砂糖の世界史
著者 川北稔著
茶や綿織物とならぶ「世界商品」砂糖.この,甘くて白くて誰もが好むひとつのモノにスポットをあて,近代以降の世界史の流れをダイナミックに描く.大航海時代,植民地,プランテーション,奴隷制度,三角貿易,産業革命―教科書に出てくる用語が相互につながって,いきいきと動き出すかのよう.世界史Aを学ぶ人は必読!
砂糖の世界史
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砂糖の世界史
2007/10/15 15:41
砂糖という戦略物資
22人中、12人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:塩津計 - この投稿者のレビュー一覧を見る
ロンドンにキューガーデンという植物園の総本山みたいなところがある。ここを頂点にイギリス人は世界中に植物園のネットワークを作った。日本では植物好きの人間といえば世捨て人、花鳥風月を愛でる風流人、競争を嫌う優しい人というイメージがあるが、この植物園こそ英国人が世界支配を企むための総本山だったとはしらなんだ。植物とは富を生み出す源泉であり、世界に植民地帝国を構築するためのグランドデザインを行なう場所こそが植物園だったのである。私は東南アジアでプランテーションを見たことがある。マレーシアでゴム園、あるいはパーム椰子のプランテーションを見たことがある。等間隔で整然と植えられた植物が地平線の彼方まで延々と続く風景を眼前にしたとき、私の脳裏には「搾取」と言う言葉が浮かんできた。しかも、これはちょっとやそっとの搾取ではない。なにかこう、地球に注射器をぶち込んで「チューッ」と美味しいところだけを抜き去るような神をも恐れぬ所業とはこのことだという感じだったのである。あー、おそろしや。本書は英国をはじめとする悪辣なる欧州諸国が世界支配の為に展開した植民地帝国の基幹をなしたプランテーション、その戦略商品のひとつ「砂糖」を取り上げて、それが世界史でどのような役割を果たしたのかを概観する。これを読めば、どうして南米に、あるいはカリブ海にアフリカの黒人が今でも大量に住んでいるのか、その理由が分かる。しかしそれにしても欧州人はひどいことをしたもんだ。砂糖プランテーションを維持する為にアフリカから大量の奴隷を集め世界中にばら撒いた。これがアフリカの社旗組織を完全に破壊し、今に至るアフリカの貧困の原因となっている。それなのに今になって「SAVE AFRICA」などと称してアフリカの貧困撲滅は人類共通の課題だみたいなことをいって我々にも請求書を突きつけてくる。ちがうっつーの。アフリカの問題は英国とフランスとオランダとポルトガルの問題ですよ。お前らだけで後始末すりゃいい話なんだよ。日本人をまきこむなっつーの。砂糖だけではない。ゴム、綿花、珈琲、茶など商品作物、プランテーションの対象となった植物は数知れない。それにしても川北は「ロンドンにはコーヒーハウスはない」などと抜け抜けと書いているが、今、ロンドンにはスターバックスが溢れかえっている。時代を感じさせる記述ではある。
砂糖の世界史
2007/11/27 01:15
ウォーラーステイン的視覚の砂糖的応用
13人中、9人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:BCKT - この投稿者のレビュー一覧を見る
プロローグ 砂糖のふしぎ
第1章 ヨーロッパの砂糖はどこからきたのか
第2章 カリブ海と砂糖
第3章 砂糖と茶の遭遇
第4章 コーヒー・ハウスが育んだ近代文化
第5章 茶・コーヒー・チョコレート
第6章 「砂糖のあるところに、奴隷あり」
第7章 イギリス風の朝食と「お茶の休み」―労働者のお茶
第8章 奴隷と砂糖をめぐる政治
第9章 砂糖きびの旅の終わり―ビートの挑戦
エピローグ モノをつうじてみる世界史―世界史をどう学ぶべきか
著者は,1940年(大阪府)生まれ。京大文学部卒,同大大学院文学研究科を修了し,阪大助手,同大(87-04年,教授)。定年退職後は,名古屋外国語大学を経て,京都産業大学へと天下り。文化庁文化審議会委員。同文化功労者選考分科会委員。彼の名を知らしめたのは,なんと言っても,『工業化の歴史的前提――帝国とジェントルマン』。これは早々に英訳されて“輸出”さるべき著作だ(なんなら私が請け負いましょうか?)。生産様式ではなく,消費や道徳規範・習慣などから資本主義を説く。『民衆の大英帝国』(90年)や角山栄との共著『路地裏の大英帝国』(82年)からわかるとおり,著者は反東大大塚史学=越智学派=京大反マルキスト歴史学派の領袖。本書は著者56歳の作品。余計な御世話だが,I・ウォーラーステイン『史的システムとしての資本主義』(85年)の翻訳でそうとう印税収入があったに違いない。本訳書が古本屋になかったためしはない。
砂糖という現代ではありふれた日常品に数世紀の世界史を読み込む(説き起こす)というお洒落な視角。羨ましいくらいカッコいい。もっと言うと,「砂糖のあるところに、奴隷あり」(第6章)という題名からわかるとおり,資本主義が歴史段階説的に一国史的に発展するのではなく,世界自体が一国の資本主義を後ろで支えていた,いやこの世界自体がシステムとしてイギリスに資本主義を産み落としたのだというウォーラーステイン的視覚の砂糖的応用(敢えて,シドニー・W・ミンツ『甘さと権力――砂糖が語る近代史』的翻案とは言うまい)。これを砂糖に凝縮しているのだ。じつにお洒落。
じつは,彼の指導教官=角山栄には『茶の世界史』と題する,けっこう売れた著作がある。とうぜん,「砂糖と茶」は「遭遇」する(第3章)。川北は恩師の作品を補完する形で,イギリス庶民の食卓史を描き出したことになる(といっても,モーツアルト=史上初の庶民音楽家という規定が難しいように,貧乏人には砂糖は高嶺の(高値の?)花だったが)。
ただ,私のイギリス人の友人たちに紅茶党はほとんどいない。私と同じで,みんなコーヒーばかり飲んでいる。職場の自称イギリス通(喋る英語は英検3級)が紅茶ばかり飲んでいたのを思い出すが,ありゃいったい何なんだろう。。。(1123字)
砂糖の世界史
2018/05/28 09:21
歴史が苦手な方ほどおすすめ
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ぴんさん - この投稿者のレビュー一覧を見る
茶や綿織物と並ぶ「世界商品」砂糖。この甘くて白くて誰もが好むモノにスポットをあて、近代史の流れをダイナミックに描く。コンパクトかつ平易な文章と、『近代世界システム』や世界商品といった歴史学の成果が絶妙にミックスされている。砂糖がいかにしてヨーロッパに普及していったのかを見るためには、必然的に奴隷貿易や植民地運営に目を向けざるをえません。「砂糖あるところに奴隷あり」という著者の言葉。茶やコーヒー、チョコレートなど他の世界商品にも大きな影響を与えた砂糖。その見方・考え方が変わる。