本編とは切り離して読める中短編集です。どれも重いテーマを扱っていますが、話そのものはファンタジー風で、本編よりは手軽です。何度でも読み返せる点が魅力かも・・・
2009/09/09 19:49
7人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
以前、『ゲド戦記外伝』としてでていたものを、作品の発表時期から判断して、本編に組み込み今まで第5巻であった『アースシーの風』と順番を入れ替え、あらたに第5巻にしたものです。先に結論を書いてしまいますが、『アースシーの風』を読み終わると今回の選択が失敗であったことが良くわかります。
むしろ巻番号を外して、単純に外伝としていつ読んでもいい、極論をいえば最初に読んでも構わない、なんて思います。今回の少年文庫版での判断としては、「オギオン」となるべきものを過去の経緯から「オジオン」のままとしたことと、この第5巻への組み込みは、単に翻訳者一個人のメンツや思いつきでなされたもので、『ゲド戦記』にとっては不幸な選択だったと言えます。
ちなみに、特に表題作は「『アースシーの風』と深いかかわりがあり、先に書かれたこちらを読むと理解が早い」といった解説をしているネット書店もあるようですが、理解を早くするだけならば解説書やアニメをみたり、最終巻から読めばいいので、そういう説明は読書を楽しむものにとって一顧だにする価値のないものです。出版文化の発信者としてもっと考えた文を書いて欲しかった・・・
で、作品は本編とは独立したものなので、手軽に読めるといったメリットがあります。ただし、この本を入口にして『ゲド戦記』の世界に入っていこうというのは、難しいかもしれません。本編5巻『影との戦い』『こわれた腕環』『さいはての島へ』『帰還』『アースシーの風』の世界は、時間、空間が大きく変わるものでかなりの読書経験がないと途中で挫折すると思います。
内容紹介は、カバー後の案内を借りれば
ある少女が、自分の持つ力
をつきとめるため、大賢人
不在の魔法の学院ロークを
訪れる。表題作を含む、ア
ースシー世界を鮮やかに映
し出す五つの物語と、作者
自身による詳細な解説を収
録する。
『ゲド戦記外伝』を改題
●中学生以上
とあっさりとしたものです。目次に従って5篇をもう少しこまかく紹介すれば
・カワウソ:ハブナーの港の造船所で働く船大工の息子がみせた力は、海賊と魔法使いの目を惹き、魔実をかけられ魔法使いのために王を探す手伝いをすることになるが・・・
・ダークローズとダイヤモンド:金持ちの商人の息子ダイヤモンドは魔法使いの娘ローズと仲良し。あるひ、息子のもつ魔法の力を認めた父親は子供を魔法使いのもとに預けるが・・・
・地の骨:魔法使いダルスのもとに現れた少年は、彼のもとで学びたいという。それがダルスと一級の職人ダンマリとの出会いだった。忙しいダルスはなぜかダンマリが気に入って・・・
・湿原で:酒飲みの弟と暮らすメグミのもとに現れたみすぼらしい身なりの美しい男オタクは、この地方の病気に罹った動物をなおしたいと言って、彼女の家に宿泊をするが・・・
・ドラゴンフライ:没落した地主アイリアの娘ドラゴンフライは酒びたりの父親の反対を押し切り密かに魔女から名前を付けてもらい、その後ゾウゲという男に出会う・・・
となり、さらにこの本の目玉ともいえるアースシーの世界観について、文化や歴史、伝説などの、作者による「アースシー解説」、訳者あとがき、少年文庫版によせてがつきます。カバー画はデイビット・ワイヤットです。
どの話も密度が濃く、テーマ性が強いものなので甲乙つけがたいのですが、私は「湿原で」が好きです。ある意味、もっとも神話的というか、奥が深い気がします。次は「地の骨」と「ドラゴンフライ」。本編の理解を助ける上では後者に軍配をあげますが、話としてはオーソドックスな前者、いい勝負でしょう。
それと「アースシー解説」ですが、いろいろ組み替えるなら、これこそ本編の最終巻である『アースシーの風』の巻末につけたほうが親切ではなかったのかと思います。それと地図です。巻頭に地図は分かるのですが、この解説をよく理解するためにも、ここに再掲したほうが良かったのではないでしょうか。あるいは地図だけは別紙にしていつでも見ることができるようにするとか。
それと、表題作「ドラゴンフライ」は、このお話が日本で2004年に初めて訳出され『ゲド戦記外伝』として出た時は、「トンボ」というタイトルでした。別の話ではありませんので、一応、断っておきます。
かつてのようにゲド戦記外伝であったほうがいいと思うが...。
2020/10/25 23:40
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投稿者:タオミチル - この投稿者のレビュー一覧を見る
作者のル=グウィンが想像上の世界であるはずのアースーシーからみつけてきた短編集+作者自身による解説という構成。その解説に「実在しない歴史をさぐるには、物語っていって、何が起こるか、見きわめるしかない。これは、現実の世界の歴史家がすることとたいして違わないのではないかと思う。」とあった。
アースーシーの話は、著者の完全な虚構だが、それにこれほどのリアリティを出すには、虚構であってもその時代に何があって、それによってどんなことが起こったか...それを深く深くさぐる必要があったのだなと腑に落ちる。
ちなみにかつては『ゲド戦記外伝』として出ていたものが、いつのまにか、第5巻だった『アースーシーの風』と入れ替えて、こちらが5巻になっていた。かつて全巻を読んだものとしては、ちょっと座りが悪い気がする。なんでこんな変更をしたんだろう?
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異世界ファンタジー。魔法使いや竜の存在する、アースシーという架空の世界を舞台に生きた伝説の大賢人・ゲドの生涯を綴った壮大な叙事詩。
第一巻では、飛びぬけた魔法の才をもって生まれたゲドの少年時代、若さゆえに犯した過ちとその償い、自分自身の影との長い戦いについて描かれています。
以後、巻を重ねながら、やがて大賢人となったゲドが人々を襲う竜と戦い、闇の世界に囚われた巫女を外に連れ出して平和の象徴である伝説の腕輪を取り戻し、長らく不在だった王を即位に導き、不死を求めた魔法使いによって崩された世界の均衡を取り戻し……と、さまざまな伝説を残していきます。
第四巻からは、それまでの戦いによって力を失い魔法使いではなくなったゲドの、その後や、竜でもあり人でもある不可思議な宿命を背負った娘たちの話などが綴られていきます。
アニメ映画にもなりましたね、あっちはどうも今ひとつだったけど。(つまらなかったということはないのだけれど、途中から理解を超える超展開だったような……)
「ファンタジー好きなら読まないと嘘だ、映画のことは忘れろ」と人に言われていたので、そのうち読もう読もうとずっと思っていたのだけれど、なんとなく先延ばしになっていました。馬鹿か私は。さっさと読んでおくべきでした。面白かった!
歴史、人々の行動様式や言語、文化、宗教や神話、自然などの背景、魔法等々の設定がとても緻密で、そういうのが好きな人間にはかなりたまりません。
ストーリーはというと、やや好みがわかれるかもです。神話的なものが好きならハマると思います。シリーズの後半になるにつれて、壮大さが増すと同時に抽象性が増してきたような感じがあって、個人的には三巻までのほうが、より好きだったかなあ。でも五・六巻の竜と人間の間のエピソードそのものはすごく好きで、最後まで読んでよかったとも思うのですが。
ともあれ、とても楽しめました。ファンタジー好きな方なら一度は読んでおいて損はないと思います。
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ゲド戦記五作目(日本的には?)。
いくつかの短編集で構成されている外伝的作品。
個人的なオススメは地の骨とドラゴンフライ。
オジオンの昔話はぜひ読みたかったから嬉しかった。
そして、彼だけはオジオンの方がしっくりくる。
ドラゴンフライについては、四作目と六作目の繋ぎの
話でもあるから、これだけでも絶対読むべき。
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当初は「ゲド戦記外伝」という題で出されたもの。アースシーの五つの物語が描かれている。「カワウソ」「ダークローズとダイヤモンド」「血の骨」「湿原で」「ドラゴンフライ」の五作品。
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外伝と言いつつ、6冊目「アースシーの風」につながってます。
ひとつひとつの小さな短編にも、著者が全力で立ち向かってるのがよくわかります。これぞファンタジー。
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ゲド戦記、アースシーを舞台にした短編集だが、これは4と6と同時進行で読むか、4、5、6と順番に読むのがいいかもしれない。
作者がどうしてフェミニスト作家と呼ばれるのか、よくわかった。フェミニストといっても、エコロジカルフェミニストという範疇にはいるのではないだろうか。
女をどう描くかというのは常に挑戦のようなものではないかと思う。女の描き方は画一化されていたり、変に理想的だったり、添え物のようだったり、ヒロイン、登場人物として魅力的、オリジナリティがある人物像を描くのは難しいと思う。
しかし、ル・グウィンの描く女たちはどうだ。ファンタジーなのにリアル。等身大なのに奥底に何かとても価値があるものが秘められているような感じがする。どの女もそうだ。
「ドラゴンフライ」のアエリアンもそうだが、女は待ち、受け入れ、導き、そして自分だけで完結することもできれば、仲間とつながることもできる。根のように大地に広がり、揺るがない。支配ではなく連帯、男とでさえもそういうことができる。男は有史以来、女の支配しか頭になかったのに。
そういう不条理とそこからの脱出、解放を書いたのが、女の側から見たゲド戦記かなと思う。ゲドという英雄の物語ではあるものの、その英雄さえ魔法の力を失ってただのおじさんになり、力があると思われていた知の拠り所ローク学院が、実は女によって作られて女によって救われるっていうのが、象徴的である。現実の世界でままならないことをファンタジーの世界でやってのけ、かつそれが実現することを夢として描き出すというのは、まさに文学的だと思った。
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ゲド戦記の世界に広がりを持たせるような短編5篇。
オジオンの過去を知れる地の骨が一番のお気に入り。
4から、「男と女」の問題に対しての言及が多いと感じる。
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まったく実在したことのない、つまり一から十まで完全な虚構の世界を構築、あういは再構築するときは、そのための調査研究は実在の世界のそれとは順序がいくぶんことなる。けれど、根底にある衝動や基本的な技法に大差はない。まず、どんな事が起こるか、観る。そして、なぜ起こるのか、考える。その世界の住人がこちらに向かって話すことに耳を傾け、彼らがなにをするか観察する。次にそれについて真剣に考え、誠実にそれを語ろうと務める。そうすれば物語はちゃんと重力を持ち、読むものを納得させるものになっていく。
想像力は他のあらゆる生命体と同じように現在この瞬間生きて活動している。それは本当の変化をともなって活動し、本当の変化から生じて活動し、本当の変化から養分をもらって活動する。私達の行為や持ち物と同じように、想像力も時には予定外のものに勝手に用いられたり、弱まってしまうこともあるが、それでも金儲けの道具に使われようと、説教の道具に使われようと、きっと生き延びる。
想像力という意味では、優れた本だと思う。ただし、エンターテイメントとしては、あまり面白くはない。ゲド戦記のファンのための概念であり、本編を補完する以上のものではない。
ルグィンは、円熟した文章を書くようになったが、何かを探求するという、物語としての面白みは欠けてしまった。
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外伝の位置らしい短編集。
「ドラゴンフライ」はいよいよ最終巻へ、という感じがしてわくわくした。
「湿地で」もとてもよかったな。
大賢人のゲドの話、安心する。
4巻から急に「男と女」の色が濃くなってきて、そこだけは戸惑う。これを児童書の位置にしておくのはきついのでは。
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1.2巻は面白くて一気に読めたのですが、3.4.5巻は話しがトントンとは進まず、ちょっと苦手でした。
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5作目読了です。ゲドがほぼ出てこないのでゲド戦記シリーズとは呼べないと思うけど、アースシーの世界の物語でどれも面白かった。冒頭のカワウソの話は一番読み応えがあって、カワウソが出会う闇(ゲラックと水銀)と闘っていくところとか、ロークの学院をどう立ち上げたかとか、深い物語になっています。ロークの学院や魔法の世界自体、女性禁止だけれど、ロークの立ち上げには「手の女」たちが深い携わりをしていることが分かったし、なんで女性禁止になってしまったのかなあ。昔から、どこの世でも男性が政をし強い権力を持ち、女性はそれを支えるための存在であり続けたわけだけど、禁欲こそ自分を高め守り抜くことであり、女はそれの邪魔をするという発想なわけですよね。宗教の世界でもそういうことは聞くから、そういうところとも話は繋がっているのだろうか。ゲド戦記1〜3ではストーリーが面白く世界観が良かったけれど、4と5での1番のテーマは、「女性とその立ち位置」になっていると思う。才能があっても虐げられたり、居場所がなかったりと。作家さんが女性の方なので、やはりそういうメッセージなのかなあと思った。
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年代順に並ぶ短編集
まえがきにある作者の物語へのスタンスが面白い
アーキペラゴへ行き、収集してきた話を書きつけているという
実際書いている感覚はそんな感じなのかなと想像してみるも、アースシー解説の記述の詳細さにくらくらする
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「私たちは揺るがない確かなもの、遠い昔からある真実、変わることのない単純さを、ファンタジーの領域に求める。ー
するとそこに多額の金が注ぎ込まれる。模倣と矮小化された“商品化されたファンタジー”は、かわいく安全なものとなり、ステレオタイプ化されてガッポガッポと金を儲けていく。ー
私たちは長い間、現実と空想の両方の世界で暮らしてきた。しかし、その暮らし方は、どちらの場合も、私たちの両親やもっと前の先祖たちのそれとはちがう。
人が楽しめるものは年齢とともに、かつまた時代とともに変化していくものなのだ。-
物事は変化する。
作家や魔法使いは必ずしも信用できる人たちではない。
竜がなにものであるかなど、誰にも説明できない。」
再びアースシー世界に足を踏み入れるにあたってアーシュラ・K. ル=グウィンが記した警句である。
それは自らが創りあげた美しい世界に目を凝らし、そこに潜むひび割れを鋭く批判する作業である。
賢人の島ロークの権威が孕む矛盾と欺瞞が語られるとき、ファンタジーの魔法は解けるのか?
いや、『カワウソ』そして『ドラゴンフライ』はアースシーとリアルな世界を共鳴させることで、物語をより重層的にそして切実に感じさせてくれる。ファンタジーのテーマは剣と魔法だけじゃない。
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アースシーの世界のエピソード集です。「帰還」より生活する人間たちがさらにリアルに語られています。「手の女」たちの結社が、ロークで学院として発展するにつれて、魔法の場が男性に独占され、女性のまじないの営みは俗のものとして貶められていく…。ファンタジーとは思えなくなってきました。
「ゲド戦記」から冒頭にアースシーの詳細な地図が載っていて、物語世界の設定の緻密さに感嘆しましたが、歴史まで綿密に組み立てられていたのですね。すごい…。