一度抱えた利権は手放せないのだろうか。転換せざるを得ないことはわかっているのに。
2023/12/29 20:33
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投稿者:雑多な本読み - この投稿者のレビュー一覧を見る
2011年3月11日に地震と津波の対策を十分に措置していなかったことにより、福島第一原発の大事件を経験したにもかかわらず、10年程度過ぎたにすぎず、多くのことが解決していないにもかかわらず、原発推進に転換したことに対し、その問題となぜそうなっているかを解明しようとする書である。福島第一原発では、核燃料が解け落ち、デブリとして大量に溜まっており、各汚染水が絶えず大量に発生しているが、処理をしても処理しきれない状態で海洋投棄されている。2015年に関係者の理解なしにいかなる処分も行わないと政府は福島県漁連に文書で約束したことは本書でも指摘されているが、IAEAの基準をクリアしているということで平気で流している。原子炉等規制法上では「液体状の放射性廃棄物」と位置づけられているものを処理水と表現することは不適当であり、これも紹介されている。通常の原発の排水はトリチウムしか含まれないが、核燃料に触れているため、数多くの放射性物質を含み、処理しきれない現実がある。この点だけでも多くの問題を抱える。原発はどんな問題を抱えているのであろうか。本書は多くの問題をわかりやすくコンパクトにまとめている。目次を見ると、
はじめに
第1章 「復興」の現状は
第2章 原子力専門家の疑問
第3章 原発はなぜ始まったのか
第4章 原子力ムラの人々
第5章 原発と核兵器
第6章 作られる新たな「安全神話」
第7章 原発ゼロで生きる方法
おわりに となっている。
以上のように展開される。福島第一原発だけでも、アルプスで除去した放射性物質をどう処理するのか、汚染されているのは水だけでなく、土地もある。除染したといっても一部だけにすぎない。除染しきれない問題は水と同じである。送電線で送られる電気も原発優先で、自然再生エネルギーは発電しても送ることができないとか、特定の業界それも政、官、学と結びついた原子力ムラといわれる狭い世界だけで進められているが、原発は人間が制御できないままで来ている技術である。核廃棄物は処理できないままで残るばかり。核燃料サイクルも破綻し、見通せないままとなっている。著者が積極的に動き、収集した情報が詰まっている。一読してほしい本である。
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【原子力ムラの実態とエネルギー政策の構造的問題を衝く!】政・官・業・学・メディアはいかにして「原発安全神話」を作ってきたのか? 原発取材をライフワークとしてきた記者の集大成の一冊。
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既知のこともあるが、それも含め、原発をめぐる最新の状況を俯瞰することができた。
それにしても朝日新聞社は大丈夫か。もう終わってるかもしれない。
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とても丹念に取材され読みやすく、一つ一つの記事が生きた証言、未曾有の事故を引き起こした原発、原子力ムラの告発なっていると思います。政官業学そしてマスコミまでも。
私は司法までも加えて良いと思いますが、ここに日本の民主主義の劣化が象徴的に現れていると思います。
民主主義はたえずたたかい続けなければ後退すると言われます。今も政官業学マスコミ司法そして市民も人権を守り民主主義を実現させるためにたたかっている多くの人がいます。
多くの人に届けたい本だと思います。
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被災自治体の避難者と与野党の政治家。原子力安全委員に差し止め訴訟原告の住職。危険を警告した地震学者。脱検発に舵を切ったドイツの倫理委員。取材先は多岐にわたる。…何故原発は止められないのか。止めようとしたその瞬間、多くの難題に行き当たる。上場している電力会社の経営、補助金で潤った立地自治体での生活。溜まってしまった放射性廃棄物の処理。なるに任せればよい。核燃料サイクルも可能なことにしておけばよい。「今だけ、金だけ、自分だけ」。…高騰する電気代。再稼働容認が増えている。それが仕組まれていることだと気付かずに。
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地震大国日本で原発を持つ理由、私は、原爆を作る能力を保持したいから、
だと思っていた。この新書でも自民党石破さんらがそう言っている。
北朝鮮中国ロシアアメリカと、核保有国に囲まれた日本として、
下手な軍事力よりも抑止力がある、という見方には一理はある。
しかし同時に、原子力発電所にミサイルを撃ち込まれたら原爆を落とされるより
遥かに甚大な被害になることは、福島原発の事故で証明済み。
要は論理破綻しているのだ。
しかしことはそんな単純ではない。
原子力発電所利権がしっかり日本経済に組み込まれている。
もちろんその主役は電力会社。官僚。議員。
我々市民から吸い上げる電力料金が、パーティ券に化ける。
さらに官僚の天下りの報酬、退職金に化ける。
結局今の世の中の図式そのものになる。
議員、官僚、大企業。
原発であれ、武器であれ、五輪であれ、万博であれ、神宮再開発であれ、
何か大きなことをしでかして国の金、国民からの血税を動かし、
その甘い汁を吸うのは議員であり、官僚であり、大企業になってしまっている。
日本が成長しているうちはそれでもよかった。みながそれぞれ恩恵にあずかれた。
しかし、衰退国、沈みゆく国に日本がなってしまってからは、パイの奪い合い。
一般の国民はどんどん貧困化する。
・・・私は数年前、「夏休みになると痩せる子供たちがいる」という話を
地元の関係者から聞いた時には信じられなかった。
この日本でそんなことがあるのかと。
あるのだ。今や子ども食堂は当たり前。満足に食事がとれない子が、いや大人も、
大勢いるのだ。7人に一人が相対的貧困。
もちろん、スマホだなんだと、生活が快適になっている部分は多々ある。
しかし、基本的な衣食住が十分でない国民が増えてしまっているのだ。
そんな状況の中で、軍事力倍増、原発増設、万博開催などと、
国民から金を吸い上げてよいのだろうか?
メディアを3社移って、あくまで個人の活動としてこの新書を出版したこの記者に
敬意を表する。
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大手新聞社に所属する著者が、その肩書をこの本に書けないという事実は、メディアの原子力ムラへの忖度を感じうんざりさせられる。
福島第一原発事故後、原発の再稼働を目指し施行された新規制基準でも、原発付近の住民の避難計画は規制委員会の審査対象ではないとのことだ。住民の命綱である避難計画を誰も審査しない。いつ何時、どこかの原発の直下で地震が起こるかもしれないのに、これはまずいと思う。
この本が出版されて間もなく能登半島地震が起きた。震源近くに立つ志賀原発には様々なトラブルが発生したが幸いカタストロフは免れた。だが、付近の住民たちの安心・安全が適切に守られたとは思えない。