「風虎」と戯れたいけど、作品の時代背景には人類の戦争が…。
2021/09/03 17:37
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投稿者:永遠のチャレンジャー - この投稿者のレビュー一覧を見る
SF(科学小説)だけどもファンタジー(幻想物語)要素が濃く、若い頃の作者が頭に思い浮かべた<憧憬>や<夢>を、そのまんま詰め込んだ作品だ。
解説者が触れるように、少女時代に「限界まで想像力を働かせて」も構わないと知った作者が、まさしく「自分自身の神話」を紡いだ感じがする。
表紙カバーからしてSFを謳いつつ漫画家の萩尾望都に委ねた点で、ファンタジー寄りが一目瞭然。描かれた「風虎」は、とても荷駄運びに使役される野獣に見えない。
「巨大なグリフィン」(上半身が鷲で下半身が獅子か虎という伝説の有翼獣)の筈が、まるで一人乗りペット飛行艇みたいだから、少し怖いけど、乗ってみたい。
民族学調査隊の唯一の生き残り、ギャヴェレル・ロカノンは、調査隊員や罪なき住民たちを無残に殺戮した「敵」(全世界連盟への反逆者)を探し出すために、苦難を共にする仲間を募って地図なき大地を駆けめぐる。
なんとなく既視感が。そうだ、映画「ロード・オブ・ザ・リング」の旅の仲間(小人族ホビットと地底族ドワーフ、妖精族エルフ、それに人間)を彷彿とさせる。ワクワク、ハラハラ、どきどきの連続活劇なのだ。
「敵」のアンシブル(即時通信器)で悲報を伝え、報復の鉄槌を乞わねば…。使命感の強さは「007」ボンド並みだ。展開毎に呼び名が変わる。「ロカナンの殿」「星の君」「さすらいびと」「ペダナール」「ペダン」「アンギャールの隠密」「オルホル」など。
白い流木の杖を手にしたロカノンは、まるで魔法使いガンダルフみたいに危難を免れる(耐火性に優れたインパーマスーツのお蔭だから、ここはSFっぽい)。
レーザー・ガンで武装した「敵」は、ヘリコプターに搭乗し登場する。ここでは映画「地獄の黙示録」が想起される。本作品からもベトナム戦争に米国が介入した時代背景が汲み取れる。
広遠にすぎる宇宙。「死は即時に送ることはできても、生あるものを送るには時間がかかるのです…。」こうこぼした実際には百五十年前に生まれた四十歳の民族学者ロカノンは、死んで文字どおり「星」(の名前)となった。
フォーマルハウト第二惑星で生きた彼にとって、「大きな青い宝石」(伝説の<海の眼>)を身につけた伴侶を得たことが、大きな慰めだったと信じたい。
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有名なル・グウィン女史の作品です。最後の方があっさりし過ぎているような気もしましが、それでも面白かったです。この方の書く話は、必ずしもハッピーエンドではなく、幸福の中にも悲しみが(あるいは悲しみの中にも幸福が)あるところがいいです。
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神話とSFが混ざった独特の雰囲気が好き。『風の十二方位』でプロローグの部分を読んだ時はロカノンがここまで動くとは思わなかった。
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はるかな未来の宇宙、フォーマルハウト第二惑星。高度な知能を有する生命体が、複数の種族存在する星。
その惑星に、全世界連盟から派遣された調査隊。通常の手段では、連盟の人々に通信が届くまでに八年もかかるような辺境の星で、平和的な調査のためにやってきたはずの彼らは、突然の攻撃にあい、隊長のロカノンを残して全滅してしまった。
連盟に仇なす勢力が、この未開の地の一種族を利用して隠れ蓑にし、兵力を固めようとしている。そのことを知ったロカノンは、通信手段を求めて、いまだ知られざる辺境の地を、命を賭して旅をする……。
これまで読んできた同じ方のほかの本に比べたら、最初が少しとっつきにくい感じはあったのですが(あと登場人物がちょっと多くて、自分の記憶力のなさに失望した)、中盤以降、ぐいぐい引っ張られて読みました。
風虎という、翼の生えた虎さんを乗り物に、空を飛んで移動する場面が多いんですけど、そこが個人的にツボでした。天馬じゃなくて、虎なところが。ロマンですよね(力説)
途中、とても神々しい姿をした人種が登場するんですけど、外見は美しくて神秘的なのに、知能や行動パターンが昆虫のような感じで、そのギャップにすごくぞぞっとしました。
序盤から逆境に置かれ、それを挽回できる可能性は、敵の手中にある装置だけ、という苦しい状況から始まるストーリー。まさに苦難の旅、という感じなのですが、作品全体に通じる悲しみというか、徒労感のようなもの、やるせない感じが好きです。
闇の左手、所有せざる人々などの、ほかのSF作品と、基本の世界観を共有している作品でもあります。
この方の本は引き続き、ちょっとずつ集めていこうと思っています。
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『ハイニッシュ・ユニバース年代記』の第1作。『風の十二方位』に収録された『セムリの首飾り』が本作のプロローグとなっている。
長編というには短めの仕上がり。同じシリーズの『闇の左手』などと比べると厚みは半分以下だが、その分、プロットもシンプルですっきりしている。
SFというよりはファンタジーに近い読み心地で、ハヤカワのSFじゃなくFTでも違和感は無かったw
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初々しさはあるが基本的な作風は既に確立している
表紙 6点萩尾 望都
展開 6点1966年著作
文章 7点
内容 760点
合計 779点
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ル・グィンの処女長篇にしてハイニッシュ・ユニバースシリーズの第一作。全世界連盟より派遣され、未開の惑星であるフォーマルハウト第二惑星へ調査官として訪れたロカノン。連盟に敵対する勢力に仲間を殺され取り残されたロカノンが、惑星の住人たちと共に旅する。SFのようなあらすじだが、ファンタジー色が濃く、様々な種族や風虎などの魅力的な生物が登場する。神話のような美しい短篇「セムリの首飾り」から始まるこの物語だが、SFとファンタジーの融合がここまで上手くできるのは彼女のなせる技。続けて辺境の惑星を読み進めていく。
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SF。ファンタジー。
著者の長編第一作とのこと。
SF的な設定やガジェットは多々あるが、基本的には冒険ファンタジー作品。
主人公以外のキャラクターの存在感がいまひとつで、あまり盛り上がらず。
解説によると、著者はコードウェイナー・スミス「アルファラルファ大通り」に影響を受けたとのこと。好きな作家なので嬉しい。