高くなっている統計データを元に、白人の下流階級がいかに悲惨で、彼らが収入だけでなく自己評価も苛まれている状況を映し出す。
彼らは自殺率が高いだけでなく、薬物依存、アルコール中毒のような緩慢な死亡も多い。
つまり、自殺に至るまでの絶望感を麻薬やアルコールで紛らわしている状況らしい。
さらには、肉体労働に関係する人達が多いので、死亡に至らなくても、中高年になると心身的な痛みも感じているらしい。
トランプへの熱狂を生み出したのは彼らなわけだ。
今まで疑問に思っていたことは、日本人で米国留学したり、MBAを取得したり、TOEICの高得点を取った人達は皆、反トランプで、バイデン支持だったのに、実際の米国ではトランプの投票率が異常に高かったこと。
トランプを支持した米国人がどんな人達なのか、日本から見えないし、米国を知っている日本人の人達からもその説明はいくら聞いてもわからない。
たぶん、米国留学やMBAを取った日本人は、米国の新上流階級の人達と親しく、彼らと同じ価値観なので、それと相容れない白人の労働者階級の人達と交わることはなかったのだろう。
そんなことを思うと、まだまだ米国を知らないし、米国が色んな意味で世界の最先端を進んでいることを思うと、日本でもそういう未来が近いのかもしれないのかなと思う。
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「アメリカがグレイトであった」と感じる特定の層が確実に存在し、それが懐古幻想でも何でもなく統計的に「実際にグレイトであった」ことを証明し、かつ、そうではない層にとっては同じく統計的に「実際にグレイトでなかった」ことを同時に証明し、アメリカの中に異なる2つの別世界が在ることを論じる一冊。本書と「ジョナサン・ハイト / 社会はなぜ左と右にわかれるのか」の二冊でアメリカの分断については概ね個人的に納得できたので、この問題について読むのはしばらくこれで終わりにしようと思う。大変な良書。
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"絶望死"、ショッキングなワードである。
一般的には、社会が裕福になると、平均寿命は伸び、死亡率は低下する。ところが、中年の白人アメリカ人の死亡率が増えていることを著者たちは知る。しかも増加率の高い死因は、自殺、薬物の過剰摂取、そしてアルコール性肝疾患の3つであった。これを著者たちは「絶望死」と名付けた。そして、これら絶望死が増えているのは学位を持たない人々の間であることを、統計的に次々と明らかにしていく。
このような変化の原因は、グローバル化に伴う労働環境の変化、特に製造業労働者の低賃金化、コミュニティの破壊等がある。それでは、他の先進国ではそれほど目立った変化がないのに、なぜアメリカでは死亡率の顕著な増加という現象が起きているのか。
著者たちは、アメリカの医療制度の問題、中毒死を引き起こすおそれのあるオピオイド(鎮痛剤)の蔓延や高額な医療費と保険制度を批判の俎上に乗せる。
また、製薬会社や病院コンツェルン等が、豊富な資金力に任せて自らに有利な規制を設け、あるいは規制を緩和するよう政治家や省庁に働き掛ける、レントシーキングによる不公正に言及している。
著者たちは、資本主義や格差の存在自体は問題視しない。不公正な富の分配を是正する方策はあるということで、対策を提示する。
果たしてそれは解決策になるのだろうか。現在のアメリカの政治・経済構造の下で可能性はとても低いのではないだろうか。第16章「どうすればいいのか?」を読んで疑問を持ちながらも、いろいろと考えさせられた。
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世界的に見ても死亡率が低下する中で、中年白人の死亡率が上がっている。
医療やその他の生活環境が改善されているはずなのに、何が起きているのか。
トランプ支持の基盤理解もできる。
アメリカの低学歴労働者を取り巻く問題の原因を検証しながら絞り込んでいく過程もとてもよい。
日本でも同じことにならないようにと思うが、すでに始まっているはず。
企業内で最低賃金と最高の役員報酬の倍率制限など(20倍以内とか)法整備で対応してほしい。
労働分配率がおかしいこと、社会の富を奪っている社会コストは医療費であること(医療サービスが高額料金を設定して、莫大な利益をあげたり、不当な薬で製薬会社が利益をあげていること)、社会を支えていたコミュニティが崩壊していることなど、対岸の火事とは到底いえない。
読み終わると、危機感を感じる。
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本書で書かれている事柄には、アメリカ特有だと感じさせることも多いが、資本主義の構造的な変化は日米に共通するものだ。
絶望死へ向かう人々が生み出したのがトランプだとすれば、彼は異端ではなく極めて正統な大統領だったのかも知れない。
金が上へ上へと流れていく、それは資本主義として当然のことなのかも知れないが、それが歪なまでにバランスを欠き始めている。弱者からの構造的な収奪、そんな傾向は日本にもすでに現れているだろう。日本で絶望死が増加しない可能性はない。それは少し違った形なのかも知れないが、絶望で死に至る、そんな人が増えていく。あるいはすでに増加しており誰も気づいていない、そんな気がした。
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ノンフィクションの作品。
世界恐慌で亡くなった人を描いた作品。
戦争や病気だけでない死について考えさせられた。
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高卒と学卒の間で格差が広がっている。
高卒は(特に白人)、学卒にくらべアルコール依存、薬物依存、自殺する割合が多い。この3つを絶望死という。
対策として、オピオイド、医療、コーポレートガバナンス、税と給付策反トラスト、賃金政策、レントシーキング、教育がある。
オピオイド、過剰処方へは、代替医療を検討する。
医療には、ある程度の強制、支払い能力がない人には補助、そのための改革必要。今はお金がある人だけが高度な治療を受けられる。
コーポレートガバナンス、労働組合の衰退は従業員から力を奪って、経営者や資本所有者に与えた。非競走条項は全国的にも違法にすることはできるだろう。
税制と給付政策、UBIの政治的実現可能性は、労働力供給の効果に依存する。UBIは失業者に、新たな仕事の研修を受け、新たな活動を始め、コミュニティーに貢献する自由を与え得る。同時にまた、民主的な政治活動にもっと深くかかわり、長期的には自分自身の人生を再構築する自由も与えることもできる。だが私たちは、仕事の崩壊かもたらした絶望死を、人生の意義と地位の喪失を心配している。そんな私たちから見ると、UBIは未来へと進む最善の方法だとは思えない。
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アルコール性肝疾患,薬物過剰摂取,自殺による死を「絶望死」と定義し,白人中年低学歴男性の「絶望死」の死亡率が高学歴や女性に比べて高く,年々増加しているという。近年マシになってきたらしいがオピオイドの過剰処方の影響には衝撃を受けた。
所得格差の拡大は「絶望死」の背景の一部でしかない。格差拡大の要因として,自由貿易や技術革新の影響があげられ,それらによって良い仕事が失われたことが低学歴層に困難をもたらしたが,それだけではない。困難の真因はアメリカの制度にあるという。制度の不在で,良い仕事が失われ,コミュニティが荒廃し,生活が破壊される(制度の不在が状況を悪化させる)。
特に医療分野では,高額な医療費,皆保険の不在が問題視される。高くつく医療システムによって,下から上への逆の再分配が起こっている。医療費が高くなければ他に使えた所得が医療業界に吸い上げられる。
ロビイングによる高所得層を優遇する政治,組合の影響力の低下,不十分なセーフティネットの指摘は,スティグリッツやライシュの著作と共通する問題意識のように思った。
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薄いと思ったのに、凄い濃密な論理の展開だった。なるほど、ノーベル経済学賞受賞を受けているのが当然。
21Cの2割が過ぎ、今世紀の資本主義国家の夕暮れを感じさせつつも、薄暮を思わせるエンディング。疲れた読書だったが、方策は論じられぬものの、シナプスが少しできた感じ。
アメリカ トランプ政権時に感じた異常性、問題提起が頷けるもの・・白人死亡率の右肩上がりと絶望死~自殺・薬物過剰摂取・アルコール性肝疾患の3つの要因。その大半を占める「学士号を持たぬ集団」
出生コホートで追跡する数字の信ぴょう性は高い。かつての感情論が混じる分析とは一線を画す。18C産声を上げたこの国、いくつかの社会問題を闘いも含め克服しつつ、産業革命の恩恵も受け、世界の先進国と肩を並べるまでに経済は発展し、今や「世界一」のドリーム大国。
が労働環境がもたらす社会情勢の悪化はあたかも【臭い物に蓋をするが如く」スルーされ続けた~製造労働者の低賃金、コミュニティの破壊など。
同じ道を辿った英をはじめ欧州諸国にはない現象。種々の分析より、筆者らは「オピオイド過剰投与」を繰り返し、論ずる。そしてケアシステム、医療、皆保険への道のり。
下から上への所得再分配の常在。かつては「庶民の味方」を謳っていたドリーマーらはロビイストと化し、アメリカのGNPの数割を有している。ついで組合の衰退化、オバマケアの行方など余りの問題の混迷で語るだけのむなしさが更なる危機感を増すだけで終わってしまった。もはや、我が国の危険がそこにある感強し。
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アメリカが、ここまでひどく格差がうまれて、苦しんでいることがよくわかった。データもたくさんあって、わかりやすかった。
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【感想】
アメリカ人の絶望死が増えている。絶望死とは、「自殺」「薬物の過剰摂取(特にオピオイド鎮痛薬)」「アルコール性肝疾患」の3つによる死を指し、45-54歳の中年白人男女の間で増加傾向にある。本書は、こうした絶望死の増加の原因に焦点を当て、非効率的な「アメリカ資本主義」にメスを入れていく構成となっている。
では「何故絶望死が増えているのか」というと、これが難しい話であり、一概に何が原因と言い切れるわけではない。
そもそも、自殺や薬物中毒などの死因は簡単に区別できない。アルコール依存症による生活苦に耐えられず拳銃で頭を打ちぬけば「自殺」としてカウントされ、腕に注射器の針が刺さったまま絶命していれば「事故死」として扱われる。自殺以外の2要因は死ぬまでに時間がかかり、生活習慣とも複雑に絡み合っているため、それが薬物による中毒死なのか生活習慣病による心疾患なのか判断がつかないことも多々ある。
また、本書では学位取得者とそうでない者の間で絶望死の割合が大きく違うことに注目し、絶望死と学歴の相関関係をほのめかしているが、断言はしていない。学歴が低い→収入が低い→生活苦に陥りやすいという図式は確かに明快だが、経済的要因だけが絶望死を引き起こすファクターではない。実際には家族、コミュニティ、宗教の衰退による孤独者の増加など、社会的要素も密接に絡んでいるため、「これが原因だ」と断定するのは困難だろう。
そこで筆者は、「高齢層の死亡率よりも中年層の死亡率が増えているのが、世界を見渡してみてもアメリカしかない」という異常性にフォーカスを当てた。2008年の大不況による失業はアメリカだけでなく全世界を平等に襲っている。学歴による階層分断と格差の拡大も世界各国で共通の現象である。しかしながら、死亡率の逆転現象が起こっているのはアメリカだけなのだ。
ということは、「アメリカ流の資本主義(の歪み)」が絶望死を生む一因ではないか?
その顕著な例が、アメリカの医療制度である。
アメリカはほかのどの国よりも医療に金をかけているし、世界最高クラスの病院や医師を誇るが、出生時平均余命が3年連続で短くなっている。アメリカの医療システムは、国内総生産の18%を吸収しており、2017年の額は国民一人当たり1万739ドル、防衛費の約4倍で、教育費の約3倍だ。日本の平成30年の国民一人当たり医療費が34万3,200円であることを考えれば、日本の3.5倍のコストが発生している。
他の先進国とどうしてここまで値段に差が出るのかというと、薬や医療の高い価格設定と、医師に払う高額な給料のせいだという。アメリカの医師はOECD加盟国の平均的な医師の給科の倍を稼いでいる(といっても人ロに対する医師の数が少ないので、高い医療コストの中に占める給与の割合は低い)。薬剤はアメリカでは他国よりも約3倍高額である。クレストールはアメリカでは毎月86ドルかかるが、オーストラリアではたったの9ドルであり、MRI検査はアメリカでは1100ドルかかるが、イギリスでは300ドルだ。
また、製薬会社は特許を切らさないために、薬をちょっとずついじって特許を更新している。製薬会社は大規模な慈善組織を立ち上げ、患者の負担金���補助することで自社の薬の値段を吊り上げたままにしているという。患者負担金1ドルにつき会社は2ドルの税控除が受けられるからだ。
このように、アメリカでは医療を市場競争に任せきりであるため、その弊害が表れている。医療産業は2018年には5億6700万ドル以上をロビイングに費やしている。金融業界よりもずっと大きく、労働組合が支出する合計額の10倍以上を費やしている計算だ。
「競争市場」というのは透明性を担保できる効率的な経済原則だと思われがちだが、アメリカの医療産業はその逆で、保護的規制によって自分たちの利益が守られること、自由市場ではあり得ない形で競争を制限することに躍起になっているのだ。
筆者はこの「アメリカ流資本主義」を、富裕層から労働者への再配分ではなく、下から上へと金が逆配分される仕組みだと言っている。不適切な医療制度などによって、年間1万739ドルのうちの4分の1が「無駄に」捨てられており、これが効率的に運営されれば、1兆ドルの所得増加が生まれると論じている。貧困層をより豊かにし絶望死を増加させないためには、富裕層への増税といった限定的なものではなく、制度改革を行って貧困層の可処分所得を増やすことが必要なのである。
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本書は絶望死の原因をひとつに限定せず、貧困や格差、医療制度といった様々な問題から生じる複雑な現象の集合体だと読み解いており、最終章では、その解決のために、税制改革や給付政策、教育改革といった社会制度の改造を提言していた。
といっても、社会構造から生じる問題はやはり根深く、容易に解決できるものではない。そもそも何故そんな簡単に貧困層に薬物が届く環境になっているのかだとか、給与税や消費税が逆進的過ぎて貧乏人がさらに貧乏に陥るアリ地獄になっているだとか、絶望死の解決以前に取り組まなければならない「文化・制度」があちらこちらに現れている。そうなると改革は容易には進まない。ただ、アメリカという国で今後深刻な問題となっていくのがこの「絶望死」であることは間違いない。これに手を付けなければさらなる分断が生まれ、アメリカは世界からますます取り残されていくだろう。
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【まとめ】
1 絶望死の増加
アメリカの非ヒスパニック白人中年の自殺率が急速に増えている。この集団は、過去と比べてすべての死因による死亡率が増えていた。他の先進国では年々死亡率が減少しているにもかかわらずだ。
最も増加率の高い死因は、自殺、薬物の過剰摂取(特にオピオイド鎮痛薬)、アルコール性肝疾患だ。本書はこの3つを「絶望死」と呼ぶ。
45-54歳の白人男女による絶望死は、1990年には10万人中30人だったのが、2017年には10万人中92人にまで増えている。アメリカのすべての州において、45-54歳の白人の自殺死亡率は1999〜2000年から2016〜2017年の間に増加していることが分かっている。
特徴的なのは、大学の学位を持たない人の間で特に絶望死が増加しているということだ。デュルケームはかつて学歴の高い人のほうが自殺する可能性が高いと主張したが、その逆が起こっている。
絶望死はアメリカのどこで生まれているのか。1999年から2017年の間に45-54歳の白人死亡率の変化を州ごとに見ていくと、もっとも大きく増えた州は、教育水準が国の平均よりも低い州だった。
2 学歴の差
学歴の高低によって世界は分断された。
学士号を持っているか持っていないかで、白人の中で死亡率の差が開きつつある。全体として見ると、45-54歳の白人死亡率は1990年代前半から一定を維持してきたが、内訳を見てみると、学士号未満の白人は死亡率が5%増加している一方で、学士号を持つ白人は40%減少している。学歴が低い男性は以前からアルコール、薬物、自殺で死ぬ可能性が高かったが、このエピデミックが進むと差は広がり、2017年には低学歴集団に属する人は絶望死に屈する可能性が3倍も高くなった。
3 黒人の死
黒人は、絶望死の増加を先取りしてきた集団とも言える。20世紀初頭に入ると、黒人はクラック・コカインとHIVの到来が引き起こした死亡率の危機に直面する。技能が低く、長く続いてきた人種差別の被害を受けたのが黒人集団であり、その数十年後には、今度は白人としての特権にずっと守られてきた低学歴白人が被害を受けたのである。
ただ、黒人死亡率は、全体を通して白人死亡率よりも高いということに注意してほしい。その一方で、黒人死亡率は白人死亡率よりも早く減少している。これは、過去のエピデミックが黒人に強く作用し、現在のエピデミックが白人に強く作用しているため、現在基準で見たときの黒人死亡率に鈍化が起こっているからだ。
4 痛み
毎年、ますます多くのアメリカ人が痛みを訴えるようになっている。増加がもっとも大きいのは、大学を出ていない中年世代だ。
加齢は、たとえ健康であっても痛みを伴う。もっとも一般的なのは関節炎だろうが、それだけが原因ではない。アメリカでは中年期の痛みがあまりにも急激に増えたため、高齢者よりも中年のほうが痛みを訴えるというおかしな状況が生まれている。痛みを感じる理由は多く、場合によってははっきりとしないこともある。全米アカデミーズによると、1億人以上のアメリカ人が3ヶ月以上続く慢性的な痛みをわずらっているそうだ。
とはいえ、加齢に痛みはつきものだ。アメリカ以外の19カ国でも、年齢が上がるにつれ痛みを感じるようになっている。アメリカが特徴的なのは、60代が80代よりも痛みを感じやすく、また非大卒のほうが大卒よりも痛みを感じているということだ。
考えられる原因としては肥満の増加やあまり良くない仕事へのやむを得ない転職が考えられるが、いずれにせよ、多くの要因が絡んでいるのは間違いない。
5 自殺・薬物・アルコール
2017年、15万8000人のアメリカ人が絶望死で命を失った。
・自殺
自殺は1990年代後半からアメリカの非ヒスパニック白人間で増え続けており、他の国と比べても高い水準だ。考えうる要因としては、痛み、社会的孤立、うつ、離婚、失業があり、自殺するのは学士号未満が多い。
・アルコール
アメリカにおける飲酒率は、高学歴者のほうが高い。ただし、とりわけ危険である深酒は、低学歴者でのほうが一般的だ。
・オピオイド
薬物死の70%が、オピオイド単独または���かの薬物との併用によるものだ。
ヘロインはオピオイドの一種である。
オピオイドの効き目の強さは、モルヒネとの比較で測られる。1ミリグラムのへロインは3ミリグラムのモルヒネ(あるいはアヘン)と同等なので、モルヒネミリグラム等価量(MME)は3ということになる。現在の薬物エピデミックにおいてもっとも重要なオピオイドのひとつがオキシコドン(MME1.5)で、これは製薬会社パーデュー・ファーマが製造・販売している。
オピオイドは痛みをやわらげてくれるが、その効果は単なる鎮痛にとどまらず、使用者が快楽を感じ、繰り返したくなる高揚感ももたらせる。
アメリカには慢性的な痛みが存在しているため、医師はあらゆる痛みにオピオイドを処方するようになった。
2016年には、1万7087人が処方箋のオピオイドによって死んでいる。医師が処方したオピオイドは、2017年に発生したすべてのオピオイドによる死のうち、3分の1に及んでいる。オピオイドによる死のかなりの原因はアメリカの医療システムなのだ。
また、過剰摂取死の90%が学位を持たない層である。
6 貧困・所得・大不況
「何が絶望死を引き起こしているのか」と聞いたときに返ってくる答えは、貧困、不平等、金融危機、もしくはそのすべてであることが多い。たしかにどれも重要だが、どれひとつとして、絶望死の主な原因ではない。にもかかわらずその逆の見方があまりにも広まってしまったために、それがどうして間違っているかを説明しなければならない。
貧困率の継続的な減少を確認した年でも、絶望死は中断することなく上がり続けている。失業や不況は2008年にどの国にも平等に打撃を与えたが、ヨーロッパでは絶望死のエピデミックは起きていない。また、死んでいるのが白人ばかりだということもおかしい。
賃金低下は原因のひとつではあるが、物質的優位の減少で絶望を説明することは不可能だと考えている。絶望にとってもっと重要なのは家族、コミュニティ、宗教の衰退である。
7 アメリカ医療
多くの国民を見捨てているのは、アメリカ資本主義、特にアメリカの医療制度である。
アメリカはほかのどの国よりも医療に金をかけているし、世界最高クラスの病院や医師を誇るが、出生時平均余命が3年連続で短くなっている。アメリカの医療システムは、国内総生産の18%を吸収しており、2017年の額は国民一人当たり1万739ドル、防衛費の約4倍で、教育費の約3倍だ。しかも、総支出額の約4分の1が「無駄」に払っている金額だ。それが、医療産業の稼ぎを高騰させ、労働者の賃金を不必要に消費し、貧しい国民に振り分けるための税金を食いつぶしている。
国民が払っているお金は、明らかによそに流れている。
ほかの富裕国とコスト差の大部分は、薬や医療の高い価格設定と高額な給料から来るものだ。アメリカの医師はほかのOECD加盟国の平均的な医師の給科の倍を稼いでいるが、人ロに対する医師の数が少ないので、高い医療コストの中に占める給与の割合は低い。医師の数が低く抑えられているのは、医師団体や連邦議会の強い要請によって医科大学の定員が制限され、外国人の医師がアメリカ国内で開業するのが難しいからだ。
薬剤は��メリカでは約3倍高額である。クレストールはアメリカでは毎月86ドルかかるが、オーストラリアではたったの9ドルだ。MRI検査はアメリカでは1100ドルかかるが、イギリスでは300ドルだ。
製薬会社は特許を切らさないために、薬をちょっとずついじって特許を更新している。また、製薬会社は大規模な慈善組織を立ち上げ、患者の負担金を補助することで自社の薬の値段を釣り上げたままにしている。患者負担金1ドルにつき会社は2ドルの税控除が受けられるからだ。病院が値段を引き上げているのは、コストがかかるからではなく、合併によって競争を減らして、市場支配力を使って値段を吊り上げているのだ。
アメリカで働いている人は、雇用者経由で保険に入っているのに対し、他国の殆どは政府を通じて加入している。
このやり方は明らかに合理的ではない。保険が機能するのは、病人と健康な人間が一緒に加入している場合のみである。医療を市場に任せて雇用者別に加入するとなると、保険契約は彼らのニーズに合うような設定を組み込み、高い給料をもらっている人にますます贅沢医療を提供するインセンティブが生まれる。次第に保険は、健康で保険など必要としていない人にしか手に入れられなくなるだろう。
また、保険料の徴収者が複数人いれば、当然事務的コストが増える。
医療サービス提供者は、ワシントンでのロビイング活動によって自らの経済的影響力を確保している。
医療産業は2018年には5億6700万ドル以上をロビイングに費やし、その半分以上が製薬会社から出ていた。医療産業は支出額が最大であり、金融業界よりもさらに大きく、労働組合が支出する合計額の10倍以上を費やしている。この産業は現役議員や議員候補を支持するのに1億3300万ドルを追加で支払っており、その内訳は7600万ドルが民主党、5700万ドルが共和党に行っている。
8 どうすればいいのか?
・オピオイド
→オピオイド投与の代わりにさまざまな代替療法を検討する
・医療
→国民皆保険の実現と医療費の抑制を目指す。雇用者提供保険を撤廃し、保険が必要のない人間にも必要な人間にも均等に保険を課す。
・税制と給付政策
→寛大なセーフティネットによる貧困層の救済
・賃金政策
→最低賃金の15ドルへの引上げ
・レントシーキング
・教育
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アメリカの中年の非大卒の白人の現状についての概論。非大卒の白人の平均寿命が下がっている要因は"絶望死"だという。結婚やコミュニティ参加など生活の質も低く、アルコール中毒やドラッグ中毒や自殺も顕著。
日本は全体的に貧しくなり格差は広がっていない状況で、、、たとえ貧しくなってもアメリカより幸せな国なのではないかなと感じてしまう。
ただ、他国ごとではないよね。。
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アメリカと言えば経済超大国、アメリカンドリームの成功への切符のイメージがある。
しかし現在には後ろ暗い苛烈な人生が横たわっている。
本書はそのような現象に目を向けた本。
おそらく経済学の学術書として書かれたものだと思うが、帯に書かれているように「ありとあらゆる市民が読み、議論すべきものだ」だと思う。
これはアメリカで起きていることだが、資本主義を採用している国々でも起きるかもしれない。。
本書で議論される内容は以下だ。
年月を経ると普通、死亡率は低下し平均年齢は上がっていくものだが、大卒未満の白人に関しては死亡率が増えている。
それもアルコール中毒、薬物過剰摂取、自殺という本書で絶望死と呼ばれるものだ。
一体アメリカで今、何が起きているのか?
この質問を皮切りに、統計的にどれだけ大卒未満が悲惨な状況にあるか。
そして、それをもたらす諸要因。
医療業界、薬物、経済、教育をキーワードに何が起きているか解説する。
この本を読んで一番、良かったと思ったのは以下。
この格差社会を是正するには、公的教育を拡充し、高所得者に高税を課し、低所得者に分配するものだと思っていた。
しかしそれだけではうまくいかない。
そもそもこのような悲惨な格差を生み出したのは、不公平な寡占・独占体制そしてそれに伴うサービス提供側・企業の強気な態度がまかり通る事。
そしてその強気な態度は顧客のみでなく、被雇用者である従業員や派遣会社にも及ぶ。
つまり競争を極端に排除した経済システムが極端な格差を生み出す温床となりうる。
そんな事を思った。
ただ、教育の役割と社会的価値についてはまた別途深堀したいと思った。
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21世紀のアメリカ合衆国では平均寿命が短くなっている。その理由の一つにオピオイド(ケシ由来の麻薬性鎮痛薬や同様の作用を示す合成鎮痛薬の総称)の過剰摂取がある。「もっとも増加率の高い死因は三つに絞られた。自殺、薬物の過剰摂取、そしてアルコール性肝疾患だ」(アン・ケース、アンガス・ディートン著、松本裕訳『絶望死のアメリカ――資本主義がめざすべきもの』みすず書房、2021年)。阿片が持ち込まれた清朝末期同様、依存性薬物は社会を蝕む。