学術的な客観性と史書としての面白さが見事に両立している好著
2022/09/26 00:06
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Haserumio - この投稿者のレビュー一覧を見る
実に面白い一冊。しっかりした研究上の裏付けを元に、読ませる構成と記載の叙述がなされており、一気読みでした。
三国同盟といっても、日独とも第三者から攻め込まれたという事情にはなかったわけで、相互の自動参戦義務が発動されなかったことなどを考えると、結局は日本がfree handを奪われただけでdownside riskしか感じられない同盟であったと思料。また、日米開戦も「日米諒解案」の件がうまく進んでいたらと切歯扼腕すること大。(まったく、松岡洋右というのはとんでもない奴だわ。)また、北部・南部仏印への進駐における「ボタンの掛け違え」(ここはもっと勉強したいと思いました)のインパクトというのも、大きな気づきとなりました。一点、日ソ中立条約へのドイツ側の評価に関する記載がなかったと思いますが、ここは書いておいてほしかったところです。
なお、本書読了の余勢をかって、増田剛氏の『ヒトラーに傾倒した男 A級戦犯・大島浩の告白』(論創社)も読み始めたところですが、同書52頁の記述が本書71頁の記載と、同じく同書53頁のそれが本書104頁のそれとズレている(異なっている)点には、違和感を感じています。
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日独伊三国同盟の締結に至る過程を丁寧に叙述。
日独伊、露英米のそれぞれの視点からの分析は、複雑怪奇な三国同盟の多角的・立体的理解に役立つ。
読んでみてやっぱり思うのは、松岡洋右はやっぱりアカンなということ。
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歴史の教科書では語りきれないことが満載されていた。
政治の世界にも腹の探り合いはあっても案外とサッパリしていると思ったけど、いやいやねちっこくあり嫌なら嫌と言えない上下関係姻戚関係。
大島浩、松岡洋右、この二人の行動が大きく影響したことがわかるが、この本ほどしっかり裏付けされた書き方をしているものは見ない。
歴史には、日独伊三国軍事同盟とあり、それは「互いに利益がある事に対して協力関係を結びましょう」エイエイオーかと思っているでしょうが
そうせざるを得ない伏線があったり、バーターであったり、たくさんの大人の事情がある。
御前会議で昭和天皇のが敢えて口を開き読み上げた
四方の海みなはらからと思ふ世に など波風のたちさわぐらむ
明治天皇の御製が意味のわからないものはいなかったという。
なら何故と思ってしまう。
振り返れば少しのきっかけで結果が大きく変わることは多い。
終盤を拝読するあたりからはいつも慈愛の念があった。
腹の探り合いは日常かもしれないが、何かを信じたり例え痛みがあろうとも協力し支える、そんなお互い様の世の中にしていけたらと思う。
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まるでドキュメンタリーのような臨場感を感じるほど、外交官たちの交渉の一部始終がまとまっている。なんとなく「同盟」という言葉を聞くと協力関係といったポジティブな印象だったり、少なくとも利害関係が一致している関係性を想起させるが、日独伊三国同盟はお互いを利用しようとする姿勢が見え見えで、当初の自分がイメージしていたものとは全くかけ離れた実態があった。所詮国際政治や外交関係なんてそんなものなのかと。建前と本心の棲み分けは昔から変わらないのだなあと。
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日独伊三国同盟 「根拠なき確信」と「無責任」の果てに (角川新書)。大木 毅先生の著書。「根拠なき確信」と「無責任」が破滅を呼ぶ。「根拠なき確信」と「無責任」が不幸な結末につながる。自分や誰かの「根拠なき確信」と「無責任」で本人だけが破滅したり不幸になったりするのは自己責任。でも自分や誰かの「根拠なき確信」と「無責任」でほかの人たちまで破滅したり不幸になったりするのは自己責任では済まされないし許されない。
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読み終えてタイトルその通りだと感じた。「根拠なき確信」と「無責任」。学者としての大木毅氏の憤りがこの二言に凝縮されているとでもいえよう。
新書なので簡潔かと思っていたが、とんでもない。映画のシーンを思わせるような描写があちこちに出てくる。特に大島浩と松岡洋右という2人の判断、行動が日本を大きく誤らせたことが克明に描かれている。かなりファナティックだったのだなあ。
ただし、この2人にすべてを負わせるのだけでは学びは少ないかもしれない。もう少し科学的にみてみる、今でいう行動経済学的なアプローチから分析しても興味深い、というかバイアスが先行で国を導いたのは恐ろしいと感じる。我々も大なり小なりこうしたバイアスで判断していないだろうか?胸に手を当ててみた。
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日本が日独伊三国同盟を結び、太平洋戦争に向かう一連の流れをドイツに近い立場から解説している。
松岡洋右は国際連盟を脱退する気はなかったがブラフとして使っている間に引っ込みがつかなくなったというのは(松岡はポーカーの名手)、また、ドイツ贔屓の大島浩の日独同盟案を独自の見解で進めたことが、この同盟に繋がったと思うとガバナンスが本当に効いてないなと感じた。当時の状況を今のロシアによるウクライナ侵攻に当てはめると酷似している点がいくつかあるなと思った(ドイツ→ロシア、チェコスロバキア→ウクライナ、イギリス→アメリカ、日本→中国に入れ替え)