大人のための文章教室
著者 著:清水義範
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大人のための文章教室
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大人のための文章教室
2005/07/08 20:28
読書論も文章論も、結局は愉しみがポイント。喜びを与えることのない文章論なんて、いかに大先生が書こうが、そんなもの要らない。その点、清水のこの教室の愉しさは何だろう
11人中、9人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
なぜ文章読本ではなく、文章教室なのか。それは清水のあとがきに詳しいが、確かに私たちが今まで読んできた有名作家の手になる文章読本では、実際に文章を書こうとすると、え、できないじゃん、と思わせることが多かったはずだ。といって、無名氏の書いた夥しい読本では無味乾燥な、それこそワープロに入っている定型文になってしまう。そう、今までの本は単なる読物だった。読むもだけのから、実際に生き生きとした読んでいて、なにより書いて楽しくなるような文章を書く極意を教える、それがこの教室だという。
ともかく、どこを読んでも納得のいく文章ばかりで、十二講をあわせても200頁だから、読んでもらうのがいちばんだろう。
分りやすい、読みやすい、とっつきやすい。例文の引き方も、変に古典第一みたいなところがなくて現代人として親しみ易いし、何より権威主義的なところがないのが嬉しい。おまけに、行間から湧き出るユーモア、さすが名古屋人である(うん、あんまり根拠ない)。かなりの数の文章読本を読んできたけれど、読物としてではなく実用に供するものとしてはベストかもしれない。
どれもためになるものばかり。特に、四講はいつも自分で悩むところだが、一応すっきり、第五講では迷いが吹っ切れ、十講のHPでの文章の作り方は娘に教えたい、十二講では、ともかく百枚書いてみようというのが具体的でいい。こんな数字をあげた作家が、文章本があっただろうか。以下、思わずにっこりしたところを紹介しよう。
第七講「近寄ってはいけない文章」から、納得の文章を引用してみよう。ちなみに小見出しは「学者の論文は訛っている」。
「学者が差異や異化や附与という言葉を使うことを私は非難しない。違いや、違える、付け加える、という言葉を使って論文を書いたのでは、利口そうに見えなくて相手にされないのだろう。だからあれは、その業界の人の、一種の訛りである。その訛りを使いこなさないと、その業界では格好がつかないというわけだ。」
同じく「公用文書は読んじゃダメ」では
「公用文書は、人に何かをわからせようという意図で書かれたものではない。理解しなくていいから従え、という目的のために書かれているのである。だから、読んでもさっぱり意味がわからないのだ。」
さらに「新聞の文章もクセ者である」で
「この文章の不思議さは、書いた人のそのことへの思いがまったくないことである。何があった、ということを報告しているが、それを見てどう思ったかは書かない、というのが新聞記事の約束なのだ。だから、天から神様が見て書いたような文章になる。」「本音はそうではなくとも、少なくとも中立や公正のフリをしなければならない、と新聞は考えている。だから、社説というのはなんだかもってまわったことを言い、そこから本音を感じさせようという、ややこしい文章になるのだ。」
これだけで、もとが取れた気になる。専門用語を使うことは、受け手のことより仲間内を優先する一時代前の学者や技術者の意識の古さ、さらに言えば己の愚かさを韜晦する手段にしかすぎないことは、みんな気づいている。役人の文章も、自分たちが公僕であることを忘れたどころか、国民を奴僕としか考えていないことの証だ。新聞を含めたマスコミの言動が、一見公平面しているものの、その実、わが身大事でしかないことは、ニッポン放送のTOBをめぐる報道を通じて、さらに明らかになった。
この文章教室は、文章の背後にあるものを浮かび上がらせる。むしろ、文章は人格の反映であるということを、あらためて教えてくれるということでもありがたい。こんどは夜間学校を開いて欲しい。
大人のための文章教室
2004/10/25 23:08
国語建設の持ち場で、つぎつぎと適切な指示を繰り出す現場監督の心意気。
6人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:和田浦海岸 - この投稿者のレビュー一覧を見る
まず、作業着に着替えるよう、注意をうけます。
日記文の寝巻き姿や、小説文の装い姿は、
ここではていねいに遠ざけられます。
あなたは、作業着に着がえられますか。
そう、ここは「国語建設の現場」というスタンスです。
そうして、現場に足を踏み入れるのを嫌がる人は、ご遠慮願う。
けれども、現場にいて、どこから手をつけてよいのか迷い、
立ちすくんでいる人には、ていねいに作業の段取りを教えてもらえます。
(本の内容をたどる野暮はやめにして、ここでは私の連想を書くばかり)
司馬遼太郎に「なによりも国語」という短文があります。
文の最後はこうでした。
「学校の現場は、国語建設の現場でもある。…筆者としては現場の先生方に、祈るような気持ちでいるだけである。」
今回紹介する本の著者には、以前「清水義範の作文教室」(ハヤカワ文庫)という塾の児童の作文指導をした本があります。清水さんは作家で、学校の先生ではありません。ありませんが司馬さんの祈るような気持ちが通じたようです。ここに見事な「文章教室」が出来上がりました。
この新書のはじまりだけ、ちょいと引用しておきましょう。
こんな語り口です。
「文章教室を始めてみようと思う。こういうものは、もののはずみという感じに、気がついたらやり始めてた、ってふうでなければいけない。教室だなんて言っちゃって、私にそんなことをする資格があるのだろうか、などとごちゃごちゃ考えたらろくなことにならない。私は自分のことを名文家だと思っているわけでは決してなく、なんて言い訳を書けば、どんどんいやらしくなるだけだ。
大人のための、文章についての作法や技術や作戦を考えていく教室だ。」
これが文章教室、清水先生の開口一番の言葉です。
実用をむねとしております。
そういえば、桑原武夫著「文章作法」(潮出版社)に、
「この講義は文章教室で、文学教室ではありません。」という言葉がありました。文章教室にも系譜があるのかなあ。
ところで大正二年に杉谷代水は、こう書いております。
「『今の学校出は手紙が下手で役に立たぬ』という嘆声を会社の重役達から聞くことが度々である。重役は利害に真面目だから、書信の文を大切に思ふのであるが、学校出の若い人はまだのんきで、書信文の自覚が十分に出来て居らぬためである。」
これは「書翰文講話及文範」のはじまりの言葉。
ちなみに、昭和12年に出た菊地寛著「文章読本」のはじまりには、
「いつぞや、女子大学の生徒だといふ若い女性から、手紙を貰つたことがある。筆跡は、なかなかあざやかであつたが、手紙の文章は、ひごく拙い。手紙として備へなければならぬ文句も書いてない。云はんとすることが至極曖昧である。文章の構成など支離滅裂だ。…いかに文明が進歩して、新しい機械が発明され、人手が省けるやうになつたとしても、文章をかく手数が省けるやうな時代は絶対に来ないのだ。時代が進歩すればするほど、文章の必要はいよいよ深く切実になつて来ると思ふ。…」
ついつい。引用ばかりになっちゃった。
大正二年頃の学校出にも、
昭和十二年の女子大生にも、
そして現代の大人のためにも、
この本が、さりげなく出ました。
まずは乾杯!
いよいよ深く切実になる「国語建設の現場」で、
この現場監督の指示を、見失わないようにしたいなあ。
以前。日本経済新聞が「諸君、卒業したら勉強しよう」という広告を出したそうです。まずは学校出の文章の教科書として。どうでしょう。
杉谷代水も、菊地寛も、桑原武夫も、司馬遼太郎も、笑ってこの新書の推薦者に名前を連ねてくれる。そう私は思うんです。
大人のための文章教室
2009/10/18 21:46
きちんとした大人に見える文章を書きたい方、必読
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:summer-well - この投稿者のレビュー一覧を見る
大人が、なにかの必要があって文章を書く場合、せっかくなら少し感じのいいものを書いてみたいと色気を出し、指南書をさがしてみると、これがなかなか見つからない。『文章読本』の類は文芸的すぎるし、「実用書」は、紋切り型で、物足りない。
忙しい中、時間を割いてわざわざ書くのだ。意図したことが正確に伝えられるのはもちろん、できれば、「うまくまとめられている」「よく書けている」と評価されたい。
こども向けなら「作文教室」の類がたくさん出ているというのに、大人向けのこの手の教授本は、ないのか?
という、ちょっと身勝手な希望をかなえてくれそうなのが、この一冊。
内容は、文章作成初心者のために、文章の構造を作る基本--接続詞が文章の論理構造を決定する--から、<です・ます>体は上下関係を内在する一方で、<だ・である>体は絶対話者の文体であるという解説、世間では簡潔な表現の代表選手と思われている新聞の文章を「近寄ってはいけない文章」だと明快に説いた上に、具体的な「手紙」「紀行文」といった文の種類に沿った書き方まで指導してくれる。
文芸と実用の中道を行く、「教室」感覚の本である。
会議の議事録、公私の手紙、PTAの会報や回覧板のお知らせ文面、ブログまで、幅広く活用できる、基本マニュアルである。