キングダム
著者 原泰久(著者)
時は紀元前――。いまだ一度も統一されたことのない中国大陸は、500年の大戦争時代。苛烈な戦乱の世に生きる少年・信は、自らの腕で天下に名を成すことを目指す!! 2013年、第17回手塚治虫文化賞マンガ大賞受賞!
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キングダム 1 (ヤングジャンプ・コミックス)
2011/10/31 14:44
中国史マンガの白眉
13人中、11人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ががんぼ - この投稿者のレビュー一覧を見る
いや参った。この面白さは半端ではない。
どこかで評判を聞いて読み出した。舞台は中国、春秋戦国時代の終わりごろ。要するに始皇帝が中華を統一していく頃で、まだ秦の無力な王にすぎない後の始皇帝「政」と、それを支えてやがて将軍となる「信」を中心に物語が展開する。何しろ主に少年向けのマンガだから、二人とも十代後半の少年で、身分の違いを超えて友だちである。
中国の歴史は面白い。驚くような面白いことがいろいろあるから、ギリシア神話、旧約聖書、中世騎士物語などと並んでストーリーの宝庫だろう。そのせいか、マンガの素材になっているものも少なくない。だからといって面白いマンガになるとは限らないのはいうまでもないが、この面白さはどうだ。思ったより史実に即していて、たとえば主人公の信も、調べてみると、李信将軍として、『史記列伝』に登場する人物である。そうした事実とフィクションとをうまく絡ませて、見事なマンガを生み出した。
最初はたいしたものでもないかと思ったが、だんだん全体像が見え、人物が出てきて、話の展開が大きくなると、面白さが止まらない。原作があるようでもないので、書いた原さんの能力だろうが、このストーリーテリングの力、魅力的な人物を配して、スリリングな展開を構成し、盛り上げたり、泣かせたり、はらはらさせたりしながら前に引っ張っていく力は相当なものだ。
何しろ「戦国時代」だから、戦闘シーンが多く、個人の戦いだけでなく、軍略やら、あるいはより政治的な駆け引きも見事に描かれている。要するに時代は違っても『三国志』の魅力に通じるのだ。それでいて時代が違う新鮮さもある。
絵の実力も認めざるを得ない。タイプ的にはあまり好きなものではないが、とにかくとんでもない迫力でやられる。愛嬌もある。
以上は16巻目まで読んでの感想。一区切りついたところだが、今後も大いに期待している。
キングダム 34 (ヤングジャンプ・コミックス)
2014/04/20 16:45
絆の力、そして展開の妙
7人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ががんぼ - この投稿者のレビュー一覧を見る
『キングダム』はなぜ毎回こんなにも面白いのか。
いつも思うのは、メリハリや変化の巧みさということである。
大軍のぶつかり合いがあると思えば一対一の対決がある。
肉弾戦の一方で頭脳戦がある。
戦闘の激しさの合間にしみじみとした心の語らいがある。
今回は前の巻に続く羌?の戦いから始まるが、
暗殺者としての戦いは、いわば信たちの表舞台に対する裏、
光とは別の、影の戦いとして、また違った味わいがあるのがいい。
そしてそこで確認されるのは、
闇の力を超えるものは「絆」の強さなのだという、
この物語の根底にあるテーマである。
羌?の話のあと、
合従軍vs秦の死闘以後の各国の事情が語られる。
ああいう大きな流れが途切れたあとの展開は、誰しも興味の湧くところだろう。
そして物語は、何よりも秦の内乱の話へと移っていく。
つまり政と呂不韋との直接対決がいよいよ始まるのだ。
いつか必ずあるとわかっていたことだから当然といえば当然の展開だし、
この巻は始まりの段階で、まだそれほど大きなアクションはないのだが、
にもかかわらずこのワクワク感はどうだろう。
いろいろ陰謀が見えてきたりほのめかされたり、
新しい登場人物も含めて、何かと意外性に満ちた、
今後大いに楽しめそうな種がいっぱい撒かれている。
変化などといっても、単純な二分法ではない巧さだとあらためて思い知らされて、
描き方の見事さに唸ってしまう。
巻の最後も、次への期待を存分に膨らませてすごくいい終わり方だ。
満足。
キングダム 31 (ヤングジャンプ・コミックス)
2013/08/03 15:25
新しい力、新しい時代
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ががんぼ - この投稿者のレビュー一覧を見る
函谷関の決戦の隙をついて、秦の首都咸陽を狙う李牧。
気がついて追ったヒョウコウは突如現れたホウケンに倒され
失意の信らは咸陽をめざすも、秦は絶体絶命の危機。
そこへついに秦王政みずからが立ち上がる。
これが前巻の内容だった。
これに続くこの巻では
合流した政と信とが咸陽手前の小さな城で合従軍別働隊を迎え撃つ。
これまでとは趣きを変えて、
城をめぐる攻防である。
迫力という点では、それこそド迫力だったここ数巻よりはやや落ちるだろう。
しかし今回は今回でまた違った味わいがある。
巧みにメリハリをつける作者原さんの職人芸である。
一般の人々をも動かす政の檄の言葉の力。
それはもちろん政の熱いハートの力でもあるが、
こうして言葉で人を大きく動かして歴史を刻んでいくというのは
中国歴史物語では定番ともいえる名場面だ。
そして限られた兵力で圧倒的な敵と戦うわけだし、
敵は何しろあの智将李朴だから
当然のように頭脳戦でもある。
しかしこの巻にきわだつのは、なんといっても若い力の存在だろう。
主だったビッグネームは函谷関に張り付いている中
ここで戦うのは新しい世代のように見える。
今まで豪勢な脇役陣にかすみがちだった大王政も、
ここでそのすごさの一端を見せる。
信と政との再会も数年ぶりだが、ほかにも懐かしい面々も登場。
キョウカイですら、信の脳裏に現れる(でもそろそろ本物に復活して欲しい)。
そして新しい敵もまた若者だ。
信が父と仰いだ王騎もヒョウコウも今は亡い中、
新たな英雄に名乗りを上げるのは、こうした若者たちなのだ。
もちろんその中心には信がいる。
そういえば、今回の帯には、手塚治虫文化賞マンガ大賞受賞の知らせがあった。
おめでとうございます。
長く親しんできたファンからすれば、もちろん嬉しくもあるが、当然という誇らしい思いもある。
原さん自身も、まさにこれからの日本の漫画界を担っていく新しい力であるのは間違いない。
このあとがいよいよ楽しみである。