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投稿者:エムチャン - この投稿者のレビュー一覧を見る
特に紙の動物園……これは、読後にしみじみとした余韻が残りました。ヒューゴー賞と、ネビュラ賞そして、世界幻想文学大賞受賞だけはあります。作者は、有名なアメリカの大学卒の弁護士&プログラマーとききましたが、どれも筋書きが練ってあります
”東洋的”を感じるSF小説
2015/09/08 17:40
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投稿者:ちえ - この投稿者のレビュー一覧を見る
SF小説なんだけど、題材や描写に東洋的なしっとりしたものを感じる。
外(西洋)から見るとこっち(東洋)って、こんな感じなんだ、、と改めて気づく感じがした。
SF要素以外に、親子愛や他者への愛情に触れる作品も多し。
様々なテーマの15編の短・中編からなるので飽きずに楽しめる。
あと、装丁も内容に合っていて素敵!
(ペーパーバック形態のこげ茶基調の表紙・濃いクリームのページ・ページ端の使い込まれた感出す焦げ茶がなんとも渋く、懐かしいようなウェットにさせる本の中身としっくり。)
不思議な情感がしみる
2015/09/27 23:38
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投稿者:arima0831 - この投稿者のレビュー一覧を見る
本来SFはあまり得意分野ではなくて、基本的に食いついて読むことはない。
しかしこの本に関しては、話を聞いただけで読みたくてたまらなくなった。
中国生まれアメリカ育ちの作家が紡ぎ出す、ちょっとエスニックな味わいのあるファンタジーSF短編集、という情報に惹かれた部分は大いにある。表題作は折り紙の動物たちが繰り広げる世界を描く、と聞いて、これがどうSFになるんだろう、と引っかかったこともある。
本作は日本単独で編集された短編集。2002年から2013年初頭までに発表された70篇の作品の中から、翻訳者が独自に15編を選び抜いたものだ。本国アメリカで著作が出版される前にこちらが進んでいたということで、非常に珍しいことではある。
で、読み始めて、まず冒頭の『紙の動物園』ですっかりやられてしまった。脳裏に浮かぶ情景は、温かで美しいイマジネーションに満ちていて、ワタシの気持ちの襞に、問答無用で食い込んでくる。あと、冒頭のこの一作はファンタジーではあるがSFではない。作品集全体を読み通しても、私的に一番気持ちの奥に直球で食い込んできたのはこの一作だ。
他の作品もすべて、なんとも不思議な情感に溢れている。しかし単に素直な気持ちの流れに沿って走る話でもない。その奔流があまりに多彩で強く激しいので、話によってはちょっとついて行けない時もあった。正直に言うと。
歴史ものかと思えばキュッとSFに転化したり、典型的なSFが美しいラブストーリーに化けたり、あるいは二転三転したり。不思議なひねりとうねりのなかで、アレレという間に気持ちよく飛んでもないところに落とし込まれてく。
読み終わってしみじみ思う。この作家の体中の細胞には、言葉と物語が溢れているのだ。
実は必ずしも上手な作家ではない、とは思う。端正な展開で緻密なプロットを練りあげるよりは、自分の中からあふれ出る奔流を一気にストーリーとして落とし込んでくる感じ。だから時には、ほとばしる流れを扱いかねるような印象の話もあるように思う。
でもどの話もアレアレレ、と驚いているうちに、じんわりした温かい余韻を残していく。この味わいが気にいれば、いくらでもいつまででも読んでいたくなる作家だ。
訳者のあとがきによると、この作家はハーヴァード出身の弁護士でもあり、プログラマーとしての顔も持つそうだ。多彩な人、というイメージは作品そのものでもある。色々面白い背景のある作家なので、かなり詳しいあとがきがついていて、こっちもこっちで楽しく読めた。
さて、第二作品集はいつ出るのだろう?
長編もそのうち出るということだし、また一つ待つ楽しみが増えた。とても嬉しい。
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投稿者:ちひろ - この投稿者のレビュー一覧を見る
中国、アジアを感じさせるSF/ファンタジー。
家族や人種の問題など、読む人の立場によって感じ方が大きく変わりそうだが、心をぐっとつかまれる感覚がする不思議な物語だった。
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日本オリジナル編集の短編集。
テッド・チャンと比較されることが多いらしいが、その比較というのは著者のバックボーンに関わることで、作風は余り似ていない。ケン・リュウはかなりセンチメンタルでロマンティックな作風だと思う。本作もガジェットはSFだが、テーマは一般文芸に近いものが多い。
表題作の『紙の動物園』『月へ』『結縄』『太平洋横断海底トンネル小史』『選抜宇宙種族の本づくり習性』が好みだった。
『訳者あとがき』によると、本国より先に他国で単行本が出ているらしい。そういうこともあるんだねぇ。
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アメリカにおいては評価されにくいと聞く短篇を主体とするからか、本国では単独著作は未刊行。翻訳によって外国で作品集が刊行される珍しい作家である。これも訳者によって編まれた日本独自のオリジナル短篇集。表題作「紙の動物園」は20ページたらずの短篇だが、史上初のヒューゴー賞、ネビュラ賞、世界幻想文学大賞の三冠に輝く。ただ、この一篇を取り出して読ませたら、これがSFだと思う読者はいないだろう。
「ぼく」は、コネチカットに住む中国系アメリカ人。自分につきまとう弱みの出所である中国人の母を憾みに思い、あるときから口を利かなくなった。母の死後、小さい頃母が作ってくれた折り紙の虎の裏に書かれた手紙を見つける。そこには自分の知ろうとしなかった母の数奇な人生が書かれていた。後悔の涙と母への愛が、一度は死んだ魔法を蘇らせる。この作品に幻想文学の要素を探すとすれば、母が折り、その息を吹き込んだ折り紙の動物は、吼えることや走ることはおろか、翼あるものは空を飛ぶことさえできるところ。
貧しい農家の娘が唯一授かったのは、古くから村に伝わる折り紙に命を吹き込む魔法だ。清明節の日に祖先にメッセージを伝えるための工夫であり技術である。日本の陰陽師が使う式神を思わせる、いかにも東洋的な呪術が、伝承遊びである折り紙と結び付けられることで、母と子を結ぶよすがとなる。この折り紙のモチーフが効いている。クリスマス・ギフトの包装紙で折られた老虎(ラオフー)に赤い棒飴と緑のツリーの模様がついているところや紙の水牛が醤油皿で水遊びをしたために毛細管現象で脚がだめになってしまうところなど、ほのかなユーモアが湛えられ心和む。
紙は水や火に弱い。破れてしまえばゴミ扱いされる。そんなはかないものにしか自分の愛を託せない持たざる者として運命づけられた母の悲しみ。その一方で、どこにでもある紙を折るだけで、そこに命を宿らせることのできる魔法のような手わざがあり、紙であればこそ、文字を書くこと、つまり自分の思いを相手に伝えることができる、という秘密がある。ここに覇権大国アメリカに移住した中国人という出自を持つ小説家の自負が現われていると見てもあながち牽強付会のそしりは受けないだろう。
ロケットや宇宙船といったいかにもSFらしいガジェットを用いた作品ももちろん多く収められている。古典的なSFを思わせる王道をゆくスタイルはSF好きにはたまらないのだろうが、永遠の若さや不死、過去の地球人対未来の人間を主題にした作品などにはいささか図式的とも思える二項対立的思考がうかがわれる。現実にある着想からヒントを得たアイデア・ストーリーは独創的なひらめきを感じさせるが、特にSF好きでもない読者としては、アジア系作家としての独特の持ち味を生かした作品の方に興味を引かれた。
ミャンマーの奥地で麻縄を結ぶことで文字に代える結縄文字文化を残すナン族の最後の一人ソエ=ボと複雑なタンパク質の折りたたみ技術を探すプラント・ハンター、ト・ムとの出会いをもとに、バイオパイラシー問題を描いた「結縄」。ソエ=ボの手を使うリテラシー能力をコンピュータに取り込むという発想の新鮮さに驚いたが、無邪気なプラント・ハンターと思われたト・ムがソエ=ボに対してみせる態度のなかにグローバル資本が山間の地に残る米作りまで搾取してしまうあくどいやり方が露わな結末には後味の苦さが残る。
同じアジアにある日本においても詳らかではない中国、台湾といった隣国の歴史に材を採った作品には教えられることが多かった。所謂「ありえたかも知れない世界」を扱った「太平洋横断海底トンネル小史」も読ませるが、台湾を舞台にした「文字占い師」が心に残った。アメリカ情報部に属する父に従って台湾の学校に転校してきた少女が新しい土地になじめないなか老人と少年に出会い友人となる。老人は文字占い師であり、いくつかの漢字を使って少女の未来を占ってみせる。次第に親しくなってゆく三人だったが、少女が父に漏らした一言が悲劇を招きよせる。日本や中国共産党といった大きな力に飲み込まれ、翻弄される「このうえなく美しい」島フォルモサ(台湾の旧称)の歴史を背景に、水牛がゆったりと泥田の中を歩む湿潤なアジア的風土のなかで成長してゆく少女の姿を追った佳篇。SFという枠を外しても、充分読者を獲得できる作家ではないだろうか。
長篇に手を染めたと解説にあるが、広くアジアをカバーして、西洋的な視点一辺倒でない小説が書ける才能の持ち主である。未訳の作品も残されているし、これから書かれる作品も楽しみである。訳者には是非オリジナル邦訳短篇集の続篇を期待したい。
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訳書にしては読みやすく、たいへんおもしろかったです。
ジョージ・R・R・マーティンの武侠小説バージョンと言われる長編「the Grace of kings」の翻訳が待ち遠しいです。
本作では「円弧」、「波」、「心智五行」などがお気に入りです。
時折あるグロい描写は必要なのか、疑問ですが。
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SFの短編集だが、どれも静謐で悲しみを湛えた物語である。
幼少期に中国からアメリカへ移住したという作者の来歴の為か、どの作品にも、異国へ迷い込んだ異邦人のような寂しさや心許なさが感じられ、それが、SFというジャンルとマッチして、素晴らしい趣きを加えている。
ファンタジー寄りのもの、純然たるSF物、社会派寄りのものといろいろ集録されているが、どれも珠玉の一品。
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15篇収録の短編集。胸を鷲掴みにするような叙情的な部分に加えて、多様な奇想にも酔わされる。収録作のどれもが魅力的で個人的にはオールタイムベスト級の一冊。
お気に入りは「選抜宇宙種族の本づくり習性」、「波」、「文字占い師」。表題作はあざといなと思いつつも、まんまと術中にはまって泣かされたので、してやられた悔しさから、ちょっと減点w
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中国系アメリカ人であるケン・リュウによるSF短編集。中国だけでなく日本も含めた東アジアの文化や歴史を織り込んだ東洋情緒溢れる作品が多い。全体通して、過去から未来、親から子世代への受け渡しと繋がりが作者の興味ある大きなテーマの一つになっているのかなと感じました。
『もののあはれ』『心智五行』『円弧』『良い狩りを』が特に好き。
『もののあはれ』
ヒーローの自己犠牲精神は東西とも変わらないように思うが、日本人の生死感を通して描くと、かっこよさでなく美しさになるのかなあ。しみじみくる。
『心智五行』
未開の星に不時着するよくある設定に、五行思想と最新の細菌科学を上手くミックスさせて、バイオSFとして面白い作品に仕上がっています。僕らの感情の在り処に疑問を投げかける不安感もよい。4話目の『結縄』が直接的ですが、こちらでも未開地から発見される技術の知的財産権への言及があり風刺なのかなと。
『円弧』
前後の話でも共通して、不老不死の実現が、個人の意識や人の繋がり、社会をどう変えていくかを描いているが、特にこの話は一人の人間の生涯から生と死の両面を語っていてより身近に感じる。
『よい狩りを』
妖怪退治の幻想譚がホラー風味のスチームパンクへと変貌していく意外性のある傑作。西洋文化に浸食されて東洋の古い魔法が駆逐されていく中で、新たに生まれる魔法。一番お気に入り。
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大期待の短編集
アメリカ在住中国人。驚くほど日本的叙情派だ。
表題作「紙の動物園」はまさに日本的。親孝行したいときに親はなし。悲しいお話だなぁ。
ありきたりの筋書きなのに、これだけぜい肉を落としてエッセンスだけを書ききれるものかと感動する「もののあはれ」。日本語訳にもよるんだろうが、冒頭の2作品だけで、星みっつが確定だな。
「月へ」はがっかりかな。中国の現実なのかもしれないけど、SFではないな。
すごい連携というか発想の輪を感じる「結縄」なんだが、乗り切れずに終わった。残念だ。
「太平洋横断海底トンネル小史」はよくできてると思うけど、イマイチ。
「潮汐」も同じ感じかな。ま、圧倒的に短いのが救いだが。
「選抜宇宙種族の本づくり習性」のアイデアはいいんだけど、おもしろくはない。
「心智五行」って日本的かつ人類的。おもしろいね。
「どこかまったく別な場所でトナカイの大群が」の意味がわからん。
そんな中で「円弧」がとてつもなく素晴らしい。宇宙のランデブーを思い起こさせる不老不死物語の中に散りばめられた円弧がいい。円弧、アーク、対になる考え、言葉、運命。いい物語だ。
さらに「波」が知的生命体としての進化をテーマとする大風呂敷の話を語る。体を捨てて光になる。しかし、快楽はどうなるんだろう?
「1ビットのエラー」はイマイチ理解できず、「愛のアルゴリズム」、「文字占い師」、「良い狩りを」は全く乗り切れずに終わった。
SF色が濃い「円弧」と「波」が私の好みだな。
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又吉さんのオビに誘われ読んでみた。
「紙の動物園」は間違いなく傑作です。
収録されている短篇はどれも秀逸?と
考えるとしましょう。いやー時間かかったな。
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15話からなるSF短編集。
すっごい。
作者の頭のよさがビシバシ伝わってくる。頭が追いつくのに精一杯で、たまに振り切られる。
表題の紙の動物園がよかった。
アメリカ人の父を持つ息子が、軽蔑していた中国人の母親の人生を知ることになる手紙。
それは、母が折り紙の動物たちに全身全霊をかけた小さな魔術でもあった。
読んでいて何度も『道化師の蝶』を思い出したのは、SFつながりだからかな。あまりSFは読まないのだけど、けっこう自分の好みなのかもしれない。
2017.1再読
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むごい話もあるので、そういうのに弱い方は読むときには注意してください。
全体的に、著者の知見の広さが分かるとと同時に、中国国内では翻訳されない理由もよくわかる。
国内で自由に書けないことの抑圧からの反作用なのか、と思うくらいセンセーショナルに物語を紡いでいる。
これは現実ではなく「SF」である、と願いたいと思う作品もある。
もちろんSFな内容の短編も多く、面白く読めると思う。
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表題作のほか、『心智五行』、『文字占い師』など、せつなくも惹かれる作品はある。しかし、半分の作品は理解できずに読み流してしまった。集中して文字を追わないと、展開を把握できぬままに進み、幾度も読み返すはめになる。翻訳がまずいわけではないのだろうが、奇抜であって、心理描写を読み解かなければならない海外SF作品についていけない自分を知った。うむ、残念。