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足尾鉱毒事件がもとで強制廃村となった谷中村から離れようとしない残留民たちと、彼らとともに戦った田中正造について描いた伝奇小説。
これから書く原稿のお勉強のつもりで手に取ったが、文章が上手くて熱があり、とても引き込まれた。
子どもの頃読んだ日本の偉人マンガに田中正造も入っており、天皇に直訴したりとか大隈重信の家の庭に勝手に汚染土を持ち込んで松を枯らしてみせるとか、正義感が強い反面なかなかぶっ飛んでる人だなあという印象を持っていたが、よく考えてみれば(いやよく考えてみなくても)ぶっ飛んでるのは行政のほうであった。公害で苦しむ村を助けるどころか、池を作って村を沈めるという。銅山の操業を止めさせるほうが筋じゃない?
立ち退きを拒否する住民に対する扱いも、家を強制破壊したり、壊れた堤防を直さず放置したりととんでもない。鉱毒被害のみならず、残留民の人々をひどく苦しめたろう。
なぜ国が鉱毒対策を十分に取らなかったについてはあまり深く考えたことがなかったが、銅は当時日本の主要な輸出資源で、かつ日露戦争前後の時期であったので、小さな村より国益が優先されたのだ。足尾銅山は日本一の銅産出量を誇っていた。
ただこれはやはり田中正造が言うように、憲法に反している措置だったと思う。
国益のために地方を切り捨てるという構図は、100年以上経った今もあまり変わっている気がしない。
なお田中正造が「有害無益」と断じた渡良瀬遊水池は、いまラムサール条約指定地となり貴重な動植物が残る場所になっているという。公害によって苦しめられ、追放された人々の故郷が、いまや自然豊かな場所になっているというのは、なんだか皮肉な感じがする。