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投稿者:polton - この投稿者のレビュー一覧を見る
己が持つ悪しき業なのか、
乱世の泥濘に巻きこまれ次々と男に抱かれ、
その容色すら翳りが生れるほどに苦しむ夏姫。
またも彼女を寵愛する者は非業の最後を遂げ続ける。
その中に見出した最後の光、巫臣。
巫臣が夏姫の運命を変え風を変える。
苦しみの果てに安寧に辿り着いた夏姫。
どんな苛酷な環境であっても、
前を向く心がどこかにあれば道は開く。
教訓と言うよりは各々の己の望みに近い言葉を思い出す。
春秋の話に史記を引き合いに出すのは場違いかもしれないが、
上巻に引き続き「史記」の如く滑に流れる宮城谷氏の文章に、
歴史と言うものの扱い方の妙を見た気がする。
運命の人に出会う前後のコントラスト。
2015/12/16 22:51
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投稿者:咲耶子 - この投稿者のレビュー一覧を見る
乱世と男達に翻弄された絶世の美女・夏姫の波乱の物語。
大切な人達が殺されてなお自らの美しさを武器に生きて行こうとする姿。そうしなかれば生きていけない悲しさ。
運命に流され翻弄さながら主体性を感じさせない曖昧な存在です。
それが巫臣に出会ってハッキリとした輪郭を持ち始めます。
そのコントラストにハッとさせられます。
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夏姫は幾人もの男たちを通じても物語の中で終始ぼんやりとした存在。読み手はその存在を汲み取ろうとせずに先に進めていくのがいいのかもしれない。そしてようやく人形に命が吹き込まれるような、夏姫に出会う。
史実どおりですがなんといっても成長した夏姫の長男・徴舒が哀れです。
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肝心の夏姫の心が見えにくく、最後に心から愛する夫を得た時の変貌ぶりも「?」といった印象が。むしろ楚王とか子南とか武将たちのほうが輝いてました。これは「燃えよ剣」を読んだときの読後感に似てる。
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傾国の美女、夏姫を描いた小説下巻。
・太鼓の音は物事を正しい形に戻すために発せられ、この「正す」が「征す」に通じるので戦争において攻撃の時に打ち鳴らされるのである。鉦は停止や退却の時に使う。
・孔子が「怨みには正しいやり方で報い、徳には徳を持って報いるものですよ」と答えている。春秋時代の倫理は一貫して恩讐の報復にあったといってよい。
・「冠のひも」事件に対する楚王の言葉「みな冠のひもを切れ」
・大きな組織の顕位にある者はその組織によりかかる癖がついているだけに、どんな些細なことに対しても主体性を失ってはならないと歴史は教えている
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上巻では登場の少なかった夏姫がいよいよたっぷりと登場。しかし、兄は殺され、かけがえのない息子も死に、まさしく作者が意図する時代に翻弄される女性を描いている。しかも、彼女の生き方も首尾一貫しておらず、現実の人間らしくていい感じ。でも、よくまあ調べましたねと言う宮城谷ワールドです。他の作品につながる、いやつなげているのも面白い。
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0707
途中から巫臣が「天は赤い河のほとり」のイルバーニに思えて仕方なかったです。
夏姫、幸せになれてよかった。
鳳凰の冠ももう一回読んでみようと思います。
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★2010年61冊目読了『夏姫春秋(下)』宮城谷昌光著 評価B
次々と夏姫を襲う不幸、その美貌故に自らの暗い運命に苦しむ。楚の荘王が次第にその才覚から周辺諸国を従え、傑出した力を見せていく。
また、夏姫にもついに運命の巫臣(ふしん)に出会い、彼の粘り強く時間をかけた深謀遠慮により、楚を脱出、結局晋へ二人して亡命を図り幸せを掴む。
夏姫を主人公に選びながら、その回りの男たちを中心に時代の物語を進めるという形になっている。物語の最後、夏姫が幸せを掴む部分は間違いなくAであるが、それ以外の部分については、全体としての物語の山谷のつけ方、主人公が何度か変わっていく点にやや難があると思います。
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『花の歳月』の解説で、宮城谷氏は「風」を作品の中に取り入れているとあった。
確かに、そう意識しながら読むとその表現は多いが、とりわけこの作品では「風」がよく登場したように感じる。
一方、タイトルからメインであろうと思われる夏姫の登場は極僅かで、むしろ彼女の隣で翻弄された男達の出番が多い。
だが、夏姫が「風」なら、作者は、夏姫を夏姫としてではなく、「風」として描きたかったのかもしれない。
そうだとすれば、納得だ。
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難しい。これまで傾国の美女の話といえば、その時代の男女の失笑噺が多い。傾国の美女を客観的、男性的目線から捉え、その苦悩を浮き彫りしたところが共感を呼んでると思う。神道と当時の対女性観がよくわかる秀作。
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春秋戦国時代の話。
鄭の国の夏姫という姫が主人公で、その美しすぎる容貌のために波乱万丈の人生を送ることになる。
周陳晋楚斉などいくつもの国同士の戦いに巻き込まれ、夏姫は愛する心を失い幸せに笑えなくなってしまう。
男たちの権力争いや駆け引きの道具とされた女性の悲しみや怨みがメインで描かれているが、どうしようもなく姫に心奪われる男たちの様子もよく描かれている。
結末で救われる。
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楚に移った夏姫は、巫臣と出会い、
自身の宿命?から解き放たれる。
いつも思うけど、宮城谷さんの小説は
本当に読みやすい。
こういう、古代中国の話って、好きだけど
漢字が多くて似た名前が多くて、地理も不明で
すぐにわからなくなっちゃうんだけど。
宮城谷さんにはそれがないんだよなぁ。すごいなぁ。
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上巻の最後の方までは存在の希薄だった、主人公・夏姫の物語が動き始める。
下巻の序盤、恩人である家宰の一族を救うために有力者たちに身を投げ出す場面は悲壮で胸が痛い。
幼い頃から抵抗するでもなく、男たちに身を任せて来た夏姫という人物が、よくわからないままで話は進んできた。しかし決して自ら頽廃を好むわけではなく、喜ぶわけでもないことがわかった。むしろこの時の無私の決意と行動によって彼女の清廉さが際立ち、ようやく彼女の内側の魅力が垣間見えた。隠されてきただけに強烈な印象を伴って。
しかし夏姫の持つ最大にして唯一の武器は、結局はその美貌と肉体であり、男たちは勝手に溺れていく。ここへきて、夏姫の物語は展開すればするほど何もかもが悲劇的である。特に一人息子の子南の苦しみは想像を絶するし、理解されず憎まれるしかない母の気持ちも、また壮絶な悲劇である。
だが物語も後半にさしかかって、ようやく救いの光のようなものが一筋差し込んでくる。それは夏姫に対して欲望ではなく純粋な愛情と優しさを寄せてくれる、それも思慮深く時機を待てる人物の登場である。
運命の恋とか真実の愛とかいうには、なんだか唐突に始まった感じでやはり読んでいて困惑するのだが、そこが主題と思うからそうなのであって、夏姫を取り巻く国々と諸侯、戦争と政治の描写は相変わらず魅力的で、生き生きとしている。
また、夏姫と同じようにここへきて、にわかにスポットを当てられた夏姫の侍女もまた魅力的な女性である。彼女がずっと夏姫を思って寄り添ってきたこと、その事実がこれまでの滅茶苦茶な悲劇をいくぶんでも和らげてくれるようだ。
巫臣と結ばれた後の夏姫の可愛らしさは「童女」のようである。十歳にして「あれは童女ではない」と言われた彼女がようやく本来の姿に立ち返ることが出来たようで、気持ちの良いラストだった。
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春秋時代の戦乱のダイナミックさの中に一本夏姫の線が通っている。その悲哀な運命に暗澹たる思いだったが、最後に救いがあってよかった。
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1995年発行、講談社の文庫本。解説は縄田一男。あとがき有。下巻は夏姫が中心となる。しかし、この時代でも、労働力や子孫を残すために夏姫のような未亡人は他の男性に再婚させられたのではないだろうか。初めの兄に通じた部分はとにかく、その後は夫となった人物が偶然次々の奇禍にあったことからくる伝説のような気がする。そう考えると面白くないのだろうが。最後に出てくる巫臣は名臣として描かれていていい男ぶりなのだが、左氏伝とかの評価はどうだったかなぁ。
1991年4月に海越出版社より刊行されたものの文庫化。