仲蔵狂乱
著者 松井今朝子 (著)
〈存分に舞い狂うてみせてやる……〉江戸は安永――天明期、下積みの苦労を重ね、実力で歌舞伎界の頂点へ駆けのぼった中村仲蔵。浪人の子としかわからぬ身で、梨園に引きとられ、芸や...
仲蔵狂乱
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商品説明
〈存分に舞い狂うてみせてやる……〉江戸は安永――天明期、下積みの苦労を重ね、実力で歌舞伎界の頂点へ駆けのぼった中村仲蔵。浪人の子としかわからぬ身で、梨園に引きとられ、芸や恋に悩み、舞いの美を究めていく。不世出の名優が辿る波乱の生涯を、熱い共感の筆致で描く。第8回時代小説大賞受賞作。
目次
- 蟠竜の章
- 朱雀の章
- 白虎の章
- 玄武の章
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静謐な情熱
2002/06/16 12:32
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:のらねこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
孤児の身から時代を代表する「千両役者」にまで昇りつめた歌舞伎役者の一代記なのだが、幾多の逆境にめげずに成功した人間の伝記、として読むには、いささか静謐な印象が強すぎる。だがそれは、内側にある種の力強さを秘めた「静謐さ」なのである。
生い立ち、いじめ、貧困、病苦、老い……仲蔵は、おおよそ考えられる限りの逆境を味わうのだが、それらを痰然と、「芸への情熱」に昇華していく。「歯を食いしばって堪え忍ぶ」といった態の、肩に力が入った姿勢を持たないあたりが、読んでいて非常に心地好い。
同時代の空気や風俗もよく取材された時代物でもあるのだが、とくに構えるまでもなく読みこなせる、こなれた文章も、いい。
役者としての深い心情の刻まれた小説
2005/09/24 18:42
6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:どんぶらこっこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
芝居「夢の仲蔵千本桜」をみて、仲蔵の本はないかなと探していたらこの本をみつけたので早速読んでみた。本当は小説じゃなく伝記とか歌舞伎の歴史の本の方が欲しかったんだけど、「ま、これもおもしろそうじゃ」ってことで・・・。
最初は「夢の・・・」には出てこない仲蔵さんの裏話・江戸、田沼時代の歌舞伎界の内幕知りたさで楽しく読んでいたが、当時の歌舞伎界にもまれながら成長していく仲蔵の人生にぐんぐん引き込まれてしまった。
仲蔵の人生には、大衆の心をぐっとつかむものが潜んでいたのだろう。孤児で芸の家にもらわれて厳しく仕込まれた子役時代、一旦は役者の世界から退いたため、新規出直しのときは、一番の下っ端からのやり直しで惨い仕打ちを受け死のうしたこと、役者として修練を積み、とうとう押しも押されぬ大物役者になったこと、名前を終生変えず、初代中村仲蔵で通したこと・・。
「甘い、甘い」とわかっていながら自ら苦労をしょいこむ仲蔵に、庶民は知らず知らずかわいさ、魅力を感じたのだろうか?
踊りの所作の覚えが悪く何回も師匠にぶたれながらもなかなか覚えられない子どもの仲蔵が、夢うつつに踊ったとき初めて体の力が抜けて、踊りがしみこむようにわかったというくだり。比べるのもおこがましいが、私も体と心がばらばらの動きしかできず何べん練習しても「わからんわからん」でやみくもに練習を繰り返したことを思い出した。
疲れてもうやけくそになっているあるとき、「あ」と本当にその後は目の開けるような時がぽっかりとやってくる。周りの景色が一変して、クリアでリアルな色彩をもった実感が洪水のように押し寄せる。お稽古で階段をひとつ上がった時はみなそんな感覚を持つのではないだろうか。
クライマックス、老いた仲蔵が、おなじ成り上がり者として親近感を感じ続けていた田沼にしりあいを通じて願い出て、失脚した田沼の屋敷で踊りを披露する場面も心に残る。
己の中の「狂」を毒のように吐き出すことを堪え、それを美しい芸として後世に残した仲蔵。
お芝居とはまた別の意味で、役者としての深い心情が刻まれた小説である。
第八回時代小説大賞受賞作。
中村仲蔵一代記
2024/10/24 16:49
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:森の爺さん - この投稿者のレビュー一覧を見る
一ノ関圭著「鼻紙写楽」に最晩年の初代中村仲蔵が登場していて興味を抱いたことから、参考書籍となっていた本書を読んだのだが、一ノ関圭の作品の初代中村仲蔵については主に本書を参考にして書かれているという印象を受けた。
歌舞伎役者については、市川団十郎を筆頭とする門閥出身のサラブレットが目立つポジションにいるが、当然ながら彼らだけでは芝居は成り立たず、所謂大部屋俳優が存在し、その最下層である「稲荷町」出身という全く門閥とは関係無いながら一代で座頭まで務める名優となった初代仲蔵は立志伝中を地で行く人物であり、その他にも同時代に色子から初代市川染五郎、二代目市川高麗蔵そして四代目松本幸四郎と名跡を継承しながら出世していった錦次も登場するが、仲蔵は中村仲蔵のまま活躍している(現代でも五代目坂東玉三郎や六代目片岡愛之助のように梨園とは無縁の出身でありながら活躍している方々もいる)。
本書では浪人の孤児であった初代仲蔵が数々の困難に遭遇し、時に挫折しながらも名優へ成長していく姿が描かれている。 初代仲蔵は写楽が登場する以前に亡くなっている(勝川派の役者絵は残っている)が、作中に登場する五代目市川団十郎、四代目松本幸四郎、三代目市川高麗蔵(後の五代目松本幸四郎(鼻高幸四郎))、四代目岩井半四郎等は、写楽や初代歌川豊国の役者絵に登場する役者なので、役者絵の顔を重ねながら読んでいた。
自殺を考えるまで思い詰めていた初代仲蔵を助けた武士が、後に老中首座となる田沼意次の家臣だったりするのも、確かに初代仲蔵が活躍したのは田沼意次が政権を担当していた時代であり、田沼の失脚後の時代に初代仲蔵は亡くなっている。
また、歌舞伎役者として大成し、妻との間に息子が誕生したのに、幼くして亡くなってしまった際の行動は表題である「仲蔵狂乱」にも通じる(その妻にも先立たれるなど家族運は非常に悪かった)。
初代仲蔵は元々踊りの世界から歌舞伎役者となっており、関係の深かった(歌舞伎界における恩人)四代目団十郎と息子の五代目団十郎を中心とした歌舞伎役者の社会、座元である中村勘三郎家との関係等、まさに底辺から頂まで江戸歌舞伎の世界が描かれていて興味深く読めた。
印象深かったのは、最底辺の役者から座頭まで出世した初代仲蔵がかつて虐められた年配の大部屋役者と再会した際、過去の記憶から大部屋役者を恐れる初代仲蔵に対して仲蔵の出世を我がことのように喜ぶ老いた大部屋役者の態度と、落語でも有名な仮名手本忠臣蔵での斧定九郎の役を巡る話である。
仮名手本忠臣蔵における脇役(ちょい役)である斧定九郎の衣装については、初代仲蔵が演じるまでは山賊姿だったのが、初代仲蔵が当世浪人風の姿で演じて以来それが定着しており、本書においては立作者の金井三笑と対立した結果、本来なら大役を任せられる立場なのに、ちょい役である斧定九郎役しか与えられず工夫した中で、印象に残った浪人の姿で演じたという三代目仲蔵(二代目は写楽の役者絵に登場する大谷鬼次)の話を採用しているが、他には元々五代目団十郎が考えたものを初代仲蔵が頼み込んで拝借したという説も存在する。