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  • 販売開始日: 2014/12/27
  • 出版社: 早川書房
  • ISBN:978-4-15-011451-0
一般書

しあわせの理由

著者 グレッグ・イーガン , 山岸 真

12歳の誕生日をすぎてまもなく、ぼくはいつもしあわせな気分でいるようになった…脳内の化学物質によって感情を左右されてしまうことの意味を探る表題作をはじめ、仮想ボールを使っ...

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しあわせの理由

税込 1,012 9pt

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商品説明

12歳の誕生日をすぎてまもなく、ぼくはいつもしあわせな気分でいるようになった…脳内の化学物質によって感情を左右されてしまうことの意味を探る表題作をはじめ、仮想ボールを使って量子サッカーに興ずる人々と未来社会を描く、ローカス賞受賞作「ボーダー・ガード」、事故に遭遇して脳だけが助かった夫を復活させようと妻が必死で努力する「適切な愛」など、全九篇を収録した日本版オリジナル短篇集。

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みんなのレビュー91件

みんなの評価4.0

評価内訳

途方もないヴィジョンの衝撃に、「わああああっ!」と絶叫したくなった短篇集

2010/04/10 09:16

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:東の風 - この投稿者のレビュー一覧を見る

 主人公が体験している異様な出来事の中にいきなり放り込まれる感触があって、収録短篇の多くが、私にとっては、かなりとっつきづらい印象がありました。でも、そこを我慢して読んだ甲斐が十二分にあったSF短篇集。

 途轍もない状況に置かれた主人公の“心”あるいは“意識”がどう反応するか、とか、こんな異常な事態に直面しても人間はなんとか折り合いを付けてやっていけるのだ、とかいったことが、実に深いところまで掘り下げられていたところ。すげぇなあと、ちょっと呆然としてしまった。

 イーガンの短篇の味わいについて、SF作家の山本 弘が、著書『トンデモ本? 違う、SFだ!』のなかで、<いずれも唖然となるような途方もないアイデアを用い、愛、信念、信仰、自由意志、アイデンティティ、生と死といった、我々がごく当然のものと考えている概念に、強烈な疑問符を叩きつけてくる。>と書いているんだけれど、まさにそのとおりなんですね。「もしも、不死の未来が実現したら」とか、「自分の感情、脳の状態を意識的に操作できるようになったら」といった状況を、主人公の心理とあわせて緻密に描いていくなかから、私たちが普段当たり前のものとして受け止めている「生あるものは必ず死ぬ」とか「人間の感情は本能的、自発的に湧いてくる」といった真理が揺らいでくる。人間の根幹と深く、密接に関わっているが故に見えにくかった箇所に光を当て、目を見開かせてくれる。そう言ってもいいかな。

 『祈りの海』に続く第二短篇集にあたる本書のなかでは、とりわけ、「ボーダー・ガード」と「しあわせの理由」の二篇に心を揺さぶられましたね。読み進めている途中から、あまりのヴィジョンの途方もなさに、「わおっ! わああああっ!」てな感じで絶叫したくなっちまいました。

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イーガンのなにが凄いって、そりゃキミ「まったく新しい」ってことだよ。

2003/07/25 18:10

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:山  - この投稿者のレビュー一覧を見る

  「かつてない手法で描かれた××時代の文学」とか「これまでどこにもなかった小説」とか、そういう宣伝文で紹介されるのは小説だけではなくて、映画でもアートでもビジネスでも同じなんだけど、実際に触れて(読んで)みると、ぜんぜん新しくない! みんな嘘!! 紋切り型に見せないよう手法とか論理をゴチャゴチャにしてたり、一見新しいんだけど描かれてる世界が浪花節だったり、そういう意味で言えばフィリップKディックだって、まったく古い! ……なんて思ったのは実はイーガンを読んだからで、ぼくたちはイガーンを読んだ以前と以降では、まるで違う人生を送るようになる。大袈裟だなんて思わないで。ほんとにそうなんだから。たとえばこの短編集のタイトルにもなってる「しあわせの理由」。人間の、しあわせな気分の原因は、いいことがあったとかバイオリズムの上がり下だりだとか好景気だとか、そういうことだと、一応そういうことにしとかないと「人生の意味とか」がなくなるから、みんな無自覚にそう思って生きているけど、ほんとは「脳内物質とかホルモンの分泌」で決まっちゃってるんだ。こういうことは今ではよく言われるけど、でも「脳内物質とかホルモンの分泌」レベルのことを起点にして書かれた小説なんて、誰も思いつかなかったし、書こうとしても書けなかったんじゃないかな。少々いや相当に読みにくい作品もあるけど、イーガンの小説を読むと、これまで無自覚に信じていた価値観とかモノサシ……そのせいで不幸だった自分というのが浮き彫りになり、ぼくの場合なんかだと、これまで生きてきた価値観の全部がでんぐり返るくらいの衝撃を得て、しかも、そこで終わりじゃなく、実人生でも小説に描かれた「イーガン世界」の延長線を生きてる気がずっとしてる。ぜったいに騙さないから、読んでみて!

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イーガン流の理系の「私探し」短編集

2004/01/25 15:52

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:Okawa@風の十二方位 - この投稿者のレビュー一覧を見る

 『脳の腫瘍はぼくの頭の中をしあわせのホルモンで満たした。12歳まで24時間の幸せで過ごしたぼくは、脳の中から幸せを感じる機能を全て奪い去られる、最新のウィルス治療によって。生命と引き換えに得たのは、永遠の欝の世界…しかしテクノロジーは、失われた幸せの感覚を再び僕の前に提供した。でも、ぼくの幸せって…(表題作「しあわせの理由」)』

 私という存在は、本当はどこにいるのでしょうか?
 イーガンの作品はいつもその問いに返ります。SF好きのあなたなら、一度はこんな疑問を持ったのでは? どこに真の私はいるのだろう…私を成り立たせている無数の原子の中にか? 脳のシナプスのインパルスに? 量子力学の多元世界の一つとして? その答えを映し出すためにイーガンは様々な私を描き出していきます。

 「位相夢」ではロボットの中に電子的にコピーされる老いた私を。いったいどの、いつの電子パターンの中に私はいるのでしょう?

 「血を分けた姉妹」では、冷酷な医学的試験によって隔てられるクローン(一卵性双生児)姉妹としての私を。生物学的に同じ肉体を持った二人の強い絆、その絆を断ち切られた時に私はどうなるのでしょう?

 「道徳的ウィルス学者」では、神の僕として「自分」の予言の実現に全てをそそいでしまった信仰者としての私を。信仰によって支えられる私。しかし生きて相反する欲望を持つ自分とクリスタルのような真理を望む自分、その間で自らが裂けてしまった時…

 そして表題作「しあわせの理由」では、脳の中の様々な化学反応としての私を描きます。人間は幸せを求めて生きていきます。狭くは自分の幸せを、そして広くは他の人々の幸せを求めて、それがたとえ他人の目から不幸であったとしても。それでは幸せって何でしょうか? シニカルに言えば、脳の中を幸せの物質で満たすことでしかありません。でも、本当にそれだけでしょうか、もし幸せがコントロールされるとしたら、その時私はどんな幸せを求めるのか。この作品のラストで、イーガンにしては珍しくほんのわずかなセンチメンタルさも込めて、その答えが描き出されています。
 イーガンらしい、文系ではなく、理系の「私探し」短編集です。

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編・訳者コメント

2003/07/22 17:35

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:山岸真 - この投稿者のレビュー一覧を見る

 きくところでは、グレッグ・イーガンの日本オリジナル第1短篇集『祈りの海』は、bk1で売れ行き良好であるとか。そのおかげもあって、こうして2冊目の短篇集『しあわせの理由』を、これも日本オリジナル編集でお届けすることができました。“祈り”の次が“しあわせ”では、抹香くさい本と勘違いされそうですが、イーガンの作品はその対極にあります。
 イーガンがとりあげる題材は、大脳生理学、バイオテクノロジー、免疫学、仮想現実、人工知能、ナノテクノロジー、などなど。ここに並んだ単語を見ただけで、自分とは縁遠い世界の話に感じてしまう人も多いでしょう。しかし、そうした最新の科学や技術の告げる新しい世界観や人間像が、じつは読者であるあなたの生きている世界の姿、そしてあなた自身の姿にほかならないことを、イーガンの作品は描いているのです。
 そこで描かれる世界観や人間像には、常識に反するものや感情的にうけいれがたいものもあるかもしれません。だからといって、それが真実であることに変わりはなく……それでもやはり、割りきれない思いが残ってしまうことを、主人公たちの葛藤を通じてイーガンは語っていきます。それはSFだけに可能な、現代人のための——あなたのための切実な物語。本書巻頭の「適切な愛」や巻末の表題作は、その典型といえるでしょう。
 2冊の短篇集の収録作のレベルに遜色はありません。ただまあ、『祈りの海』の収録作がすべて男性主人公の一人称なのに対して、本書には女性主人公の作品も三人称の作品もあるので、その分バラエティ豊かといえるかも。ともあれ、『祈りの海』収録の11篇、本書収録の9篇、ともに並べかたには気を使いましたので、どちらも巻頭から順に読んでいただくのがベストだと思います(本書収録の「ボーダー・ガード」はSF的にかなり“敷居の高い”作品ですが、読み進むにつれて真のテーマが見えてきます)。
 また本書では坂村健氏、『祈りの海』では瀬名秀明氏が、きわめて的確な解説を書いてくださいました。編者として望外の喜びであり、収録作と並ぶ読みどころといえます。
 SFの約束ごとに縛られないイーガンの作品、とくに中・短篇は、SFになじみがない人にも読みやすく、SFねえ昔はよく読んだなあという人にはSFの面白さを再発見させる力があり、熱心なSF読者にも斬新な驚きをあたえてくれるでしょう。

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量子宇宙の孤独

2003/11/01 15:38

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:SlowBird - この投稿者のレビュー一覧を見る

 イーガンの小説を読むと、なんて孤独なのかといつも思う。
 登場人物のことであり、共鳴しそうになる自分のことであり、また作者に対してだろうか。
 科学の成果によってある人物の日常世界ががらりと変わってしまう時、その不安は世界の誰とも分かち合えない、いつも。
 最先端科学が国家プロジェクトの巨大なチームで推進される時代は過ぎ、むろん町の発明家やマッドサイエンティストの手に委ねられているのでもなく、資本と自由市場がその行く末を決めるのが現代だ。単純に言えば、企業のR&D部門においてもっとも重要視された、あるいは利益を挙げた分野が発展していくということ。
 だから新しい科学は、突然消費者の前に姿を現す。例えば、携帯電話なんて僕らにはウルトラ警備隊のものという印象だったのが、いつのまにか普及を終えているようなものだ。
 電話ならまだいいが、それが量子力学や遺伝子工学の場合、いきなり人のアイデンティティを揺るがす事態になる。シュレディンガーの猫のごとく明日のあなたの「存在」確率は50%で明後日は25%、あるいはあなたの肉体も遺伝子情報もそっくり取り替えるが精神だけは元のまま、なんて言われてどうかと。
 しかも科学のパトロンたる企業やら大病院やら保険会社やら、いかにも人の血が通ってなさそうではないか(一面的なイメージで失礼)。
 本書は短編集なのでバリエーションは種々あるのだが(その範疇にないものももちろんある)、ことごとく孤独な人達。これだけ並ぶと、科学的な設定から導かれる結末に孤独があるのではなく、孤独という結末を得るために設定を作っているのではないかとさえ思えてくる。(本当にそうかも?)
 日本の作家が書けばもっとウェットで救いのあるストーリーになるような気がして、イーガンの住むオーストラリアと言う風土のせいなのだろうかとも勘繰ってしまう。
 じゃあそれに共感する僕も孤独を抱えてるのだろうか。いや、きっと現代人なら誰でも持っている不安が繰り返し繰り返し表現されているのだと読むのが穏当なんだろうな。
 最後には孤独は癒されることを示唆する作品もありますので、ご安心を。

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2005/01/06 09:30

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2005/07/29 00:22

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