神仙妖と対をなす金色様
2019/11/30 10:57
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ワシ - この投稿者のレビュー一覧を見る
柴本厳信は縄の名手、神業とも称される捕縛術の使い手である。
両差(りゃんこ)から怪力の大男、島田髷の花魁まで、縄一本でたちどころに縛り上げるその妙技は、舞柳遊郭の老若男女をたちまち虜にし、好事家の間で大いに語り継がれるのだが、この下ネタは完全にウソの物語である。
神話からファンタジーあるいはホラー作に至るまで、神仙に属する人物(もちろん人ではないのだが)や眷属には寿命という概念がない。
さて金色様は、現代の我々にも再現がおぼつかないほど高度に発展した科学技術の産物だ。
自己修復ができ、半永久的なエネルギー供給も可能、それら行き過ぎた技術ゆえに天人は滅びたのかも知れない。
天の船が爆発した時、船の構造は天人にも理解が及ばないものに進化していたのだろう。
天人が自身に仕掛けた呪詛のようにも思えてしまう。
とにかく時代劇に燦然と現れた存在、文字通り金ぴかで目くらましもさることながら、恐ろしい程に不均衡でもある。
実は本当に恐ろしいのは遥香の左手なのだが…。
大物の鹿も安寧のうちに死に追いやり、抱いていた猫もいつのまにか殺してしまう。
終盤では怒りにかられた遥香が鬼御殿の面子を即死させている。
金色様が大馬力で虐殺を働くので相対的に薄められ、一読しただけでは分かりにくい。
金色様の本質は、神仙妖そのものでもあり眷属やウィザードの類とも変わらない、あるいは両者を兼ね備えた存在でもある。
神仏に呼びかけるには祝詞や経、あるいは祭文や加持文が用いられるが、それがマシン語やアセンブラの命令文、文法違いの別言語に変わったようなものである。
言語インターフェイスはあるから会話は成立するし、神仙妖よりも人の理に近く聞き分けも良い。使い魔や式よりも忠実かつ馬鹿力で長持ちと様々な利点を持つ。
ゆえに金色様は死を望み、しかしそれは叶わず長い時をさまよう。
遥香という存在に出会えたことで物理的に機能停止し、金色様は永遠の眠りにつく。
機械仕掛けながら自我を持ったばかりに生に飽く金色様、有機無機を問わずその営みを止めてしまう遥香の左手の恐ろしさ。
この対比を思い付き、物語に仕立てた作者の技量は見事としか書けない。
人智を超越した存在を人は敬い畏れる。
神様は人の手で産み出されたのか、それとも見出されたのか。
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Zero - この投稿者のレビュー一覧を見る
ハズレのない恒川作品。トンデモ設定をリアルに且つ丹念に描くことにより、その世界観に浸れる稀有な作品だが、一点引っかかったのが金色様が『ムーン』と月を英語でよんでしまうところ。いちおう「?」がついていたのでセーフとはしたいが、月世界人が月を英語で語るだろうか?もともとムーンと呼ばれていて、それが英語になっていったと好意的に解釈することにした。
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【著者の新境地・ネオ江戸ファンタジー小説】謎の存在「金色様」を巡って起こる不思議な禍事の連鎖。人間の善悪を問うネオ江戸ファンタジー。第67回日本推理作家協会賞受賞作。
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江戸で大きな遊郭を営む熊五郎。彼に会いに来た晴香は、熊五郎にあることを願う。
各章ごとでかなり時系列がバラバラなので、なかなか物語のすじが掴みにくくはあるのですが、触れるだけで生き物を殺すことができる遥香の物語。盗賊たちと生活し、立身出世を遂げた熊五郎の物語、いずれも各章や人物ごとの起承転結がしっかりしているというか、話の内容が濃くて読ませます。
そして、そうしたエピソードが徐々に一本の線につながってくる、そんな構成力の高さにもまた脱帽です。
恒川さんの物語は本当に不思議で、これもどこか民話のような懐かしさはもちろんあるのですが、どこかしら教訓めいた、何かしらのメッセージがあるようでいて、そうでもないような…
そんな言葉にしがたい、恒川さんの魅力があるように思います。
第67回日本推理作家協会賞
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ファンタジー時代小説
山奥に隠された城、秘密の結社、特殊能力、そして金色様。
遙香の母を殺害した犯人捜しが筋のミステリーかとおもえば、そうではなく、単純明快な勧善懲悪の講談本でもなく、金色様が経験する波瀾万丈の物語ということろか。
金色様は本当はどこから来たの?
終わり方に少しもやもやが残る。
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時代物で、SFで、歴史ファンタジー。遊郭の主であり、人の害意を見抜く心眼の持ち主である熊悟朗のもとを、手で触れることで人の命を奪う不思議な力を持つ娘、遙香が訪れるところから物語が始まる。遥香の両親らが亡くなった惨劇の謎と、遥香が復讐の道を歩みだす物語。熊悟朗が犯罪者の隠れ里『極楽園』で過ごし成長していく少年時代の物語。各章で主人公も時代も変わるが物語は互いに交錯していき、その中に常に顔を出す金色様という不思議な存在がいつしか物語の中心となっていく。
各章のエピソードは本当に面白くて魅力的。他の恒川作品にも見られる理不尽な現実の中でもそれぞれが精一杯生きていく姿には心打たれる。
連作短編的な章構成を基本に、長編として最終章に情報が集束されていく形であり、その中で金色様に焦点が当たる章があるのは面白いのですが、最終的にも金色様の物語として落とし込まれていくのは、人間たちの物語が金色様の物語にすり替わってしまったという印象があって少しだけ寂しかった。これは個人的に熊悟朗がお気に入りで、もっと彼の物語が読みたかったからそう感じるだけなのかもしれないけれど。
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どんな内容かも分からずに購入して読んでみたが、妙に面白かった。現実離れしているストーリー展開だが、所々にリアリティーがあって味わいがある。
この時代の生き抜いていく人々の逞しさや苦しさが綴られている。決まったカテゴリーには入らない作品だ。
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江戸が舞台の時代ものファンタジー。
長編だけど連作短編のような感じもあり、章ごとに時代・人が入れ替わりながら、金色様に関わる物語がすすんでく。
時代ものにアンドロイドというとなんとも不釣り合いな設定に思えるけれど、恒川さんのつくりあげた世界観のなかでは不思議となじんでいる。最初はよくわからない存在だった金色様が、徐々に話の中心になっていき、読み進めていくにつれて、その周りにいたいろんな人の話がだんだんつながっていく。みんなわりと非情でいい。
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まとめると善悪の判断が曖昧な恐ろしいモノが無駄な悲劇を引き起こしつつ自分の望みを叶えるお話?
金色様、結局誰とでも生きられるんかい、と突っ込まずにはいられませんでした。
あの「最後」の為に選んだというのは分かりましたが…。
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恒川さんの時代モノ。戦国時代から江戸時代初期の設定で人外が普通に馴染んでしまう背景で金色のロボットを出すところが意表を突いていて面白い。登場人物がみな苦しみを背負っていて、陰のある中で、金色様だけが微笑ましく、後半になるにつれコミカルでかわいい。ハッピーエンドではないですが、よい終わり方です。
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これまでの作風とは違う恒川さんワールドが新鮮ですが、それでもやはり恒川さん。丹念な文章から滲み出す、妖しくも美しい独特の世界観は健在です。特に「金色様」という異質な存在が、序盤は不気味に、中盤は切なく、そして後半はある種英雄的に、物語全体を通して光っていたように思います。
地理的にも時系列もバラバラであるたくさんの登場人物の半生が徐々に絡み合い、一つの物語を紡いでいくので、大変読み応えがありました。
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ここで「おすすめ文庫王国」のエンターテインメント部門1位のこの本に取り掛かる。
廓の大旦那・熊悟朗を遊女になりたいという娘・遥香が訪ねてきた場面から始まる物語は、最初は掴みどころ無く、装丁の地味な印象も相俟って、こうしたお薦めがなければなかなか手に取りそうもない。
二人の生い立ちが語られる前半はファンタジーと聞いていてもあまりそれらしい匂いもなく進み、時代を行き来しながら描かれる物語は二人の生い立ちからどんどん離れて一体どのように話が展開するのだろうと思わせるが、関係が分からないままでも、次々と出てくる新たな登場人物とそれに付随して繰り広げられるエピソードはまるで大河ドラマの趣で興を逸らさぬ。。
二人から離れていったお話が実は全て冒頭の話に結びついていたことを知る後半は、それまで提出された謎が氷解していく推理小説でもあり、ラストがどのように収束するのか、金色様と遥香の冒険小説でもあり、なかなか楽しめた。
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残り少なくなった恒川光太郎さんの本を大事に読んでる。
4センチ近い厚さのハードカバーを、通勤に持ち歩いた。
短い時間でも引き込まれる面白さ。
短編と違い、不思議な要素は少なくても、
時代背景の中にない要素が入ることで、
違う空気になる。
ゆるく繋がる人とエピソード。
つじつまを回収していくようなつまらなさはなく、
起こるべくして起こったことと、
人間のもつ怖さから思いつき始まることが
うまく絡みあっていく。
恒川光太郎さんの本の怖さは、
人間の残酷さ、気持ち悪さの描写にもある。
善悪は自分が属する場所によって変わるという言葉が
それぞれが置かれた状況を受け入れて進むしかないことを
端的に表している。
進む方向の先々で、人と出会うときに、
一緒になったり衝突したりと物事が動く。
恒川さんの世界は本当に面白いな。
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『夜市』に続き、恒川作品二作目。日本推理作家協会賞受賞作。“コンジキキカイ”と読むと思ってたんだけど…。江戸ファンタジィ。独特の世界観でとても良かった^^ 星四つ半。
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こちらもクリスマスに友達からプレゼントで頂いた本の1冊です。
私がSF好きなの知ってて送ってくれたのだけど、こちらはSFと言うよりなんか時代SFファンタジー活劇って感じのお話でした。
恒川光太郎さんの小説で時代物で、漢字の名前が多く最初はなかなか入り込みにくかったのですが、読んでいくうちに金色様って言う完全無垢の存在や、それを取り巻く一族の運命と定めの中で、沢山の登場人物の繋がりや生き様が、物語の時間を前後しながら解き明かされていく様に、ついつい引き込まれてしまいました。
よく読んでないと、登場人物の繋がりがわからなくなりそうなので、何度も頁を戻って確認する事が多かったですw
金色様って言うのはおそらく皆さんが思われてるとおりの存在だと思いますが、この中で出てくる触れるだけで人に死を与えられる女性がいて、その女性と金色様の最後のやりとりに哀愁が感じられて少しうるっと来ました。
ただ、その女性の正体が最後まで分からなかったのは少し心残りです。