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投稿者:なつめ - この投稿者のレビュー一覧を見る
日本社会について、グローバルな視点から解説されていて、興味深く読むことができました。欲望の時代というキーワードが、素晴らしかったです。
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「倫理資本主義」利潤ばかり追求して一部の人びとしか潤わない社会ではなく、企業が市場経済で派生する倫理問題を解決する。そこに本当の利益は存在して万人が共有する社会となる。金銭のみを追求する利潤優先は市場も疲弊していく、倫理を改善してこそ資本主義の醸成へと向かう。著者マルクス・ガブリエルはリップサービスなのか、日本をこの倫理資本主義という概念を試す最適な場所だと述べているが、非正規労働者や男女格差など世界と比較して劣悪だと感じる人びとは少なくないはず。まだまだ日本は倫理面で途上国であり、一部の大企業の戯言でごまかさないように願うばかりなり。
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マルクス・ガブリエルは好きなのだが、今のところ読書の相性が良くない。『なぜ世界は存在しないのか』は難し過ぎたし、逆に複数のインタビュー内容が掲載されるようなオムニバス本は浅過ぎる。バリバリの哲学者ゆえ、論文調なら読み難いが、インタビュアーがいると途端に思考の深みが削ぎ落とされて、薄味になるのだ。更にオムニバスだとページ数も少なくなる。本書は、インタビュー形式だが、ガブリエル一人を取り扱う本であり、これならいけるか、と読書を開始。
結果、私にとっては、オムニバス寄り。何だろうな、哲学的思索に触れるならばインタビューでは辿り着けない、聞き手側の経験による出口側の限界というのがあるかも知れない。大衆の代表のように言葉を引き出そうとすれば、自ずと表面的な部分、見た目で判断するような中身になる。学問のルッキズムみたいに。
ー 個と全体についてのこうした思考を経て、ガブリエルは、「倫理資本主義」を育む土壌として日本には可能性があると見る。すなわち、他者の意向にいつも思いをめぐらせる「日本流読心術」と、「ジャパニーズ・カット」のネットワークが、大いに有効だと説くのだ。日本こそ、新時代の資本主義に適性がある、自信を持てという励ましにも聞こえてくる。
ガブリエルが資本主義を幾つかの換言にて捉えようとしたのが、印象的だ。資本主義は「無政府主義に近いシステム」だとか、「単に相互扶助のシステム」だとか。搾取の構造と資本の自己増殖による弱肉強食の構図さえ抑えれば、確かに相互扶助制度には違いない。これを昇華させたものが倫理資本主義というならば、目指す所はそこだという気はする。
しかし、それと社会主義の違いはごく僅かな部分であり、現状と等しく、一国のみ構造を変えるのは難しい。世界共通のコモン税を、脱炭素でもタックスヘイブン規制でも、機能させる所からだろうか。
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NHKの「欲望の時代の哲学」収録インタビューをもとに書かれた本で、実際のテレビ番組ではカットされている発言も詳しく書かれているので、テレビ番組を補完する意味でも理解が深まりました。
ガブリエル氏はいくつかのキーワードを述べていますが、印象に残った言葉を列記します。
「入れ子状態の危機nested crisis」
「人間の意識の変化によって文明は終わりを迎える」
「資本主義はコンクリートよりも水のようなもの」
「日本は動いているにも関わらず同時に本質の感覚がある、そこには明確なカット(切断)がある」
またガブリエル氏は、日本独自の形而上学的、つまり非物質的な源を見つけるべきであって、日本人の気質がどのように21世紀のイノベーションの構造に貢献できるのかを考えよ、と述べています。これを読んで思い出したのが、長谷川櫂氏の本、『和の思想日本人の創造力』です。長谷川氏は、「和」とは外国からの「受容」「選択」「変容」という創造的プロセスを指すと述べていますが、日本はいちから何かを生み出すというよりは、ブレンドの達人であろうという点です。それが独特な文化のような雰囲気を出しているが、実は世界の様々な文化が融合・変容しているとも言えるのではないでしょうか。
さらにガブリエル氏は「存在」が失われたことこそが近代のすべての病の元になっていると論じています。これは宗教に限定される話ではありませんが、日本人にとっての存在は何か、それは祖先信仰であったり、八百万的、アニミズム的な感覚なのかしらと思いながら読んでいました。いろいろと考えさせられる良書だと思います。