大不況には本を読む
著者 著:橋本治
もはや読書と出版の復権はありえないのか。「思想性ゼロの国」日本でいま起きている日本人の魂のドラマを描き、「本を読む」人間をここに取り戻すための方法を深く考察した、硬骨の力作。
大不況には本を読む
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大不況には本を読む
2009/09/03 22:36
本を読んで、考えよう
12人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:りっちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
「いるんだかいらないんだか分からないもの」を買って、経済を拡大させる」。これが資本主義の特徴でもあり、今の大不況を起こした原因でもあり、私が許せない「いじめ」体質日本の元凶だと思うんだな。第一、
「しかし、よく考えると分かるのですが、これをそのままにすると、ゴミばっかり増えます。二酸化炭素の排出量も増えます。」なんです。今まで買う一方でゴミのことなんか考えもしなかったよね。でも、ゴミの処分にはお金も手間もかかるんだよ。「もったいない」精神大事にしたいね。
「一九八五年の日本が、アメリカからのクレームをわずらわしがって日本車の輸出をやめてしまったら、どうなるでしょう。もちろん、日本は不景気になります。「大不況」かもしれません。それは「困ったこと」かもしれませんが、もしかしたら「人類の歴史に残る大英断」だったかもしれません。なぜかというと、それは「不況になる」ではなくて、「不況にする」という意図的操作だからです」。今の若い人たちの不満は、大人たちがいつも受身で、いつもごまかしてきたからじゃぁないかなぁ。こういうふうに積極的にやれば、
「「農業国」であった日本が近代化を進め、工業化を進めて農業をやめて行けば、耕作放棄の地に荒廃が起こるのは当たり前のことです。事は、林業に於いてだって同じです。「輸入木材の方が安い」という理由で、やたらに植林をした山をそのままに放置しておけば、山は荒廃します。「山が壊れる」という事態だって、起こりうるのです。日本で農業や林業を放棄してしまえば、農業や林業によって成り立っていた地方都市は、壊滅してゴーストタウンになってしまいます。でも、自動車の輸出にストップをかけてしまえば、こういう「危機」に対しても、十分な目を向けることが出来たのです」。
「「自分のところで作れるものは、たとえ割高であっても、自分のところで作る」が原則で、「輸入」というものは、足りないものを仕入れるだけでいいのです。そのような形で「世界経済を安定させる」という方向だってあったのです」。
経済優先、景気回復を口にする人が多いけれど、それで日本に住む人たちは幸せだったのだろうか?何か大事なことを置きざりにしてきたのではないかな?
「アジアの地域は、さっさと「豊かな先進国」になってしまった日本を目標にしたりライヴァル視したりしていますが、日本がさっさと「もう作りすぎの輸出はやめた」にしてしまうと、変な目標を失って、おだやかになります。「輸出産業」が活発になると、どの国も富みの格差や自然破壊が起こったりするもので、日本は、そういう動きにブレーキをかける素敵な役割を果たすことが出来ます」。自分に自信を持つ、自分の国を認めることが出来れば、他人や他国をいじめることもしないで済むし・・・一番にならなくていいよ。みんなそれぞれの良さを発揮すればいいのさ。
「「大不況が収束したらどうするのか」と考える―「その時に我々はどう生きるのか」と考える。このことだけが、この大不況を収束しうる根本の力となりうるのです」。前書きにあったけれど、出版界も産業化してしまったから、
「景気の動向に左右されないものーそれは「人のあり方」です。景気がよかろうと悪かろうと、人は人として生きて行かなければなりません。その一点で、人は「景気の動向」なんかに左右をされません。しかし、景気に影響されるのもまた「人のあり方」です。景気がよければ贅沢になるし、景気が悪ければ倹しくなる。人のあり方は「左右されない」と「影響される」の間で微妙に揺れて、かつて出版は、その微妙な「幅」の間に収まっていた」んだけれど、
「我々は「景気」という外状況につられて、自ら考えることを放棄していた」
「途方に昏れる前に、まず「方向」を考える ー それが「進歩」というものを可能にする人間のあり方で、だからこそ私は『大不況には本を読む』という形で、普通では一つになりにくいものを、一つにして考えているのです」。
「ついでに、「経済は一流、政治は二流以下」の自己規定をしてしまう日本ですが、もう一つ「文化は一流」でもあります。あまりそういう考え方をしないところが、「政治と経済」だけを語ってよしとしてしまう日本オヤジのバカのありどころで、「自分達の文化は一流かもしれない」とは考えず、へんなコンプレックスで金儲けにばかり邁進してしまうところが、日本の思想性のなさです」。
日本の文化に誇りをもちたいねぇ。もしかしたら日本人は、「未来に備える経験値となるような過去」を捨てるのと同時に、「不幸な過去」を抱えたままでいる人間に対する「気の毒に~」という共感の感情も捨ててしまったのかもしれません。そうして、「いつまでも若い」を実現するような、「未来の急変」が予測されないような「ひたすらなる現在」が、そのままずっと続いて来たのです」。 だから、いじめや自殺やウツがやたら多い社会になっちゃんじゃぁないの?
「幸いなことに、「長く続いた現在」は壁にぶつかって、「見直される対象としての過去」に変わりつつあるわけです。これを見逃す手はありません。だから、「本を読んで、本に書かれていないことを探す」が必要になるのです。それはつまり、「本好き」と言われていた日本人が長い間忘れていた、「自分の頭で考える」をすることでもあるのですが」。
衆院選の結果が果たして、ひとりひとり熟考した末のことかどうか、疑問もあるけれど、とりあえず、政権交代は実現した。いまこそ、これからの日本をどうしたいのか、それぞれがよく考える、日本を生きやすい社会に変えていく時だよね。先ずはこの本を読んで見てください。
大不況には本を読む
2009/07/17 08:19
とめてくれるなおっかさん 私たち日本どこへ行く
12人中、11人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
先日行われたラクイラ・サミットでの、この国の総理大臣の笑顔に違和感を覚えた。言葉にすれば、へらへらした笑顔。ああいうのを「追従笑い」というのだろう。どうせ「阿諛追従(あゆついしょう)」と書いてもわからないかもしれない。念のために書いておくと、「相手に気に入られようと、媚(こび)へつらうこと」の意である。
だって、この国の総理大臣がどんなに近寄っても、オバマ大統領も議長国であったイタリアのベルルスコーニ首相も知らん顔していた。そういう集まりに出るのはつらいでしょう。
「私は仲間だ」ということを、観衆にみてもらわないといけないのだから、ああいうへらへらした笑顔になる。しかし、観衆(国民)だって馬鹿じゃあないのだから、そういう笑顔をみれば、この国の立ち位置ぐらいはわかる。
そんなことを思っていたら、この本の中で橋本治氏はこんなことを書いていた。「たとえば日本は、転校生です。日本のやって来たクラスには、成績上位の優等生グループがあって、その他は劣等生です。転校生の日本は、やがて勉強が出来るということが分かって「優等生グループの一人」になります。でもこれは、試験の成績によって「優等生の一人」とカウントされただけで、グループ内で友達付き合いのある優等生達の中に入って、日本は友達を作ることが出来ません」(25頁)。
すごくよくわかる。友達を作れない日本は、どうしたら真の仲間になるのかを考えないで、へらへら笑いをするしかない。そして、私たちの国はずっとへらへら笑いをし続けてきたのかもしれない。
「この本は「大不況の最中に本を読んで、景気を回復させよう」という種類のものではない」(186頁)のだが、実はそのほとんどが「経済の話ばっかり」なのである。
少なくとも前振りでは、出版のあり方は景気の動向に左右されない「人のあり方」と説明されているにもかかわらず、である。
ただ、誤解をしてもらいたくないので、橋本氏の言葉を引用すると、「「本を読むことの徳」ばかりを説いていたら、それはただの精神訓話で、「それでいいんじゃないの?」にしていたから、本というものは外状況から取り残された」(142 頁)わけで、この不況とはどういうものなのか、あるいは不況を抜け出た先にどのような未来が待っているのかを考えることは、出版であっても避けて通れない。
少なくとも「人のあり方」を問うことをどこかにうっちゃった本にあっては、真剣にそのことを考えないかぎり、未来はない。
橋本氏が提示する答えはここでは書かない。読者一人ひとりが自身で答えを出すしかない。
私たちのこの国が大きく変わりうるかもしれないこの夏に、ぜひ若い人にも読んでもらいたい一冊である。
◆この書評のこぼれ話は「本のブログ ほん☆たす」でご覧いただけます。